今回は、業務委託契約書と言うことで、契約不適合責任条項について見てみたいと思います。
業務委託契約(特に請負や製作物供給契約の性質を持つ契約)における契約不適合責任条項は、納品された成果物に不具合(不適合)があった場合に、委託者が受託者に対してどのような責任を追及できるか、またその期間や条件をどのように制限するかを規定しておく条項です。
令和2年4月1日施行の改正民法により、それまでの瑕疵担保責任から契約不適合責任へと制度が再構成されました。本記事では、この改正民法を前提としつつ、契約不適合責任の基本的な仕組み、交渉における主な争点、関係法令の留意点などについて解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
契約不適合責任とは
基本概念と法的性質
改正前民法での隠れた瑕疵という概念は廃止され、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき(契約不適合)という一元的な概念に整理されました。
改正民法では、契約不適合責任を特別な法定責任ではなく、債務の本旨に従った履行をしなかったことによる債務不履行責任の特則と位置づけました(契約責任説への移行)。これに伴い、請負人の帰責事由の有無が損害賠償請求の可否に影響を与えるなど、整理の仕方が変わっています。
なお、準委任契約(仕事の完成義務を負わない役務提供)の場合には、原則として契約不適合責任は適用されず、受託者は善良なる管理者の注意義務(善管注意義務)をもって事務を処理する義務を負うにとどまります。
システム開発などで準委任か請負かの判断が分かれ、不具合時の責任追及(契約不適合か善管注意義務違反か)で争うケースがあります
委託者に認められる4つの手段
成果物に契約不適合があった場合、法律上の原則(民法)では、委託者(発注者)は以下の4つの手段を行使できます。
- 履行の追完請求:
成果物の修補、代替物の納入、または不足分の引渡しを請求できます - 代金(報酬)減額請求:
追完を請求したにもかかわらず相当期間内に追完がなされない場合(または追完不能な場合)、不適合の程度に応じて代金・報酬の減額を請求できます - 契約の解除:
不適合が取引上の社会通念に照らして軽微であるときを除き、契約を解除できます。改正前民法にあった「契約の目的を達することができないときに限る」という解除要件はなくなっています(ただし任意規定であるため変更は可能) - 損害賠償請求:
追完請求とは別に、またはこれと重複して損害賠償を請求できます。ただし、前述のとおり請負人(受託者)の責めに帰すべき事由(帰責事由)が必要です
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契約の一般条項|契約不適合責任(法律上の原則)の内容~物と権利の不適合・免除特約など
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交渉における主要な争点
契約書の作成・レビューにおいては、民法の原則をそのまま適用すると受託者にとってリスクとなる場合が多いため、双方の利害を考慮した修正をめぐってドラフトの交渉が行われます。
契約一般における契約不適合条項については以下の関連記事にまとめていますが、本記事では、もう少し業務委託契約書寄り(請負契約寄り)の視点から、改めてポイントを見てみたいと思います。
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契約の一般条項|契約不適合責任条項の解説~責任の制限と拡張・期間制限の定め方など
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① 契約不適合の定義
民法の原則では、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないこと(種類・品質・数量の不適合)とされていますが、それ以上の内容に言及するものではありません。
▽民法562条1項
(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、…
そのため、契約不適合該当性を明確にするために、その定義の広狭が交渉となることがあり、概ね、
- 受託者側:仕様書に明示的に記載された仕様との不一致などに限定し、定義を狭めようとする
- 委託者側:仕様書に書かれていなくても、例えばシステムやソフトウェアが当然に要求される性質や性能(バグも含む)を欠いている場合も不適合に含めるべきだと主張し、文言を復活・追加させる
といった主張がやり取りされます。
② 期間制限(知った時から1年か検収後・本番稼働後か)
民法の原則では、注文者が不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知すれば権利を保存できます。
▽民法637条1項
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第六百三十七条 前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
しかし、これだと引渡しや検収から数年後に担保責任を追及されるおそれがあります。そのため、受託者側としては、検収完了日から6ヶ月以内といった短期かつ明確な起算点を定め、さらに通知ではなく、具体的な損害額の根拠等を示す請求までを期間内に求めるよう制限を課すことが考えられます。
折衷案としては、例えばシステム開発等の場合、検収後すぐに本番稼働するとは限らないため、本件ソフトウェアの本番稼働を開始した日から1年間(または6ヶ月以内)などとし、かつ検査で直ちに発見できない性質の不適合については発見した時(知った時)から6ヶ月以内とするなどの妥協案(=起算点を後ろにズラす)がとられることもあります。
また、受託者が検収時に不適合を知り、または重大な過失によって知らなかった場合や、受託者の故意・重過失による不適合には、この期間制限を適用しない例外(民法637条2項の趣旨)を明記することが委託者側のリスクヘッジとなります(悪意・重過失の場合の不適用)。
▽同条2項
2 前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。
③ 追完方法の選択権と過分な費用の扱い
民法の原則では、追完の方法(修補か代替品か)は原則として注文者が選択しますが、請負人は不相当な負担を課すものでない限り、異なる方法で追完することができます(民562Ⅰ)。また、修補に過分の費用を要する場合は修補義務を免れます(改正民法では履行不能の規定である412条の2によって処理。部会資料81-3参照)。
▽民法562条1項
(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
▽民法(債権関係)改正 部会資料81-3・18頁
民法第634条第1項ただし書は、仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の修補請求権の限界について定めるものであるが、これは履行請求権の一般原則についての規律(部会資料79-1第7、1)に委ねられるべきものであることから、素案では、重複を避けるために、部会資料72A第1、2⑴のただし書を削除した。
これに対し、受託者側としては、追完の方法を自らの裁量で選択できるように定めることが考えられます。
逆に、委託者側としては、契約不適合が重要である場合には、過分の費用を要するとしても受託者の費用負担で修補(修正)を求めることができるようにドラフトを修正することなどが考えられます。
④ 救済措置の制限:追完請求以外の手段の遮断
民法の原則では、成果物に契約不適合があった場合、前述のように、委託者(発注者)は4つの手段を行使できます(追完請求、代金減額請求、解除、損害賠償請求)。
これに対して、受託者側としては、予見可能性を確保するため、委託者が行使できる権利を追完請求(例:システム開発においてはバグ修正)に限定し、代金減額請求や損害賠償請求、解除権の行使を遮断・排除しようとすることが考えられます。
委託者側としては、受託者が適切に追完を行わない場合に備え、追完請求を行ってもなお相当期間内に不適合が解消されない場合等において、解除、損害賠償、代金減額請求権を明示的に確保しておく必要があります。
⑤ 注文者の指図・材料による免責の例外(民法636条)
民法の原則では、不適合が、注文者が提供した材料の性質や与えた指図によって生じたときは、請負人は免責されます。ただし、請負人がその材料や指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは免責されません。
▽民法636条
(請負人の担保責任の制限)
第六百三十六条 請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。
受託者側から提示されるドラフトでは、この「知りながら告げなかったとき(告げるべきであったとき)」という請負人の説明・警告義務にかかるただし書が意図的に不記載になっていることがあるため、委託者側としてはこの例外内容を復活させることがリスクヘッジとなります。
その他の留意点
商法526条の適用排除の要否
商法526条の規律と失権リスク
委託者と受託者がともに商人(会社など)である場合、業務委託契約が製作物供給契約(売買と請負の混合契約)や売買の性質を帯びていると、商法526条が適用(または類推適用)されます。商法526条は、商人間の取引の迅速性を確保するため、買主(委託者)に厳しい義務を課しています。
- 検査・通知義務:目的物を受領後、遅滞なく検査を行い、不適合を発見した場合は直ちに受託者へ通知しなければなりません。これを怠ると、契約不適合責任(履行追完、代金減額、損害賠償、解除)を追及できなくなります(失権効)
- 直ちに発見できない不適合の制限:直ちに発見できない不適合であっても、受領後6ヶ月以内に発見して直ちに通知しなければ、同様に権利を失います
これは、先ほど見たような民法の原則である、不適合を知った時から1年以内の通知(請負の場合も同様)に比べて委託者に不利なデフォルトルールになっています(また、検査期間は「遅滞なく」、通知期間は「直ちに」であり、かなりタイト)。
商法526条は、商事売買に関する規定であり、請負契約には適用されません(商法には民法559条のような「売買以外の有償契約にも準用する」との規定はないため)。そのため、業務委託契約書で気を付ける必要があるのは、製造物供給契約や、売買の性質を帯びると考えられる契約の場面です。
単に保証期間を設けるだけでは排除されない可能性
契約書に「検収後1年間、不適合について責任を負う」といった契約不適合責任の期間を定めることがあります。
しかし、判例(東京高判昭和56年10月7日等)では、単に保証期間や責任期間を定めただけでは、商法526条の検査・通知義務まで排除・変更したとは解釈されないと判断したものがあります。つまり、契約書に「1年保証」と書いてあっても、商法526条を排除しておかないと、「受領後遅滞なく検査しなかった」「発見後直ちに通知しなかった」ことを理由に、受託者から責任追及を拒絶(抗弁)されるリスクが残ります。
委託者(発注者)として取るべき対策
商法526条は任意規定であるため、契約書内の特約によって適用を排除することが可能です。
委託者としては、仕様の複雑な成果物を検査するための合理的な期間を確保し、かつ不適合発見後の通知に一定の猶予を持たせるため、契約書に商法第526条の規定は適用されない旨を明記すること(あるいは、別の内容を詳細に規定することで上書きする)がリスクヘッジとなります。
取適法との関係
受託者が取適法(中小受託取引適正化法)の適用対象事業者であり、取適法が適用される場合には、委託者側としては禁止事項(取適法5条)に注意を払う必要があります。
取適法だけでなく、フリーランス法における禁止事項も、取適法と共通しているものは同様に問題となります(特に、取適法の適用はないがフリーランス法の適用がある場合に注意)
まず、代金の減額禁止(取適法5条1項3号)との関係です。不適合(受託者の責めに帰すべき理由)が存在し、かつそれに基づく手直し費用や商品価値の低下に相当する合理的な範囲内の減額でない限り、一方的に代金を差し引いて支払うことは禁止されています。
また、不当なやり直しの禁止(同条2項3号)との関係で、取適法の解釈・運用による独特の期間制限があります。受領時に直ちに発見できない不適合について、受領後1年を経過した後に、受託者側の費用負担で無償のやり直し(修補)をさせることは、原則として禁止されています(例外として、委託者自身の顧客に対する保証期間が1年を超え、受託者ともそれに応じた合理的な保証期間をあらかじめ合意している場合は当該期間が許容されます)。
これらは代金減額請求と追完請求に関するものですが、解除や損害賠償請求について気にしておいた方がよい禁止事項もあります。詳しく知りたい方は、以下の関連記事をご参照ください。
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取適法解説|民事上の請求権と禁止事項との関係~契約不適合責任と取適法の交錯など
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結び
今回は、業務委託契約書における契約不適合責任条項について見てみました。
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業務委託契約書 - 法律ファンライフ
houritsushoku.com
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
参考資料
- 情報システム・モデル取引・契約書〔第二版〕|独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)HP
- 2020年版ソフトウェア開発モデル契約及び解説|一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)HP
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