今回は、業務委託契約ということで、業務の対価に関する条項を見てみたいと思います。
業務の対価に関しては、「いくら払うのか」「いつ払うのか」「どうやって払うのか」の3つを中心に押さえることが大切です。本記事では、このような対価条項の基本ポイントを整理しつつ、その他の注意点も解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
業務の対価
法律上の原則
何でもそうですが、契約条項の意味を考えるときには”その条項がなかったらどうなるのか”を考えるのが基本になりますので(=法律上の原則)、ここでもその内容を確認してみます。
請負の場合と委任の場合とで対価に関する規律が違いますので、2つに分けてみます。
違いをざっくりいうと、請負というのは仕事の完成を約すること、つまり結果を出す義務を負うことであり(結果が出なければ債務不履行)、委任というのは事務処理をすること、つまりプロセス自体が義務ということです(結果が出なくても債務不履行でない)
請負の場合
請負の場合は、有償になります。
▽民法632条
(請負)
第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
支払時期・同時履行関係については、
- 完成した物の引渡しを要しないとき=仕事の完成だけが義務(ex. 運送契約)
⇨報酬は後払い(仕事の完成が先履行) - 完成した物の引渡しを要するとき(ex. 建築請負)
⇨報酬支払いと引渡しが同時履行
となっています。要するに、基本的には後払いで、引渡しが必要なときは引渡しと同時履行、というイメージです。
任意規定であるため、前払いや分割払いの合意も有効です。
▽民法633条
(報酬の支払時期)
第六百三十三条 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。
★624条1項「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。」
部分履行の扱い、つまり仕事完成不能/中途解除になった場合であっても、
- 既にされた仕事が可分であること
- その給付によって注文者が利益を受けること
を要件に、その部分を完成とみなして割合的な報酬を請求することができます。
▽民法634条
(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
第六百三十四条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
★1号につき「注文者の責めに帰すべき事由」によるときは危険負担の一般則により全額請求(民536Ⅱ前段参照)
委任・準委任の場合
委任・準委任(以下まとめて「委任」)の場合、受任者は特約がなければ報酬を請求できません(原則無償)。
▽民法648条1項
(受任者の報酬)
第六百四十八条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
ただし、商法に、商取引の営利性を重視して一般的に報酬請求権を認めた規定があるため、ビジネスでは普通こちらが適用になります(原則有償)。
▽商法512条
(報酬請求権)
第五百十二条 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
また、有償委任の報酬タイプは、民法上、
- 事務処理の労務に対して報酬が支払われる場合(履行割合型)
- 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬が支払われる場合(成果完成型)
の2タイプに分けられています。
②の成果完成型はいわゆる民法改正(債権法改正)で新たに定められたもので、裏からいえば、”成果が得られなければ、委任の事務処理をしても報酬を支払わない”という報酬合意であり、例えば弁護士の成功報酬などはこれに該当すると考えられます。
支払時期・同時履行関係については、履行割合型は報酬は後払い(事務遂行が先履行)、成果完成型は先ほど見た請負での規律と同様となっています。
有償委任の報酬タイプ | 支払時期・同時履行 | 根拠条文 | |
履行割合型 | 報酬は後払い(事務遂行が先履行) | 民648Ⅱ | |
成果完成型 | 成果物の引渡しを要しない | 報酬は後払い(事務遂行が先履行) | 同上 |
成果物の引渡しを要する | 報酬支払いと引渡しが同時履行 | 民648の2Ⅰ |
部分履行の扱いについてもこれと似ています。履行割合型は履行の割合に応じた報酬請求が可能であり、他方、成果完成型は先ほど見た請負での規律が準用されています。
有償委任の報酬タイプ | 部分履行の扱い | 根拠条文 |
履行割合型 | 割合に応じた報酬請求が可能 | 民648Ⅲ |
成果完成型 | ①成果が可分 ②委任者が利益を受ける を要件に、割合に応じた報酬請求が可能 |
民648の2Ⅱ→民634(請負の場合の部分履行の扱い) |
条文も確認してみます。
▽民法648条2項・3項:履行割合型
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。
★624条2項「期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。」
3 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
二 委任が履行の中途で終了したとき。
▽民法648条の2:成果完成型(※【 】は管理人注)
(成果等に対する報酬)
第六百四十八条の二 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合【=成果完成型】において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。
2 第六百三十四条の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合【=成果完成型】について準用する。
★634条:請負の「注文者が受ける利益の割合に応じた報酬」
委託業務の対価に関する条項
以上が法律上の原則になりますが、以下、委託業務の対価に関する条項を考える際のポイントをいくつか挙げてみます。
対価の内容
まずそもそも論ですが、対価の内容です。端的にいうと、「何に対していくら払うのか」を明確にするということです。
対価の決め方のタイプとしては、例えば、
- 固定額(対価総額)
- タイムチャージ(時間制単価)
- 算定式による額(単価×数量/時間など算定式を決めておくタイプ)
などがあり得ます。
また、付随的な点として、消費税の表示(税込なのか税別なのか)、請求手続(請求書の発送や様式など)、適格請求書(インボイス)制度等の対応要件、振込手数料の負担などについても記載します。
ちなみに、契約書は特定の者との間での取引に関連するものなので消費税の総額表示義務の対象外ですが、社内の会計的なオペレーション上、税込価格に揃えていることが多いかと思います。
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法務の基礎|消費税の総額表示(消費税法)
続きを見る
さらに、部分履行の場合の対価の扱いについて記載するかも検討します。
支払時期
支払時期については、まず一般的には支払トリガー(納品、検収、請求書受領etcのどれなのか)を決める必要があり、
- 納品・引渡しと同時
- 検収合格日(検査合格日)や請求書受領日から○日以内
- マイルストーン達成日
- 継続的サービスにおいて「毎月〇日締め翌月〇日払い」
など、どれを基準に支払うかを明確にしつつ支払時期を記載します。
また、冒頭で触れたように、前払い(業務委託では普通ないと思いますが)のほか、着手金や中間金、分割払い(マイルストーン払い)といった段階的な支払時期の設定ももちろん可能です。
支払方法
支払方法、つまりどのように支払うかという決済方法を決めます。
通常は銀行振込が多いと思いますが、クレジットカード払い(B to Cの場合など)もありますし、電子記録債権、海外送金のケースなどいくつか特殊な要素が絡んでくる場合もあり得ます。
費用に関する定め
また、対価とはまた別の話ではありますが、業務遂行に関して生じる費用に関する定めも規定されるのが通常です。
委任契約では受託者に費用の前払請求権や償還請求権がありますが(民法649条・650条)、普通はそれに任せず、業務契約書において対価に関する条項で一緒に定めたり、別途条項を設けたりして、どのような範囲でどちらが負担するかを取り決めておきます。
細かく決める場合には、費用の具体例あるいは項目の明示、委託者の負担の上限、事前承認制とするか否かなども取り決めておくことが多いかと思います。
下請法との関係
業務委託の内容が製造委託や情報成果物作成委託などである場合、つまり下請法の適用があり得る場合は、対価に関する条項にもいくつかの留意が必要です。
下請法は一定の要件(資本金区分と取引内容)を満たす場合に適用され、発注者である親事業者にいくつかの義務と禁止行為を課します。
親事業者の義務に関する事項としては、対価に関しては3条書面への明記(下請代金に関する事項)と支払期日を定める義務(受領日から起算して原則60日以内で支払期日を定める)がありますので、これらを適切に行う必要があります。支払遅延が生じた場合には、下請法上の特別の遅延利息の支払義務(年14.6%)を負うことになります。
親事業者の禁止行為に関する事項としては、対価の内容に関して買いたたきの禁止(通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を一方的に定めること)、支払方法に関して割引困難な手形の交付の禁止(下請代金の支払いは手形によることも可だが、一般の金融機関による割引を受けることが困難と認められる手形を交付すること)に抵触しないようにする必要があります。
なお、割引困難な手形の交付の禁止は下請法の令和7年改正により廃止されます(手形払い自体が禁止されるため。施行は令和8年(2026年)1月1日から)
印紙税との関係
あと、印紙税に関して、請負であれば印紙税がかかり(課税文書となる)、委任であればかからないという根本的な違いがありますが、先ほど見たように成果完成型の委任というのがありますので、成果に対して対価が支払われるというだけで請負になるわけではないこともひとつ留意点かと思います。
もちろん何に向かって対価が支払われるのかというのも、「仕事の完成」を約している(仕事の完成を目的としている)かどうかを判断する大きなファクターになるとは思いますが、それだけで決まるわけではないということです。
成果に対して対価が支払われるから請負、という判断の仕方をしている人も見かけたことがありますが、おそらく正確ではないと思います(管理人の個人的意見)
結び
今回は、業務委託契約ということで、業務の対価に関する条項を見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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