今回は、広告法務ということで、打消し表示の表示方法について見てみたいと思います。
打消し表示の適切な表示方法については、以下のように媒体別に判断要素が整理されていますが、
●全媒体共通の判断要素 ←本記事はココと
●紙面広告の判断要素 ←ココと
●動画広告の判断要素 ←ココ
●Web広告(PC)の判断要素
●Web広告(スマートフォン)の判断要素
その中で、本記事は黄色ハイライトを引いた箇所の話になります。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
打消し表示の表示方法(打消し表示留意点 第2)
日常生活でもよく見かけると思いますが、広告中で例えば「10 時間効果が持続!!」のような断定的表現や目立つ表現を使って商品の内容を強調した表示をしつつ、「結果には個人差があります」といった注意書きを付している場合があります。
この場合の、強調された広告表示を強調表示といい、付されている注意書きを打消し表示と呼びます。
打消し表示は強調表示と対になるものですが、とりあえず打消し表示を付しておけば強調表示が適法となる(不当表示とならない)というわけではありません。
打消し表示を行っていても強調表示が不当表示となるおそれがある場合として、
- 強調表示と打消し表示が矛盾する場合
- 打消し表示の表示方法について、一般消費者が認識できない場合
- 打消し表示の表示内容について、一般消費者が理解できない場合
の3つがあります(打消し表示留意点第1参照)。打消し表示の表示方法は、このうち②に関するものです。
これは特に難しいことを言っているわけではなく、打消し表示を付けていても、文字の大きさ・配置場所・色等から一般消費者に認識できないような表示方法では、打消し表示は機能しないということです。
基本的な考え方(第2-1)
打消し表示の表示方法に関する基本的な考え方は、
打消し表示の内容を一般消費者が正しく認識できるように適切な表示方法で表示されているか否かについては、打消し表示の文字の大きさ、配置箇所、色等から総合的に判断されるところ、この判断に当たっては、全ての媒体に共通する要素とともに、各媒体で特徴的な要素についても留意する必要がある。
とされています(打消し表示留意点 第2-1)。
以下、媒体ごとの判断要素について、順に見てみます。
判断要素(第2-2)
全媒体共通(2−(1))
紙面広告、動画広告、Web 広告(PC) 、Web広告(スマートフォン)の全ての媒体に共通して問題となる判断要素としては、
- 打消し表示の文字の大きさ
- 強調表示の文字と打消し表示の文字の大きさのバランス
- 打消し表示の配置場所
- 打消し表示と背景の区別
が挙げられています。
①打消し表示の文字の大きさ
これはシンプルに、打消し表示の文字が見落としてしまうほど小さい場合は、一般消費者が打消し表示を認識できないということです。
そのため、一般消費者が手にとって見るような表示物なのか、ポスターなど離れた場所から目にする表示物なのかなど、媒体ごとの特徴も踏まえた上で、適切な大きさの文字で表示すべしとされています。
②強調表示の文字と打消し表示の文字の大きさのバランス
これは、打消し表示の文字が強調表示の文字に比べて著しく小さい場合(強調文字が大きな文字で表示されているのに対して、打消し表示が小さな文字で表示)は、印象の強い強調表示の方に注意が向いてしまうので、一般消費者が打消し表示を認識できないということです。
そのため、強調表示と打消し表示の両方を一般消費者が認識できるように、文字の大きさのバランスに配慮すべしとされています。
③打消し表示の配置場所
これは、打消し表示が強調表示から離れた場所に表示されている場合は、打消し表示に気付かなかったり、気付いたとしても、離れた場所に表示された強調表示に対する打消し表示であることを認識できないということです。
そのため、打消し表示の配置場所については、
- 強調表示と打消し表示がどの程度離れているかという点に加えて、
- 強調表示と打消し表示のそれぞれの文字の大きさ等も勘案される
とされています。
配置場所の適切さについては、強調表示とどの程度離れているかだけでなく、文字の大きさやバランス(=上記の①②)も考慮される、ということです。
④打消し表示と背景の区別
これは、色や模様のことで、打消し表示の文字と背景との区別がつきにくい場合には、打消し表示に気付かないということです。
例えば、色が対照的でない場合(淡い色の背景に白の文字で打消し表示etc)は、打消し表示が見えにくいといったことです。
そのため、打消し表示と背景の区別については、
- 打消し表示の文字の色と背景の色との組み合わせに加えて、
- 打消し表示の背景の模様等も勘案される
とされています。
紙面広告(2-(2))
紙面広告の特徴としては、
- 紙面広告を見る一般消費者は、動画広告のように見るのに時間的制約がなく、能動的に見ることができるにもかかわらず、強調表示から離れた箇所にある打消し表示には注意が向かない傾向がある
⇒特に、(紙面広告の隅に掲載されており)小さい文字だけで構成された注意書きが一括して表示されている箇所は、注意が向かない可能性がある - 紙面広告には様々な情報が盛り込まれる一方、多くの情報の中から、必要な情報を関連付けて読むという行動が取られにくく、強調された表示を中心によく見る傾向がある
といった点が挙げられています。
そのため、
- 強調表示に隣接した箇所に打消し表示を表示したうえで、文字の大きさ等も考慮しつつ、一般消費者が両者を一体として認識できるように表示すること
- 打消し表示の文脈において強調表示との関係性がよく理解できるように、その表現振りにも工夫すること
が求められる、とされています。
なお、ここでいう「紙面広告」が何かはっきり書いている部分がありませんが(打消し表示報告書では新聞広告が取り上げられています)、新聞、雑誌、チラシ、車内広告など、紙の広告ならどれも入るという理解でよいと思います(管理人的な理解)。
動画広告(2-(3))
動画広告の特徴としては、
- 表示されている時間が限られる
- 文字以外の音声等の要素にも視聴者の注意が引きつけられる
- 画面が切り替わるたびに新しい情報が提示される
- 映像と音声の組み合わせにより、視聴者に強い印象を残す
- 情報が次々と映し出されては消え、手元に表示が残らない
といった点が挙げられています。
これらを踏まえて、動画広告の場合の判断要素としては、
- 打消し表示が含まれる画面の表示時間
- 強調表示と打消し表示が別の画面に表示されるか
- 音声等による表示の方法
- 複数の画面で内容の異なる複数の強調表示と打消し表示が登場するか
について留意する必要がある、とされています。
また、これらのほか、
- 短時間の動画における留意点
- 長時間の動画における留意点
もまた別に挙げられていますが、さらに細かくなるため本記事では割愛します。
以下、順に見てみます。
①打消し表示が含まれる画面の表示時間
打消し表示が含まれる画面の表示時間が短い場合、一般消費者が打消し表示に気付かなかったり、気付いたとしても、表示時間内に打消し表示の内容を読み終えることができません。また、実際には、画面の外にも注意を向けていたり、画面に表示された文字を読むのが面倒だと感じる人もいます。
そのため、打消し表示が含まれる画面の表示時間が適切であるかは、
- 打消し表示が含まれる画面の表示されている時間がどれ位かという点に加えて、
- 当該画面内に含まれている強調表示や打消し表示の文字数等も勘案される
とされています。
例えば、
- 打消し表示が含まれる画面の表示されている時間が短く、強調表示を読んでいるだけで画面が切り替わってしまうような場合(すなわち、打消し表示を読む時間が全くない場合)
- 強調表示と打消し表示の文字量が多く、打消し表示を読んでいる途中で画面が切り替わってしまうような場合(すなわち、打消し表示の表示されている時間内に打消し表示を読み終えることができない場合)
などは、打消し表示の表示方法として適切とはいえないとされています。
②強調表示と打消し表示が別の画面に表示されるか
打消し表示が強調表示とは別の画面に表示されている場合、一般消費者が打消し表示に気付かなかったり、気付いたとしても、その打消し表示が別の画面に表示された強調表示に対するものであると認識できない可能性があります。
そのため例えば、
- 強調表示が表示された後、画面が切り替わって、直後の画面に打消し表示が表示されており、一般消費者が打消し表示に気付かない場合
- 気付いたとしても、当該打消し表示が、別の画面に表示された強調表示に対する打消し表示であると認識できないような場合
などは、打消し表示の表示方法として適切とはいえないとされています。
③音声等による表示の方法
ここでいう「音声等」とは、音声や、人物や商品などの画像部分のことです。
強調表示が音声により強調されている一方、打消し表示が音声により表示されていない場合、一般消費者は、音声により強調された表示の方に注意が向きやすく、また、動画広告では、画面に現れた人物等の部分に一般消費者の注意が向きやすいといえます。
そのため例えば、
- 文字と音声の両方で表示された強調表示に一般消費者の注意が向けられ、文字のみで表示された打消し表示に一般消費者の注意が向かないような場合
- 打消し表示と同一画面内に表示された人物等の部分に一般消費者の注意が向けられ、打消し表示に注意が向かないような場合
などは、打消し表示の表示方法として適切とはいえないとされています。
④複数の画面で内容の異なる複数の強調表示と打消し表示が登場するか
複数の場面で内容の異なる複数の強調表示と打消し表示が登場するときは、動画中の情報量が多いために1回見るだけでは全ての打消し表示の内容を一般消費者が正しく認識できない可能性があります。
そのため、全ての打消し表示の内容を一般消費者が正しく認識できるか否かは、
- 一つ一つの打消し表示の表示されている時間や表示の方法、強調表示と打消し表示が同一画面に表示されているか否かという点(=上記①②③の判断要素)に加えて、
- 打消し表示が動画広告に登場する回数や、強調表示や打消し表示についての文字や音声等の情報量等も勘案される
とされています。
例えば、
- 一般消費者が動画広告の最初の方に表示された打消し表示に気付いたが、動画中の情報量が多いために、動画広告の途中で打消し表示の内容を忘れてしまうような場合
- 動画広告の最初の方に表示された打消し表示の内容について考えているうちに、後に表示された打消し表示に注意が向かないような場合
などは、打消し表示の表示方法として適切とはいえないとされています。
結び
今回は、広告法務ということで、打消し表示の表示方法のうち、全媒体共通・紙面広告・動画広告の判断要素について見てみました。
次の記事では、Web広告(PC)とWeb広告(スマートフォン)の判断要素について書いています。
▽次の記事
-
強調表示と打消し表示|打消し表示の表示方法ーWeb広告(PCとスマートフォン)の場合
続きを見る
強調表示と打消し表示に関する詳細かつ公式な解説としては、平成30年6月7日に消費者庁が公表している「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」(当ブログでは「打消し表示留意点」と表記)があります。
「打消し表示留意点」は、それまでに公表されている以下の3つの実態調査報告書の総まとめになっています。
- 「打消し表示に関する実態調査報告書」(平成29年7月14日公表)
【当ブログでは「打消し表示報告書」と表記】 - 「スマートフォンにおける打消し表示に関する実態調査報告書」(平成30年5月16日公表)
【当ブログでは「スマホ打消し表示報告書」と表記】 - 「広告表示に接する消費者の視線に関する実態調査報告書」(平成30年6月7日公表)
【当ブログでは「消費者視線報告書」と表記】
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
打消し表示に関するその他の記事
参考文献・主要法令等
参考文献
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主要法令等
- 景品表示法
- 定義告示(「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」)
- 定義告示運用基準(「景品類等の指定の告示の運用基準について」)
- 不実証広告ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針-」)
- 価格表示ガイドライン(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)
- 将来価格執行方針(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)
- 比較広告ガイドライン(「比較広告に関する景品表示法上の考え方」)
- 2008年No.1報告書(平成20年6月13日付け「No.1表示に関する実態調査報告書」(公正取引委員会事務総局))
- 2024年No.1報告書(令和6年9月26日付け「No.1表示に関する実態調査報告書」(消費者庁表示対策課))
- 打消し表示留意点(「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」)
- 表示に関するQ&A(消費者庁)