特定商取引法

特定商取引法|訪問販売規制における民事救済ルール~クーリングオフ・過量販売解除・取消権など

2024年12月7日

今回は、特定商取引法ということで、訪問販売における民事救済ルール(クーリング・オフ等)について見てみたいと思います。

訪問販売では、自宅や路上などで突然勧められ、心の準備がないまま勢いや断り切れずに契約してしまいがちです。このような不意打ち的な取引から消費者を保護するため、特商法には民事上の救済ルール(クーリング・オフ、過量販売の解除権、不実告知等による取消権など)が用意されています。

本記事は、それぞれの救済制度の違いや使える条件、効果などについてわかりやすく解説します。

訪問販売規制一般についてはこちら
特定商取引法|「訪問販売」の規制ルール~訪問販売の類型・法定書面・禁止行為など

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ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。




契約を解消する権利:クーリング・オフ等

01|クーリング・オフ(法9条)

クーリング・オフとは、”頭を冷やして(Cooling Off)冷静に考え直す時間”を与える制度で、理由を一切問わず、一方的に契約を無条件で撤回・解除できます(法9条1項本文)。

「申込みの撤回」と「契約の解除」の違いは、以下のようになっています。

  • 申込みの撤回:消費者が申込みをしたものの、事業者の承諾やクレジット会社の審査が完了しておらず、未だ契約が成立していない段階で取りやめること
  • 契約の解除:事業者の承諾や即時成立により、すでに契約が成立・締結された段階で契約を遡及的に白紙に戻すこと

訪問販売では、販売員にその場で契約を完結させる権限がなく申込みを持ち帰るケースや、クレジット契約の審査を挟むケース(=申込み段階)と、その場で契約が成立するケース(=締結段階)の両方が存在します。そのため、特商法では、どちらの段階であっても消費者が取引から離脱できるよう、双方を規定しています。

▽特商法9条1項本文

(訪問販売における契約の申込みの撤回等)
第九条
 販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客から商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合(営業所等において申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約又は役務提供契約を締結した場合を除く。)若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客と商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合におけるその購入者若しくは役務の提供を受ける者(以下この条から第九条の三までにおいて「申込者等」という。)は、書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、…(略)…。

行使期間

行使期間は、法定の契約書面(または申込書面)を受け取った日から起算して8日間以内です(1項ただし書)。

▽同条1項ただし書

…ただし、申込者等が第五条第一項又は第二項の書面を受領した日(その日前に第四条第一項の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合(申込者等が、販売業者若しくは役務提供事業者が第六条第一項の規定に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は販売業者若しくは役務提供事業者が同条第三項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに申込みの撤回等を行わなかつた場合には、当該申込者等が、当該販売業者又は当該役務提供事業者が主務省令で定めるところにより当該売買契約又は当該役務提供契約の申込みの撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して八日を経過した場合)においては、この限りでない。

【ポイント】書面不備・妨害の場合の期間延長

① 書面不備のケース:

 クーリング・オフの8日間は、契約書面(法5条書面)を受け取った日を起算日としますが、それより前に申込書面(法4条書面)を受け取っていた場合は、その申込書面を受け取った日が起算日になります。

 この起算日の基準となる書面(申込書面または契約書面のうち、先に受け取った方)に記載漏れなどの不備がある場合は、適法な書面が改めて交付されるまでクーリング・オフ期間の起算そのものが始まらないため、いつでもクーリング・オフが可能です。

② 妨害のケース(括弧書き):

 また、事業者から「クーリング・オフはできない」と嘘をつかれたり、威迫されて困惑したりしたためにクーリング・オフを行わなかった場合も、事業者が「クーリング・オフができる」旨を記載した書面(いわゆる再交付書面)を改めて交付するまでは、いつでもクーリング・オフが可能です(その書面を受け取った日から、新たに8日のカウントが始まります)(1項ただし書の括弧書き参照)。

特徴とメリット

特徴とメリットは、まず、理由が不要であることです。「やっぱりいらない」「高すぎた」など、どんな理由でも行使できます。

発信主義が採られており、期間内(8日以内)に通知を発送・送信すれば効果が生じる(2項)のも、消費者に有利な点です(相手に届くのが9日目以降になっても有効です)。

違約金や損害賠償を支払う必要も一切なく(3項)、商品の引き取り費用も事業者負担となります(4項)。サービスを既に受けていても対価の支払義務はなく、商品の使用利益(使った分の得)を請求されることもありません(5項)。

▽同条2項~8項

2 申込みの撤回等は、当該申込みの撤回等に係る書面又は電磁的記録による通知を発した時に、その効力を生ずる。
3 申込みの撤回等があつた場合においては、販売業者又は役務提供事業者は、その申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。
4 申込みの撤回等があつた場合において、その売買契約に係る商品の引渡し又は権利の移転が既にされているときは、その引取り又は返還に要する費用は、販売業者の負担とする。
5 販売業者又は役務提供事業者は、商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合には、既に当該売買契約に基づき引き渡された商品が使用され若しくは当該権利が行使され又は当該役務提供契約に基づき役務が提供されたときにおいても、申込者等に対し、当該商品の使用により得られた利益若しくは当該権利の行使により得られた利益に相当する金銭又は当該役務提供契約に係る役務の対価その他の金銭の支払を請求することができない。
6 役務提供事業者は、役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合において、当該役務提供契約に関連して金銭を受領しているときは、申込者等に対し、速やかに、これを返還しなければならない。
7 役務提供契約又は特定権利の売買契約の申込者等は、その役務提供契約又は売買契約につき申込みの撤回等を行つた場合において、当該役務提供契約又は当該特定権利に係る役務の提供に伴い申込者等の土地又は建物その他の工作物の現状が変更されたときは、当該役務提供事業者又は当該特定権利の販売業者に対し、その原状回復に必要な措置を無償で講ずることを請求することができる。
8 前各項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする。

02|過量販売の解除権(法9条の2)

過量販売の解除権は、判断力が低下した高齢者などが狙われやすい、”布団を何セットも買わされた(大量購入)”、”不要なリフォーム工事を次々と契約させられた(次々販売)”といった被害から消費者を救済するための制度です(法9条の2第1項)。

行使期間

行使期間は、契約締結の時から1年間(除斥期間)です(2項)。

特徴とメリット

特徴とメリットは、契約当時の騙しや脅し(意思表示の瑕疵)を証明しなくても、”一人暮らしなのに布団が10枚ある”といった外形的な「過量性」を立証すれば解除が可能な点です。

解除後の清算ルールはクーリング・オフ規定が準用されるため(3項)、商品の引き取り費用は事業者負担となり、損害賠償や商品の使用利益を請求されることもありません。

▽特商法9条の2

(通常必要とされる分量を著しく超える商品の売買契約等の申込みの撤回等)
第九条の二
 申込者等は、次に掲げる契約に該当する売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又は売買契約若しくは役務提供契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、申込者等に当該契約の締結を必要とする特別の事情があつたときは、この限りでない。
一・二 (略)
2 前項の規定による権利は、当該売買契約又は当該役務提供契約の締結の時から一年以内に行使しなければならない。
3 前条第三項から第八項までの規定は、第一項の規定による申込みの撤回等について準用する。この場合において、同条第八項中「前各項」とあるのは、「次条第一項及び第二項並びに同条第三項において準用する第三項から前項まで」と読み替えるものとする。

発生要件(単体過量型と累積過量型)

過量販売の解除権は、1号(単体過量型)と2号(累積過量型)という、要件の異なる2つの類型が並んで規定されている点が特徴です。

1号:単体過量型(客観要件のみ)

1号の要件は、その1つの契約だけで見て、目的物の分量(商品の数量、役務の回数・期間・分量)が、その日常生活において通常必要とされる分量を著しく超えることです。

この類型には、事業者の主観(認識)に関する要件がありません。1回の契約それ自体が客観的に過量であれば、それだけで解除権が発生します。

「1回の勧誘でこれほどの分量を売りつけていれば、事業者がそれを認識していたことは当然に推認できる」という考え方から、あえて主観要件を課さず、外形的な過量性のみで足りる構成になっています。

▽特商法9条の2第1項第1号

一 その日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品若しくは特定権利(第二条第四項第一号に掲げるものに限る。次号において同じ。)の売買契約又はその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超えて役務の提供を受ける役務提供契約

2号:累積過量型(客観要件+主観要件)

2号の要件は、以下のようになっています。

  • 個々の契約自体は過量でなくても、既に締結済みの同種契約と合算すると、通常必要とされる分量を著しく超えることとなる、または既に著しく超えている状態にあること(客観要件)
  • 事業者が、①の事実(合算すると著しく超えることとなる、または既に著しく超えている)を知りながら、勧誘・締結したこと(主観要件=悪意)

1号と異なり、こちらは主観要件(悪意)が要求されています。次々販売のように、複数の事業者が関与する場合や、時間をかけて累積していく場合には、当該契約単体だけを見れば過量とは言えないため、事業者が消費者の既存の保有状況を知っていたかどうかが問われる構成になっています。

▽特商法9条の2第1項第2号

二 当該販売業者又は役務提供事業者が、当該売買契約若しくは役務提供契約に基づく債務を履行することにより申込者等にとつて当該売買契約に係る商品若しくは特定権利と同種の商品若しくは特定権利の分量がその日常生活において通常必要とされる分量を著しく超えることとなること若しくは当該役務提供契約に係る役務と同種の役務の提供を受ける回数若しくは期間若しくはその分量がその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超えることとなることを知り、又は申込者等にとつて当該売買契約に係る商品若しくは特定権利と同種の商品若しくは特定権利の分量がその日常生活において通常必要とされる分量を既に著しく超えていること若しくは当該役務提供契約に係る役務と同種の役務の提供を受ける回数若しくは期間若しくはその分量がその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を既に著しく超えていることを知りながら、申込みを受け、又は締結した売買契約又は役務提供契約

共通の除外事由:「特別の事情」

1号・2号のいずれについても、ただし書により、「申込者等(消費者)に当該契約の締結を必要とする特別の事情があつたとき」は解除権が発生しません。典型例としては、親戚に配る目的があった場合や、一時的に同居家族が増えた場合などが挙げられます。

ポイントは、主張立証責任の分配です。消費者庁の通達によれば、「特別の事情」の存在は、事業者側が抗弁として主張立証しなければならないという構造になっています。つまり、消費者は「過量である」という外形的要件を立証すれば足り、「特別の事情がないこと」まで立証する必要はありません。

▽特商法通達 第2章関係-第2節(訪問販売)関係-8-⑵

 法第9条の2第1項の規定が、社会通念上必要とされる通常量を著しく超えた契約という外形的要件を消費者が立証した場合に契約の解除を可能とするものであるため、販売業者等の取引安全とのバランスを図り、販売業者等にとって過度な負担とならないよう、一定の場合(消費者が通常の必要量以上の購入をする特別な事情がある場合)において、販売業者等に抗弁を認めることとしたものである。例えば、親戚に配る目的や一時的に居宅における生活者の人数が増える事情等といったものが考えられる。
 なお、この場合、販売業者等は何らかの手段で消費者が購入した当時の特別な事情の存在を立証する必要がある。

【ポイント】過量販売の”解除権”

 ”過量販売の解除権”と呼ばれることが多いですが、条文を見るとわかるように、クーリングオフ(法9条)と同様、契約解除のほか、申込の撤回もあります。

 それにもかかわらず、なぜ一般の解説などでは「解除権(過量販売解除)」と総称されることが多いのかというと、

  • 実態としての発生時期:過量販売(次々販売等)のトラブルは、契約が成立し、商品が引き渡されたりクレジットの支払いが始まったりした「契約成立後」に発覚・問題化することがほとんどであり、実際上行使されるのは「契約の解除」である
  • 法的な性質:それゆえ、一旦成立した契約の拘束力を否定して遡及的に無効化する側面が制度の主眼である

といった事情があるためと考えられます。

03|不実告知等による取消権(法9条の3)

不実告知等による取消権は、事業者に嘘の説明をされたり、不利益になる重要な事実を意図的に隠されたりして、勘違い(誤認)して契約を結んでしまった場合に契約を取り消せるルールです。

行使期間

行使期間は、誤認に気づいて追認できる時から1年間(契約締結の時から5年間)です。

特徴とメリット

特徴とメリットは、消費者契約法の取消権よりも対象となる重要事項の範囲が広く、契約を必要とする事情(動機)に関する嘘(例:「このままだと家が倒れる」等)も取消しの対象となる点です。

取消しを行った場合、消費者が事業者に返還すべき範囲は現に利益を受けている限度(現存利益)に限定されるため(5項)、商品を使ってしまっていても事業者に”やり得”を許さない仕組みになっています。

発生要件(不実告知と故意の事実不告知)

この取消権の発生要件は、不実告知(1号)と、故意の事実不告知(2号)です。

  • 不実告知:商品の品質・価格・解約条件・契約が必要な事情などについて、事実と異なること(嘘)を告げられたこと
  • 故意の事実不告知:消費者に不利益となる重要な事実を、故意に告げられなかったこと

▽特商法9条の3

(訪問販売における契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第九条の三
 申込者等は、販売業者又は役務提供事業者が訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするに際し次の各号に掲げる行為をしたことにより、当該各号に定める誤認をし、それによつて当該売買契約若しくは当該役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 第六条第一項の規定に違反して不実のことを告げる行為 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 第六条第二項の規定に違反して故意に事実を告げない行為 当該事実が存在しないとの誤認
2 前項の規定による訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもつて善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
3 第一項の規定は、同項に規定する訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示に対する民法(明治二十九年法律第八十九号)第九十六条の規定の適用を妨げるものと解してはならない。
4 第一項の規定による取消権は、追認をすることができる時から一年間行わないときは、時効によつて消滅する。当該売買契約又は当該役務提供契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする。
5 民法第百二十一条の二第一項の規定にかかわらず、訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約に基づく債務の履行として給付を受けた申込者等は、第一項の規定により当該売買契約若しくは当該役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消した場合において、給付を受けた当時その意思表示が取り消すことができるものであることを知らなかつたときは、当該売買契約又は当該役務提供契約によつて現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

【ポイント】民法上の詐欺取消しとどう違うのか?

① 取消権が創設された制度的な狙い

 この取消権(特商法9条の3)は、平成16年(2004年)の特定商取引法改正によって新たに導入されました。創設の狙いは、民法上の詐欺取消しでは立証の壁が高く、救済できなかった訪問販売の被害者を実効的に救済することにあります。

 元々、特商法(法6条等)では、事業者が勧誘時に嘘の説明(不実告知)をすることを行政規制や刑事罰の対象として禁止していました。しかし、行政規制に違反していることと、民事上の契約を取り消せるかは別問題と解されていたため、消費者が契約を解消するには民法上の詐欺取り消し等を主張するしかありませんでした。

 しかし、民法上の詐欺はハードルが高く、悪質な訪問販売被害に遭った消費者を救えないケースが多くあったため、特商法上の禁止行為(嘘の説明等)によって消費者が誤認した事実さえあれば、民法では取り消せない場合であっても契約を取り消せるという独自の民事救済ルールとして創設されました。

② 事業者の内心の悪意(二重の故意)の立証を不要とした点

 民法上の詐欺取り消しと特商法の取消権における最も大きな違いは、事業者の内心(だます意図)を証明する必要があるかどうかです。

➢民法上の詐欺取り消し:

 消費者が取消しを主張する場合、「事業者が自分をだまそうとし、それによって契約させようとした」という事業者の二重の故意(欺罔意思)を消費者が立証しなければなりません。すなわち、①相手を欺いて錯誤に陥れようとする故意、②その錯誤によって意思表示をさせようとする故意、の両方です。

 しかし、事業者の頭の中にある「最初から騙すつもりだった」という内心を消費者が立証することは極めて困難です。

➢特商法9条の3の取消権:

 事業者に「だます意図」があったかどうか(二重の故意)は一切問われません。

 事業者が告げた内容が「客観的に事実と異なっていた(不実告知の違反行為)」という客観的な事実の違反があり、それによって消費者が誤認して契約したことさえ示せば取り消すことができます。

補足:クレジット(ローン)を組んでいた場合はどうなるか

訪問販売で高額な契約をする際、クレジット会社(信販会社)の分割払いを利用することも多いです(個別信用購入あっせん)。

割賦販売法との連携により、訪問販売契約をクーリング・オフ、過量販売解除、または取消しした場合、セットで申し込んだ個別クレジット契約も同時に解除・取消しすることができます。

具体的には、訪問販売契約をクーリング・オフした場合は、個別クレジット業者に通知するだけで、販売契約側も自動的に連動してクーリング・オフされます(割賦販売法35条の3の10)。

また、訪問販売契約を過量販売解除(特商法9条の2)または不実告知等により取消し(特商法9条の3)した場合も、それぞれに対応する個別クレジット契約側の解除・取消しの制度が用意されており(割賦販売法35条の3の12、35条の3の13〜16)、両方の手続を行うことで契約関係を解消できます。

さらに、既にクレジット会社へ支払ってしまったお金(既払金)がある場合、クレジット会社に対して直接「支払ったお金を返してほしい」と返還請求(既払金返還請求)ができるようになっています。

制度特商法側の根拠割賦販売法側の根拠連動の強さ
クーリング・オフ9条(訪問販売の場合)35条の3の10強い連動(片方への通知で両方に効果)
過量販売解除9条の235条の3の12別個の解除権(両方の手続が必要)
不実告知等取消し9条の335条の3の13〜16別個の取消権(両方の手続が必要)

違約金の上限ルール:契約の解除等に伴う損害賠償等の額の制限(法10条)

消費者が契約を白紙に戻すための手段のほか、違約金の上限を抑えるルール(訪問販売における契約の解除等に伴う損害賠償等の額の制限。法10条)も設けられています。

「契約を解消する権利」と「違約金の上限を抑えるルール」の違い

  • 上記3つ(9条・9条の2・9条の3)=解消・脱出のための権利:
    クーリング・オフ(9条)、過量販売の解除権(9条の2)、不実告知等の取消権(9条の3)は、消費者が自ら主導して「契約を最初からなかったことにする」「解約する」ための権利
  • 特商法10条 =請求額を抑え込むための防御ルール(上限規制):
    契約が解除された後(あるいは代金支払いが遅れた際)に、事業者が消費者に対して法外なキャンセル料・違約金や遅延損害金を請求してきた場合に、その請求額を法定の上限までに抑え込み、超える部分を無効にするという事業者に対する制限ルール

クーリング・オフ等との関係:出番の違い

この損害賠償等の額の制限は、クーリング・オフ等とは出番が分かれています。

クーリング・オフ(9条)・過量販売解除(9条の2)・取消(9条の3)が使える場合

事業者は損害賠償や違約金を一切請求できません(ペナルティはゼロ)。そのため、法10条の上限規制を計算するまでもありません。

クーリング・オフ期間(8日)が過ぎた後に解約する場合:法10条の出番

クーリング・オフ等の期間が過ぎた後、契約書に基づく約定解約を行ったり、あるいは消費者の代金支払遅延などを理由に事業者が契約を解除したりした場合には、事業者に一定の損害が発生し得ます。

このときに事業者が「解約するなら違約金として契約額の50%を支払え」などと主張してきても、法10条の定めた上限額を超える部分は無効となり、支払う必要がなくなります。

法10条に定められている上限額の具体的な中身

事業者から解除に伴い請求できる上限額は、取引の状況に応じて以下のように細かく定められています(法10条1項)。

  • 商品・権利が返還された場合:その商品の通常の使用料の額(または減価額)
  • 商品・権利が返還されない場合:商品の販売価格相当額
  • 役務(サービス)提供開始後に解除した場合:提供された役務の対価相当額
  • 商品引渡し前・役務提供開始前に解除した場合:契約の締結および履行のために通常要する費用の額(実費等)

▽特商法10条1項

(訪問販売における契約の解除等に伴う損害賠償等の額の制限)
第十条
 販売業者又は役務提供事業者は、第五条第一項各号のいずれかに該当する売買契約又は役務提供契約の締結をした場合において、その売買契約又はその役務提供契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を購入者又は役務の提供を受ける者に対して請求することができない。
一 当該商品又は当該権利が返還された場合 当該商品の通常の使用料の額又は当該権利の行使により通常得られる利益に相当する額(当該商品又は当該権利の販売価格に相当する額から当該商品又は当該権利の返還された時における価額を控除した額が通常の使用料の額又は当該権利の行使により通常得られる利益に相当する額を超えるときは、その額)
二 当該商品又は当該権利が返還されない場合 当該商品又は当該権利の販売価格に相当する額
三 当該役務提供契約の解除が当該役務の提供の開始後である場合 提供された当該役務の対価に相当する額
四 当該契約の解除が当該商品の引渡し若しくは当該権利の移転又は当該役務の提供の開始前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額

また、同条2項では、契約を解除しないまま代金支払いが遅れた場合の遅延損害金の上限も規定されています。

つまり、法10条は、1項で、①契約解除そのものに伴う損害賠償(→4類型による上限)、2項で、②支払いが遅れていた期間についての遅延損害金(→法定利率による上限)というふうに、両方の損害金を制限しています。

▽同条2項

2 販売業者又は役務提供事業者は、第五条第一項各号のいずれかに該当する売買契約又は役務提供契約の締結をした場合において、その売買契約についての代金又はその役務提供契約についての対価の全部又は一部の支払の義務が履行されない場合(売買契約又は役務提供契約が解除された場合を除く。)には、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、当該商品若しくは当該権利の販売価格又は当該役務の対価に相当する額から既に支払われた当該商品若しくは当該権利の代金又は当該役務の対価の額を控除した額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を購入者又は役務の提供を受ける者に対して請求することができない。




結び

これらの民事救済ルールは、使いやすい制度を状況に応じて選択・併用することができます。

  1. 契約からすぐ(8日以内)の場合
    →条件や理由を問わないクーリング・オフを最優先で使う
  2. 契約から8日以上過ぎているが、大量に買わされている場合
    → 1年以内なら過量販売の解除権を使う
  3. 嘘の説明をされたり、大事なことを隠されていた場合
    →1年〜5年以内なら不実告知等による取消権を主張する

今回は、特商法の訪問販売における民事救済ルール(クーリング・オフ等)について見てみました。

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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主要法令等

消費者庁「特定商取引法ガイド」に法令等の一覧ページがあります ⇨特定商取引法の条文

参考資料

リンクをクリックすると、特定商取引法ガイドのページに遷移します
  • 逐条解説(「特定商取引に関する法律の解説(逐条解説)」)(消費者庁)

参考サイト・関連団体

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