今回は、公益通報者保護法を勉強しようということで、通報を受けた側の対応の話、すなわち事業者や行政機関の通報対応について見てみたいと思います。
令和2年改正により法定指針として内容が再整理されていますが、記事の後半では、改正前の内容も参考として残しています。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
事業者内部に通報があった場合
まず、事業者内部に通報があった場合の対応からです。
これについては、法定指針の中で、内部通報体制の一内容として規定されています。場所としては以下の部分になります。
▽法定指針 第4 内部公益通報対応体制の整備(法11条2項関係)(※項目を抜粋)
- 部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備
- 内部公益通報受付窓口の設置等
- 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
- 公益通報対応業務の実施に関する措置
- 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
- 公益通報者を保護する体制の整備
- 不利益な取扱いの防止に関する措置
- 範囲外共有等の防止に関する措置
- 内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置
- 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
- 是正措置等の通知に関する措置 ←この部分
- 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
- 内部規程の策定及び運用に関する措置
是正措置等の通知(法定指針 第4-3-⑵)
内容としては、以下のように内部通報者に対して是正措置等の通知義務があります。
▽法定指針 第4-3-⑵
⑵ 是正措置等の通知に関する措置
書面により内部公益通報を受けた場合において、当該内部公益通報に係る通報対象事実の中止その他是正に必要な措置をとったときはその旨を、当該内部公益通報に係る通報対象事実がないときはその旨を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、当該内部公益通報を行った者に対し、速やかに通知する。
つまり、
〇書面により内部公益通報を受けた事業者は、
〇通報対象事実の中止その他是正に必要な措置をとったときはその旨を、
〇通報対象事実がないときはその旨を、
〇適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、
〇当該内部公益通報を行った者に対し、速やかに通知する
となっています。
ただし、是正措置等の通知を行わないことがやむを得ない場合として、例えば、公益通報者が通知を望まない場合、匿名による通報であるため公益通報者への通知が困難である場合等が考えられるとされています(指針解説 第3-Ⅱ-3-⑵-③脚注38)。
▽内部公益通報対応体制の整備に関するQ&A Q34|消費者庁HP(≫掲載ページ)
公益通報者が匿名の場合にも是正措置等の通知は必要ですか。
公益通報者が匿名であるため公益通報者への通知が困難である場合には、是正措置等の通知を行わないこともやむを得ないと考えられます。
なお、指針の解説においては、匿名の内部公益通報であっても公益通報者と内部公益通報受付窓口の担当者が連絡を取る方法として、例えば、受け付けた際に個人が特定できないメールアドレスを利用して連絡するよう伝える、匿名での連絡を可能とする仕組み(外部窓口から事業者に公益通報者の氏名等を伝えない仕組み、チャット等の専用のシステム等)を導入すること等を求めています。
単に通報者が匿名であるということだけで「是正措置等の通知を行わないことがやむを得ない場合」にあたるわけではない点に留意が必要かと思います
望ましい措置(指針解説)
是正措置等の通知のほかに望ましい措置としては、
- 通知するまでの具体的な期間を示す(受付から20日以内に調査開始の有無を伝える等)
- 内部公益通報の受付/今後の対応/調査の開始/調査の進捗状況/調査結果についても通知する
といったものが挙げられています(指針解説 第3-Ⅱ-3-⑵-④及び脚注43など参照)。
前者の”受付から20日以内に調査開始の有無を伝える”というのは、通報先が行政機関以外への外部通報である場合、調査をする旨の通知が20日間ないことが、保護要件である特定事由のひとつとなっていることとの関係です(法3条3号ホ)。
(※通報先ごとの保護要件についてはこちらの記事参照)
つまり、文書による公益通報があった日から20日を経過しても調査をする旨の通知をしない場合や、正当な理由なく調査を実施しない場合には、報道機関など事業者外部への通報につながる可能性があるということです。
▽法3条3号ホ(※【 】は管理人注)
(解雇の無効)
第三条 労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。)が行った解雇は、無効とする。
【3号通報:報道機関その他の外部への通報】
三 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
ホ 書面により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該役務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
行政機関に通報があった場合
次に、行政機関に通報があった場合の対応についてです。
これについては、条文は以下の2つです。
▽法13条
(行政機関がとるべき措置)
第十三条 通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関は、公益通報者から第三条第二号及び第六条第二号に定める公益通報をされた場合には、必要な調査を行い、当該公益通報に係る通報対象事実があると認めるときは、法令に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。
2 通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関(第二条第四項第一号に規定する職員を除く。)は、前項に規定する措置の適切な実施を図るため、第三条第二号及び第六条第二号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。
3 第一項の公益通報が第二条第三項第一号に掲げる犯罪行為の事実を内容とする場合における当該犯罪の捜査及び公訴については、前二項の規定にかかわらず、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の定めるところによる。
要するに、
〇必要な調査を行い、
〇通報対象事実があると認めるときは、適切な措置をとること
です(1項)。
ただ、行政機関への通報は、通報対象事実について処分や勧告の権限を有する行政機関になされる必要があるため(法2条1項)、誤って権限のない行政機関に通報された場合、正しい行政機関を通報者に教示することになっています。
▽法14条
(教示)
第十四条 前条第一項の公益通報が誤って当該公益通報に係る通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有しない行政機関に対してされたときは、当該行政機関は、当該公益通報者に対し、当該公益通報に係る通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関を教示しなければならない。
行政機関の通報対応については、国と地方自治体に分けて、4つのガイドラインがあります。外部の労働者からの通報については、そのうち2つです。
▽国及び地方公共団体向けガイドライン|消費者庁HP
- 国の行政機関の通報対応
- 内部の職員等からの通報に関するガイドライン
- 外部の労働者等からの通報に関するガイドライン ←このガイドライン
- 地方公共団体の通報対応
- 内部の職員等からの通報に関するガイドライン
- 外部の労働者等からの通報に関するガイドライン ←このガイドライン
参考:令和2年改正前
以下、参考までに、令和2年改正前における通報対応についても記載を残しておきます(※以下の条文や条数やガイドライン等は全て令和2年改正前のものを指しています)。
事業者内部に通報があった場合
まず、事業者内部に通報があった場合の対応からです。
これについて、条文は以下のひとつだけです。
▽令和2年改正前・法9条
(是正措置等の通知)
第九条 書面により公益通報者から第三条第一号に定める公益通報をされた事業者は、当該公益通報に係る通報対象事実の中止その他是正のために必要と認める措置をとったときはその旨を、当該公益通報に係る通報対象事実がないときはその旨を、当該公益通報者に対し、遅滞なく、通知するよう努めなければならない。
つまり、
〇書面により公益通報を受けた事業者は、
〇通報対象事実の中止その他是正のために必要と認める措置をとったときはその旨を、
〇通報対象事実がないときはその旨を、
〇当該公益通報者に対し、遅滞なく、通知するよう努めること
です(努力義務)。
「書面により」とは、紙文書によるもののほか、電子メールなど電子媒体への表示によるものも含まれます(3条3号ニの括弧書き参照)。
通知すべき内容としては、民間事業者向けガイドライン(「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」〔平成28年12月9日版〕)で、以下のとおり、通報受領の通知や調査に係る通知(調査の進捗、調査結果)などについても努めるよう推奨されていました。
▽民間事業者向けガイドライン Ⅱ-2、Ⅱ-3-⑵|消費者庁HP(≫掲載ページ)
2.通報の受付
(通報受領の通知)
○ 書面や電子メール等、通報者が通報の到達を確認できない方法によって通報がなされた場合には、速やかに通報者に対し、通報を受領した旨を通知することが望ましい。ただし、通報者が通知を望まない場合、匿名による通知であるため通報者への通知が困難である場合その他やむを得ない理由がある場合はこの限りでない(次項及びⅡ3(2)に規定する通知においても、同様とする。)。
(通報内容の検討)
○ 通報を受け付けた場合、調査が必要であるか否かについて、公正、公平かつ誠実に検討し、今後の対応について、通報者に通知するよう努めることが必要である。
3.調査・是正措置
(2)調査・是正措置に係る通知
(調査に係る通知)
〇 調査中は、調査の進捗状況について、被通報者や当該調査に協力した者(以下「調査協力者」という。)等の信用、名誉及びプライバシー等に配慮しつつ、適宜、通報者に通知するとともに、調査結果について可及的速やかに取りまとめ、通報者に対して、その調査結果を通知するよう努めることが必要である。
(是正措置に係る通知)
〇 是正措置の完了後、被通報者や調査協力者等の信用、名誉及びプライバシー等に配慮しつつ、速やかに通報者に対して、その是正結果を通知するよう努めることが必要である。
なお、こういったガイドライン上の通知対応は、法律上の通知対応よりも拡大されたものでした(以下のQ&A45参照)。
▽民間事業者向けQ&A集〔平成29年2月版〕Q45,46|消費者庁HP(≫掲載ページ)
Q45 通報者には、どのような通知を行う必要があるのでしょうか。
A 通報への対応状況を通報者に伝えることは、通報者の通報窓口への信頼を確保するために必要と考えられます。そのため、本法第9条は、事業者が、是正措置をとった旨又はその公益通報に係る通報対象事実がない旨を通知するよう努めることとするとともに、民間事業者向けガイドラインでは、通報への対応状況に応じて、例えば、調査を行うか否かに加え、調査結果、是正結果などを通知するよう努めることが必要としています。
Q46 通報したときの受領の通知は文書で行うべきでしょうか。口頭でもよいのでしょうか。
A 本法や民間事業者向けガイドラインでは、通報の受領の通知の方法は特に定めていません。
通知について、民間事業者向けガイドラインにおいては、書面や電子メール等、通報者が通報の到達を確認できない方法によって通報がなされた場合には、速やかに通報者に対し、受領した旨を通知することが望ましいとしています。
なお、通報先が行政機関以外への外部通報である場合、調査をする旨の通知が20日間ないことが、保護要件である特定事由のひとつとなっていました(法3条3号ニ)。
▽令和2年改正前・法3条3号ニ(※【 】は管理人注)
(解雇の無効)
第三条 公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。
【3号通報:報道機関その他の外部への通報】
三 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
ニ 書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第九条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
つまり、文書による公益通報があった日から20日を経過しても調査をする旨の通知をしない場合や、正当な理由なく調査を実施しない場合には、報道機関など事業者外部への通報につながる可能性があるということです。
▽民間事業者向けQ&A集〔平成29年2月版〕Q47|消費者庁HP(≫掲載ページ)
Q47 通報受付当時は公益通報ではないと判断していた通報について、後に公益通報の要件を当初から満たしていたことが判明した場合には、どのようにしたらよいのでしょうか。
A このような場合には、当初の判断が誤りであったことになり、調査を行う旨の通知や調査を行っていなければ、その他外部通報先への通報が本法の規定による保護の対象となる可能性があります(本法第3条第3号ニ)。
このような事態を回避するためには、あらかじめ、本法に定める「公益通報」に該当するか否かにかかわらず、必要に応じて通知や調査を行うこととしておくことが考えられます。
行政機関に通報があった場合
次に、行政機関に通報があった場合の対応についてです。
これについては、条文は以下の2つです。
▽令和2年改正前・法10条
(行政機関がとるべき措置)
第十条 公益通報者から第三条第二号に定める公益通報をされた行政機関は、必要な調査を行い、当該公益通報に係る通報対象事実があると認めるときは、法令に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。
2 前項の公益通報が第二条第三項第一号に掲げる犯罪行為の事実を内容とする場合における当該犯罪の捜査及び公訴については、前項の規定にかかわらず、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の定めるところによる。
要するに、
〇必要な調査を行い、
〇通報対象事実があると認めるときは、適切な措置をとること
です。
ただ、行政機関への通報は、通報対象事実について処分や勧告の権限を有する行政機関になされる必要があるため(法2条1項)、誤って権限のない行政機関に通報された場合、正しい行政機関を通報者に教示することになっています。
▽令和2年改正前・法11条
(教示)
第十一条 前条第一項の公益通報が誤って当該公益通報に係る通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有しない行政機関に対してされたときは、当該行政機関は、当該公益通報者に対し、当該公益通報に係る通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関を教示しなければならない。
行政機関の通報対応については、国と地方自治体に分けて、4つのガイドラインがあります。外部の労働者からの通報については、そのうち2つです。
▽(法改正前(令和4年5月31日まで))公益通報者保護法に関するガイドライン|消費者HP
- 国の行政機関の通報対応
- 内部の職員等からの通報に関するガイドライン
- 外部の労働者等からの通報に関するガイドライン ←このガイドライン
- 地方公共団体の通報対応
- 内部の職員等からの通報に関するガイドライン
- 外部の労働者等からの通報に関するガイドライン ←このガイドライン
結び
今回は、公益通報者保護法を勉強しようということで、事業者や行政機関の通報対応について見てみました。
本記事で見た内容に関しては、消費者庁HPに以下のQ&A集があります。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
公益通報者保護法に関するその他の記事(≫Read More)
主要法令等・参考文献
主要法令等
- 公益通報者保護法
- 通報の対象法律を定める政令(「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」)
- 法定指針(「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号))|消費者庁HP
- 指針解説(「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」)|消費者庁HP
- Q&A集|消費者庁HP
参考文献
- 公益通報ハンドブック〔改正法(令和4年6月施行)準拠版〕(消費者庁)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 逐条解説(消費者庁)|消費者庁HP
- 民間事業者向け説明会 資料|消費者庁HP
- 裁判例の収集(概要/裁判例一覧/論点整理表)〔2022年度調査〕|消費者庁HP(≫掲載ページ)
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