公益通報者保護法

公益通報者保護法|従事者の守秘義務と範囲外共有の防止はどう違うのか?

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今回は、公益通報者保護法ということで、「守秘義務」と「範囲外共有の防止」の違いについて見てみたいと思います。

従事者の守秘義務と範囲外共有の防止は、どちらも公益通報者を特定させる情報(特定情報)の漏洩を防ぐための概念ですが、義務の主体、法的性質、違反時のペナルティなどの点で明確な違いがあります。本記事は、両者の相違点を整理して解説します。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。

本記事は令和7年改正法(令和8年12月施行)を基準にしています

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。




両制度の概要

どちらも、通報者を特定させる事項(特定情報)を守る制度ですが、端的にいうと、従事者個人に対する義務か、事業者に対する体制整備義務かという点に根本的な違いがあります。

守秘義務とは

法12条の守秘義務は、事業者から従事者(「公益通報対応業務従事者」)として指定された者及び元従事者が、正当な理由なく、公益通報者を特定させる事項を漏らすことを禁止するものです。

事業者は、次の両方に該当する者を従事者として指定しなければなりません。

  • 公益通報の受付、調査又は是正に関する業務を行う
  • その業務に関して、公益通報者を特定させる事項を伝達される

指定に際しては、守秘義務と罰則の対象になることが本人にわかる方法、例えば書面によって指定する必要があります。

ポイントは、守秘義務は「通報内容のすべて」を当然に罰則付きで秘密にする規定ではないことです。直接の対象は、あくまで「通報者を特定させる事項」(特定情報)です。

ただし、氏名だけでなく、例えば、

  • 所属部署、役職、担当案件
  • 通報者しか知り得ない出来事
  • 通報日時や相談経緯
  • 通報メールの文体・添付資料
  • 複数の情報を組み合わせると通報者を推測できる情報

といった情報も該当し得ます。

これは、属性情報の照合による場合も含む(一般的な属性であっても、他の事項と照合させることにより、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる場合には、特定情報に該当する)とされているからです。

したがって、氏名を伏せていても、「先週この会議に出席した○○部の担当者からの通報」などと説明すれば、守秘義務違反となる可能性があります。

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範囲外共有とは

指針解説によると、範囲外共有は次のように定義されています。

公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為

つまり、会社内部での共有であっても、調査・是正に必要のない人まで知らせれば範囲外共有になり得ます。

例えば、

  • 通報メールを関係のない役員や管理職に一斉転送する
  • 調査に通報者の氏名が不要なのに、氏名入りの資料を調査担当者へ渡す
  • 会議資料に通報者名を記載し、多数の出席者に配布する
  • 通報対応と無関係な同僚に「通報者は○○さんらしい」と話す
  • アクセス権限のない従業員が通報記録を閲覧できる状態にする

といった行為です。

範囲外共有を防止する措置としては、閲覧者・共有者を必要最小限に限定すること、記録の施錠、アクセス権限の明確化、閲覧履歴の記録、固有名詞のマスキングなどが挙げられています。

上記の例のうち「調査担当者」は、通報対応業務の少なくとも一部を担当しているので従事者では?と思うかもしれませんが、調査に関与する者が全員、当然に従事者になるわけではありません(なる場合も、ならない場合もある)。なぜかというと、通報者特定情報を扱うという要件もあるからです。

例えば、コンプライアンス部門が通報者の氏名や通報経路を伏せて、監査部門に、「○○取引について架空発注の有無を調査してください」とだけ依頼する場合などです。この場合、通報者を特定させる事項を伝達されないのであれば、従事者として指定すべき2つの要件の、片方を満たしません。

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まとめ

まとめとして、義務の主体・法的性質・ペナルティの3点から、両者を対比してみます。

  • 義務の主体(誰に対するルールか)
    • 守秘義務従事者個人に対する義務です。事業者から指定された担当者(および従事者であった者)個人が直接の対象となります。
    • 範囲外共有の防止事業者(会社・組織)に対する義務です。組織として情報管理体制を整えるべき会社全体の義務となります。
  • 法的性質と根拠条文
    • 守秘義務(法12条):個人の不法な漏洩行為を直接禁止する刑事罰付きの禁止規定です。正当な理由なく特定情報を漏らすこと自体が違法となります。
    • 範囲外共有の防止(法11条2項、法定指針 第4-2-⑵):事業者が内部公益通報対応体制として講じるべき体制整備義務(防止措置義務)です。情報が不用意に共有されないような社内環境や手続を構築することを求めています。
  • 違反した場合のペナルティ
    • 守秘義務違反:漏洩を行った従事者個人に対して刑事罰(30万円以下の罰金:法22条)が科されます。また、従事者以外の役員や上司が従事者に命じて漏洩させた場合は、その役員・上司にも教唆犯として全く同じ刑事罰が科されます。
    • 範囲外共有の防止措置違反:体制整備義務を怠った事業者(会社)に対して行政措置(報告徴求、指導・勧告、実名公表:法15条、15条の2、16条)がなされます。範囲外共有そのものによって直ちに個人へ刑事罰が及ぶわけではありませんが、会社の法的義務違反となります。

(※注)令和2年改正(令和4年6月施行)版です

典型例での検討:一番大きな違いは「誰の、どのような義務か」

両者の感覚的な違いは、典型例で比べるとわかりやすいかと思います。

例1:「指定された窓口担当者」が無関係な管理職に通報者名を伝えた場合

この場合、正当な理由がなければ、

  • その担当者自身について、法12条の守秘義務違反
  • 事業者について、範囲外共有防止体制が適切だったか

の両方が問題になります。

つまり、守秘義務違反と範囲外共有が重なって問題になり得ます。

例2:「従事者に指定されていない上司」が通報メールを社内に広く転送した場合

この場合、上司は、法12条の「従事者」でなければ、原則として同条の罰則付き守秘義務の直接の対象ではありません

しかし、

  • 行為自体は範囲外共有になり得る
  • 事業者には、上司を含む組織全体で範囲外共有を防ぐ体制が求められる
  • 上司に対しては、就業規則等に基づく懲戒その他の措置が求められる

という関係になります。




両制度の差分は結局どこにあるのか

上記の例でモヤッとしそうなのは、例2の、「従事者に指定されていない上司が、通報メールを社内に広く転送した場合」です。

なぜモヤッとするかというと、転送する前の状態で既に、従事者が守秘義務に違反していることになるのではないか?とも思えるためです(従事者に指定されていない上司に漏らしている)。

これについては、以下のように考えましょう。

① 例2では守秘義務違反が先に成立する場合がある

例えば、従事者である窓口担当者が、通報者の氏名を、調査に関係のない上司へ伝えた場合には、その伝達の時点で、

  • 従事者による守秘義務違反
  • 必要最小限を超えた範囲外共有
  • 事業者の範囲外共有防止体制の不備

が重なって問題になり得ます。

したがって、「情報を受け取った上司も範囲外共有防止の対象にはなる」という例2の説明は、その上司への最初の情報伝達が適法だったことを意味しません。最初の伝達自体が守秘義務違反である可能性があります。

② それでも従事者以外を範囲外共有防止の対象とする意味

もっとも、従事者以外の者が通報者情報を知る経路は、従事者からの違法な漏えいだけではありません。例えば、次のような場合があります。

通報者が上司に直接通報した場合

通報者が、正式な内部通報窓口ではなく直属の上司に直接通報することがあります。

この場合、上司は従事者に指定されていなければ、法12条の守秘義務を直接負うとは限りません。しかし、通報者を特定させる情報を社内に一斉転送すれば、範囲外共有に該当し得ます。

指針解説も、窓口担当者以外の上司等が内部公益通報を受ける場合があり、その者が従事者でなくても、範囲外共有防止体制の対象になるとしています。

必要な範囲で情報共有された場合

調査・是正のため、通報者の特定情報を限定された者に伝えることが真に必要な場合があります。

この場合、従事者からその者への共有は、

  • 範囲外共有については「必要最小限の範囲内」であり
  • 守秘義務との関係でも「正当な理由」がある

と評価される余地があります。

しかし、受け取った者がさらに無関係な者へ広げれば、その二次的な共有が範囲外共有になります。その受領者が従事者でなければ、法12条違反ではないとしても、範囲外共有にはなり得ます。

ただし、その者が公益通報対応業務を担当し、かつ通報者特定情報を伝達される立場にあるなら、本来は従事者として指定すべき者である可能性があります。この場合には、事業者の従事者指定義務の履行も別途問題になります。

従事者以外の経路から情報を知った場合

そのほか、

  • 通報者本人から聞いた
  • 職場の状況から推測した
  • 調査対象者が資料から気付いた
  • メールの誤送信・アクセス権限の設定ミスで知った

という場合もあり得ます。

これらは必ずしも従事者による守秘義務違反を前提としませんが、その後の情報拡散を防止する必要があります。そのため、範囲外共有防止体制は従事者よりも広い者を対象としています。

③「上司が通報メールを一斉送信した」という例2の帰結

したがって、例2は、経路によって評価が変わることになります。

通報メールを上司が取得した経路主な問題
通報者が上司に直接送った上司による一斉転送が範囲外共有になり得る。上司が従事者でなければ、原則として守秘義務違反ではない
従事者が必要なく上司へ転送した従事者の転送が、守秘義務違反かつ範囲外共有になり得る。上司の一斉転送も、範囲外共有になり得る
調査上必要なため、従事者が限定的に上司へ共有した最初の共有は適法となる余地があるが、その後の一斉転送は範囲外共有になり得る
上司自身も従事者として指定されていた一斉転送は範囲外共有に加え、上司自身の守秘義務違反にもなり得る

指針解説も、窓口担当者以外の上司等が通報を受けた場合、従事者に指定されていなくても範囲外共有防止体制の対象になると明記しています。本記事のここまでの部分を見ておけば、以下の部分も意味がイメージしやすいかと思います。

▽指針解説〔令和8年3月31日版〕第3-Ⅱ-2-⑵-③

● 内部公益通報受付窓口の担当者以外の者(いわゆる上司等)も内部公益通報を受けることがある。これら内部公益通報受付窓口の担当者以外の者については、従事者として指定されていないことも想定されるが、その場合であっても、事業者において整備・対応が求められる範囲外共有等を防止する体制の対象とはなるものであり、当該体制も含めて全体として範囲外共有を防止していくことが必要である。

結び

今回は、公益通報者保護法ということで、「守秘義務」と「範囲外共有の防止」の違いについて見てみました。

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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(※)上記は令和2年改正(令和4年6月施行)版です

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