AIガバナンス 弁護士法

【令和8年8月公表】法務省ガイドライン「ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係」を解説

AIを活用した契約書の作成や審査、法律問題のリサーチなど、企業の法務業務を効率化するのが、AIリーガルテックです。

便利な技術ですが、これまでは弁護士資格を持たない者が報酬を得て法律事務を扱ってはならないと定める弁護士法72条(非弁行為の禁止)との境界線が曖昧で、サービス開発や導入を躊躇する萎縮効果が課題となっていました。

こうした中、令和8年8月21日、法務省から新しいガイドラインが公表されました。さらに、将来的な法律の制定なども視野に入れたルールメイキングのロードマップも同日に発表され、業界で注目を集めています。

法務省がAI法務の新ルール策定 リーガルテック後押し、規制緩和へ [AIの時代]:朝日新聞
法務省がAI法務の新ルール策定 リーガルテック後押し、規制緩和へ [AIの時代]:朝日新聞

www.asahi.com

今回は、検討の起点となった背景から、新しいガイドラインで何が決まったのか、そして将来のロードマップまで、ポイントをわかりやすく整理して解説します。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。




検討の起点:令和8年1月の法務省資料にみる課題

法務省は、令和5年8月にも、契約書自動レビューを対象とした最初のガイドラインを公表していました(「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」)。

しかし、その後の生成AIやLLMの急激な技術進化に伴い、より高度なサービス(自動作成や法的アドバイスなど)が次々と登場し、現行のルールでは対応しきれないという声が高まっていました。

これを背景に、今回の新たな検討の起点となっていた法務省の検討資料が、「弁護士法72条とAIリーガルテックサービス」(令和8年1月9日)です。

参考リンク

法務省提出資料「弁護士法72条とAIリーガルテックサービス」|規制改革推進会議 デジタル・AIワーキング・グループ 第6回(2026/1/9):内閣府HP(≫掲載ページ

この段階で、以下のような課題や方向性が整理されていました。

  • 萎縮効果の解消:曖昧なルールが新規サービスの開発を止めてしまっており、日本の国際競争力を低下させている懸念
  • 技術的・社会的リスクへの対応:AIのハルシネーション(嘘の回答)や個人情報の漏洩、それによるユーザーの不利益を防ぐため、ガバナンス(適切な運営・管理)を評価に組み込む必要性

このイノベーションの促進適切なガバナンスによるユーザー保護の両立を目指した議論が、今回の新ガイドライン公表へと繋がっています。

新しいガイドラインで結局どうなった?違法・適法の分水嶺

ここからがメインテーマである、”では、AIリーガルテックは具体的にどう設計・運用すれば弁護士法第72条に違反しない(セーフとなる)のか?”という分水嶺の話です。

法務省が公表した新しいガイドラインでは、これまでのこのサービスはOK、これはNGという単純な機能のリストアップから脱却し、AIの仕組みサービスの使われ方に踏み込んだ判断基準を示しました。

その核心部分は、

  • 行為主体の議論
  • 事件性と価値中立性
  • 価値中立性を満たすための3つの基準
  • 具体的なガバナンス措置

の4つに整理することができます。以下、順に詳しく解説します。

01|そもそもAIの出力は誰の行為になるか(行為主体の議論)

AIリーガルテックが提供するサービスは、考えようによっては、”AIが勝手に答えたことだから、サービスの提供会社に責任はないのでは?”と見る余地もあるように思えます。しかし、ガイドラインはこの点について鋭い整理を行っています。

AIへの具体的な質問(プロンプト)を入力するのは利用者(ユーザー)自身です。しかし、システムの設計上、ユーザーがプロンプトを入れると自動的に具体的な法的アドバイス(鑑定など)が生成・表示される機能が備わっている場合、ユーザーの入力行為はサービス提供者側が企図していた一連の流れの契機(きっかけ)にすぎないと判断されます。

つまり、裏側で自動的に法的推論を返す仕組みを構築・提供している以上、全体の流れはサービス提供者(リーガルテック企業)自身の行為として法的に評価されます。したがって、非弁行為にあたらないための設計・運用ルールがやはり必要、ということになります。

何が論点なのか:ただのツール vs 実質的なアドバイス

この行為主体の議論は、一見すると、AIリーガルテックが回答を出力するのだから、サービスの提供会社(リーガルテック企業)自身の行為とみなされるのは当たり前では?と思うかもしれません。問題の所在がわかりにくいので、もう少し説明します。

① 問題の所在:ツール(道具)を貸しているだけ?

具体的な質問(プロンプト)を入力し、AIから回答を引き出して業務に活用するのは、ユーザー(利用者)自身です。この観点からは、以下のような、責任をユーザーに帰属させる論理も考えられます。

”企業は、適法で中立的なITインフラやツールを提供しているだけであり、法律事務(アドバイス)を行っている主体は、それを主体的に操作・活用しているユーザー自身である(法律事務を行っている=頭を動かしているのは、その道具を使っているユーザー自身)。したがって、ツールの提供者にすぎない企業は、そもそも弁護士法72条の規制対象にならないはず。”

もしこの道具の提供にすぎない(=出力はユーザーの行為である)という理屈がそのまま通れば、リーガルテック企業は弁護士法のリスクから解放されることになります。

② 法務省:ユーザーの入力はただの「引き金(スイッチ)」にすぎない

これに対し、今回の最新ガイドラインで法務省が示した判断は、以下のようなものでした。

”ユーザーがプロンプトを入力したら、自動的に法的リスクを指摘したり、契約書の修正案を出力したりする高度なシステムを、あらかじめ設計して提供しているのは企業側である。ユーザーが質問を入力する行為は、あらかじめ用意されたシステムを起動するための単なる契機(スイッチを押すきっかけ)にすぎない。したがって、プロンプトを入力したのが誰であれ、法的な性質から規範的に評価すれば、これはサービス提供者(リーガルテック企業)自身が法律事務を行っているのと同義である。”

③ なぜこれが問題(分水嶺)なのか

この判断によれば、リーガルテック企業はITツールの貸出し者であるという論法は成り立ちません。

自動で法律アドバイスを返すシステムを提供している以上、どんなにユーザー主導のチャット形式であっても、法的にはリーガルテック企業が自ら法律事務を取り扱っているとされます。

つまり、結論的には弁護士法72条の違反になるかもしれない土俵の上に立たされることになります。

そのため、では、その土俵の上で、どうすれば違反にならずに適法と認められるのか?という、以下の価値中立性ガバナンス措置の設計が、企業にとって重要な意味を持つことになります。

【ポイント】行為主体性について判断した最高裁平成26年決定

 法務省がこのような規範的評価により判断するとした背景には、最決平成26年11月25日(わいせつ電磁的記録等送信頒布等被告事件)があります。

1.事件の争点

 会員制の動画配信サイトにおいて、会員が投稿したわいせつな動画ファイルをサーバーに自動保存し、他の顧客(会員)がダウンロード操作をすることで動画が配信される仕組みを構築していました。実際に送信の引き金を引いて操作しているのはサイトを閲覧している顧客(ユーザー)であるため、サイト運営者自身が能動的に動画を「送信し、頒布(配る)した」といえるか(運営者自身に罪が成立するか)が争われました。

2.最高裁の判示(規範的評価のロジック)

 最高裁は以下のように判示して、操作を行ったのが顧客であっても、サイト運営者自らがデータを送信して「頒布」したと認め、有罪と判断しました。

「そして、前記の事実関係によれば、被告人らが運営する前記配信サイトには、インターネットを介したダウンロード操作に応じて自動的にデータを送信する機能が備え付けられていたのであって、顧客による操作は被告人らが意図していた送信の契機となるものにすぎず、被告人らは、これに応じてサーバコンピュータから顧客のパーソナルコンピュータへデータを送信したというべきである。」

 つまり、顧客がボタンを押すことは、あらかじめ運営者が構築した自動送信システムを動かすための単なる契機(きっかけ)にすぎず、規範的に評価すれば、動画データを送り届けて保存させた実質的な行為の主体は運営者(事業者)であると判断しています。

02|適法性の鍵となる「事件性」と「価値中立性」

事件性

弁護士法72条で非弁活動が禁止されているのは、訴訟事件その他一般の法律事件に関する法的処理です。

法務省は、以前からこの「法律事件」には事件性が必要(=事件性のある案件)との解釈をとっており、この事件性とは、法的紛議(法律上の争いやトラブル)が現に顕在化しているか、または生じることがほぼ不可避に想定され得る案件を指します(法務省としては、その根拠として最高裁平成22年決定を挙げています) 。

最決平成22年7月20日(刑集64巻5号793頁)(ビル立ち退き交渉事件)|裁判所HP(裁判例検索)

「所論は、A社と各賃借人との間においては、法律上の権利義務に争いや疑義が存するなどの事情はなく、被告人らが受託した業務は弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものではないから、同条違反の罪は成立しないという。しかしながら、被告人らは、多数の賃借人が存在する本件ビルを解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務を、報酬と立ち退き料等の経費を割合を明示することなく一括して受領し受託したものであるところ、このような業務は、賃貸借契約期間中で、現にそれぞれの業務を行っており、立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、同契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。そして、被告人らは、報酬を得る目的で、業として、上記のような事件に関し、賃借人らとの間に生ずる法的紛議を解決するための法律事務の委託を受けて、前記のように賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いもしながら、これを取り扱ったのであり、被告人らの行為につき弁護士法72条違反の罪の成立を認めた原判断は相当である。」

価値中立的行為

ここで、ガイドラインは価値中立的なサービス提供という重要な概念を提示しました。これは、事件性のある紛争解決にも、そうではない日常的な通常業務(通常の契約書審査や文献リサーチ等)にも、どちらの用途にも使えるツールを意味します 。

以下の最高裁平成23年決定の考え方をベースに、ツール自体が価値中立的なものである場合、利用者が自らの判断で事件性のある案件にそれを使ってしまったからといって、その事後的な他律的要素だけでサービス提供者側を直ちに違法(非弁行為)と評価することは、責任主義の観点から困難であると整理されました 。

最決平成23年12月19日(刑集第65巻9号1380頁)(Winny開発者事件)|裁判所HP(裁判例検索)

「⑵ もっとも、Winnyは、1、2審判決が価値中立ソフトと称するように、適法な用途にも、著作権侵害という違法な用途にも利用できるソフトであり、これを著作権侵害に利用するか、その他の用途に利用するかは、あくまで個々の利用者の判断に委ねられている。また、被告人がしたように、開発途上のソフトをインターネット上で不特定多数の者に対して無償で公開、提供し、利用者の意見を聴取しながら当該ソフトの開発を進めるという方法は、ソフトの開発方法として特異なものではなく、合理的なものと受け止められている。新たに開発されるソフトには社会的に幅広い評価があり得る一方で、その開発には迅速性が要求されることも考慮すれば、かかるソフトの開発行為に対する過度の萎縮効果を生じさせないためにも、単に他人の著作権侵害に利用される一般的可能性があり、それを提供者において認識、認容しつつ当該ソフトの公開、提供をし、それを用いて著作権侵害が行われたというだけで、直ちに著作権侵害の幇助行為に当たると解すべきではない。かかるソフトの提供行為について、幇助犯が成立するためには、一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり、また、そのことを提供者においても認識、認容していることを要するというべきである。すなわち、ソフトの提供者において、当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、その公開、提供を行い、実際に当該著作権侵害が行われた場合や、当該ソフトの性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で、提供者もそのことを認識、認容しながら同ソフトの公開、提供を行い、実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り、当該ソフトの公開、提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である。」

【ポイント】新ガイドラインにおける位置づけ

 新ガイドラインは、この平成23年決定のロジックをリーガルテックの分野に応用しています。

 AIリーガルテックサービスが、事件性のある案件にも、事件性のない通常の契約書チェックや文献リサーチにもどちらにも使える価値中立的なものである場合、利用者が自分の判断で勝手に事件性のある紛争案件にそのAIを使ってしまったとしても、例外的とはいえない範囲のユーザーが、事件性のある案件への悪用にサービスを使っていることを提供者側が認識・認容しながら放置しているなどの特殊な事情がない限り、サービス提供者に弁護士法違反の責任(正犯責任)を問うことは責任主義の観点から困難である、とするロジックとして活用されています。

03|適法性を分ける3つの基準(分水嶺)

では、どうすれば自社のサービスが価値中立的なものとして認められるのでしょうか。ガイドラインは以下の3つの基準を満たす必要があるとしています。

  • 設計の意図:提供するサービスの設計・目的が、現にトラブルが起きている案件や不可避な紛争(事件性のある案件)に利用させることを目指したものでないこと
  • 機能の特性:事件性のある案件に特化した機能(例:裁判所に提出する訴状答弁書の作成、示談交渉のための和解契約書の自動作成に特化したUIや案内表示など)を具有していないこと
  • ガバナンス体制:利用者による不適切な利用(事件性のある案件への悪用)を回避するための適切な管理体制(ガバナンス措置)が整備されていること

▽法務AIガイドライン 第2-2-⑵-ウ

 具体的には、例えば、①提供するサービスの設計、中核的機能、用いられている技術等が、法的紛議が現に顕在化している案件や法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得る案件に関する「鑑定…その他の法律事務」に利用させることを目指したものでなく、②また、こうした案件に関する「鑑定…その他の法律事務」への利用に特化した、あるいは特化しているとまではいえなくても、「事件性」のある案件に関する「鑑定…その他の法律事務」への利用が念頭におかれた特性・機能等(注9)を具有するものではないサービス提供行為は、サービスの設計・機能上、価値中立的なサービス提供行為といい得るものと考えられる。
 そして、このように①及び②の要件を充足することにより価値中立的なサービス提供行為であるといい得る場合においては…(中略)…などの本ガイドラインの後記第3・2のガバナンス措置を講じるなどして、サービス利用者による不適切な利用を回避するための適切な体制を整備しているといい得るとき(③)には、もとより当該サービスの性質、サービス利用者による客観的な利用状況、提供方法など個別の事案によるものの、一般的には、当該サービス提供者によるサービス提供行為は、客観的に見て、サービス利用者のうち例外的とはいえない範囲の者が同サービスを「事件性」のある案件に関する「鑑定…その他の法律事務」に利用する事態を企図してサービス提供を行っているものではないと評価し得、「事件性」のある案件に関する「鑑定…その他の法律事務」への不適切な利用の蓋然性を低減してサービスの価値中立性を補完するとともに、サービス利用者によるこのような不適切な利用の蓋然性が高いことの認識・認容を否定する方向に働くものと考えられる(注 11)(注 12)。

特に重要なのが③ガバナンス体制です。適切なガバナンス措置を講じていることは、提供者が不適切な利用を企図・容認していないことを証明する(主観的な認識・認容を否定する)事情として働きます。

価値中立的なサービスの類型

この価値中立的なサービス(原則セーフ)に該当する代表的な企業法務業務として、以下の7類型が示されています 。これらを目的とするサービス提供は、適切なガバナンス体制が整備されている限り、原則として弁護士法72条に抵触しません 。

  1. 文献その他のリサーチ・法的問題点の検討業務支援
  2. 書面作成・審査・管理業務支援
  3. 社内研修や経営判断の適法性確認等を含むガバナンス・リスク管理・コンプライアンス業務支援
  4. 内部通報事案の調査支援
  5. 新規業務スキームの構築・事業再編等業務支援
  6. 従業員・顧客・取引先等とのトラブルが発生した場合の対応方針を決定するための内部調査支援
  7. 株主総会・取締役会その他の会議業務支援

▽法務AIガイドライン 第2-3

 前記第2・1及び2で示した基本的な考え方を前提にして、令和5年ガイドラインにおいて契約書等関連業務支援サービスに関して示した考え方を敷えんする形で具体的に説明すれば、最終的には、契約の目的、提供するサービスの内容・形態、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情をもとに個別具体的に判断することになるものの、ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス一般についても、通常の業務に伴う、例えば、文献その他のリサーチ・法的問題点の検討業務支援、書面作成・審査・管理業務支援、社内における研修・経営判断の適法性確認等を含むガバナンス・リスク管理・コンプライアンス業務支援、内部通報事案の調査支援、新規業務スキームの構築・事業再編等業務支援、従業員・顧客・取引先等とのトラブルが発生した場合に会社としての対応方針を決定するための内部調査・・・・支援、株主総会・取締役会その他の会議業務支援等を目的とするサービスの提供は、その提供するサービスの設計、中核的機能、用いられている技術等が、法的紛議が現に顕在化している案件や法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得る案件に関する「鑑定…その他の法律事務」に利用させることを目指したものでなく、また、こうした案件に関する「鑑定…その他の法律事務」への利用に特化した、あるいはこうした利用が念頭におかれた特性・機能等を具有するものではない限りにおいては、一般に「事件性」のある案件に関する「鑑定…その他の法律事務」に利用されることを当然の前提としない、価値中立的なサービス提供であるといい得るものと考えられる。

価値中立的でないサービスの類型

これらの基準を満たさず、非弁行為として弁護士法72条に違反するおそれが高いと評価される例が、以下の4類型です 。これらは設計・機能(システム自体)に問題があるケースと、用法(実際の使われ方と提供者の認識)に問題があるケースに大別されます。

  • 設計・機能上の問題(2例)】(法務AIガイドライン 第2-4-⑴)
    1. 紛争案件の処理特化モデル:法的紛議が現に顕在化している事案や、法的紛議が生じることがほぼ不可避に想定され得る案件の処理を目指して設計されたサービスの提供
    2. 裁判書類・対外交渉書面の作成機能:弁護士の関与なしに、訴状、準備書面、答弁書、証拠説明書といった裁判所への提出書面や、示談のための和解契約書など、法的紛議を前提とした対外使用書面の作成に特化した(あるいはこうした作成を念頭においた)機能・サービスの提供
  • 用法上の問題(2例)】(法務AIガイドライン 第2-4-⑵)
    1. 非弁活動の認識・容認:非弁活動を現に行っている(あるいは行おうとしている)不適切な利用者や、サービスを事件性のある案件に継続的・反復的に利用しようとする者に対し、それを認識・認容しながらサービスを提供し、実際に利用されているとき
    2. 不適切利用の蓋然性の認識・放置:利用者のうち例外的とはいえない範囲の者が、サービスを事件性のある案件に利用する蓋然性が高いと認められる具体的な状況において、提供者側がそれを認識・認容しながら、利用を回避する合理的な措置(警告や利用停止など)をとらずに放置し、実際に利用されているとき

04|実践すべき具体的なガバナンス措置(8つの推奨事項)

不適切な利用(事件性のある案件への悪用)を回避し、サービスが価値中立的であることを実質的に補完するために、サービス提供者が講じるべき具体的なガバナンス措置として、ガイドラインでは実務に即した8つの推奨事項が示されています。

また、適切なガバナンス体制を講じていることは、提供者側が不適切な利用を企図・容認していないことを示す判断材料(主観的認識を否定する事情)となります 。

新ガイドラインのサマリー資料(法務AIガイドライン概要)では、「AI事業者一般:1項目+法務AI事業者特有:5項目」に整理されていますが、本記事では後者をもう少し細かく分けています

① AI事業者一般に共通するガバナンス指針の履践

個人情報保護法や著作権法等の関連法令を遵守すること、また、総務省・経済産業省が発出しているAI事業者ガイドライン等の政府指針が推奨するリスク対策(セキュリティ確保やバイアスへの配慮等)を自主的に実施することが求められます。

次の②以下は、法務AI事業者特有の事項です。

② 日本国内におけるインシデント対応窓口等の設置

外資系企業や海外クラウドを利用する場合であっても、弁護士法違反の懸念などのトラブル(インシデント)が発生した際に、国内で迅速かつ実質的な調査・対応ができる窓口を設ける必要があります。

③ 日本の弁護士資格者による実質的な関与

システムや機能の設計段階において、日本の弁護士が単なる形式的な名義貸しではなく、機能要件の策定や出力品質の検証、表示内容のリーガルチェックに実質的に監修・アドバイザーとして関与することが求められます。

④ 学習データ・出力結果等の品質・信頼性の確保

また、RAG等で参照する学習データや出力の信頼性を担保する仕組みを整えることも重要です。

ハルシネーション(嘘の出力)のリスクやRAG(検索拡張生成)などの技術的制約について利用者に十分に説明すること、また、最新の公式情報などの信頼性の高い情報源を優先的に表示させるなど、出力の信頼性を担保する措置を講じることが求められます。

⑤ 誤認を与える表示の不使用

サービスの広告や名称、出力画面等において、「弁護士の代わりに完璧な判断を下す」「法的結論の正確性を100%保証する」など、利用者に専門家と同等の効用を保証するかのような過度な信頼や誤認を抱かせる表現・表示を排除します。

⑥ サービス利用者の適格性確保と利用停止措置

非弁活動や犯罪への悪用を企図する不適切な利用者を排除するため、利用開始時にどのような目的で使うのかを審査する措置を講じます。

また、規約違反や非弁活動への悪用を検知した場合には、確実にアカウントを停止できる仕組み(利用停止措置)を整備しておかなければなりません。

⑦ ディスクレーマー(警告)の明確な表示

利用規約に小さく書いて同意させるだけでは不十分です。

画面上の直感的に目に入る場所(ユーザーが質問を入力する前の段階や、回答が出力された画面など)に、「本サービスは事件性のある案件には利用できないこと」、「法的結論を保証するものではなく弁護士の判断に代わるものではないこと」などの警告を明確に表示する必要があります。

⑧ UI(操作画面)・機能設計上の配慮と弁護士案内

事件性のある案件への利用を誘発しないUI設計(例:高リスクな機能には視覚的・レイアウト的に警告を強調するなど)を行います。

また、出力された情報には参照元や根拠情報を表示し、必要に応じて日弁連の弁護士検索サービス(ひまわりサーチ)等にスムーズに遷移・案内できる仕組みを導入して、専門家への相談を自発的に促す補完措置をとることが推奨されています。

【Column】検討過程でも揺れた出力制限(ガードレール)の扱い

 ガイドライン策定の検討段階では、不適切な利用を防ぐために、そもそも「訴状」などの単語が入力されたら出力をシステム側で拒否する(出力制限・ガードレール)を義務・推奨とすべきか、といった議論も行われました。

 リーガルテック業界からは、現在の技術水準では、過剰遮断(問題のない通常の質問まで止めてしまう)が発生して利便性が著しく損なわれる、プロンプトを工夫すれば簡単に回避できてしまうため実効性が低い、多大なコストがかかり事業展開に多大な支障をきたす、といった懸念が示されました。一方で、法曹界からは、技術的に可能な範囲で、限定的にでも主要な裁判書面の作成をブロックするような出力制限をかけることは実効性がある、との意見も寄せられました。

 最終的に法務省は、現時点の技術水準等に照らすと、適法な利用に影響を与えない実効的・合理的な出力制限の範囲を明確にすることは困難であるとして、ガイドライン上の推奨事項としての明記は見送りました。出力制限の導入については、サービス提供者の自主的な判断に委ね、今後の技術進捗を踏まえた検討課題とする柔軟な決着となっています((注22)参照)。

まとめ:新ガイドラインの目次

以下、まとめ代わりに、新ガイドラインの目次を記載してみます。ざっと眺めるだけでも、全体像がわかります。

法務AIガイドラインの目次

大目次目次細目次
第1 本ガイドラインの趣旨・考え方
第2 AI等法務業務支援サービスの提供の場面における「訴訟事件…その他一般の法律事件」に関する「鑑定…その他の法律事務」取扱該当性
1 AI等を用いたサービス提供の場面における規制対象行為の主体についての基本的な考え方
2 AI等を用いたサービス提供の場面における「事件性」のある案件に関する「鑑定…その他の法律事務」取扱該当性についての基本的な考え方⑴ 「訴訟事件…その他一般の法律事件」の意義
⑵ サービス提供者の「事件性」のある案件に関する「鑑定…その他の法律事務」取扱該当性の判断基準ア サービスの設計・機能に関して考慮すべき基本的な考え方
イ サービスの用法に関して考慮すべき基本的な考え方
ウ 以上の考え方を踏まえたサービス及び機能設計上の留意点
3 一般的なAI等法務業務支援サービスへの具体的当てはめ
4 AI等法務業務支援サービスの提供につき、「事件性」のある案件に関して「鑑定…その他の法律事務」を取り扱ったと考えられる場合の具体例⑴ サービスの設計・機能上「事件性」のある案件に関する「鑑定…その他の法律事務」に利用させることを前提としていると評価され得るものの具体例
⑵ サービスの用法上「事件性」のある案件に関する「鑑定…その他の法律事務」に利用させることを前提としていると評価され得るものの具体例
⑶ 小括
第3 弁護士法第72条及びその趣旨を踏まえたサービス提供上の留意・推奨事項
1 総論
2 ガバナンス上の具体的留意・推奨事項⑴ AI事業者一般に共通するガバナンス上の留意・推奨事項の履践
⑵ AI等法務業務支援サービス特有のガバナンス上の留意・推奨事項ア 日本国内におけるインシデント対応窓口等の設置
イ 弁護士によるサービス及び機能設計等への実質的関与による学習データ・出力結果の品質・信頼性の確保等
ウ 誤認を与える表示の不使用及びサービス利用者の適格性確保
エ 利用上の留意事項のプロンプト等入力前段階・出力結果等への明示
オ UI・機能設計上の配慮
第4 附則




同日発表:令和8年8月のロードマップが描く今後の展望

さらに同日、法務省から「AI等を活用した法務業務及びその支援の将来像を見据えたルールメイキングの在り方検討のロードマップについて」という将来に向けた計画が公表されました。

今回のガイドラインはあくまで現行法の枠内での解釈の明確化にすぎません。しかし、今後は自律的に判断・行動するAIエージェントなどが普及し、さらに法務の実態が変化していきます。

そこで、より抜本的な新ルール(新法の制定や、業界の自主規制ルールの構築)を見据えた有識者検討会が、令和8年夏に立ち上げられることになりました。

ロードマップで示されたスケジュールは以下のとおりです。

  • 令和8年度中(目途):法学、AIガバナンス、技術、経済界など幅広い専門家が集まり、検討会としての取りまとめを実施
      ▼
  • 令和9年度中(目途):取りまとめに基づき、新法の整備や自主規制のあり方など、具体的な措置に向けた検討を実施
      ▼
  • 令和10〜11年度(目途):AI時代における、信頼性と公正性の高い新しい司法制度の実現

結び

今回の新しいガイドラインの公表により、企業やスタートアップはどのようなガバナンス体制を組めば、安心してリーガルテックを開発・利用できるかについての道標を得ることができました。

そして、今まさにスタートした法務省のロードマップにより、数年後にはさらに進化したAI時代の新しい法律・ルールが作られていくことになります。法律とテクノロジーが交差するこの分野の今後の動向にも注目です。

弁護士法 - 法律ファンライフ
弁護士法 - 法律ファンライフ

houritsushoku.com

【PR】管理部門・士業特化型エージェント(サービス概要はこちら)/下のバナーで相談フォームに進めます

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

弁護士法

ビジネスと弁護士法(総論)|非弁行為該当性の判断ポイント

AIガバナンス 弁護士法

【令和8年8月公表】法務省ガイドライン「ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係」を解説

インハウス転職 弁護士法

インハウスローヤー転職と非弁の論点(前編)|転職活動時の注意点

弁護士法

ビジネスと弁護士法|離婚協議書の自動作成サービス

弁護士法

弁護士法|非弁行為の禁止(法72条)~非弁行為の要件と違反の効果

主要法令等

-AIガバナンス, 弁護士法