今回は、公益通報者保護法ということで、事業者がとるべき措置等のうち通報体制を実効的に機能させるための措置(実績開示と周知・教育など)について見てみたいと思います。
本記事は、通報制度を組織内で継続的に機能させ続けるための要となる、運用実績の把握・点検・開示(PDCAサイクル)、対象者拡大を踏まえた周知・教育、および内部規程の策定・運用(法定指針第4の3-⑵〜⑹関係)について、詳しく解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
運用実績の把握・点検と開示による信頼向上(法定指針 第4-3-⑵関係)
通報制度を形骸化させないために、運用の記録を適切に管理し、定期的な点検を通じて改善を重ねるPDCAサイクルを回すこと、そしてその成果を組織内に示すことが義務付けられています。
対応記録の作成と適切な保管
事業者は、内部公益通報への対応に関する記録を作成し、適切な期間保管しなければなりません。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-3-⑵-イ
⑵ 記録の保管、見直し・改善及び運用実績の労働者等、特定受託業務従事者及び役員への開示に関する措置
イ 内部公益通報への対応に関する記録を作成し、適切な期間保管する。
記録の保管期間とは、個別案件の処理や点検サイクルの必要性、関連法令の要件などを総合的に考慮して、各事業者において定める期間です。また、記録には通報者を特定させる事項などの機微な情報が含まれるため、文書記録の閲覧制限や電子データへのアクセス権限設定(人事異動に伴う権限解除の徹底を含む)など、厳重な管理措置を講じることが求められます(指針解説参照)。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q50
内部公益通報への対応に関する記録を保管する「適切な期間」(指針第4の3⑵イ)とはどの程度の期間を指しますか。
記録を保管する適切な期間とは、個々の事業者が、見直し・改善や評価・点検のサイクル、内部監査・外部監査・業所管省庁等の検査・監督上の要請、個別案件処理に当たっての必要性、労働関連法令や自らの事業に関する法令等を総合的に検討した上で、適切と判断する期間を指します。
定期的な評価・点検の実施
制度の適切な運用を担保するため、定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて体制の改善を行うことが必要です 。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-3-⑵-ロ
ロ 内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部公益通報対応体制の改善を行う。
指針解説では、評価・点検の具体的手法として、
- 労働者等、フリーランス及び役員に対する制度の周知度や信頼度に関するアンケート調査(匿名アンケートを含む)
- 担当従事者間における対応業務の改善点に関する意見交換
- 内部監査や中立・公正な外部専門家による整備・運用状況及び実績の確認・検証(外部窓口も点検対象に含まれます)
などの取組みが示されています。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q51
「内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検」(指針第4の3⑵ロ)はどのような方法で行えばよいですか。
内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検の方法として、例えば、以下のような方法が考えられます。
- 労働者等、特定受託業務従事者(フリーランス)及び役員に対する内部公益通報対応体制の周知度等についてのアンケート調査(匿名アンケートも考えられる。)
- 担当の従事者間における公益通報対応業務の改善点についての意見交換
- 内部監査及び中立・公正な外部の専門家等による公益通報対応業務の改善点等(整備・運用の状況・実績、周知・研修の効果、労働者等、特定受託業務従事者(フリーランス)及び役員の制度への信頼度、指針に準拠していない事項がある場合にはその理由、今後の課題等)の確認
運用実績の開示と信頼感の醸成
通報制度が機能していることを示すため、事業者は、内部通報窓口に「年間何件の通報があり、そのうち何件を調査し、何件で是正措置をとったか」という運用実績の概要を、定期的に労働者や役員、フリーランス等に開示しなければなりません。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-3-⑵-ハ
ハ 内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者等、特定受託業務従事者及び役員に開示する。
開示の目的と内容
実績を隠さずに開示することで、社内に「この窓口はもみ消さずに、ちゃんと動いているんだ」という信頼感と期待感を高めることができます。
開示する運用実績の例としては、
- 過去一定期間における通報件数
- 是正措置の有無
- 対応の概要
- 内部公益通報を行いやすくするための活動状況
といった事項が挙げられます 。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q52
「内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要」の開示(指針第4の3⑵ハ)は、どのような内容が考えられますか。
内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績としては、例えば、以下のようなものが考えられます。
- 過去一定期間における通報件数
- 是正の有無
- 対応の概要
- 内部公益通報を行いやすくするための活動状況
なお、開示の内容・方法を検討する際には、公益通報者を特定させる事態が生じないよ
う十分に留意する必要があります。
開示の方法と配慮
運用実績の開示は、利害関係人のプライバシーや秘密保持に支障がない範囲とされています。
開示にあたっては、公益通報とそれ以外の通報を厳密に区別して集計する必要はありません。また、通報者のプライバシーや企業の営業秘密を侵害しないよう、件数や「ハラスメント関連〇件、業務違反〇件」といった大まかなカテゴリ、あるいは抽象化した是正結果(例:不適切な経費処理について内規を改定した等)の開示で足ります。
さらに、推奨事項として、運用実績の概要や評価・点検の結果をCSR報告書や自社ウェブサイト等で対外的に公表することは、ステークホルダーに対して透明性の高いガバナンス体制をアピールする有効な手法とされています。
(※注)令和2年改正(令和4年6月施行)版です
通報体制の周知・啓発および質問・相談対応(法定指針 第4-3-⑶・⑷関係)
令和7年改正法では、事業者が整備した対応体制について、労働者等に対する周知義務が法律上明記されました(法11条第2項)。
体制の整備義務と並んで、周知義務が、事業者のとるべき措置の例示として挙げられています。
▽公通法11条2項・3項
2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一項第一号及び第六条第一項第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者等に対するその周知その他の必要な措置をとらなければならない。
3 常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。
これに伴い、指針においても、周知・啓発の対象や内容が具体化されています 。
周知・啓発の対象者
周知・啓発を行うべき対象者は、労働者等、役員、退職者(1年以内)、特定受託業務従事者(フリーランス)、特定受託業務従事者であった者(元フリーランス・1年以内)です。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-3-⑶
⑶ 労働者等に対する周知に関する措置等
労働者等、役員、退職者並びに特定受託業務従事者及び特定受託業務従事者であった者に対し、法及び以下の事項(退職者及び特定受託業務従事者であった者については、チを除く。)について周知・啓発を行う。
イ~リ (略)
これはつまり、法の通報主体にあたる者の範囲と同じです(法定指針 第2「用語の説明」における各定義を参照)。
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公益通報者保護法|公益通報の対象者「通報者の範囲」について解説~誰が通報すれば守られるのか?
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周知・啓発の方法
事業者は、社内イントラネットへの掲載、ポスターの掲示、パンフレット等の配布、階層別研修の実施など、多様な媒体を組み合わせて周知を行います。
▽指針解説〔令和8年3月31日版〕第3-Ⅱ-3-⑶-③<周知・啓発の方法>
● 周知・啓発を行う際には、例えば、以下のような実効的な方法等を各事業者の創意工夫により検討し、実行することが求められる。
➢ その内容を労働者等及び役員の立場・経験年数等に応じて用意する(階層別研修、理解度テスト等)
➢ 周知のツールに多様な媒体を用いる(イントラネット、社用 PC のスクリーンセーバー、社内研修、携行カード・広報物の配布、ポスターの掲示、外部専門家を活用した動画等)
➢ 内部公益通報対応体制の内容、具体例を用いた通報対象の説明、公益通報者保護の仕組み、その他内部公益通報受付窓口への相談が想定される質問事項等をFAQにまとめ、イントラネットへの掲載やガイドブックの作成を行う
● 組織の長その他幹部に対しても、例えば、内部公益通報対応体制の内部統制システムにおける位置付け、リスク情報の早期把握がリスク管理に資する点等について周知・啓発することが求められる。
また、退職者やフリーランスに対しては、自社ウェブサイトへの掲載や契約書面への窓口記載など、対象者の属性に応じた方法により、周知・啓発を行います。
退職者への周知方法
在職中の従業員だけでなく、退職者に対しても、在職中に、退職後や契約終了後も通報が可能である旨を周知・啓発することが必要です 。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q57
退職者に対する周知・啓発の方法はどのようなものが考えられますか。
退職者に対する周知・啓発の方法として、例えば、在職中に、退職後も公益通報ができることを周知・啓発することやインターネット上の自社ウェブサイトに記載すること等が考えられます。
フリーランスへの周知方法
事業者が自社の全従業員に対して行うような直接的な研修や教育を、取引先の労働者やフリーランスにまで直接施すことは現実的に困難です。そのため、業務委託契約書面やメールへの窓口連絡先の記載、あるいは誰でも閲覧できる自社ウェブサイトへの掲載といった、実情に応じた方法で周知を行えば足りるとされています。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕フリーランスQ12
特定受託業務従事者(フリーランス)やフリーランスであった者への周知方法はどのようなものがあるのですか。
特定受託業務従事者(フリーランス)に対する周知・啓発の方法として、例えば、業務委託契約に係る書面やメール等に公益通報受付窓口の連絡先等を記載することや、特定受託業務従事者(フリーランス)が定期的に閲覧するイントラネット等において公益通報受付窓口の連絡先等を記載すること等が考えられます。
また、フリーランスであった者に対する周知・啓発の方法として、例えば、業務委託期間中に、業務委託契約終了後も公益通報ができることを周知・啓発すること等が考えられます。
退職者にせよ、元フリーランスにせよ、要するに、法律上の保護対象が1年以内と決まっているため、周知対象の定義も1年以内となっていますが、実際の周知作業は、在職中・契約中の事前案内(+自社ウェブへの掲載)で完了する、という仕組みになっています。
施行日時点で既に離職している者への配慮
改正法の施行日時点で既に退職・契約終了している者に対しては、個別連絡等で周知を行うような不可能を強いる趣旨ではないとされています。
もっとも、自社ウェブサイト(インターネット上)への窓口案内の前倒しの掲載や、把握している連絡先への案内など、事業者において可能な範囲で周知を行うことが推奨されています。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q59
退職者及びフリーランスであった者に対する周知について、令和7年改正で周知義務が設けられましたが、令和7年改正の施行日(令和8年12月1日)時点で、退職又は業務委託契約が解除されている場合においても、周知を行うことは必須ですか。
退職者に対する周知・啓発の方法としては、在職中に退職後も公益通報ができることを周知・啓発すること等が考えられ、フリーランスであった者に対する周知・啓発の方法としては、業務委託期間中に業務委託契約終了後も公益通報ができることを周知・啓発すること等が考えられます。
令和7年改正の施行日時点で「在職中」又は「業務委託期間中」ではない場合に、不可能を強いる趣旨ではないものの、施行日よりも前倒しで周知する方法や退職等後も把握している連絡先に連絡を行う等の方法により、事業者において可能な限り周知を行うことが考えられます。
周知・啓発の内容
事業者は、法律の概要+指針で定める周知事項(イ~リの9項目)について、周知・啓発を行わなければなりません (※退職者・元フリーランスに対してはチを除く) 。
- イ:内部公益通報受付窓口の設置に関する事項並びに連絡先及び連絡方法(どこに、どうやって届ければいいか)
- ロ:組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置の内容(幹部の不正でももみ消されない仕組み)
- ハ:公益通報対応業務の実施に関する措置の内容(どうやって調査され、是正されるか)
- ニ:公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置の内容(関係者が調査から外されるルール)
- ホ:不利益な取扱いの防止に関する措置の内容(報復は絶対に許されないこと)
- ヘ:範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置の内容(犯人捜しや口止めに対する厳罰ルール)
- ト:是正措置等の通知に関する措置の内容(通報後に会社からどんなフィードバックが届くか)
- チ:記録の保管、見直し・改善及び運用実績の開示に関する措置の内容
- リ:公益通報に係る通報対象事実についての調査への協力に関する事項(従業員には調査に誠実に協力する義務があること)
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q54
労働者及びフリーランス等に対する周知について、指針第4の3⑶において、「法及び以下の事項」とありますが、「法」についてはどういった点を周知すればよいのですか。
労働者及びフリーランス等、すなわち、労働者・派遣労働者・退職者・役員・特定受託業務従事者(フリーランス)・フリーランスであった者が安心して内部公益通報を行うことができるよう、本法の概要(少なくとも、通報者の保護内容や各通報先、通報先ごとの保護要件等)について周知する必要があります。
なお、事業者において、本法の通報対象事実ではない事実に関する通報も受け付けている場合には、事業者で受け付けている通報が本法の適用範囲と異なっていることも、併せて周知する必要があります。
質問・相談への対応窓口の設置
制度に対する疑問や不利益取扱いに関する不安を解消するため、質問・相談に迅速に対応する仕組みを整える必要があります。この窓口は通報受付窓口と一元化することも、別途設置することも可能です。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-3-⑷
⑷ 労働者等からの質問・相談への対応等に関する措置
労働者等、役員、退職者並びに特定受託業務従事者及び特定受託業務従事者であった者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応する。
従事者教育と内部規程の策定・運用(法定指針 第4-3-⑸・⑹関係)
最後に、通報体制を支える従事者教育と規程整備について確認します。
刑事罰を伴う義務を果たすための従事者教育
公益通報対応業務を担う従事者は、守秘義務違反に対して刑事罰(30万円以下の罰金)が科される立場にあります。
そのため、事業者は従事者に対し、通常の役職員と比較して特に十分かつ実効的な教育を行わなければなりません。具体的には、法第12条の守秘義務の内容や罰則の適用リスクにとどまらず、受付、調査、是正措置などの各局面における実践的な対応スキルについても定期的に研修を実施することが求められます。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-3-⑸
⑸ 従事者に対する教育に関する措置
従事者に対しては、公益通報対応業務の内容及び公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行う。
内部規程の策定と規程に沿った運用
事業者は、指針で求められる事項について内部規程において定め、かつその規程の定めに従って運用する義務を負います。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-3-⑹
⑹ 内部規程の策定及び運用に関する措置
この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する。
規程化を行う目的は、担当者の交代によって対応が変わることを防ぎ、ルールの遵守状態を明確にすることにあります。調査権限などが規程に明記されていなければ、調査対象者が協力を拒否するなど実効的な調査が行えなくなるリスクが生じるため、明確な規程の策定と厳格な運用が不可欠です。
(※注)令和2年改正(令和4年6月施行)版です
結び
通報制度は、一度箱を作って終わりではなく、制度を周知し、運用実績を示して信頼を高め、定期的な点検によって改善を続けることで、初めて本来の自浄作用を発揮します。
規程の改訂にとどまらず、社内周知や従事者教育のプログラムを刷新し、実効的に機能するコンプライアンス体制を完成させていきましょう。
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[注記]
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主要法令等・参考文献
主要法令等
参考資料
- 公益通報ハンドブック〔令和8年12月施行版〕(消費者庁)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 逐条解説(消費者庁)|消費者庁HP
- 裁判例の収集(概要/裁判例一覧/論点整理表)〔2022年度調査〕|消費者庁HP(≫掲載ページ)
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(※)上記は令和2年改正(令和4年6月施行)版です
(※)上記は令和2年改正(令和4年6月施行)版です