物流業界の適正な取引環境を確保するために欠かせないルールの一つが、独禁法に基づく物流特殊指定(「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」)です。
このルールですが、取適法の「役務提供委託」や「特定運送委託」と並んで、自社の取引が適用対象になるのかどうか迷う方も多いのではないでしょうか。本記事では、物流特殊指定の適用要件にフォーカスして、どのような取引や事業者の組み合わせが対象になるのかをわかりやすく解説していきます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
物流特殊指定の適用場面(位置づけ)
物流特殊指定の具体的な要件を見る前に、まずは物流のサプライチェーン全体の中でどの部分の取引がこのルールの対象になるのか、その位置付け(適用場面)を整理しておきましょう。
物流の取引は、大きく分けて次の2つの段階(ルート)があります。
- 荷主からの直接委託:
メーカーや小売業者などの荷主(真荷主)が、物流事業者(元請)に運送や保管を依頼するルート - 物流事業者間の再委託:
依頼を受けた元請の物流事業者が、実際の運送などを別の下請物流事業者に委託(再委託)するルート
このうち、物流特殊指定がターゲット(適用場面)としているのは、①の「荷主からの直接委託」のルートです。
一方、②の「元請から下請への再委託」ルートについては、原則として取適法における役務提供委託という別のルールが適用され、受託事業者が保護されます。
物流特殊指定のルール(告示)の条文では、取適法の「役務提供委託」に該当する取引は除く、と規定されています(後述の備考第1項括弧書きを参照)。つまり、物流特殊指定は自らのルールブックの中で、”再委託の取引は取適法にお任せします”と宣言し、自らの適用対象から除外しているのです。
このように、荷主からの直接委託は物流特殊指定、物流事業者間の再委託は取適法(役務提供委託)というように、2つのルールが重なって二重規制になることを防ぎつつ、いわばリレー形式で規制のバトンタッチを行い、物流業界全体をカバーする仕組みになっています。
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取適法解説|どう違う?物流規制の3本柱「特定運送委託」「役務提供委託」「物流特殊指定(独禁法)」の棲み分けを横断解説
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物流特殊指定の適用要件
取引の内容:「物品の運送・保管」の「継続的」な委託
まず、どのような取引内容が物流特殊指定の対象になるのかを見ていきましょう。
- 委託する業務内容:物品の運送または保管(倉庫など)の委託が対象です
- 委託の頻度:継続的に委託していることが条件となります
そのほか、「保管」が含まれる点なども取適法の「特定運送委託」との違いになりますが、詳しくは前述の関連記事をご参照ください。
事業者の規模:資本金と力関係のルール
物流特殊指定は、立場の強い荷主(特定荷主)が、立場の弱い物流事業者(特定物流事業者)に対して不当な行為をすることを防ぐルールです。そのため、発注側と受注側が以下のパターンa〜cのいずれかに該当する場合に適用されます。
取適法の資本金基準でいうと、いわゆる3億円基準のグループに、実質基準が加わった内容です
ここまでの内容について、条文でも確認してみます。
▽物流特殊指定 備考第1項(※【 】は管理人注)
1 この告示において「特定荷主」とは、次の各号のいずれかに該当する事業者をいう(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和三十一年法律第百二十号)【=取適法】第二条第四項に規定する役務提供委託に該当する場合を除く。)。
一 資本金の額又は出資の総額が三億円を超える事業者であって、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の事業者に対し物品の運送又は保管を委託するもの
二 資本金の額又は出資の総額が千万円を超え三億円以下の事業者であって、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の事業者に対し物品の運送又は保管を委託するもの
三 前二号に掲げるもののほか、物品の運送又は保管を委託する事業者であって、受託する事業者に対し取引上優越した地位にあるもの
▽物流特殊指定 備考第2項
2 この告示において「特定物流事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する事業者をいう。
一 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下(資本金の額又は出資の総額が三億円を超える事業者の子会社を除く。)の事業者であって、前項第一号に規定する特定荷主から継続的に物品の運送又は保管を受託するもの
二 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下(資本金の額又は出資の総額が千万円を超える事業者の子会社を除く。)の事業者であって、前項第二号に規定する特定荷主から継続的に物品の運送又は保管を受託するもの
三 前二号に掲げるもののほか、前項第三号に規定する特定荷主から継続的に物品の運送又は保管を受託する事業者であって、当該特定荷主に対し取引上の地位が劣っているもの
規制逃れは許さない!「みなし規定」(物流子会社のケース)
大企業の荷主が、「直接下請けに出すと物流特殊指定の対象になってしまうから、一旦自社の物流子会社に発注して、そこから下請けに再委託させよう」と考えたとします。
これを防ぐために用意されているのがみなし規定です。事業者が自社の子会社に継続的に運送・保管を委託し、その子会社が下請けの事業者に再委託する場合、もし大元の荷主本人が直接その下請けに委託していたら上記のパターンa〜cの条件に当てはまるのであれば、その子会社と下請けの間の取引に物流特殊指定が適用されます。
この場合、法適用上は「子会社」を特定荷主、「再委託先の下請け」を特定物流事業者とみなして規制が行われます。
▽物流特殊指定 備考第3項
3 事業者がその子会社に対し継続的に物品の運送又は保管を委託し、子会社がその運送委託に係る運送の行為又はその保管委託に係る保管の行為について再委託をする場合において、再委託を受ける事業者が、運送又は保管を委託する当該事業者から直接運送委託又は保管委託を受けるものとすれば前項各号のいずれかに該当することとなる事業者であるときは、この告示の適用については、再委託をする事業者は特定荷主と、再委託を受ける事業者は特定物流事業者とみなす。
ただし、この子会社と下請けの再委託取引が、そもそも取適法の対象になる場合は、取適法が優先して適用されます(物流特殊指定ガイドブック4頁参照)。
先ほど、物流特殊指定は、”再委託の取引は取適法(役務提供委託)にお任せします”と宣言しているという話をしましたが、このみなし規定についても同様ということです(前述の備考第1項括弧書きを参照)
結び
物流特殊指定の適用要件をまとめると、以下の2ステップで判断できます。
- 「物品の運送」または「保管」を「継続的」に委託しているか?
- 「資本金の格差(3億円、1000万円の壁)」、または「実質的な優越関係」があるか?
物流特殊指定の適用があると、立場の強い荷主による不当な経済上の利益の提供要請(無償の荷役作業など)や、不当な給付内容の変更・やり直しなどの禁止行為が取り締まられるようになります。自社が「特定荷主」としての義務を負うのか、あるいは「特定物流事業者」として保護されるのか、この要件をもとにしっかりと確認しておきましょう。
次の記事では、物流特殊指定が適用される効果(9つの禁止行為)についてくわしく解説しています。
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等
主要法令等
- 独占禁止法(「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」)
- 物流特殊指定(「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」)〔令和8年1月1日施行版〕
- 物流特殊指定〔令和9年4月1日施行版〕
- 令和8年6月17日パブコメ(改正物流特殊指定・製造委託等特殊指定・改正優越ガイドライン等の意見公募手続における意見の概要及びそれに対する考え方)|e-Govパブリックコメント(≫掲載ページ)
参考資料
- 物流特殊指定ガイドブック(「物流特殊指定 ~知っておきたい『物流分野の取引ルール』~」)|公取委HP(≫掲載ページ)