今回は、法令用語を勉強しようということで、「及び」「並びに」と「又は」「若しくは」の意味を取り上げてみたいと思います。
法令用語というのは、法令をつくるときに、慣習的な用語法に従って用いられる用語のことです(日常用語とは異なる独特の意味がある)。当ブログでは、法令用語のうち、契約書などを読み書きするときにも役立ちそうなものをピックアップしています。
「及び」「並びに」(andの意味)と、「又は」「若しくは」(orの意味)は、だいたいどんな解説でも、最初の方の話は日常感覚でわかりますが、話が進むにつれて意外とよくわからなくなっていくところです。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
「及び」「並びに」
「及び」「並びに」は、andの意味で使われる接続詞です。
もう少しきちんとした言葉でいうと、併合的接続詞、と説明されているものがあります。(林修三「法令用語の常識」〔第3版〕(以下「前掲・林修三」)9頁)
”AもBも”、という意味ですね。
基本形
まず一番わかりやすい例からいくと、
A and B
と記述したいときは、
A及びB
と書きます。
この基本形のときに、「並びに」とは書きません。
長く続くときは最後にだけつける
次に、たくさん続くとき(3つ以上続くとき)は、最後にだけつけます。つまり、
A and B and C and D and E
と記述したいときは、(英語でもこうは書かないでしょうが、説明のため)
A、B、C、D及びE
と書きます。(A及びB及びC及びD及びE、とは書かない)
接続が二段階になる場合
接続に段階があるときは、大きい接続の方には「並びに」を、小さい接続の方には「及び」を使います。
例えば、「A and B and C」というグループがまずあって、このグループとDを対置する場合は、
A、B及びC並びにD
と書きます。
概念的に、A、B、C、Dが一列に並ぶ関係にない、ということです。
接続が三段階以上になる場合
接続が三段階以上になる場合は、一番小さい接続に「及び」を使い、それより大きい接続には全て「並びに」を使います。
そのため、複数ある「並びに」のなかで、どれが大きい接続で、どれが小さい接続なのかは、内容から判断するほかないです。
ちなみに、接続が三段階の場合、「並びに」のなかで大きい方の接続は「大並び(おおならび)」、小さい方の接続は「子並び(こならび)」と呼ばれるようです。(長野秀幸「法令読解の基礎知識」29頁)
ただ、「並びに」が複数出てくるパターンというのは、実際に普段見るような条文のなかには、ほとんどないように思います。(附則にはたくさんある)
「又は」「若しくは」
「又は」「若しくは」は、orの意味で使われる接続詞です。
もう少しきちんとした言葉でいうと、選択的接続詞、と説明されているものがあります。(前掲・林修三8頁)
”AかBか”、という意味ですね。
以下、話を続けますが、基本的には、「及び」「並びに」の話とパラレルです。
基本形
AorB
と記述したいときは、
A又はB
と書きます。
この基本形のときに、「若しくは」とは書きません。
長く続くときは最後にだけつける
次に、たくさん続くとき(3つ以上続くとき)は、最後にだけつけます。つまり、
A or B or C or D or E
と記述したいときは、(英語でもこうは書かないでしょうが、説明のため)
A、B、C、D又はE
と書きます。(A又はB又はC又はD又はE、とは書かない)
接続が二段階になる場合
接続に段階があるときは、大きい方の接続には「又は」を、小さい方の接続には「若しくは」を使います。
例えば、「A or B or C」というグループがまずあって、このグループとDを対置する場合は、
A、B若しくはC又はD
と書きます。
接続が三段階以上になる場合
接続が三段階以上になる場合は、一番大きい接続に「又は」を使い、それより小さい接続には全て「若しくは」を使います。
そのため、複数ある「若しくは」のなかで、どれが大きい接続で、どれが小さい接続なのかは、内容から判断するほかないです。
ちなみに、接続が三段階の場合、「若しくは」のなかで大きい方の接続は「大若し(おおもし)」、小さい方の接続は「子若し(こもし)」と呼ばれるようです。(長野秀幸「法令読解の基礎知識」27頁)
実際問題として、このパターンはそこそこあるので、結局、ある程度内容がわかっていないとわからない(法文を読むだけではわからない)、という感じになります。
試しに読み解いてみるー商標法37条1号を例に
試しに、接続詞が続いていて管理人が読みづらいと思った条文を読んでみます(管理人の個人的感覚)。
物の本では、わかりやすい例を引っ張ってきてくれている反面、あまり実際に使うことのない法令の条文が引き合いに出されていることが多いので、ここでは、一般法務においても実際に重要な条文を引っ張ってみます。商標法37条1号です。
▽商標法37条1号
(侵害とみなす行為)
第三十七条 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
この1号の部分って、最初に読んだとき、「んん?何て?( ,,`・ω・´)ンンン?」ってなりませんか?(管理人はなった)
商標法においては、ものすごい重要条文なんですけど。そこで、これを例にして練習してみたいと思います。
①最初にする作業ー「又は」の前後で大きく分ける
接続詞の部分をアンダーラインで浮き立たせてみます。
指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
「又は」は、ひとつしかありません(一番大きい接続)。まずそこで、前半と後半に大きく区切ってみます。
指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用【前半部分】
又は
指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用【後半部分】
これで若干見やすくなります。
②次にする作業ー「若しくは」の接続を考える
次に、後半部分のうち、複数ある「若しくは」に関して、接続に大小があるのかどうか(あるなら、どれが大きい接続なのか)を考えます。
この例では、「これ」が指すものをどう考えるかにもよりそうな気がしますが、「登録商標」を指していると考えると、接続に大小はないことになるかと思います。
つまり、
指定商品 | に類似する | 商品 | についての | 登録商標 | の使用 |
若しくは | 若しくは | 若しくは | |||
指定役務 | 役務 | これ【=登録商標】に類似する商標 |
というイメージですね。
③もう一つの読むコツー対句の構造を利用する
この例に関していえば、もう一つ、読むコツがあります。それは対句です。
この条文は対句の構造になっていて、それを利用して読んでみると、
[ホニャララ] についての [ヘニャララ] の使用【前半部分】
又は
[ホニャララ] についての [ヘニャララ] の使用【後半部分】
という風になっています。
つまり、代入すると、
[指定商品若しくは指定役務] についての [登録商標に類似する商標] の使用【前半部分】
又は
[指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務] についての [登録商標若しくはこれに類似する商標] の使用【後半部分】
という風になっているわけです。
結局どういう意味なのか
結局、意味(内容)も頭に入れていないと、複数ある「若しくは」がどうなっているのかはよくわからないわけで、こういう読み方ができるのも、あらかじめ内容をある程度頭に入れているからですが。じゃあなんのために法文があんねん、って感じですけど。
読んだら意味がわかる、というのが本筋のはずですが、意味があらかじめわかっていてようやく読める、というのが多いのも、仕方のない事実かと思います。
ちなみに、意味はこういうことです。
商標権(マークを独占使用する権利)は、商標登録の際に、マークそのものだけでなく、そのマークを使用する商品・役務の範囲も一緒に指定します。
(「指定商品・指定役務」という。つまり、商標登録したからといって、あらゆる商品・役務においてそのマークの使用を独占できるわけではないということ)
商標権侵害は、他者が、登録されたマークと同一のマークを使用し、かつ、その使用が、指定商品・指定役務と同一の商品・役務でなされた場合に、侵害となるのが原則です(下表の緑色の部分)。
しかし、これでは狭すぎるので、マークについても、商品・役務についても、類似の範囲まで、侵害を認める範囲が拡張されています。これを示しているのが、上記で例に出した、商標法37条1号です(下表のオレンジ色の部分)。
【商標権の効力範囲】
登録商標との比較 | |||
同一の商標 | 類似する商標 | ||
指定商品・指定役務との比較 | 同一の商品・役務 | 別の条文 | 商標法37条1号 (前半部分) |
類似する商標・役務 | 商標法37条1号 (後半部分) | 商標法37条1号 (後半部分) |
それで、先ほど「又は」で区切った前半部分は、”指定商品・指定役務と同一の商品・役務”について使用された場合について取り上げていて、後半部分は、”指定商品・指定役務と類似の商品・役務”について使用された場合について取り上げていた、というわけですね。
こんなん、あらかじめ内容わかってないとそんな風に読めんやろ、という感じがしますが。まあしょうがないのかなと。
意外とわからない問題ー「AもBも」は「及び」なのか「又は」なのか
最後に、意外とわからない問題は、「AもBも」は「及び」なのか「又は」なのか、迷う場面がよくあるということです。
例① 甲(及び/又は)乙は、契約を解除することができる
例えば、契約書で、”甲も乙も、相手方が契約に違反したときは、契約を解除することができる”と書きたいときに、最初の書き出しの部分は、
甲及び乙は、相手方が本契約に違反したときは、本契約を解除することができる。
甲又は乙は、相手方が本契約に違反したときは、本契約を解除することができる。
のどちらと記述すべきなのか、ということです。
”甲も乙も”という意味だから、素直に「甲及び乙は」でいいんじゃないの、という気もします。
一方、
- 「and/or」の意味だと考えると(Aだけが解除しようとするときもあるし、Bだけが解除しようとするときもあるし、AもBも解除しようとするときもある)、「又は」の方が良いのでは?という気もするし
- 両者とも解除を主張しているとしても、片方の解除が有効と認められれば、その後にもう片方がした解除は無意味のはずだから、AもBも解除するときというのは法的には存在しない。つまり、Aだけが解除するか、Bだけが解除するしかないはずだ。とすれば、「又は」の方がむしろしっくりくるのでは?
など、考え方によっては、「又は」でも良いような気がします。
ちなみに、「and/or」の意味のときは、原則として、「又は」を使うことになっています。(前掲・林修三11頁参照)
個人的経験では、実際の契約書ではどちらの表現も見かけるし、どちらでも間違っていないと思います(どちらでも内容はわかる)。
物の本では、以下のように、AとBを抽象的・包括的にとらえようとする場合は「及び」を使用する旨が書かれたものがあります。「甲も乙も、解除することができる」も以下の例に近いので、この用例に従うならば、「甲及び乙は」がよいのかなという気がします。
…次に、AもBも、Cのことをしてはならない、という場合に、「A及びB」と書くか、「A又はB」と書くか、という問題がある。この場合は結局語感によって決めるほかないが、AとBとを抽象的、包括的にとらえようとする場合は、「A又はBは、Cのことをしてはならない」とはせずに、「A及びBは、Cのことをしてはならない」というようにする方の例が多い。…
前掲・林修三11頁
ただ、上記の例のなかで出てくるのは「国及び地方公共団体」だったりしますので、解除の例とは若干イメージが違うかもしれません。結局語感によって決めるほかない、というのが大前提です。
例② リンゴ、みかん(及び/若しくは)バナナ(並びに/又は)自動車?
もうひとつ例として、”太郎も次郎も、それぞれが持っているりんごもみかんもバナナも自動車も、どれも捨ててはいけない”と書きたいときに、
太郎及び次郎は、各自が有するリンゴ、みかん及びバナナ並びに自動車を捨ててはならない。
太郎及び次郎は、各自が有するリンゴ、みかん若しくはバナナ又は自動車を捨ててはならない。
のどちらで記述すべきか、を考えてみます。
この場合は、”りんごもみかんもバナナも自動車も”という意味だから、素直に「リンゴ、みかん及びバナナ並びに自動車」でいいんじゃないの、とはしない方がよいように思います。
こう書くと、全部一括して捨てる場合のみが禁止されているようにも読めるからです。
実際には、リンゴを捨ててもダメだし、みかんを捨ててもダメだし、リンゴとみかんを捨ててもダメだし、リンゴとみかんとバナナと自動車を捨ててもダメだしetc…という、「and/or」の意味なので、「リンゴ、みかん若しくはバナナ又は自動車」と記述するのが適切と思われます。
それだと逆に、複数捨てる場合が漏れてしまうように読めてしまわないか?という疑問もありますが、「and/or」の意味でも「又は」が使用されるという通常の用例からすると、誤読のリスクは相対的に低いと思われます。
ここがなにかクリティカルに重要な部分になっていて、絶対を期したい場合は、他の表現にしたり、足したりするしかないだろうと思います。
「各自が有するリンゴ、みかん及びバナナ並びに自動車のうち、これらの一部又は全部を捨ててはならない」とか、「疑義を避けるため付言すると、これらのうちいずれか一つ、若しくは複数、又は全部を捨てることの、いずれもしてはならない」と足すとかですかね。
ちなみに、最初の書き出しの部分も、「太郎及び次郎」なのか「太郎又は次郎」なのかという問題もありますが、”AもBも、CあるいはDのことをしてはならない”というたすきがけになっている場合、主語の部分は原則として「A及びB」とした方が適当との解説もあったりしますので(前掲・林修三11頁)、「太郎及び次郎」にしています。
先ほどの解除の例も、実際の契約書では、「甲及び乙」の方が多いかなという感じですが、それは、続く部分で”次の各号に定める解除事由のいずれかに該当するときは解除することができる”、という風になっているのを、一種のたすきがけと考えて、「及び」にしているのかもしれません(そんなこと考えていないように思いますが)。
結局のところ
ただ、結局は、語感と、ケース・バイ・ケースの内容とを合わせて考えるほかはない旨が、物の本には書かれています(前掲・林修三12頁)。
契約解釈においても、意味内容とかみ合わせて考えると思われますので、どちらかと書いたかで変な事故が起こるとか、過度な心配はしなくてよいと思います。
結び
今回は、法令用語を勉強しようということで、「及び」「並びに」と「又は」「若しくは」という、接続詞を取り上げてみました。
「及び」「並びに」と、「又は」「若しくは」は、内容的にだいたいパラレルになってるんですけど、微妙に逆になっている場合もあるのが、若干めんどくさい感じですよね。
- 接続に段階があるとき、大きい接続にくるのは、
- 「並びに」(こっちは基本形でない方)
- 「又は」(こっちは基本形の方)
- 接続が三段階以上になる場合に、くり返されるのは、
- 「並びに」(こっちは大きい接続がくり返される)
- 「若しくは」(こっちは小さい接続がくり返される)
とかは、一応気に留めておいた方がいいかもしれません。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
参考文献
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています