今回は、金融商品取引法ということで、金商法における「有価証券」の概念について見てみたいと思います。
有価証券というと、一般的には株式や社債などを思い浮かべる方が多いと思いますが、金商法における有価証券の概念は、普段イメージするよりも広く、かつ奥が深い設計になっています。
本記事は、金商法における有価証券の定義・分類や、他の法律との違いについて、わかりやすく解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
金商法における「有価証券」の考え方
なぜ「有価証券」の定義が重要か
金商法は、規制対象となる行為(販売・勧誘、募集・売出し、開示、業登録など)の入口を、ほぼ「有価証券」という概念で決めています。
例えば、
- 金融商品取引業の登録が必要か(2条8項、29条)
- 発行開示規制(目論見書・有価証券届出書)の対象か(2条3項、4条、5条)
- 不公正取引規制(157条、158条、166条など)が及ぶか
といった判断はすべて、「そのものが有価証券といえるか」から出発します。
そのため、有価証券の定義を押さえることは、金商法理解の土台になります。
金商法における「有価証券」概念の基本的視点:他法との比較
私法(民商法)や刑法における「有価証券」概念と、金商法における「有価証券」概念は、それぞれの立法目的が違うため、要件の着眼点が異なります。
民商法や刑法上の概念・要件
財産権が紙(証券・証書)に化体され、権利の移転や行使に証券の所持を要すること(文言証券性、呈示証券性、要式証券性等)や、取引上の流通性・移転の容易性に着目して定義されます。
典型例として、手形・小切手や乗車券、倉庫証券などがあります。
金商法上の概念・要件
投資者保護および資本市場における公正な取引・価格形成の確保を目的とするため、紙(券面)が存在するか否かという形式にとらわれず、投資性(投資対象性・仕組み性)を有しているか否かが本質的要件として定義されます。
そのため、単なる流通手形・小切手等は除外される一方、紙が存在しないファンド出資持分や信託受益権なども広く含まれます。
金商法上の「有価証券」を構成する実質的要件:「投資性」の3要素
金商法上の有価証券として捕捉されるための実質的要件(上記の投資性)は、主に以下の3つの要素に分解することができます。
普通預金や確定利息の付いた貸付債権などは、元本保証・融資契約としての性質が強く、出資性が否定されるため、有価証券から除外されています。
また、外貨預金や変額保険などの投資性が強い商品については、金商法上の有価証券とせずとも、銀行法・保険業法等において、金商法の行為規制が準用されるスキームとなっています。
定義の基本構造:限定列挙と二層構造(第1項有価証券と第2項有価証券)
限定列挙
金商法における有価証券は、条文上、金商法2条1項および2項に限定列挙されています。
ただし、新しい金融商品の出現に対応するため、政令指定(2条1項21号、2条2項7号)による柔軟な授権規定も設けられています。
第1項有価証券と第2項有価証券
有価証券の定義は、流動性(流通性)や形式に応じて、第1項有価証券と第2項有価証券(みなし有価証券)の二段構えになっています(金商法2条3項柱書)。
| 条文 | 性質 | 考え方 | |
|---|---|---|---|
| 第1項有価証券 | 法2条1項 | 券面(証券)があるかどうかを問わず、類型的に有価証券とされるもの | 流動性が高い → 規制を厚くする |
| 第2項有価証券(みなし有価証券) | 法2条2項 | 本来は有価証券ではないが、権利の性質上、有価証券とみなして規制するもの | 流動性が低い → 規制を薄くする |
「有価証券」と「有価証券表示権利」の区別に注意
法2条1項は、(a)国債・社債・株式といった証券・証書として発行されるものを列挙し、さらに同条2項前段が、(b)「証券・証書が発行されていなくても、その権利を有価証券とみなす」という扱いを定めています。
つまり、
- 2条1項の有価証券:国債証券(1号)、地方債証券(2号)、社債券(5号)、株券(9号)、投資信託の受益証券(10号)、投資証券(11号)など→紙のある伝統的な「第1項有価証券」
- 2条2項前段:1項の有価証券のうち、証券が発行されていない権利(有価証券表示権利)について、有価証券とみなす→これも「第1項有価証券」
- 2条2項各号(後段):信託の受益権、集団投資スキーム持分(ファンド持分)など、そもそも証券という形をとらない権利を、有価証券とみなす→これは「第2項有価証券(みなし有価証券)」
というふうに整理されています。
要するに、有価証券表示権利(2条2項前段)というのは、株券不発行会社の株式・新株予約権や社債等振替法に基づく振替株式・振替社債など、2条1項の証券に表示されるべき権利でありながら券面が発行されない権利のことです。
条項に沿ってもう少し詳しくまとめた場合、法的分類は以下のようになります。
【金商法上の有価証券の法的分類】
■ 第1項有価証券(要件:投資対象性 + 流通性)
├─ 2条1項各号:株式、社債券、国債、投資証券、CP、預託証券等
├─ 2条2項前段:有価証券表示権利(ペーパーレス化された株式等)
└─ 2条2項中段:特定電子記録債権
■ 第2項有価証券(みなし有価証券)(要件:投資対象性)
├─ 2条2項1号・2号:一般信託受益権・外国信託受益権
├─ 2条2項3号・4号:合同会社等の社員権
└─ 2条2項5号・6号:集団投資スキーム持分(組合・ファンド等)
第1項有価証券に該当するための要件
第1項有価証券は、上記の法的分類のとおり、
- 金商法2条1項各号に掲げる証券・証書(株券、社債券、国債、投資証券等)
- これらに表示されるべき権利で証券が発行されていないペーパーレスの有価証券表示権利(2条2項前段)
- 特定電子記録債権(2条2項中段)
を指します。
第1項有価証券は、実質的な投資対象性に加えて、流通性(流動性)を有することが要件とされています(政令指定要件においても「流通性その他の事情」が考慮されます)。
代表的な例
1項は号ごとに列挙されており、代表的なものは次のとおりです。
| 号 | 第1項有価証券 |
|---|---|
| 1号 | 国債証券 |
| 2号 | 地方債証券 |
| 3号 | 特別の法律により法人の発行する債券(いわゆる特殊債) |
| 4号 | 資産流動化法上の特定社債券 |
| 5号 | 社債券(相互会社の社債を含む) |
| 7号 | 協同組織金融機関の優先出資証券 |
| 8号 | 資産流動化法上の優先出資証券・新優先出資引受権を表示する証券 |
| 9号 | 株券・新株予約権証券 |
| 10号 | 投資信託・外国投資信託の受益証券 |
| 11号 | 投資法人の投資証券・外国投資証券 |
| 14号 | 受益証券発行信託の受益証券 |
| 15号 | 抵当証券 |
| 16号 | 外国法人が発行する証券で、1号〜9号等の性質を有するもの(外国株券など) |
| 17号 | 政令で定めるもの(例:預託証券〔DR〕等) |
| 18号 | その他、政令で定めるもの |
なお、前述のように、手形や小切手は、有価証券から除かれています(金商法上は、原則として有価証券に含まれません)。ただし、CP(コマーシャル・ペーパー)は、2条1項15号相当として、有価証券に位置づけられています。
基本的な発想
第1項有価証券は、証券・証書として流通しうる(流動性が高い)権利を想定しています。そのため、投資家保護の観点から、次の規制が原則そのまま適用されます。
- 募集・売出しの際の発行開示(有価証券届出書・目論見書)
- 発行後の継続開示(有価証券報告書など)
- 販売・勧誘を業として行う者への業規制(第一種金融商品取引業)
第2項有価証券(みなし有価証券)に該当するための要件
第2項有価証券は、金商法2条2項各号に掲げる、紙の証券が発行されない(または発行が予定されない)権利であっても、有価証券とみなされる権利を指します。
「流通性」の有無を問わず、「投資対象性」が認められれば該当するとされています(平成18年改正により、2条2項7号の政令指定要件から「流通性」要件が削除されました)。
みなし有価証券が定められている趣旨は、2条1項の列挙のみでは、「証券の形をとらないが、実質は投資である」ものを取り逃してしまうからです。例えば、
- 匿名組合出資
- 民法上の組合出資
- 投資事業有限責任組合(LPS)への出資
- 信託受益権
といった権利は、証券の形をとらずとも、実質は”他人に資金を出し、その運用益を期待する”投資です。そこで、2条2項各号でこれらを有価証券とみなして、規制の網をかけています。
代表的な例
2項も号ごとに列挙されており、代表的なものは次のとおりです。
| 号 | 第2項有価証券(みなし有価証券) |
|---|---|
| 2条2項1号 | 信託の受益権(信託受益権) |
| 2条2項3号 | 合名会社・合資会社の社員権、合同会社の社員権(政令で定めるもの) |
| 2条2項5号 | 集団投資スキーム持分(いわゆる「ファンド持分」) |
一般信託受益権(2条2項1号・2号)は、2条1項10号・13号・14号等(投資信託、特定目的信託、受益証券発行信託)で第1項有価証券とされるものを除く、広く一般の信託受益権を指します。
持分会社等の社員権(2条2項3号・4号)は、合同会社の社員権(全員が有限責任であるため当然該当)、および、名目的・実質的に有限責任化している合名会社・合資会社(全社員または全無限責任社員が株式会社または合同会社)の社員権のことです。
集団投資スキーム持分(2条2項5号)の要件
最も重要なのが、5号の集団投資スキーム持分です。これは包括的な定義で、次の要件をすべて満たす権利を指します。
さらに、適用除外要件(同号の柱書きの括弧書き・各ロ)が定められており、「出資者全員が出資対象事業に常時従事する場合」などは、投資としての性格が薄いとして、対象から外されます。
つまり、ファンド形態であれば、名前や法形式が何であれ、実質で判断して金商法の規制の網にかけるという、包括条項(キャッチオール)の役割を果たしています。
第2項有価証券の規制上の特徴
第2項有価証券は、流動性が低いという前提のもと、第1項有価証券よりも規制が緩やかです。
- 開示規制:原則として、適用される場面が限定的(例:多数の投資家に取得勧誘をする場合などに限って開示義務が生じる)
- 業規制:自己募集・自己運用などについて、第二種金融商品取引業として登録(第一種より緩やかな登録要件)
条文上は、募集・私募の区別を、2条3項で、第1項有価証券と第2項有価証券で分けて規定しています(後述)。
「有価証券」該当性の判断フロー
ある権利・商品が有価証券に当たるかどうかを判断するときは、次のような順序で考えると、整理しやすくなります。
【「有価証券」該当性の判断フロー】
- ステップ1:2条1項の各号に列挙されている類型に当たるか(株式・社債・投資信託など)
→ 当たれば、第一項有価証券
▼ - ステップ2:当たらない場合、2条2項各号に該当するか(信託受益権、合同会社の社員権など)
→ 当たれば、第二項有価証券(みなし有価証券)
▼ - ステップ3:ステップ2の各号に直接当たらなくても、2条2項5号の集団投資スキーム持分に当たるか
→ ここでは、実質的な判断が必要になる(出資金銭の存在、事業の存在、収益分配の有無、除外要件の確認)
▼ - ステップ4:上記のいずれにも当たらなければ、原則として、金商法上の「有価証券」ではない
→ ただし、他の規制(資金決済法、貸金業法、出資法など)の対象になる可能性は別途検討
「有価証券」に含まれないもの:周辺概念との区別
最後に、混同しやすい点を整理します。
⑴ 有価証券でないもの
金商法の「有価証券」に含まれない代表的な例としては、以下のものがあります。
- 預金・貯金(金商法上の対象外。銀行法などで規制)
- 手形・小切手(原則として有価証券から除外)
- 暗号資産:現行法(改正法の施行前)では、金商法上の「有価証券」ではなく、資金決済法の規制対象です。ただし、令和8年7月15日に金商法・資金決済法の改正法が成立し、暗号資産に関する規制は、資金決済法から金商法へ移管される予定です(施行は令和9年頃の見込み)
暗号資産は、移管後も、「有価証券」ではなく、有価証券とは別の「金融商品」として金商法に位置づけられると報じられています。したがって、2条1項・2項の有価証券の定義そのものが拡張されるわけではありません。移管後は、情報提供規制、業規制、インサイダー取引規制などが、暗号資産向けの規定として金商法に置かれます。
なお、先ほど見たように、電子記録移転権利(ファンド持分などをトークン化したもの)は、暗号資産ではなく第1項有価証券として扱われます。「トークン」という形式ではなく、権利の実質で判断する点は、従来と変わりません。
⑵「金融商品」「デリバティブ取引」との関係
金商法の規制対象は、「有価証券」だけではなく、デリバティブ取引(2条20項以下)もあります。つまり、
- 「有価証券」の売買・募集・勧誘 → 2条1項・2項
- 「デリバティブ取引」(先物・オプション・スワップなど) → 2条20項〜22項
は、別の軸で規制が置かれています。両方をあわせて「金融商品取引業」(2条8項)の対象としているのが、金商法の構造です。
「有価証券」に該当する場合の効果:規制体系と開示ルールの分化
権利や金融商品が要件を満たして金商法上の「有価証券」に該当する場合、法的には、以下の3大規制の対象となります。
- 開示規制(第2章):募集・売出し時(発行開示)や決算時(継続開示)における公衆縦覧型ディスクロージャー義務
- 業規制(第3章以下):販売、勧誘、運用、管理等を業として行う者に対する金融商品取引業の登録義務および行為規制(説明義務・書面交付義務等)
- 不公正取引規制(第6章):インサイダー取引の禁止、相場操縦の禁止、不正手段の禁止等
そして、金商法では、有価証券の要件分類(第1項か第2項か)に応じて、①開示規制の態様が分けられてます(流動性・性質に応じた開示要件の違い=開示の柔構造化)。
有価証券の分類と開示規制の適用関係
| 有価証券の分類 | 発行・継続開示規制(第2章) | 募集・売出しの判断基準 |
|---|---|---|
| 第1項有価証券(株式、社債、CP等) | 原則として適用あり(公衆縦覧型開示) | 勧誘相手方ベース(50名以上) |
| 第2項有価証券(一般のファンド・信託) | 原則として適用除外(行為規制・書面交付で保護) | 所有者ベース(500名以上) |
| 有価証券投資事業権利等(投資型ファンド・3条3号) | 例外的に適用あり(市場への影響を考慮) | 所有者ベース(500名以上) |
第1項有価証券は、流通性が高いため、原則として有価証券届出書や有価証券報告書の提出等による公衆縦覧型の開示規制が課されます。募集・売出しの該当性は、勧誘の相手方の人数(50名以上)を基準とします。
第2項有価証券は、流通性が低く転々流通しにくいため、原則として開示規制の適用が除外されます(金商法3条3号)。投資者への情報提供は、事業者に課される販売・勧誘上の行為規制(契約締結前交付書面の交付等)により図られます。
有価証券投資事業権利等(例外)については、第2項有価証券(集団投資スキーム持分や信託受益権等)であっても、出資財産の50%超を有価証券に対する投資に充てるファンド等(3条3号イ・ロ、政令2条の9)は、市場全体への及ぼす影響が大きいことから、例外的に開示規制の対象となります。第2項有価証券の募集・売出しの該当性は、組成の過程を考慮して勧誘人数ではなく、取得・所有に至る人数(500名以上)を基準とします。
結び
本記事のハイライトをまとめます。
金商法の「有価証券」概念
- 構造:2条1項(第1項有価証券)+2条2項(第2項有価証券・みなし有価証券)
- 第1項有価証券の特徴:流動性が高い → 開示・業規制ともに厚い
- 第2項有価証券の特徴:流動性が低い → 規制は限定的・緩やか
- 最重要の包括条項:2条2項5号の集団投資スキーム持分(実質判断)
- 発想の根底:「形式」ではなく「投資としての実質」で網をかける
金商法における有価証券は、紙で発行された株式や社債にとどまらず、投資性やファンドの仕組みに着目して幅広く網羅された概念となっています。
新しい金融商品や資金調達スキームを検討する際には、金商法上の有価証券(第1項または第2項)に該当するかどうかを正しく判定することが、規制対応の最初のステップとなります。
今回は、金融商品取引法ということで、有価証券の概念について見てみました。
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[注記]
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