契約の一般条項

契約の一般条項|ペーパーレス時代の契約書「書面定義条項」(電磁的記録の扱い)を解説

今回は、契約の一般条項ということで、書面定義条項(「書面」に電磁的記録や電磁的方法を含むと定義している条項)について見てみたいと思います。

といっても、「書面定義条項」というのは当ブログでのネーミングで、この条項についての直接的でまとまった解説はおそらくまだ巷にありません(管理人の知る限り)。また、そもそも個別の条項の中で定義づけして済ませていることも多いです。

ただ、最近はちらほら独立の条項として見かけることも増えてきた気がするため、民法における電磁的記録の取扱いなどにも触れつつ、この条項の役割や実務上のポイントについて考えてみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

書面定義条項とは

書面定義条項とは、契約書において「書面」に電磁的記録や電磁的方法を含むと定義する条項のことです。

契約書の中には、契約に関する通知・承諾や合意、変更などを書面によって行わなければならないとした規定がよく登場します。このときの「書面」という言葉が、紙の書類だけを指すのか、それともPDFファイルや電子メールなどの電磁的記録(あるいは電磁的方法)も含まれるのかを、あらかじめ独立した条項(一般条項)として明確にしておくのが、ここでいう書面定義条項です。

ペーパーレス化や電子契約が進む現代のビジネスにおいて、どこまでを正式な書面として認めるかを決めておくことは、それなりに重要な意味を持っています。

「書面」は、通常の語義としては紙の書類だけを指します。ただ、「まずい!契約書には『書面』としか書いてない!」などと焦る必要まではないと思います。実際のところそれほど厳密に規定・運用されていることは少なく、実態に応じて電磁的記録や方法を含むと解釈される余地も十分にあると思います。ただ、はっきり決めておいた方がよりいいよねという話です

法律(民法)では書面=電磁的記録なのか

わざわざ契約書で定義しなくても、今は法律で電子データも書面として認められているのでは?と思うかもしれません。確かに、現在の民法では、特定の重要な契約や合意について、電磁的記録を「書面」とみなす規定がいくつかあります。

たとえば、保証契約は書面でしなければ効力を生じませんが、電磁的記録によってされたときは、書面によってされたものとみなされます。

▽民法466条2項・3項

 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

また、諾成的消費貸借契約(書面でする消費貸借)、つまり金銭等の交付前でも成立する諾成的な消費貸借契約は書面でする必要がありますが、これも電磁的記録によってされたときは書面によってされたものとみなされます。

▽民法587条の2第1項・第4号

(書面でする消費貸借等)
第五百八十七条の二
 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
 消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その消費貸借は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。

時効の完成猶予の合意に関しても、権利に関する協議を行う旨の書面による合意をすると時効の完成が猶予されますが、この合意が電磁的記録によってされた場合も、書面によってされたものとみなされます。

▽民法151条1項・4項

(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
第百五十一条
 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一~三 (略)
 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。

このように、法律で「電磁的記録を書面とみなす」と規定されている場面は増えています。

しかし、これらはあくまで法律の特定の条文におけるルールです。契約書の中で当事者が交わすあらゆる「書面による通知」や「書面による合意」について、当然に電子メール等の電磁的記録が含まれると解釈されるとは限りません。

書面定義条項の意義

なぜ契約書でわざわざ定義するのか

契約書において一般的な用語法と異なる意味を持たせたり、意味を拡張・限定したりする場合には、定義を定めるのが基本です。

もし定義をせずに単に「書面」とだけ記載していた場合、後から、”電子メールで通知したから有効だ” vs ”紙の書面で受け取っていないから無効だ”というような、解釈をめぐる争いが生じる可能性はあります。

典型的には、たとえば以下のように、何らかの請求をするにあたり通知(意思表示)を行う場面や、契約の変更をする場面などで、見解の行き違いを防止するため、事前の定義付けは有用といえます。

  • 通知の迅速化
    契約解除や損害賠償の請求など、契約上の権利を行使するための通知において、電子メールを正式な手段として認めるかどうかが問題となり得ます。契約書で「書面には電子メールを含む」と定義しておけば、スピーディーな意思伝達(権利行使)が可能になります。単に何らかの情報を伝達するための通知でも同様です
  • 契約変更の柔軟性
    「契約の変更は書面による」とされている場合(変更条項など)、現場担当者同士のメールのやり取りで契約条件の変更が有効になるのかどうかを明確にすることができます

定義の仕方2パターン

書面定義条項は、ここでは「書面」を定義する独立の条項を指していますが、定義づけの方法としては、一般論として、個別の条項のなかで括弧書きで定義する方法もあります。

たとえば、「書面による通知(電子メールなど電磁的方法を含む。以下同じ。)」などとして、個別の条項の中でさらっと定義して済ませる方法もあります。むしろこちらが多数派といってよいかと思います。

もっとも、契約書のなかには、通知、承諾、変更、合意など、「書面により」という修辞句がつく部分は他にもあります。これらをまとめて明確にしておきたいときは、独立の定義条項(書面定義条項)を設けて定義する方法も便宜、ということです。

定義の仕方

  • 個別の条項の中で括弧書きで定義する方法
    はじめてその用語が出てくる箇所で括弧書きで(「以下同じ」として)定義する。あるいは、通知方法条項、変更条項などの中で、個別の条項での必要性に応じて(「以下本条において同じ」などとして)定義する
  • 独立の条項(書面定義条項)で定義する方法
    通知、承諾、合意などを書面で行う旨の定めがある場合、当該「書面」には電磁的記録を含む旨を独立の書面定義条項として定める

いくつかの検討すべき点(管理人の私見)

電子契約、電子メールなどの電磁的記録を「書面」として認めることは便利ですが、いくつか気になる点もありますので、ここでは3つほど論点を挙げて検討を加えたいと思います(管理人の私見です)。

「電磁的記録」か「電磁的方法」か

1つめは、「電磁的記録」と「電磁的方法」のどちらが適切なのかという点です。

この点については、「書面」の定義においては、「電磁的記録」を含むとする書き方の方が論理的であり、法律の用語法としても正確であると考えられます。理由は、それぞれの言葉の性質と、それらが指し示す概念の違いにあります。

「書面」とは、文字などの情報が記載された記録媒体・記録物そのものを指す名詞です。これに対して、「電磁的記録」も、電子データや磁気データなどといった記録物を指す言葉です。したがって、「書面」(記録物)の定義を拡張して「電磁的記録」(記録物)を含めるという構造は、意味的に整合性がとれています。

一方で、「電磁的方法」とは、電子メールでの送信やウェブサイト上での提示など、情報を伝達・提供する手段やプロセスを指す言葉です。そのため、「書面」(記録物)という概念の中に「電磁的方法」(手段)が含まれるという構成は、言葉の結びつきとしては少しねじれが生じてしまうように思われます。

実際、先ほど見たように、民法の条文でも、「書面」と同視・代替するものとして用いられているのは「電磁的記録」です(保証契約、書面でする諾成的消費貸借契約、権利についての協議を行う旨の合意など)。ここでは、法律上「電磁的記録によってされたときは、書面によってされたものとみなす」という表現が一貫して使われています。

ただ、契約書において「書面により通知する」という行為・手段そのものを拡張したい場合には、「『書面による通知』には『電磁的方法による通知』を含む」といった書き方をするのであれば、手段と手段の対応となるため理屈上も自然になるように思います。

結論として、単に「書面」という名詞の範囲を定義するのであれば、「電磁的記録」を用いるのが適切と考えられます。

管理人の個人的経験では、書面定義条項では普通「電磁的記録」が用いられています

「電磁的記録」には電子メールを含むか

2つめは、確認的な話になりますが、「電磁的記録」には電子メールを含むと考えてよいのかです(※電子メールを想定するなら「電磁的方法」にすべきではないか、といった疑問)。

この点については、電子メールも「電磁的記録」に含まれると考えられます。

民法等の法律において、「電磁的記録」とは「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもの」と定義されています(民法151条4項)。電子メールは、PCやスマートフォンなどの電子計算機(コンピュータ)による情報処理のために作成・送受信される電子データであり、直接人の知覚で認識できず機器を介して認識されるものであるため、この法的定義に合致します。

そのため、理屈の上では「電磁的記録」という広い概念のなかに電子メールが含まれると解釈して差し支えありません。

もっとも、契約実務という観点からは、単に「電磁的記録を含む」とだけ記載することには注意が必要な場合もあるように思います。「電磁的記録」は非常に外延の広い言葉であり、電子メールだけでなく、WordやPDF等の電子ファイル、USBメモリに保存されたデータ、さらにはSNSのメッセージアプリ(LINEやチャットツール等)におけるやり取りなどもすべて含まれ得ます。そのため、いざという時に「SNSのチャットで連絡したから書面で通知したことになる」といった想定外の主張を許し、解釈の争いが生じるリスクもあり得ます。

つまり、逆に「広がり過ぎないように気を付けるべき点はないか」ということです。このように考えると、単に「電磁的記録」と抽象的に書くのではなく、「書面(電子メールを含む)により通知する」あるいは「書面又は電子メールにより行う」といったように、自社が正式なやり取りとして許容できる具体的な手段をピンポイントで記載しておく方が、事後的なトラブルを防止する上で安全な場合もあるように思えます

「電磁的記録」にSNSやチャットまで含まれるとの主張が出てきたとき

3つめは、2つめの論点の後半とかぶりますが、単に「電磁的記録を含む」とだけ記載していた場合に、「SNSのチャットで連絡したから書面でしたことになる」といった想定外の主張が出てきたときに、どうなるかです。

この点については、定義(形式論)としては含まれると考えられるものの、それぞれの条項の趣旨(実質論)によっては、有効な合意として認められるハードルはそれなりに高いのではないかと考えられます。

SNSやチャットは、日常的なコミュニケーションツールとして極めて手軽にメッセージを送信できるという特徴がありますので、やり取りの文脈や明確さによっては、軽率な行為として効力が否定される(それぞれの条項で書面を要求した趣旨を満たしていないと判断される)ことは十分にあるように思います。たとえば、重要な変更を伴う契約内容の変更のケース(変更に書面を要求していた場合)において、チャットで変更合意を認めるのはかなり不自然です。

書面が要求される事項の軽重にもよると思いますが、仮にいざ裁判等で争われた場合には、そのメッセージのやり取りが「単なるカジュアルな会話やその場のノリ」で送信されたものではなく、当事者がその法的な効果を十分に自覚・認識した上で、確定的な意思表示として行った記録であると評価できるかどうかが問われることになると考えられます。

書面定義条項では、このような想定外の主張を可能な限り排除するためか、「甲乙双方が合意した方法による」電磁的記録、といった表現をとって一定の絞りをかけているものが多いです

結び

書面定義条項というネーミングは当ブログで独自につけたものですが、その必要性や定め方について見てみました。

本記事のハイライトをまとめます。

書面定義条項のポイント

  • 書面定義条項は、契約書中の「書面」という言葉に電子メール等の電磁的記録を含むかどうかを明確にし、解釈の争いを防ぐためのもの
  • 民法でも保証契約など一部で電磁的記録が書面とみなされているが、契約全体のルールとして適用するには、契約書でしっかりと定義することが必要
  • 他方、「電磁的記録」や「電磁的方法」は外延の広い言葉であるため、一括して定義することがかえって不適切にならないか、留意しておくことが望ましい(管理人の私見)

ペーパーレス化が進む中、ひな型の「書面により」という言葉をそのままにするのではなく、現在の自社のコミュニケーションの実態(メールやチャットツールなど)に合わせて、契約書の定義をアップデートしてみてください。

契約の一般条項 - 法律ファンライフ
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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民法(債権関係)改正の資料

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