広告法務

ステマ規制|不当表示の該当要件①ー広告性

著作者:rawpixel.com/出典:Freepik

今回は、広告法務ということで、ステルスマーケティング規制における不当表示該当要件の1つめ(事業者の表示であること)について見てみたいと思います。

本記事では、世の中に存在するステマ関連のルール全般ではなく、景品表示法上の不当表示として新たに指定されたステマ告示のことを、ステルスマーケティング規制(ステマ規制)と表記しています。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

事業者の表示であること(広告性)

ステマ告示では、ステマ表示を

  • 事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって
  • 一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

と定義しており、「事業者の表示であること」(広告性)は、上記①の部分を指している。

判断基準

事業者の表示であると判断されるのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合(つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合)とされている。

▽ステマ告示運用基準 第2

 告示の対象となるのは、外形上第三者の表示のように見えるものが事業者の表示に該当することが前提となる。
 景品表示法は、第5条において、事業者の表示の内容について、一般消費者に誤認を与える表示を不当表示として規制するものであるところ、外形上第三者の表示のように見えるものが、事業者の表示に該当するとされるのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合である。

「決定に関与」がキーワードです(逆は「第三者の自主的な意思」)。

事業者の表示に該当する類型

事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合の類型としては、以下のようなものが挙げられている(ステマ告示運用基準第2-1、ステマ告示ガイドブック9~10頁参照)。

事業者が自ら行う表示

事業者が自ら行う表示は、当然ながら、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる。

例えば、以下のような場合である(ステマ告示ガイドブック9頁)。

  • 事業者が自らの商品パッケージに表示する場合
  • 事業者が自らのSNSのアカウントに、自社の商品について表示(投稿)する場合
  • 事業者が自らのウェブサイトに、自社の商品に関する内容を表示する場合

なお、これらが「事業者の表示である」(広告性)という要件を満たすのはある意味当然なので、「判別が困難である」(判別困難性)という、もう一つの要件を満たすかどうかが問題である。

これらは見る側も広告とわかるので、ステマにはなり得ないのでは?という気もするが、例えば、事業者のホームページ上の表示であっても、ウェブサイトを構成する特定のページにおいて、専門家や一般人消費者のコメントの掲載がステマ表示に該当するケースがあるとされているので、留意が必要である(ステマ告示運用基準 第3-2-⑵-オ参照)。

そのようなケースとして、例えば、

  • 専門家や一般消費者等の第三者の客観的な意見として表示をしているように見えるものの、実際には、事業者がその第三者に依頼・指示をして特定の内容の表示をさせた場合
  • そもそも事業者が作成し、第三者に何らの依頼すらしていない場合

が挙げられています。

事業者が第三者になりすまして行う表示

事業者が自ら行う表示には、事業者が自ら表示しているにもかかわらず第三者が表示しているかのように誤認させる表示、例えば、事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員や、事業者の子会社等の従業員が行った事業者の商品又は役務に関する表示も含まれる。

これらの者が行った表示が、事業者の表示に該当するか否かは、例えば、

  • 従業員の事業者内における地位、立場、権限、担当業務
    • 商品又は役務の販売を促進することが必要とされる地位や立場にある者
      →「事業者の表示」に該当する方向の考慮要素となる
      • ex)販売や開発に係る役員、管理職、担当チームの一員等
    • その商品又は役務の販売を促進することが必要とされる地位や立場にはない者
      →「事業者の表示」に該当しない方向の考慮要素となる
  • 表示目的
    • その商品又は役務の販売を促進するための表示
      →「事業者の表示」に該当する方向の考慮要素となる
      • ex1)商品又は役務の画像や文章を投稿し、一般消費者におけるその商品又は役務の認知を向上させようとする表示
      • ex2)自社製品と競合する他社の製品を誹謗中傷し、自社製品の品質・性能の優良さについて言及する表示
    • その商品又は役務の販売を促進する目的ではない表示
      →「事業者の表示」に該当しない方向の考慮要素となる
      • ex)その商品又は役務に関して一般消費者でも知り得る情報を使うなど

等の実態を踏まえて、事業者が表示内容の決定に関与したかについて総合的に考慮し判断する、とされている(ステマ告示運用基準第2-1-⑴-イ参照)。

わかりやすくいうと、この類型が典型的に想定しているのはいわゆるサクラレビューです。
▷参考サイト:サクラチェッカー|ステマ やらせ サクラ評価 口コミが丸わかり

事業者が明示的に依頼・指示をして第三者に表示させた場合

事業者が第三者をして行わせる表示も、事業者が第三者の表示内容の決定に関与している場合は、事業者の表示となる。

例えば、以下のような場合が挙げられている。

  • 事業者が第三者に対して当該第三者のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上や口コミサイト上等に自らの商品又は役務に係る表示をさせる場合
  • EC(電子商取引)サイトに出店する事業者が、いわゆるブローカー(レビュー等をSNS等において募集する者)や自らの商品の購入者に依頼して、購入した商品について、当該ECサイトのレビューを通じて表示させる場合
  • 事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイターに委託して、自らの商品又は役務について表示させる場合
  • 事業者が他の事業者に依頼して、プラットフォーム上の口コミ投稿を通じて、自らの競合事業者の商品又は役務について、自らの商品又は役務と比較した、低い評価を表示させる場合

事業者が明示的に依頼・指示していない場合であっても、第三者に表示させた場合となるもの

事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者と第三者との間に事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性がある場合(客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合)には、事業者が表示内容の決定に関与した表示とされ、事業者の表示となる。

事業者が第三者に表示内容を明示的に指示・依頼していない場合において、それが事業者の表示となるかについては、

  • 事業者と第三者のやり取り
    • 事業者と第三者との間の具体的なやり取りの態様や内容(例えば、メール、口頭、送付状等の内容)、
  • 対価の内容・目的
    • 事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容
      (この「対価」には、金銭又は物品に限らず、その他の経済上の利益(ex.イベント招待等のきょう応)など、対価性を有する一切のものが含まれる)
    • その主な提供理由(例えば、宣伝する目的であるかどうか)
  • 事業者と第三者の関係性
    • 関係性の状況(例えば、過去に事業者が第三者の表示に対して対価を提供していた関係性がある場合に、その関係性がどの程度続いていたのか、今後、第三者の表示に対して対価を提供する関係性がどの程度続くのか)

等の実態も踏まえて総合的に考慮し判断する、とされている(ステマ告示ガイドブック10頁、ステマ告示運用基準 第2-1-⑵-イ)。

第三者の自主的な意思による表示内容とは認められず、事業者の表示に該当する場合としては、例えば、以下のような場合が挙げられている。

  • 事業者が、インフルエンサー等の第三者に対し、無償で商品提供した上でSNS投稿を依頼した結果、第三者が事業者の方針に沿った表示(投稿)内容を行った場合
  • 事業者が、インフルエンサー等の第三者に対し、経済上の利益があると言外から感じさせたり、言動から推認させたりして、第三者がその事業者の商品について表示(投稿)を行った場合

事業者の表示に該当しない類型

第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合

事業者が第三者の表示に関与したとしても、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められるものであれば、事業者の表示には当たらない。

第三者が自らの嗜好等により、このような表示を行う場合は、通常、事業者が表示内容の決定に関与したとはいえないからである。

よく読まないと見落としそうですが、ここは、「表示に関与」したとしても…、としか書かれていません。

「決定に関与」とは書いていません。つまり、何らかの関与があったとしても、「決定に関与」よりも手前のレベルでとどまっている、ということです。

第三者の自主的な意思による表示内容と認められるかどうかは、

  • 事業者と第三者の間の表示内容に関する情報のやり取りの有無
    • 第三者と事業者との間で表示内容について情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていないか
  • 表示内容に関する依頼・指示の有無
    • 事業者から第三者に対し、表示内容に関する依頼や指示があるか
  • 事業者から第三者への対価の提供の有無
    • 第三者の表示の前後において、事業者が第三者の表示内容に対して対価を既に提供しているか
  • 事業者と第三者の関係性(表示内容の決定に関与できる程度の関係があるのか)
    • 過去に対価を提供した関係性がどの程度続いていたのか、あるいは今後提供することが決まっているか、今後対価を提供する関係性がどの程度続くのか
    • 表示内容を決定できる程度の関係性があるか否かの判断に当たっては、表示の対象となった商品又は役務の特性等(例えば、特定の季節のみに販売数量が増える商品であるか)の事情を考慮する

によって判断する、とされている(ステマ告示ガイドブック11頁、ステマ告示運用基準 第2-2-⑴参照)。

第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合としては、例えば、以下のような場合が挙げられている。

  • 第三者が事業者の商品又は役務について、SNS等に当該第三者の自主的な意思に基づく内容として表示(複数回の表示も含む。)を行う場合
  • 事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合
  • アフィリエイターの表示であっても、事業者と当該アフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にある表示を行う場合
  • ECサイトに出店する事業者の商品を購入する第三者が、自主的な意思に基づく内容として当該ECサイトのレビュー機能を通じて、当該事業者の商品等の表示を行う場合
  • ECサイトに出店する事業者が自らの商品の購入者に対して当該ECサイトのレビュー機能による投稿に対する謝礼として、次回割引クーポン等を配布する場合であっても、当該事業者(当該事業者から委託を受けた仲介事業者を含む。)と当該購入者との間で、当該購入者の投稿(表示)内容について情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われておらず、客観的な状況に基づき、当該購入者が自主的な意思により投稿(表示)内容を決定したと認められる投稿(表示)を行う場合
  • 第三者が、事業者がSNS上で行うキャンペーンや懸賞に応募するために、当該第三者の自主的な意思に基づく内容として当該SNS等に表示を行う場合
  • 事業者が自社のウェブサイトの一部において、第三者が行う表示を利用する場合であっても、当該第三者の表示を恣意的に抽出すること(例えば、第三者のSNSの投稿から事業者の評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、そのことが一般消費者に判別困難な方法で表示すること。)なく、また、当該第三者の表示内容に変更を加えること(例えば、第三者のSNSの投稿には事業者の商品等の良い点、悪い点の両方が記載してあるにもかかわらず、その一方のみの意見を取り上げ、もう一方の意見がないかのように表示すること。)なく、そのまま引用する場合
  • 事業者が不特定の第三者に対して試供品等の配布を行った結果、当該不特定の第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合
  • 事業者が特定の第三者(例えば、事業者が供給する商品又は役務について会員制(一定の登録者に対して一定の便益を付与する制度等)を設けている場合における会員)に対して試供品等の配布を行った結果、当該特定の第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合
  • 事業者が表示内容を決定できる程度の関係性にない第三者に対して表示を行わせることを目的としていない商品又は役務の提供(例えば、単なるプレゼント)をした結果、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合

媒体事業者が行う表示

原則(自主的な意思で企画、編集、制作した表示)

新聞・雑誌発行、放送等を業とする媒体事業者(インターネット上で営む者も含む)が自主的な意思で企画、編集、制作した表示は、通常、編集権が媒体事業者にあることから、事業者が表示内容の決定に関与したといえないため、事業者の表示に該当しない。

例えば、正常な商慣習における取材活動に基づく記事の配信、書評の掲載、番組放送(事業者の協力を得て制作されるものも含む)などである。

例外(広告主が表示内容の決定に関与)

ただし、媒体事業者の表示であっても、事業者が表示内容の決定に関与したとされる場合は、事業者の表示となる。

この判断の際には、正常な商慣習を超えた取材活動等である実態(対価の多寡に限らず、これまでの取引実態と比較して、事業者が媒体事業者に対して通常考えられる範囲の取材協力費を大きく超えるような金銭等の提供、通常考えられる範囲を超えた謝礼の支払等が行われる場合)にあるかどうかが考慮要素となる。

結び

今回は、広告法務ということで、ステルスマーケティング規制における不当表示該当要件の1つめ(事業者の表示であること)について見てみました。

消費者庁HPに、ステマ規制の解説ページがあります。

令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。|消費者庁HP

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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参考文献・主要法令等

業界団体のガイドライン等

一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA) 一般社団法人クチコミマーケティング協会(WOMJ

主要法令等

リンクをクリックすると、e-Gov又は消費者庁の該当資料に遷移します(▷消費者庁の掲載ページはこちら
  • 景品表示法(「不当景品類及び不当表示防止法」)
  • ステマ告示(「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」)
  • ステマ告示運用基準(「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」)
  • ステマ告示パブコメ(「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』告示案及び『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』運用基準案に関する御意見の概要及び当該御意見に対する考え方」)
  • 管理措置指針(「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」)

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