商標法

商標法を勉強しよう|商標の定義

著作者:pressfoto/出典:Freepik

今回は、商標法を勉強しようということで、商標の定義について書いてみたいと思います。

「商標」と聞いても、何となくわかるようなわからないような、いまひとつピンと来ないのが最初の引っかかりであるように思います。そこでイメージづくりから入って、次に、商標法上の定義を見てみます。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

商標とは(社会的な意味での商標)

商標とは、事業者が、自分の取り扱う商品やサービスを他人のものと区別するために使用するマーク(識別標識)である(特許庁「知的財産権制度入門テキスト」(2022年度)75頁など参照)。

”それを見たときに何か決まったものを想起するマーク”のことを、日常生活でも”トレードマーク”というが、ここでいう「マーク」は、この”トレードマーク”のイメージである。

ちなみに、商標法の英語表記は「trademark law」であり、文字通り”トレードマーク”についての法律です。

さらに続けてみる。

例えば会社は、ある商品を覚えてもらうために、特定の商品名(文字)やロゴ(図形・記号)やメロディーなどを、くり返し使う。CMなどをくり返し流すのもそうである。パソコンでも車でもピアノでも、たくさん思い浮かぶところかと思う。

そうしているうちに、その特定の文字やロゴを見たり、メロディーを聴いたときに、特定の商品が思い浮かぶようになる。この商品名やロゴやメロディーが、”トレードマーク”つまり商標である。

これは、会社側からみると、営業努力によってコツコツと積み上げてきた(あるいはこれから積み上げていく)業務上の信用が、マークに染み込んでいくような感じといえる。商品の品質向上などの努力とともに、商品を表す目印を覚えてもらう努力をして、他の商品との差別化を図る、つまりブランド化していく。

ということは、こんなにコツコツ苦労して積み上げてきた業務上の信用を、横から勝手に使われてはたまらん!(=この大事なトレードマークを、他人に勝手に使われてはかなわん!)ということになる。

そこで、このトレードマークを権利化することによって、他人が商標を無断で使用することを防止しようとする。これが「商標権」のイメージである。

「商標」の定義(法2条1項)

「商標」の定義は、商標法2条1項に規定されている。

その内容をやや簡略化しつつ書くと、以下のようになる。

  • 人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(標章)であって、
  • a)事業者が商品について使用するもの
    又は
    b)事業者がサービスについて使用するもの

標章」と表現されているが、これがマークのことである。

「商標」と「標章」の関係が(発音が似ていることも相まって)一瞬混乱しそうになるが、要するに、業務を行う者が標章(マーク)を商品又は役務について使用すると、それが「商標」になる、という構造になっている(特許庁「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」(第22版)1525頁参照)。

ちなみに、法令上の用語ではないが、一般的な呼び方としては、商品について使用するマークはトレードマーク、役務(つまりサービス)について使用するマークはサービスマーク、と呼ばれる。

条文も確認しておく。

▽法2条1項

(定義等)
第二条
 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)

以下、順に見てみる。

標章(マーク)の概念

「人の知覚によつて認識することができるもの」

これは、商標は商品や役務の提供元が自分であることを示す(他人と区別する)ためのマークなので、そもそも人間が認識できないようなものは商標ではない、という意味合いである。

細かいことをいえば、平成26年法改正(後述)で将来的に「におい」の商標なども政令で追加できるようにしたので、そのときに、人の知覚によって認識することができるものであることを明示した、ということです(特許庁「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」(第22版) 1524頁参照)。

におい、味、触覚などが考えられますが、人の知覚によって認識することができるものでないとダメ、ということです。

いわば当然のことなので、重要なのは次である。

「文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」

これが、標章(マーク)の構成要素を書いている部分である。

例えば、商品やサービスの名称であったり(文字)、ロゴであったり(図形や、文字と図形の結合)、家紋のようなエンブレムであったり(記号や、記号と文字の結合)、ヤクルトの容器やコーラの瓶であったり(立体的形状)、などである。

文言だけで読んでもわかりにくいので表にしてみると、以下のようになる。なお、標章の構成要素に応じて、商標の種類としての呼び名がある。

標章の構成要素 商標の種類
文字のみ 文字商標
図形のみ 図形商標
記号のみ 記号商標
立体的形状のみ 立体商標
色彩のみ 色彩商標
文字/図形/記号/立体的形状/色彩のうち2つ以上の結合 結合商標
音商標
その他政令で定めるもの

特許庁HPに掲載されている「知的財産権制度入門テキスト」の「第4節 商標制度の概要」の中で、具体例が画像付きで解説されているので、そちらを見るとわかりやすい。こういうのは、百聞は一見に如かずである。

▽特許庁「知的財産権制度入門テキスト」(2022年度) 第4節 商標制度の概要|特許庁HP
https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/2022_nyumon/1_2_4.pdf
(→掲載ページはこちら

事業者が商品又は役務について使用をするもの

前述のように、標章(マーク)のなかで、商品又は役務について使用するものが、「商標」と定義されている。

以下、事業者の意味のなかで「業として」という文言が出てくるが、営利目的(利益を得ること、儲けること)は必要でなく、反復継続して行われるものであれば足りる。

「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者」(1号の事業者)

商品を「生産」するとは、農林水産業など一次産業での生産や、原材料から製品を作り出す製造のことである。

商品を「証明」するとは、商品の品質が一定の水準をクリアしていることを証明することである。

商品を「譲渡」するとは、商品を他人に移転することである。販売が典型だが、有償・無償を問わない。

「業として役務を提供し、又は証明する者」(2号の事業者)

役務を「提供」するとは、要するにサービスの提供である。

役務を「証明」するとは、サービスの質が一定の水準をクリアしていることを証明することである。

商品又は役務についての「使用」

標章の「使用」概念も、実は商標法で細かく定められている(法2条3項)。

商品又は役務それぞれにつき、以下のとおりである。

商品or役務関連 「使用」概念
商品 商品や商品の包装に標章を付ける行為
商品や商品の包装に標章を付けたものを流通(販売等)させる行為
役務(サービス) 役務の提供にあたり顧客が利用するものに標章を付ける行為
標章を付けた物を利用して役務を提供する行為
役務を提供する道具に標章を付けて展示する行為
役務の提供にあたり顧客のものに標章を付ける行為
標章を表示してインターネット等を通じた役務を提供する行為
商品・役務に共通 広告や取引書類等に標章を付して展示・流布したり、インターネット等で提供する行為
商品・役務の流通(販売等)のために音の標章を発する行為

このように標章 (マーク)を商品又は役務について「使用」するものが、商標法上の「商標」である。

平成26年法改正による商標概念の拡充

商標の定義は、平成26年法改正により新たに拡充された経緯があるので、どう変わったのか少し見てみる。

特許庁の解説書によれば、新しい商標の保護ニーズの顕在化及びこれを保護対象に追加することによる実益に鑑み、商標法の保護対象に、色彩のみの商標及び音の商標といった「新しい商標」を追加するとともに、これに伴い必要な登録要件や出願手続等の規定の整備を行うこととした、とされている(特許庁「平成26年法律改正(平成26年法律第36号)解説書」162頁)。

商標の定義に関する変更点は、以下の点である。

  • 色彩のみ・・の商標(色彩商標)音の商標(音商標)を、新たに商標の構成要素として追加した
  • 他国で権利取得事例が相当程度ある商標(ex.においの商標)も、将来的に適宜保護対象として追加できるように、「その他政令で定めるもの」を追加した

商標の定義に関する条文の改正部分は、以下の表のとおりである。

なお、「色彩」は、改正前の文言にも書かれているが、改正前は「又はこれらと色彩との結合」と書かれているように、文字や図形や記号や立体的形状との結合(組み合わせ)として認められていただけで、色彩のみ・・の商標(色彩商標)は認められていなかったわけである。

▽平成26年法改正 新旧対照表

改正後改正前
(定義等)
第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一・二 (略)
(定義等)
第二条 この法律で「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であって、次に掲げるものをいう。
一・二 (略)

平成26年法改正に関する資料・解説

平成26年法改正の資料(新旧対照表など)は、以下の特許庁HPに掲載されています。
特許法等の一部を改正する法律(平成26年5月14日法律第36号)

また、改正についての解説書も、以下の特許庁HPに掲載されています。
平成26年法律改正(平成26年法律第36号)解説書 第四章 商標法の保護対象の拡充等
(→掲載ページはこちら

結び

今回は、商標法を勉強しようということで、商標の定義について書いてみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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