開示制度

開示制度|適時開示の仕組み(全体像)

今回は、開示制度ということで、適時開示(取引所規則に基づく開示)の仕組みについて見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

適時開示の仕組み(全体像)

適時開示は、取引所規則に基づく情報開示のことで、

  • 決定事実に関する開示
  • 発生事実に関する開示
  • 決算情報に関する開示

という3つの種類があります。

①は重要事実を決定した場合、②は重要事実が発生した場合、③決算の内容が定まった場合に、それぞれ適時開示を行う必要があります。

適時開示の根拠規定は、取引所規則のなかの「有価証券上場規程」(とその施行規則)であり、大まかな全体像は以下のようになります。

【適時開示の全体像】

開示事項の種類 根拠規定
Ⅰ.決定事実に関する開示 上場規程402条(子会社における決定事実につき403条)
Ⅱ.発生事実に関する開示 上場規程402条(子会社における発生事実につき403条)
Ⅲ.決算情報に関する開示 決算短信 上場規程404条
四半期決算短信 上場規程404条
業績予想の修正等に関する開示 上場規程405条1項(子会社における業績予想の修正等につき3項)
配当予想の修正等に関する開示 上場規程405条2項

ハードローとソフトロー

 「法定開示」が、金融商品取引取引法という法令に基づく開示であるのに対して、「適時開示」は、取引所規則に基づく開示になります。

 別の言い方をすると、法定開示は、法による強制力が背景にあるいわゆるハードローであるのに対して、適時開示は、法による強制力はないいわゆるソフトローになります(もちろん、取引所規則に基づく制裁はあります)。

このように適時開示は取引所規則に基づく開示であり、東証が運営するTDnetTimely Disclosure network:「適時開示情報伝達システム」)を利用して行われます。

▽参考リンク
TDnetの概要|日本取引所グループHP
(用語集)TDnet(てぃーでぃーねっと)|日本取引所グループHP

法定開示との比較

適時開示は、流通市場(secondary market)における情報開示なので、開示の時期による分類としては、継続開示に属します。

法定開示にも継続開示がありますので、開示項目には重なる部分もあることになります。

ざっくりいえば、

  • 適時開示のうち「決定事実に関する開示」と「発生事実に関する開示」は、法定開示のうち随時の開示臨時報告書)と、
  • 適時開示のうち「決算情報に関する開示」は、法定開示のうち定期的な開示有価証券報告書半期報告書)と、

それぞれ重なる部分が多いといえます(▷法定開示についての参考記事はこちら)。

では違いは?というと、基本的な性格の違いとしては、法定開示が内容の確実性や正確性を重視するものであるのに対し、適時開示は適時性を重視するものになっているといえます。

いくつかの相違点をざっと比べてみると、以下のようになります。

相違点法定開示適時開示
基本的な性格確実性や正確性を重視適時性を重視
財務諸表の作成基準統一的な会計基準が法定されている会計基準は必ずしも統一的ではない
財務諸表の保証手続監査証明が義務づけられている監査証明は必ずしも義務づけられていない
虚偽記載等に対する責任金商法に基づく罰則、課徴金、民事責任の規定の適用がある金商法の適用はない
開示の即時性有価証券報告書の提出期限は期末後3か月以内決算短信の期限は期末後45日以内が適当(望ましいのは30日以内)

インサイダー取引規制との関係

適時開示は、インサイダー取引規制とも深い関連があります。

インサイダー取引規制とは、上場会社等に関する重要事実(いわゆるインサイダー情報)を知っている関係者は、その重要事実が公表されるまでは、その会社の有価証券の取引を行ってはならないというものです(金商法166条。なお公開買付け事実については167条)。

▽金商法166条1項(※「…」は管理人が適宜省略)

(会社関係者の禁止行為)
第百六十六条
 次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(…(略)…。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け合併若しくは分割による承継…又はデリバティブ取引…をしてはならない。…(略)…。
一~五 (略)

裏からいえば、「公表がされた」がインサイダー取引規制解除のトリガーとなっているわけですが、適時開示による開示はここでいう公表に該当します。

つまり、公表には、以下のように、①多数の者の知り得る状態に置く措置(「公表措置」と呼ばれる)と、②法定開示書類の公衆縦覧がありますが(金商法166条4項)、①の措置として、重要事実がTDnetに送信され適時開示情報閲覧サービスに掲載されることが定められています(金商法施行令30条1項2号~5号)。

▽金商法166条4項

 第一項、第二項第一号、第三号、第五号、第七号、第九号、第十一号及び第十二号並びに前項の公表がされたとは、次の各号に掲げる事項について、それぞれ当該各号に定める者により多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこと又は当該各号に定める者が提出した第二十五条第一項(第二十七条において準用する場合を含む。)に規定する書類(同項第九号に掲げる書類を除く。)にこれらの事項が記載されている場合において、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されたことをいう。
 上場会社等に係る第一項に規定する業務等に関する重要事実であつて第二項第一号から第八号までに規定するもの、上場会社等(上場投資法人等を除く。以下この号において同じ。)の業務執行を決定する機関の決定、上場会社等の売上高等若しくは同項第一号トに規定する配当、上場会社等の属する企業集団の売上高等、上場会社等の子会社の業務執行を決定する機関の決定又は上場会社等の子会社の売上高等  当該上場会社等又は当該上場会社等の子会社(子会社については、当該子会社の第一項に規定する業務等に関する重要事実、当該子会社の業務執行を決定する機関の決定又は当該子会社の売上高等に限る。)
 (略)

▽金商法施行令30条1項2号

(公表措置)
第三十条
 法第百六十六条第四項又は第百六十七条第四項に規定する多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこととは、次の各号に掲げる措置のいずれかがとられたこととする。
 法第百六十三条第一項に規定する上場会社等の発行する有価証券を上場する各金融商品取引所(…(略)…。)の規則で定めるところにより、当該上場会社等又は当該上場会社等の資産運用会社が、重要事実等又は公開買付け等事実(…(略)…。)を当該金融商品取引所に通知し、かつ、当該通知された重要事実等又は公開買付け等事実が、内閣府令で定めるところにより、当該金融商品取引所において日本語で公衆の縦覧に供されたこと。

★上記の内閣府令は取引規制府令(「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」)56条であり、七日間以上継続して電子的に公衆縦覧に供することなどが必要とされている

公表措置には、このようにTDnetを通じた適時開示(施行令30条1項2号~5号)のほかに、新聞等報道機関2社以上+12時間ルール(1号)というのもありますが、ここでは割愛します。

適時開示事項は、インサイダー取引規制上の重要事実に該当する情報を含んでいるので、適時開示を適切に行うことは、インサイダー取引が無用に発生することを防ぐことにもつながる、ということです。

▷参考リンク:インサイダー取引の未然防止|日本取引所グループHP

結び

今回は、開示制度ということで、適時開示の仕組み(全体像)について見てみました。

適時開示情報は、TDnetの閲覧サイトである「適時開示情報閲覧サービス」で見ることができます。

▷参考リンク:適時開示情報閲覧サービス

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

主要法令等

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【金商法に基づく開示(法定開示)】

【取引所規則に基づく開示(適時開示)】

  • 上場規程(「有価証券上場規程」(東京証券取引所))
  • 上場規則(「有価証券上場規程施行規則」(東京証券取引所))
  • 実務要領(「適時開示に関する実務要領」)
  • 作成要領(「決算短信作成要領・四半期決算短信作成要領」)

【会社法に基づく開示】

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