今回は、景品表示法を勉強しようということで、違反に対する措置の手続について見てみたいと思います。
違反に対する措置等の内容については前の記事に書いており、本記事はこれらの手続面になります。
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景品表示法を勉強しよう|違反に対する措置等
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ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
違反に対する措置の手続(全体像)
まず、違反に対する措置が出されるときの手続の流れについて見てみたいと思います。
調査の結果、行政処分までいかずに是正に係る行政指導で終わるときは、以下のような流れをたどります。
- 端緒(調査のきっかけとなる情報)
↓ - 調査
↓ - 行政指導
これに対して、調査の結果、行政処分(措置命令/課徴金納付命令)が出されるときは、以下のような流れをたどります。
- 端緒(調査のきっかけとなる情報)
↓ - 調査
↓ - 弁明の機会の付与
↓ - 行政処分(措置命令/課徴金納付命令)
↓ - 不服申立て
以下、順に見てみます。
端緒
端緒とは、違反事件調査のきっかけとなる情報のことで、大きく分けると、
- 外部からの情報提供
- 行政自身による情報収集(職権探知)
- 事業者による報告
があります。
①は、一般消費者等からの情報提供のことで、消費者庁HPの違反被疑情報提供フォームなど様々なものがあります。
実際には、情報提供フォームでは競合他社からのタレコミ的な情報提供なども多くなされているだろうと思います(管理人の個人的意見)
②は、消費者庁や都道府県等による情報収集のことで、職権探知と呼ばれます。
「職権」というのは、”私人の申立てなどを要せず自ら自発的に”というような意味で、「探知」というのは、判断の基礎資料の収集のことです(事実の探知と証拠集め)
③は、課徴金対象行為を行った事業者による自主報告(景表法9条)のことで、①と同じく上記の受付窓口のページに掲載があります。
調査
調査については景表法25条に定められており、
- 報告命令
- 提出命令
- 立入検査
- 質問調査
などを行う権限が与えられています。
▽法25条
第五節 報告の徴収及び立入検査等
第二十五条 内閣総理大臣は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、当該事業者若しくはその者とその事業に関して関係のある事業者に対し、その業務若しくは財産に関して報告をさせ、若しくは帳簿書類その他の物件の提出を命じ、又はその職員に、当該事業者若しくはその者とその事業に関して関係のある事業者の事務所、事業所その他その事業を行う場所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。
3 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
これらの調査権限は、以下の参考リンクにある図のように、消費者庁(内閣総理大臣から委任を受けた消費者庁長官)だけでなく、消費者庁からの委任により、公正取引委員会、事業所管大臣等(ただし一定の事情がある場合に限られる)、都道府県も有しています。
なお、相手方の協力が得られる場合には、これら法律に基づく調査権限を行使しないで調査することもでき(任意調査)、実際になされています。
行政指導
行政指導は、行政手続法上の行政指導であり、その手続については同法第4章の適用を受けます。
▽行手法32条~36条
(行政指導の一般原則)
第三十二条 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
(申請に関連する行政指導)
第三十三条 申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。
(許認可等の権限に関連する行政指導)
第三十四条 許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関が、当該権限を行使することができない場合又は行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。
(行政指導の方式)
第三十五条 行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない。
2 行政指導に携わる者は、当該行政指導をする際に、行政機関が許認可等をする権限又は許認可等に基づく処分をする権限を行使し得る旨を示すときは、その相手方に対して、次に掲げる事項を示さなければならない。
一 当該権限を行使し得る根拠となる法令の条項
二 前号の条項に規定する要件
三 当該権限の行使が前号の要件に適合する理由
3 行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から前二項に規定する事項を記載した書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない。
4 前項の規定は、次に掲げる行政指導については、適用しない。
一 相手方に対しその場において完了する行為を求めるもの
二 既に文書(前項の書面を含む。)又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によりその相手方に通知されている事項と同一の内容を求めるもの
(複数の者を対象とする行政指導)
第三十六条 同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、行政機関は、あらかじめ、事案に応じ、行政指導指針を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならない。
ただ、景表法に関する行政指導は、その根拠となる規定が法律に置かれているものではないため、行政指導の中止等の求め(行政手続法36条の2)と処分等の求め(行政手続法36条の3)の対象とはなりません。
行政処分(措置命令/課徴金納付命令)
弁明の機会の付与
措置命令も課徴金納付命令も不利益処分であるため、一般に必要な事前手続として、意見陳述のための手続がとられます。
措置命令の場合
措置命令については景表法に独自の定めはないため、行政手続法の規定に従い、命令に先立って弁明の機会が付与されます(行政手続法13条1項)。
▽行手法13条1項
(不利益処分をしようとする場合の手続)
第十三条 行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。
一 次のいずれかに該当するとき 聴聞
イ~二 (略)
二 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与
弁明の機会の付与は、処分内容と理由など所定事項を事業者に対して通知して行われます(行政手続法30条)。
▽行手法30条
(弁明の機会の付与の通知の方式)
第三十条 行政庁は、弁明書の提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その日時)までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一 予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項
二 不利益処分の原因となる事実
三 弁明書の提出先及び提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その旨並びに出頭すべき日時及び場所)
通知を受けた事業者は、弁明書を提出して意見を述べたり、証拠書類等を提出したりすることになります(行政手続法29条)。
▽行手法29条
(弁明の機会の付与の方式)
第二十九条 弁明は、行政庁が口頭ですることを認めたときを除き、弁明を記載した書面(以下「弁明書」という。)を提出してするものとする。
2 弁明をするときは、証拠書類等を提出することができる。
課徴金納付命令の場合
課徴金納付命令に関しては、「一定の額の金銭の納付を命じ」る処分であることから、先ほど見た行政手続法13条1項の手続は適用されませんが(同条2項4号)、景表法に独自の定めがあります(景表法13条~15条)。
▽行手法13条2項4号
2 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の規定は、適用しない。
四 納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付を命じ、又は金銭の給付決定の取消しその他の金銭の給付を制限する不利益処分をしようとするとき。
▽景表法13条
(課徴金納付命令に対する弁明の機会の付与)
第十三条 内閣総理大臣は、課徴金納付命令をしようとするときは、当該課徴金納付命令の名宛人となるべき者に対し、弁明の機会を与えなければならない。
弁明の機会の付与は、課徴金額と計算根拠など所定事項を事業者に対して通知して行われます(法15条1項)。
▽景表法15条1項
(弁明の機会の付与の通知の方式)
第十五条 内閣総理大臣は、弁明書の提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その日時)までに相当な期間をおいて、課徴金納付命令の名宛人となるべき者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一 納付を命じようとする課徴金の額
二 課徴金の計算の基礎及び当該課徴金に係る課徴金対象行為
三 弁明書の提出先及び提出期限(口頭による弁明の機会の付与を行う場合には、その旨並びに出頭すべき日時及び場所)
通知を受けた事業者は、弁明書を提出して意見を述べたり、証拠書類等を提出したりすることになります(法14条)。
▽景表法14条
(弁明の機会の付与の方式)
第十四条 弁明は、内閣総理大臣が口頭ですることを認めたときを除き、弁明を記載した書面(次条第一項において「弁明書」という。)を提出してするものとする。
2 弁明をするときは、証拠書類又は証拠物を提出することができる。
命令の手続
措置命令も課徴金納付命令も、命令を出す際には、書面が出されます。
措置命令の場合
措置命令は、書面(いわゆる措置命令書)によって行われます(行政手続法14条3項参照)。
▽行手法14条1項・3項
(不利益処分の理由の提示)
第十四条 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、…(略)…。
3 不利益処分を書面でするときは、前二項の理由は、書面により示さなければならない。
課徴金納付命令の場合
課徴金納付命令については景表法に独自の定めがあり、命令を出す際には、課徴金納付命令書が送付されます(法17条)。
▽法17条
(課徴金納付命令の方式等)
第十七条 課徴金納付命令は、文書によつて行い、課徴金納付命令書には、納付すべき課徴金の額、課徴金の計算の基礎及び当該課徴金に係る課徴金対象行為並びに納期限を記載しなければならない。
2 課徴金納付命令は、その名宛人に課徴金納付命令書の謄本を送達することによつて、その効力を生ずる。
3 第一項の課徴金の納期限は、課徴金納付命令書の謄本を発する日から七月を経過した日とする。
課徴金納付命令を受けた事業者は、課徴金を納付しなければなりません(法12条1項)。
▽法12条1項
(課徴金の納付義務等)
第十二条 課徴金納付命令を受けた者は、第八条第一項若しくは第四項、第九条又は前条第二項の規定により計算した課徴金を納付しなければならない。
確約手続の流れ
令和5年法改正により確約手続(景表法第2章第6節)が導入されましたが、確約手続が行われる場合、調査後の流れは概ね以下のようになります。
- 確約手続通知(法26条/法30条)
:弁明の機会の付与の通知がなされる前まで - 事業者による確約計画の作成と認定申請(法27条1項/法31条1項)
:申請する場合は、確約手続通知から60日以内に申請 - 確約計画の認定又は却下(法27条3項/法31条3項)
:認定された場合の効果→措置命令と課徴金命令が出されない(法28条/法32条) - 措置の実施
:認定を受けた計画に従って措置を実施しない場合等→認定は取り消され、調査が再開される(法29条/法33条)
なお、確約計画は、対象行為終了前の場合は「是正措置計画」、対象行為終了後の場合は「影響是正措置計画」と呼ばれており、前者は法26条~29条、後者は法30条~33条に規定されています
確約手続運用基準(「確約手続に関する運用基準」)も確認してみます。
▽確約手続運用基準 4
4 確約手続の流れ
調査の開始から弁明の機会の付与の通知(措置命令に係る行政手続法(平成5年法律第88号)第30条の規定による通知又は課徴金納付命令に係る景品表示法第15条第1項の規定による通知をいう。以下同じ。)を行うまでの間に、消費者庁は、違反被疑行為について確約手続に付すことが適当であると判断するとき、違反被疑行為者に対して確約手続通知を行う。
確約手続通知を受けた者(以下「被通知事業者」という。)が違反被疑行為等(既往の違反被疑行為の場合においては、違反被疑行為による影響。以下同じ。)をどのように是正すればよいのか、すなわち、どのような確約計画を作成すればよいのかの検討に資するため、消費者庁は、確約手続通知を行う時点で把握している事実に基づき、違反被疑行為の概要及び違反する疑いのある又はあった法令の条項を確約手続通知の書面に記載する。
なお、確約手続通知は、被通知事業者の行為が景品表示法の規定に違反することを認定するものではなく、また、あくまで確約手続通知を行う時点で把握している事実が前提となるため、措置命令書や課徴金納付命令書と同程度に詳細な事実の認定や法令の適用の記載がなされるものではない。
被通知事業者は、確約認定申請をする場合、景品表示法第27条第1項又は第31条第1項の規定により、確約手続通知を受けた日から60日以内に確約認定申請をする必要がある。
被通知事業者が確約認定申請をした場合において、消費者庁は、当該確約計画が景品表示法第27条第3項各号又は第31条第3項各号の認定要件(以下「認定要件」と総称する。)に適合するか否かの判断を行い、当該確約計画が認定要件に適合すると認めるときには、景品表示法第27条第3項又は第31条第3項の規定により、当該確約計画の認定をする。
不服申立て
措置命令と課徴金納付命令に対する不服申立ては、一般の行政処分と同様に処理され、
- 行政処分に対する審査請求(行政不服審査法)
- 取消訴訟(行政事件訴訟法)
があります。
結び
今回は、景品表示法を勉強しようということで、違反に対する措置の手続について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
参考文献
- エッセンス景品表示法(古川昌平)
- 景品表示法〔第6版〕(西川康一)
- 実務解説 景品表示法〔第2版〕(波光巌、鈴木恭蔵)
- 景品表示法の法律相談〔改定版〕(加藤公司、伊藤憲二、内田清人、石井崇、薮内俊輔)
- よくわかる景品表示法と公正競争規約〔令和6年7月改訂〕(消費者庁)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 事例でわかる景品表示法〔令和6年7月改訂〕(消費者庁)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 違反事例集(「景品表示法における違反事例集」)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
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