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M&A法務|法定の競業避止義務(事業譲渡等の場合)

今回は、M&A法務ということで、法定の競業避止義務について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

事業譲渡と競業避止義務(会社法21条)

法定の競業避止義務(つまり、何の合意もしていない場合であっても法律に基づいて当然に発生する競業避止義務)にはいくつかのものがありますが、M&Aとの関係でいうと、事業譲渡の場合に明文があります。会社法21条です。

会社法では、事業譲渡に関して、

  • 第1編第4章 事業の譲渡をした場合の競業の禁止等(21条~24条)
  • 第2編第7章 事業の譲渡等(467条~470条)

というふうに、第1編(総則)に関係者の利害調整に関する規定を、第2編(株式会社)に手続に関する規定を置いています

法21条が法定の競業避止義務を定めているのは、譲渡会社が事業譲渡後も同種の事業を行うことは事業譲渡の実効性を損なうと考えられるためです。

競業避止義務の内容(1項)

競業避止義務の内容は、1項に定められています。

▽会社法21条1項

(譲渡会社の競業の禁止)
第二十一条
 事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から二十年間は、同一の事業を行ってはならない

1項は、「当事者の別段の意思表示がない限り」とされているように任意規定であり、特約により、1項に定められている競業禁止の内容を拡大することも縮小することもできます。競業避止義務自体を排除することもできます。

競業禁止の場所的範囲は、

  • 同一市町村の区域内
  • これに隣接する市町村の区域内

とされています。

同一市町村の区域内とは、事業譲渡において譲渡対象となった本店・支店が所在する市町村をいうとされています(=譲渡対象となる営業所(本店・支店)の所在地が基準となるということ)。

例えば、事業の全部譲渡で本店がA市(支店なし)の場合は、A市の区域内とA市に隣接する市町村の区域内が競業禁止の範囲となり、事業の一部譲渡(B市に支店があってB市の支店の事業を譲渡する)の場合は、B市の区域内とB市に隣接する市町村の区域内が競業禁止の範囲となる、ということです。

現代の事業活動の範囲はもっと広範囲に及ぶこと(特にインターネットビジネス)を考えると、この場所的範囲の決め方は実態に沿うとは言い難くなっていると考えられており、M&A契約においては、特約により個別の案件ごとに調整を行う必要があります

競業禁止の時間的範囲は、事業を譲渡した日から20年間とされています。

特約による拡大の限界(2項)

 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。

特約で単に譲渡会社が競業を行わない旨を定めた場合には、競業禁止の期間は2項により30年となります。

2項は、特約によって1項の競業禁止の範囲を拡大するとしても、30年を超えて競業を禁止することはできないとしたものです(譲渡会社の事業活動の自由を制限しすぎないようにという趣旨)。

これに対して、場所的範囲の拡大に関しては制限がありません(会社法制定前の商法の時代には都道府県単位までという制限があったが、廃止された)

特約で30年を超える競業禁止期間を定めた場合は、解釈上の論点になりますが、特約全部が無効となるのではなく、30年の範囲で効力を有すると解すべきとされています。

不正の競争の目的による競業の禁止(3項)

 前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない

3項は、競業禁止に抵触しないとしても(法定の競業禁止でも、特約によりカスタムされた競業禁止でも、特約で競業禁止自体が排除された場合でも同様)、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならないとしたもので、強行規定と解されています。

会社分割と競業避止義務

法的構成は異なるものの(事業譲渡は特定承継/会社分割は包括承継)、会社分割の対象となるのは基本的に分割会社の事業であることから、会社分割においても事業譲渡に関する競業避止義務の規定が類推適用されるという見解もあります(※会社分割自体には、競業避止義務に関する規定はない)。

そのため、会社分割の場合も、分割会社が競業避止義務を負わないようにするためには、吸収分割契約書または新設分割計画書にその旨の規定を設けるべきとされています。

これは実際にも、念のためそのように記載しておくことが通常のように思います(管理人の個人的経験)

結び

今回は、M&A法務ということで、法定の競業避止義務について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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