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グループガバナンスと法務|合同会社と株式会社の違い②-役員・社員になる者のリスクの視点と会社形態の選択

今回は、グループガバナンスと法務ということで、前の記事に続いて、会社形態の選択(合同会社と株式会社の違い)について見てみたいと思います。

前の記事
グループガバナンスと法務|合同会社と株式会社の違い①-大会社規制と会社形態の選択

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前の記事では、主に大会社規制の有無などの制度的視点から検討しましたが、本記事は、社員となる者から見たメリット・デメリットやリスクの視点から検討していきます。具体的には、企業グループの主要なメンバー(親会社や候補者となるキーパーソン)の視点から、グループ子会社等の役員(合同会社における業務執行社員)になる場合のメリットやデメリット、リスクの違いについて解説します。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

社員となる者が法人である場合

合同会社において経営を担うのは業務執行社員です。最大のポイントは、株式会社の「取締役」には自然人(個人)しか就任できないのに対し、合同会社の「業務執行社員」には法人(親会社など)が就任できるという点です。

法人が業務執行社員となる場合、実際に業務を行う自然人として職務執行者を選任する必要があります。これを踏まえ、メリット・デメリット・リスクを比較します。

メリット

親会社による直接的かつ機動的な子会社統治

株式会社の場合、親会社は自社の役員や従業員を個人の立場で子会社の取締役に就任させる必要がありますが、合同会社では親会社自身が業務執行社員として直接経営に参画できます。

これにより、親会社の法人としての意思を子会社の経営にダイレクトに反映させやすくなります。

職務執行者の柔軟な選任と入れ替え

親会社(業務執行社員)は、実際の業務を行う職務執行者を自由に選任できます。職務執行者には資格制限がなく、親会社の役員や従業員だけでなく、外部の専門家などを任命することも可能です。

また、不適任と判断した場合には、親会社の判断(取締役会決議など)によりいつでも機動的に職務執行者を変更・解任できるため、株式会社における株主総会決議の手間を省くことができます。

会社に対する損害賠償責任の免除・軽減(定款自治)

株式会社の取締役が会社に対して負う損害賠償責任(任務懈怠責任)の免除には、厳格な手続や限度額の制限がありますが、合同会社の場合は、定款に規定を設けることで、故意や重過失がない限り業務執行社員や職務執行者の会社に対する損害賠償責任を柔軟に免除・軽減することができます。

これにより、職務執行者が過大なリスクを恐れずに業務にあたれる環境を確保しやすく(ひいてはなり手を確保しやすく)なります。

デメリット・リスク(注意点)

親会社本体に及ぶ「第三者に対する損害賠償責任」

株式会社では、取締役が業務上の悪意や重大な過失によって第三者(取引先など)に損害を与えた場合、責任を問われるのは原則としてその取締役個人であり、親会社本体に直接的な損害賠償責任が及ぶことはまれです。

しかし、合同会社では、選任された職務執行者(個人)に悪意や重過失があって第三者に損害を与えた場合、職務執行者個人が賠償責任を負うだけでなく、業務執行社員である親会社(法人)も連帯して損害賠償責任を負うリスクがあります。この点においては、親会社にとって株式会社形態よりも重いリスクを抱える可能性があります。

競業避止・利益相反取引の規制範囲の拡大

業務執行社員である親会社だけでなく、選任された職務執行者(個人)にも、会社に対する善管注意義務や忠実義務、競業避止義務、利益相反取引の制限が適用されます。

グループ内で類似の事業を行う会社を複数抱えている場合や、役職員がグループ内で兼務している場合、これらに抵触しやすく、その都度他の社員(合弁相手など)の承認を得る手続きが煩雑になるリスクがあります。

ただし、このリスクは、あらかじめ定款において競業禁止や利益相反取引の制限を排除・緩和する規定を設けておくことで回避することが可能です。

違法配当・払戻しに関する重い連帯責任

合同会社において、利益額や剰余金を超過するような違法な利益配当や出資の払戻しが行われた場合、配当等を受けた社員だけでなく、その手続に関与した業務執行社員(親会社など)も、注意を怠らなかったことを証明できない限り、連帯して会社に超過額を支払う(補填する)義務を負います。

法人社員の場合まとめ

 企業グループのメンバー(親会社)の視点からは、合同会社を活用して自らが業務執行社員となり職務執行者をコントロールする形態は、自由度が高く、機動的なグループ経営を実現できるというメリットがあります。

 一方で、職務執行者の不祥事などによる第三者に対する損害賠償責任が親会社本体に直接波及するリスクを内包しているため、グループ内のコンプライアンスや職務執行者の監督体制を適切に構築しておくことが重要となります。また、株式会社を間に挟む(子会社である株式会社を業務執行社員とする)などの施策も考えられます(※法人格否認のリスクは残ります)。

社員となる者が自然人である場合

次に、自然人が合同会社の主要メンバー(業務執行社員)に就任する場合のメリット、デメリット、およびリスクについて、株式会社の取締役などの場合と比較していきたいと思います。

合同会社では所有と経営の一致が原則であるため、社員(出資者)がそのまま経営を担うことになります。これを踏まえ、自然人役員から見た場合の主なポイントは以下のとおりです。

メリット

人的貢献(ノウハウや技術)に応じた柔軟な利益配分の享受

株式会社では出資比率(株式数)に応じて利益を配当するのが原則ですが、合同会社では定款によって出資比率とは異なる損益分配の割合を自由に定めることができます。

そのため、出資額は少なくとも、技術、知識、ノウハウといった人的資本の貢献度を正当に評価し、それを利益配分に直接反映させる(スウェット・エクイティ的な)設計が可能です。

経営への直接参画と機動的な意思決定

合同会社の社員は、原則として出資者でありながら業務執行権および会社代表権を有します。

取締役会のような法定の機関手続に縛られず、社員同士の合意(定款の規定等)に基づいて迅速な意思決定を行い、自らの意思をダイレクトに事業に反映させることができます。

会社に対する損害賠償責任の柔軟な免除

業務執行社員は会社に対して善管注意義務や忠実義務を負いますが、これに違反した場合の会社に対する損害賠償責任(任務懈怠責任)について、株式会社よりも免除の要件が緩やかです。

株式会社のように株主総会の決議や免除限度額などの厳格なルールはなく、公序良俗に反しない限り、定款で自由に責任の全部または一部を事前の免除を含めて減免することが認められています。これにより、過度なリスクを恐れずに積極的な事業運営を行いやすくなります。

退社を通じた投下資本の回収

合同会社では持分の譲渡が厳しく制限されていますが、その代わりに退社という制度によって投下資本を回収する権利が保障されています。

定款の定めによる任意退社(6か月前の予告)や、やむを得ない事由がある場合の即時退社が認められており、退社時には出資額だけでなく、その時点での会社の財産状況に応じて自己に帰属する利益を含めた持分の払戻しを金銭等で受けることができます。

デメリット・リスク(注意点)

第三者に対する損害賠償責任

業務を執行する有限責任社員は、その職務を行うについて悪意または重大な過失があった場合、連帯して第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法597条)。これは株式会社の取締役の第三者責任と同趣旨のものです。

ただし、株式会社の取締役のように他の役員に対する一般的な監視義務までは負わないと解されているため、責任の及ぶ職務の範囲は取締役よりも限定的と考えられています。

辞任の制限と持分譲渡の困難さによる離脱のハードル

合同会社では社員の個性が重視されるため、株式会社のように株式を売却して簡単に離脱することができません。持分を他人に譲渡してエグジットするには、原則として他の社員全員の承諾が必要となります。

また、定款で特定の者が業務執行社員に定められている場合、原則として正当な事由がなければ辞任することができないとされており、自己都合で急に経営から離れることには制約があります。

違法な利益配当・払戻しに対する重い連帯責任

合同会社では、利益額を超える違法な配当や、剰余金額を超える違法な持分払戻しが行われた場合、配当等を受けた社員だけでなく、その手続に関与した業務執行社員も、注意を怠らなかったことを証明できない限り、連帯して会社にその金額を支払う(補填する)義務を負います。

債権者保護の観点から、株式会社の業務執行取締役と同様の重い責任が課せられています。

競業避止義務と利益相反取引の制限

業務執行社員は、持分会社の事業と競合する取引を行ったり同業他社の役員になったりすること(競業行為)や、会社と直接取引等をすること(利益相反取引)が制限されます。これらを行うには、原則として他の社員の全員の承認(競業)や過半数の承認(利益相反)が必要です。

限られたキーパーソンに複数の事業を掛け持ちさせたい企業グループにとっては足かせになる可能性がありますが、定款に別段の定めを置くことでこれらの制限を緩和・排除することは可能です。

自然人社員の場合まとめ

 自然人が業務執行社員となる場合は、自身のノウハウ等を活かして自由な利益配分を受けられ、会社に対する責任も定款でコントロールしやすいというリターンの享受と動きやすさにメリットがあります。

 一方で、他事業との兼務制限や、自己都合での辞任・持分譲渡(離脱)がしにくいという拘束力があり、第三者や債権者に対する重い責任(悪意・重過失時の損害賠償や違法配当時の補填)は個人として直接負うことになる点に留意した制度設計(定款の作成)が必要です。

補足①:出資者としての責任(間接有限責任)について

株式会社も合同会社も、出資者の責任が間接有限責任であるという点において、両者に違いはなく共通しています

  • 株式会社の株主:会社に対して、有する株式の引受価額を限度とする出資義務のみを負います。
  • 合同会社の社員:会社に対して、定款に定めた出資の価額を限度とする出資義務のみを負います。

どちらの会社形態であっても、会社が財産をもって債務を完済できなくなった場合(倒産時など)に、出資者が出資額を超えて会社の債権者に対して直接的に個人の財産から借金を返済するような責任を負うことはありません。

結論として、出資した範囲内でしか責任を負わないという会社の最も基盤となる有限責任の性質は、株式会社と合同会社で全く同じ仕組みとなっています。そのため、有限責任かどうかを理由に両者を比較・選択する必要はありません。

補足②:経営を担う者(役員等)としての責任について

会社法上、出資者としての責任は有限ですが、会社を経営する立場になった場合の責任についても両者は共通した規定が設けられています。

株式会社の取締役も、合同会社の業務執行社員も、その職務を行うについて悪意または重大な過失があった場合には、例外的に第三者に対して生じた損害を直接賠償する責任を負います。

以下、株式会社の取締役と合同会社の業務執行社員について、任務懈怠責任(会社に対する責任)と第三者責任の観点から比較をまとめ、併せてD&O保険(役員等賠償責任保険)についても少し触れてみます。

任務懈怠責任(会社に対する損害賠償責任)の比較

両者とも、職務を行う上で任務を怠った場合(善管注意義務や忠実義務の違反など)に、会社に対して損害賠償責任を負う点では共通しています。しかし、責任を免除・軽減する手続の柔軟性において違いがあります。

株式会社(免除要件が厳格)

株式会社の取締役の責任を完全に免除するには、原則として総株主の同意が必要です。

一定の要件(善意かつ重大な過失がないこと)を満たせば責任の一部を免除できますが、これにも株主総会の特別決議定款に基づく取締役会の決議非業務執行取締役等との責任限定契約といった厳格な手続が求められ、法定の最低責任限度額を下回る免除はできません。

合同会社(定款自治による柔軟な免除が可能)

合同会社の業務執行社員の責任については、会社法上に株式会社のような免除の方法や限度額に関する特別の制限規定がありません。

そのため、公序良俗に反しない限り、定款の定めによって自由に責任の免除や軽減(事前の免除も含む)を行うことが可能です。

第三者責任(第三者に対する損害賠償責任)の比較

職務を行うについて悪意または重大な過失があった結果、第三者(取引先など)に損害を与えた場合、例外的にその役員個人が第三者に対して直接損害賠償責任を負うという点では、株式会社も合同会社も共通しています。

この責任は強行規定であり、定款等で排除することはできません。しかし、責任を問われる職務の範囲(監視義務)に違いがあると解されています。

株式会社(他の取締役に対する監視義務を含む)

株式会社の取締役(特に取締役会設置会社)は、自らの直接的な行為だけでなく、他の取締役の職務執行全般に対する監視義務を負うとされています。

そのため、他の取締役の不正を見逃したような場合でも、監視義務違反としての重過失を問われ、第三者責任を負うリスクがあります。

合同会社(監視義務は原則として負わない)

合同会社の業務執行社員は、社員としての立場で自ら業務を執行するものであり、他の業務執行社員の職務執行に対する一般的な監視義務までは負わないと解されています。

したがって、悪意・重過失の対象となる職務の範囲は株式会社の取締役よりも限定的であり、他人の行為に対する責任を問われるリスクは相対的に低いと考えられています。

D&O保険(役員等賠償責任保険)について

D&O保険(役員等賠償責任保険)は、役員等が第三者に対して負う賠償責任や争訟費用、および、会社からの賠償請求で敗訴した場合の賠償責任と争訟費用(故意や個人的利益の追求に起因するものを除く、注意義務違反によるもの)を填補する機能を持つ保険です。

会社法上、株式会社が役員等のためにD&O保険契約を締結する(内容を決定する)際には、株主総会または取締役会の決議によらなければならないという規定が設けられています(会社法430条の3)。また、事業報告等の開示書類において、この保険契約の概要(被保険者の範囲や実質的な保険料負担割合など)を記載することが求められています。

▽会社法430条の3第1項

(役員等のために締結される保険契約)
第四百三十条の三
 株式会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの(当該保険契約を締結することにより被保険者である役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。第三項ただし書において「役員等賠償責任保険契約」という。)の内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。

役員等としての責任まとめ

 合同会社は、経営陣(業務執行社員)の会社に対する任務懈怠責任を定款で柔軟に免除でき、かつ第三者責任の引き金となる監視義務も限定的であるため、株式会社と比較して役員個人の法的リスクをコントロールしやすい制度設計になっているといえます。

結び

今回は、グループガバナンスということで、社員となる者から見たメリット・デメリットやリスクの視点から、会社形態の選択(合同会社と株式会社の違い)について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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