印紙税法

印紙税法|「人材紹介契約書」の印紙税について解説~第2号・第7号・請負と成果完成型委任の区別など

今回は、印紙税法ということで、人材紹介契約書の印紙税について見てみたいと思います。

人材紹介契約書(有料職業紹介基本契約書など)の印紙税については、結論からいうと、印紙税が課されない不課税文書であり、収入印紙を貼る必要はありません。本記事では、法令や基本通達などに直接的な根拠があるかどうかや、どのような法理に裏付けられているかを検討していきます。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

基本通達や問答による直接的な根拠の有無

まず、基本通達や印紙問答(質疑応答事例など)の中に、「人材紹介契約書」あるいは「職業紹介契約書」といったものを直接扱い、課否を解説している箇所は見当たりません(管理人の知る限り)。

しかし、請負と委任の区別不課税とされる類似の契約書の例示第7号文書(継続的取引)の限定列挙ルールといった基本ルールから、人材紹介契約書が不課税文書であることを理解することができます。

以下、その論理的な根拠をステップ順に解説します。

不課税の論理的根拠

① 請負ではなく、不課税となる委任(準委任)に該当するため

印紙税法上、他人の労務・労働力を利用する契約において、課税対象(第2号文書:請負に関する契約書)となるか、対象外(不課税:委任契約書)となるかの仕分け基準は、以下のように定義されています。

  • 請負(課税・第2号)
    請負は仕事の完成が目的である。完成された仕事の結果を目的とする点に特徴があり、仕事の内容が特定していて、報酬の支払が仕事の結果と対応関係にある
  • 委任(不課税)
    委任は一定の目的に従って事務を処理すること自体が目的であり、必ずしも仕事の完成を目的としていない点にその違いがある。仕事の内容が相手方の処理に委ねられていて、仕事の成否の有無を問わずに報酬が支払われる

人材紹介(職業紹介)契約は、クライアント企業に対して適合する求職者を探し、紹介・引き合わせるという事務処理の委託です。最終的に採用を決定するかどうかは企業の自由な処理に委ねられており、特定の人物を必ず就職・採用させること(仕事の完成)を目的とするものではありません。

したがって、請負ではなく委任(準委任)契約に該当するため、第2号文書(請負)としては不課税となります。

あわせて読みたい
印紙税法|第2号文書「請負に関する契約書」を解説~委任との区別・第7号文書との違いなど

続きを見る

② 不課税として例示されているあっせん契約や人材派遣と同性質であるため

委任契約に当たる(不課税となる)契約書として一般的に例示されるものの中には、人材紹介の性質と合致する契約書がいくつかあります。

例えば、あっせん契約書です(不課税)。あっせん契約書とは、他人間の取引が成立するよう情報、助言等を提供することを定めるものであり、不動産の媒介契約書などが典型例です。

人材紹介(職業紹介)の本質は、求人企業と求職者という他人間の雇用契約(取引)が成立するように、情報の提供や引き合わせ(あっせん)を行うことです。そのため、このあっせん契約の不課税根拠がそのままあてはまるといえます。

また、人材(労働者)派遣契約書(不課税)も挙げられます。これは、労働者派遣法に基づいて人材(労働者)を相手方に派遣して、その指揮監督下で労働することを定めるものですが、不課税とされます。

このように類似する人材サービスである人材派遣契約書も、同じく委任(準委任)契約として不課税であるとされています。

③ 基本契約の形態をとっても第7号文書に該当しないため

人材紹介契約は、多くの場合、将来反復して紹介を行うための基本契約書の形態をとります。これにより第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当して4,000円の印紙が必要になるのではないかという疑問も生じます。

しかし、第7号文書の対象範囲(令26条各号)は法律上、以下のように限定されています。

  • 第1号(令26条1号):営業者間における売買、売買の委託、運送、運送取扱い、請負の基本契約
  • 第2号(令26条2号)売買に関する業務、金融機関の業務、保険募集の業務又は株式の発行若しくは名義書換えの事務の継続的委託契約

人材紹介(職業紹介)は請負でも売買でもなく、また保険募集や金融等のいずれの事務委託にも該当しません。したがって、たとえ継続的な基本契約であっても、第7号文書(継続的取引)の要件を満たさないため、やはり不課税となります。

あわせて読みたい
印紙税法|第7号文書「継続的取引の基本となる契約書」を解説~期間的要件・5つの類型など

続きを見る

その他の疑問点

もうひとつ疑問に思うのではないかという点を検討してみたいと思います。

それは、「人材紹介契約書は入社(内定承諾)により報酬が発生することが一般的だが、成果に対して報酬が支払われるので請負、ということにはならないのだろうか」という点です。成果に対して報酬が支払われるのだから、請負(2号文書)になるのではないかという疑問は、感覚的には自然なことといえます。

しかし、結論からいうと、たとえ内定承諾という成果に対して報酬が発生する成功報酬型であっても、人材紹介契約は請負にはならず、印紙税法上は不課税の(準)委任契約として取り扱われます。

基本通達における明記

実は、この成果に対して報酬を支払う委任契約請負契約の区別については、基本通達の中に明確な記載があります。

第2号文書(請負に関する契約書)の定義を定める、基本通達第2号文書の1(請負の意義)のなお書には、以下のように記載されています。

▽基本通達 第2号文書の1

(請負の意義)
1
 「請負」とは、民法第632条《請負》に規定する請負をいい、完成すべき仕事の結果の有形、無形を問わない。
 なお、同法第648条の2《成果等に対する報酬》に規定する委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約する契約は「請負」には該当しないことに留意する。(平18課消3-36、令2課消4-16改正)

民法上、委任(準委任)契約であっても成果に対して報酬を支払うという設計(成果完成型の委任)にすることは認められています。これは改正民法で確認規定が置かれるに至ったもので(以下の記事参照)、民法648条の2に定めがあります。

関連記事
業務委託契約書|何にいくら?「業務の対価」条項を解説~対価の内容・支払時期・方法など

続きを見る

そして印紙税法は、成果に対して報酬を支払う約束になっていたとしても、委任契約であるならば、請負(2号文書)としては課税しない、と明文化して除外しているということです。

請負と成果完成型委任の違い(義務の性質)

成果に対してお金を払うという共通点がありながら、なぜ法律や通達が請負と成果完成型委任を区別しているのかというと、それは、受託者が負っている義務(責任)の性質が異なるからです。

① 請負(第2号文書)の場合:結果債務(完成義務)

請負契約において、請負人は仕事を完成させる義務を負っています。

もし仕事を完成させることができなければ、それは契約違反(債務不履行)となり、相手方から損害賠償請求をされたり、契約を解除されたりします(義務の性質)。

例えば、ビルの建築(2号)で、途中でどうしても建てられなくなって放置した場合、工務店は「建てられなかった」という債務不履行に対する損害賠償責任を負います。

② 成果報酬型委任(人材紹介)の場合:手段債務(善管注意義務)

人材紹介契約において、紹介会社が負っている義務は適合する求職者を探し、誠実に紹介プロセス(事務処理)を行うことです。

紹介会社は善良な管理者の注意(善管注意義務)をもって誠実に紹介業務を行う義務を負いますが、「何が何でも採用(入社)を成立させる」という結果そのものを保証する責任までは負っていません(義務の性質)。

どれだけ頑張って探しても、採用に至らなかった(成果が出なかった)場合、報酬は1円ももらえませんが、誠実に探す努力を続けていたのであれば、「採用させられなかったこと」を理由に依頼企業から損害賠償を請求されたり、契約違反で訴えられたりすることはありません。

つまり、人材紹介契約における内定承諾(成果)は、あくまで報酬が発生するための条件にとどまっており、契約の本質的な義務を仕事の完成義務(結果債務)にすり替えるものではないのです。

結び

人材紹介契約書は、一般的な問答やFAQに直接的な言及はないものの、

  1. 仕事の完成を目的としない委任(準委任)契約であること(第2号非該当)
  2. 不課税とされているあっせん契約そのものであること(第2号非該当)
  3. 基本契約であっても第7号文書」の限定列挙に含まれないこと(第7号非該当)

という印紙税法の基本的なルールに基づき、印紙を貼る必要のない不課税文書として仕分けることができます。

今回は、印紙税法ということで、人材紹介契約書の印紙税について見てみました。

印紙税法 - 法律ファンライフ
印紙税法 - 法律ファンライフ

houritsushoku.com

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

印紙税法

印紙税法|変更契約書等の「所属の決定」ルールを解説~覚書・合意書の印紙税など

印紙税法

印紙税法|「産業廃棄物の処理委託契約書」の印紙税について解説~収集運搬と処分の別・第7号文書該当性など

印紙税法

印紙税法|「人材紹介契約書」の印紙税について解説~第2号・第7号・請負と成果完成型委任の区別など

印紙税法

印紙税法|「顧客紹介契約書」の印紙税について解説~第2号・第7号・請負と成果完成型委任の区別など

印紙税法

印紙税法|印紙税の「課否判定」を解説 ~課税文書・不課税文書・非課税文書の違い~

主要法令等

-印紙税法