今回は、公益通報者保護法ということで、事業者がとるべき措置等のうち、公益通報者を保護するための措置について見てみたいと思います。
これは、令和7年改正で新設された通報妨害の禁止(法11条の2)と通報者探索の禁止(法11条の3)を含む、法律上の禁止行為を受けて定められた体制整備(防止措置)義務です。大きく「不利益な取扱いの防止に関する措置」と「範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置」の2つに分けられています。
本記事では、それぞれの措置について詳しく解説した後、法律上混同してはならない要件範囲の違いについても確認したいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
公益通報者を保護するための措置:法律上の禁止と指針が求める防止措置
公益通報者保護制度において、制度が健全に機能するためには、通報者が安心して声を上げられる環境を整えることが不可欠です。
法定指針〔令和8年3月31日版〕においては、この重要なテーマが公益通報者を保護するための措置という大きな枠組みで括られ、事業者が取り組むべき措置が整理されています。このテーマの下には、大きく分けて次の2つの項目が規定されています。
- 不利益な取扱いの防止に関する措置(法定指針 第4-2-⑴)
- 範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置(法定指針 第4-2-⑵)
これらは、事業者が任意に取り組むべき推奨事項ではありません。法律(公益通報者保護法)が禁じている行為を、組織内で防止するために設けられた義務になります。
具体的には、法律上の禁止規定である、
- 不利益な取扱いの禁止(法3条、4条、5条)
- 通報妨害の禁止(法11条の2)
- 通報者探索の禁止(法11条の3)
を組織として実効的に遵守し、違反を未然に防ぐための具体的な手法が、法定指針上の防止措置として義務づけられています。
不利益な取扱いの防止に関する措置(法定指針 第4-2-⑴関係)
事業者は、通報を行ったことを理由として、労働者やフリーランス等に対して解雇、減給、降格、派遣契約の解除、業務委託契約の解除、その他の不利益な取扱いをしてはならず(法3条~6条)、これを防止するための仕組みを整える必要があります。
▽公通法3条1項
(労働者に対する不利益取扱いの禁止等)
第三条 前条第一項第一号に定める事業者は、その使用し、又は使用していた公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
一~三 (略)
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-2-⑴-イ
⑴ 不利益な取扱いの防止に関する措置
イ 事業者の労働者及び役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
不利益取扱いの防止・把握・救済に関する措置
事業者は、防止する措置のほかにも、通報者が組織内で不当な扱いや嫌がらせを受けていないかを、必要に応じて通報後も適切な期間、定期的にフォローアップして把握する措置を講じる必要があります 。
防止措置や把握措置の例としては、以下のようなものが挙げられています(Q&A 内部通報体制Q26,Q27参照)。
| 防止措置の例(Q26) | 把握措置の例(Q27) |
|---|---|
| ・労働者等及び役員に対する周知・啓発 ・内部公益通報受付窓口において不利益な取扱いに関する相談を受け付けること ・被通報者が、公益通報者等の存在を知り得る場合には、被通報者が公益通報者等に対して不利益な取扱いを行うことがないよう、被通報者に対して、その旨の注意喚起をするなどの措置を講じ、公益通報者等の保護の徹底を図ること | ・公益通報者に対して能動的に確認する ・不利益な取扱いを受けた際には内部公益通報受付窓口等の担当部署に連絡するようその旨と当該部署名を公益通報者にあらかじめ伝えておく |
もし不利益な取扱いが発生していることを把握した場合には、速やかにその取扱いを中止させ、元の部署への復帰、不当な人事評価の修正、減給分の填補などの適切な救済・回復措置をとらなければなりません。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q39
不利益な取扱いや範囲外共有が行われた場合の「適切な救済・回復の措置」(指針第4の2⑴イ及び第4の2⑵イ)とはどのような措置が考えられますか。
不利益な取扱いや範囲外共有が行われた場合の適切な救済・回復の措置として、例えば、情報の回収や損害賠償等が考えられます。ただし、実際には、実効的な救済・回復の措置を講ずることが困難な場合も想定されることから、不利益な取扱いや範囲外共有を防ぐ措置を徹底することが重要と考えられます。
不利益取扱いを行った者に対する厳正な処分
通報者に対して報復行為(嫌がらせや不利益な人事配置など)を行った役職員に対しては、就業規則や社内規程に基づき、懲戒処分等を含む厳正な処分を課すルールをあらかじめ整備し、実際に運用する必要があります。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-2-⑴-ロ
ロ 不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。
範囲外共有・通報妨害・通報者探索の防止に関する措置(法定指針 第4-2-⑵関係)
指針での記載順序とは異なりますが、以下、法律に個別規定があるものから順に見ていきましょう。
01|通報妨害(法11条の2)の防止に関する措置
通報しようとする動きに対し、組織の力で事前に口封じをされてしまっては、自浄作用は働きません。令和7年改正では、通報妨害行為につき法律レベルで禁止規定が置かれました。
通報妨害の禁止(1項)
事業者は、労働者やフリーランス等が公益通報をすることを妨げてはなりません。
▽公通法11条の2第1項
(通報妨害の禁止等)
第十一条の二 第二条第一項各号に定める事業者は、当該各号に掲げる者に対して、正当な理由がなく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることその他の行為によって、公益通報を妨げてはならない。
妨害に該当する典型例としては、
- 「余計なことを言うな。通報したらどうなるか分かっているな」などと通報を思いとどまらせるための脅迫や強要を行うこと
- 通報しようとする者に対し、金銭等の利益を提示して口止めをすること
- 事前の社内通報を必須とし、事前の社内報告なしに外部通報(行政やマスコミ等)を行うことを一律に禁止したり、懲戒処分の対象にすると就業規則等で威嚇したりすること
といったものが考えられます。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q30
通報妨害とはどのようなことを指しますか。また、「正当な理由」としてどのようなものが考えられますか。
通報妨害とは、「公益通報をしない旨の合意をすることを求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることその他の行為(通報妨害行為)によって、公益通報を妨げること」を指し、例えば、社内の不正を発見した労働者に対し、事業者が、不正を隠蔽するために、公益通報をしないように誓約書を書かせる行為や、退職の際に業務上知った不正について、内部公益通報受付窓口や所管の行政機関等に通報しないことを条件として、退職金を支払う旨の合意をすること等が考えられます。
通報妨害行為は、原則、許容されるものではなく、「正当な理由」は限定的な場合に留まるべきであると考えられます。「正当な理由」については、例えば、労働者に対して、特段の根拠もないのに単なる思い込みで報道機関や取引先等に通報行為をしないよう文書又は口頭で求めることは該当し得ると考えられます。
口止め条項(合意)の無効(2項)
会社が労働者やフリーランス等との間で、正当な公益通報を制限するような合意を結んでいたとしても、その合意は法律上、無効となります。
▽公通法11条の2第2項
2 前項の規定に違反してされた合意その他の法律行為は、無効とする。
無効となる合意の例としては、上記Q&Aのように、
- 退職の際に業務上知った不正について、内部公益通報受付窓口や所管の行政機関等に通報しないことを条件として、退職金を支払う旨の合意をすること
などが考えられます。
通報妨害の防止措置
このように、事業者は通報妨害をしてはならず、これを防止する措置を講じる必要があります。
例えば、通報妨害が禁止されていることを内部規程に定め、周知・啓発すること、実際の違反事例に対しては規程に基づき厳正な対処を行うことが挙げられています。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-2-⑵-ロ
ロ 法第11条の2第1項の規定による正当な理由がある場合を除いて、事業者の労働者及び役員等が通報妨害行為を行うことを防ぐための措置をとる。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q33
「通報妨害行為を行うことを防ぐための措置」(指針第4の2⑵ロ)とはどのような措置が考えられますか。
通報妨害行為を行うことを防ぐための措置として、例えば、通報妨害行為は行ってはならない行為であって懲戒処分その他の措置の対象となることを内部規程に定め、その旨を周知・啓発することや、実際に通報妨害行為が行われた場合には内部規程に基づき行為者に対する厳正な対処を行うこと等が考えられます。
なお、内部公益通報受付窓口以外にも、従事者ではない上司等に対する内部公益通報、2号通報及び3号通報についても、通報妨害行為が防止される必要があり、「範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置」(指針第4の2⑵)に関して同様の措置をとる必要があります。
該当性に関する論点
内部規程による外部通報の制限と通報妨害との関係
事業者のなかには、まず社内窓口に通報しなければならない、会社の許可なく外部に通報してはならない旨を就業規則や内部規程に定め、これに違反して行政やマスコミに通報した者を懲戒処分の対象とするルールを設けている場合があります。しかし、このように外部通報を禁止・制限する規定を置くことは、本法の趣旨に反するとされています。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q62
外部公益通報をする前に、必ず、内部公益通報しなければならないとする規定を内部規程に定めてもよいですか。
通報先に順序を付けるような規定を内部規程に定めることは、本法の趣旨に反するものです。(詳細は「通報先に関するQ&A」・Q10参照)
また、この不適切な規程が存在すること自体が、マスコミ等への外部通報(3号通報)を行う際の保護要件である、特定事由「正当な理由がなくて、内部公益通報等をしないよう要求された場合」(通報妨害のおそれ。法3条1項3号ニ)を満たしていると判断される根拠になります。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕通報先Q10
なお、事業者が、例えば、労働者及びフリーランス等に対して外部公益通報を禁じたり、まず内部公益通報をするよう公益通報の順序を強制したりすることは、本法で禁止されている通報妨害(本法第11条の2)に該当し得るとともに、仮に、事業者がこのような内部規程を作成した場合は、3号通報の保護要件である「役務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合」(本法第3条第1項第3号ニ)にも該当し得ると考えられます。(本Q&A・Q9も参照)
外部への表面化を防ぎ、社内で解決しようとして定めた社内ルールが、皮肉にも、通報者に対してマスコミ等への通報を許容させる(特定事由の成立)ことになってしまいますので、注意が必要です。就業規則や内部規程に外部通報を制限・威嚇するような表現が含まれている場合は、削除しましょう。
「正当な理由」該当性
情報漏洩や報復を防ぐ目的で、窓口担当者が通報者に対し社内での口止めを求める行為(この窓口に相談したことを社内の人間に言わないよう伝える)は、行政やマスコミへの外部通報を妨げる誤解を与えない限り、原則として通報妨害には該当しないとされています(Q&A 内部通報体制Q31)。
また、労使紛争を解決する際の和解条項に守秘義務を設ける行為は、事案ごとの個別判断ですが、双方が納得して合意した裁判上の和解などであれば、一律に無効や違法とされる可能性は低いとされています(Q&A 内部通報体制Q32)。
02|通報者探索(法11条の3)の防止に関する措置
内部通報が届いた際、一体誰が書いたのかを特定しようと、多くの組織で探索行為が反射的に発生してしまいがちですが、これは通報者への報復(不利益取扱い)を誘発する危険な行為です。そのため、令和7年改正法では、これも法律レベルで禁止されました。
探索行為の禁止(法11条の3)
事業者は、正当な理由がある場合を除き、公益通報をした者を特定するための行為を行ってはなりません。
探索行為に該当する例としては、
- 関係者を個別に呼び出し、「お前が通報したのか」「誰が通報したか知っているか」と問い詰める
- 通報文の特徴や提出されたデータの電子履歴(メタデータ等)を解析して発信者を突き止めようとする
- 通報が寄せられた前後の時期における、特定の社員の入退室記録やPCのログをピンポイントで照合・監視する
といったものが考えられます。
▽公通法11条の3
(通報者探索の禁止)
第十一条の三 第二条第一項各号に定める事業者は、正当な理由がなく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為をしてはならない。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-2-⑵-ハ
ハ 法第11条の3の規定による正当な理由がある場合を除いて、事業者の労働者及び役員等が、通報者探索を行うことを防ぐための措置をとる。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q34
通報者探索とはどのような行為を指しますか。また、「正当な理由」としてどのようなものが考えられますか。
通報者探索とは、「公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為」を指します。例えば、公益通報をした可能性がある人に対して、公益通報をしたか否か問う行為や、公益通報者を特定するために、従業員の端末やサーバーの内容を確認する行為等が考えられます。
通報者探索は、原則、許容されるものではなく、「正当な理由」は限定的な場合に留まるべきであると考えられます。
「正当な理由」については、例えば、匿名の通報について、通報者が具体的にどのような局面で不正を認識したのかなどを特定した上でなければ、必要な調査や是正ができない場合に、公益通報に対応する際、本法第12条の規定により守秘義務を負う従事者が通報者の特定につながる事項を問うことは該当し得ると考えられます。
「正当な理由」の厳格な解釈
探索行為が許される「正当な理由」については、上記Q&Aのように、極めて限定的な場合に限られるとの方針が示されています。
指針解説やQ&Aなど公式の解説において、正当な理由になり得ると明記されているのは、実質的に上記の1ケースのみです。つまり、調査や是正を完了させるために、通報者の身元(またはそれに類する客観的状況)を特定することが不可避であり、かつ情報の取扱者が刑事罰付きの守秘義務を負う従事者に限定されている場合に限り、限定的に探索行為が許容されるという建付けになっています。
合理的な調査の過程における意図しない判明は一般論として許容されますが、正当な名目を掲げた潜脱的なカモフラージュ探索は、正当な理由のない探索(違法)と判定されます。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q37
本法では「公益通報者を特定することを目的とする行為」(通報者探索)が禁止されていますが、事業者が、表面上、別の目的を掲げさえすれば、「正当な理由」のない通報者探索には該当しないのですか。
例えば、別の目的を掲げているのは表面上のみであり、実際には通報者探索目的で調査していたのであれば、「正当な理由」のない通報者探索に該当し得ると考えられます。具体的には、通報者探索目的を有しながらこれを秘匿した上でアンケート等を利用して調査を行う行為も、「正当な理由」のない通報者探索に該当し得ると考えられます。
他方で、真に通報者探索を目的としない調査を行っていたところ、意図せず、結果的に通報者が判明してしまったというような場合には、一般論としては、「正当な理由」のない通報者探索には該当しないものと考えられます。
「調査のために必要だから」という漠然とした理由で通報者の同意なく探索を行うことは、指針および法11条の3違反となります。
通常の内部調査(情報漏洩調査等)との区別
対応が難しいのが、営業秘密や社内機密・顧客データの流出を検知したため、通常の内部調査としてメール監査やログ調査を行うケースです。
会社が、情報漏洩や不正アクセスの有無を確認するための通常のセキュリティ調査(全社的なログ確認など)を客観的・合理的なプロセスで行うことは禁止されません。
しかし、そのセキュリティ調査と称して、実質的に公益通報を行った人物(通報者)を炙り出し、特定することを目的として調査を計画・遂行することは、通報者探索に該当します。目的が純粋な企業防衛としての漏洩防止にあるのか、通報者の特定・排除にあるのかは、調査のタイミング、対象範囲、調査担当者の選定等から実質的に判断されると考えられるため、事案の取扱いには慎重な検討が必要です。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q39
事業者内部の不正について報道がなされた場合、一見して、外部通報(3号通報)による情報提供があったのか、情報管理上の問題(情報漏えい)により生じたものなのか分からないと思いますが、このような場合においても、情報漏えいの有無や原因について調査してはいけないのですか。
情報漏えいに関する調査を行うに当たっては、通報者の特定に繋がらない調査方法や調査事項を検討する(例:アンケートを匿名式で実施する、調査事項をあくまで資料の保管場所や保管方法等の一般的事項にとどめる)などの方法により、当該調査が、「公益通報者を特定することを目的とする行為」(本法第11条の3)に該当する可能性を勘案するなど、本法の趣旨を踏まえ、慎重に判断する必要があると考えられます。
03|範囲外共有の防止に関する措置
範囲外共有とは
範囲外共有とは、通報を受付・調査する業務に関与しない第三者(他の役職員や関係のない部署など)に対して、本人の同意なく、通報者を特定させる情報(特定情報)を共有する行為を指します。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q28
範囲外共有とはどのような行為を指しますか。
範囲外共有とは、公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為を指します。
必要最小限の範囲とは、内部公益通報を受け、並びに当該内部公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(公益通報対応業務)の遂行に当たり公益通報者を特定させる事項を共有することが必要となる最小限の範囲であり、具体的な範囲は事案ごとに異なるため、各事案に応じて適切に判断する必要があると考えられます。
防止措置の内容
このように、事業者は特定情報を範囲外共有してはならず、防止措置や救済措置をとる義務があります。
▽法定指針〔令和8年3月31日版〕第4-2-⑵-イ
イ 事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
具体的な防止措置の基本は、情報アクセス権限の分離です。システム上および物理的に、特定情報にアクセスできる者を、あらかじめ指定された従事者のみに制限する必要があります。
従事者が作成した調査報告書などを従事者以外に共有する際には、固有名詞をすべて仮称に置き換える、あるいはマスキング(黒塗り)をするなどの措置を講じなければなりません。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕内部通報体制Q29
「範囲外共有を行うことを防ぐための措置」(指針第4の2⑵イ)とはどのような措置が考えられますか。
範囲外共有を行うことを防ぐための措置として、例えば、以下のようなものが考えられます。
- 通報事案に係る記録・資料を閲覧・共有することが可能な者を必要最小限に限定し、その範囲を明確に確認する
- 通報事案に係る記録・資料は施錠管理する
- 内部公益通報受付窓口を経由した内部公益通報の受付方法としては、電話、FAX、電子メール、ウェブサイト等、様々な手段が考えられるが、内部公益通報を受け付ける際には、専用の電話番号や専用メールアドレスを設ける、勤務時間外に個室や事業所外で面談する
- 受付時以降も含め、入室者が適切に管理されている専用の部屋を活用する
- 電子メールでのやり取りであっても注意すべき事項がないか(システム上、通報メール等が外部窓口への送信であることに起因して上司等に同報されることになっていないか、詳細についてやり取りをするに当たり、メール本文への記載ではなくパスワード付の添付ファイルを適宜利用する等)に留意する
- 内部公益通報に関する記録の保管方法やアクセス権限等を内部規程において明確にする
- 通報事案に係る記録・資料に記載されている関係者(公益通報者を含む。)の固有名詞を仮称表記・マスキングにする
- 内部公益通報者を特定させる事項の秘匿性に関する社内教育を実施する
- 内部公益通報に係る情報を電磁的に管理している場合には、公益通報者を特定させる事項を保持するため、当該情報を閲覧することが可能な者を必要最小限に限定する、操作・閲覧履歴を記録する、といった情報セキュリティ上の対策等を講ずる
なお、内部公益通報受付窓口以外にも、従事者ではない上司等に対する内部公益通報、2号通報及び3号通報についても、範囲外共有が防止される必要があり「範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置」(指針第4の2⑵)に関して同様の措置をとる必要があります。
同意取得のプロセス設計
どうしても調査の過程で、従事者以外の関係者に通報者の氏名や部署等の情報を共有しなければならない必要性が生じた場合は、事前に対象の通報者に対して共有の必要性と範囲を説明し、本人の自由意思に基づく同意(可能な限り同意書の書面取得)を経るルールとしておく必要があります。
▽指針解説〔令和8年3月31日版〕第3-Ⅱ-2-⑵-④
<その他>
● 特に、ハラスメント事案等で被害者と公益通報者が同一の事案においては、公益通報者を特定させる事項を共有する際に、被害者の心情にも配慮しつつ、例えば、書面(30)による等、同意の有無について誤解のないよう、当該公益通報者から同意を得ることが望ましい。
30 電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。
補足:民事上の保護効果と事業者側義務の要件範囲の違い
最後に、事業者のとるべき措置等(体制整備義務等)を設計するうえで基本となる、要件の切り分けについて整理しておきたいと思います。
民事上の保護効果が適用されるための要件と、事業者側の義務が適用される要件とでは、実は要件範囲に違いがあります。
一般向けの公通法ハンドブックではこれらがすべて通報者の保護として一括りに整理されているため、やや混同が生じやすい状況かと思いますので、念のための確認です。
解雇無効や損害賠償(法3条〜5条)が成立するための要件
通報者が、通報を理由として行われた解雇の無効(法3条)を主張したり、不利益取扱いの禁止(法3条~5条)に基づく損害賠償を請求したりするためには、以下の要件①〜⑤をすべて満たしていることが必要です。
- 通報者の範囲
- 通報の内容(通報対象事実)
- 通報の目的(不正の目的でないこと)
- 通報先の類型(1号通報〜3号通報)
- 通報先ごとの保護要件(1号の思料、2号・3号の真実相当性や特定事由など)
つまり、通報者が事後的に民事上の権利を主張するためには、通報先ごとのハードル(要件⑤)をクリアしていなければなりません。
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公益通報者保護法|結局どうすれば守られる?公益通報保護の要件の全体像をやさしく解説
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通報妨害の禁止(法11条の2)や通報者探索の禁止(法11条の3)が適用される要件
これに対して、令和7年改正で追加された通報妨害の禁止(法11条の2)や通報者探索の禁止(法11条の3)、および指針に定める不利益取扱いや範囲外共有の防止措置義務(法11条2項)は、要件①〜④(=法2条1項に定める「公益通報」該当性)を満たしていれば足ります。
通報先ごとの保護要件(要件⑤。例えば、マスコミ通報における真実相当性など)を満たしているかどうかにかかわらず、労働者やフリーランス等が公益通報を行う、または行ったという行為そのものに対し、事業者が口止めをしたり、犯人捜しを行ったりすることは、禁止行為・義務違反にあたります。
この要件範囲の違いは、実際の通報対応においても前提として知っておく必要があります。”この通報は真実相当性(要件⑤)が怪しいから、犯人を突き止めて処分して構わない”といった誤った判断は、避けなくてはいけません。
条文の文言からわかる違い
この適用の広さの差は、法律の文言を見比べるとわかります。
解雇無効や不利益取扱いの禁止を定める法3条~法5条では、不利益取扱いの禁止の要件について、”法3条1項各号に定める公益通報をしたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない”という規定ぶりになっています。
法3条1項各号は、通報先ごとの保護要件を定めていますので、これはつまり、”保護要件を満たす公益通報をしたことを理由として”と書かれていることになります。
法3条は、見出し上は「解雇の無効」の話ですが、法4条(派遣契約解除の無効)や法5条(フリーランスへの不利益取扱いの禁止)、法7条(損害賠償の制限)は、いずれも「法3条各号に定める公益通報をしたことを理由として」という形で法3条を引用する作りになっているため、実質的には法3条が保護要件全体の本体として機能しています。
他方で、通報妨害や通報者探索の禁止を定める法11条の2や法11条の3の条文を見ると、こういったフレーズは登場しません。シンプルに、公益通報をしたこと、公益通報者とだけ規定されています。これは、法2条1項が定める「公益通報」の定義(要件①〜④)を満たす行為そのものを広く指しています。
消費者庁のQ&Aでも、不利益取扱いからの保護要件(法3条各号)を満たしていなかったとしても、法2条1項に規定する公益通報を行った者であれば、法11条の3の通報者探索の禁止は適用されると明確に回答されています。このQ&Aも踏まえつつ、条文上の文言の違いを確認しておきましょう。
▽公通法Q&A〔令和8年5月29日時点〕保護要件Q13
仮に本法第3条第1項各号に規定する不利益取扱いからの保護要件を満たさない場合、通報者探索の禁止(本法第11条の3)の規定も適用されないのですか。
本法第3条第1項各号の要件を満たしていなかったとしても、本法第2条第1項に規定する「公益通報」を行った「公益通報者」であれば、通報者探索の禁止(本法第11条の3)の規定は適用されます。
結び
本記事のハイライトとして、要点をチェックリスト風にまとめます。
通報者保護のための措置に関するチェックリスト
- 【口止め条項の排除】 誓約書、就業規則、退職合意書等において、社外への公益通報を制限するような合意条項(秘密保持条項等)が残っておらず、仮に存在するとしても法律上無効化されることを規程類に反映しているか(法11条の2第2項)
- 【探索行為の社内厳罰化】 就業規則等の懲戒規定において、公益通報者に対する報復措置だけでなく、正当な理由のない通報者探索(犯人捜し)や通報妨害(口止め)を試みた役職員に対しても、懲戒処分を含む厳正な処分を科す規定が整備されているか
- 【漏洩調査との切り分け】 社内の情報漏洩調査やセキュリティ監査を動かす際、それが実質的な公益通報者の特定につながるおそれがないか、実施前に独立した監査役や法務部門等がチェックするフローが確立しているか(Q&A Q39)
- 【定期的なフォローアップ】 通報を受けた案件が是正・クローズした後も、通報者に対して嫌がらせや冷遇が発生していないかを定期的に確認し、問題発生時に介入・救済できるプロセスが構築されているか
- 【要件の正しい理解】 「真実相当性が怪しい通報」であっても、法2条1項の公益通報の定義(要件①〜④)に該当する限り、通報者に対する口止め(妨害)や犯人捜し(探索)は法律上許されないことを、窓口および法務担当者が正しく認識しているか
不利益取扱いの防止、通報妨害の禁止、通報者探索の禁止という一連のルールは、組織が健全な自浄作用を維持するための仕組みとして、法第3章の「事業者がとるべき措置等」に組み込まれています。
特に、要件⑤(保護要件)をクリアしていないからといって、不用意に犯人捜しや口止めを行うことは、会社自らに対する行政処分(是正命令や実名公表)を招きかねませんので、留意が必要です。
改正法の施行も機に、これら禁止行為の要件範囲を正しく理解し、管理職への周知徹底や規程のアップデートを進めていきましょう。
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本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
参考資料
- 公益通報ハンドブック〔令和8年12月施行版〕(消費者庁)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 逐条解説(消費者庁)|消費者庁HP
- 裁判例の収集(概要/裁判例一覧/論点整理表)〔2022年度調査〕|消費者庁HP(≫掲載ページ)
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(※)上記は令和2年改正(令和4年6月施行)版です
(※)上記は令和2年改正(令和4年6月施行)版です