取適法務(分野別)

物流特殊指定|適用されるとどうなる?禁止される「9つの行為」と取適法との違いを解説

物流業界の適正な取引環境を守るための重要ルールである物流特殊指定ですが、適用要件を満たして対象取引となった場合、発注側である「特定荷主」には具体的にどのような規制がかかるのでしょうか。

結論からいうと、特定荷主に対して立場の強さを利用した不当な行為(優越的地位の濫用)を禁止する効果が発生します。

本記事では、物流特殊指定が適用されることで禁止される9つの行為について、取適法の禁止事項との違いも織り交ぜながらわかりやすく解説していきます。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

物流特殊指定で禁止される「9つの行為」

物流特殊指定の適用対象となると、特定荷主が特定物流事業者に対して行う以下の9つの行為が禁止されます。これらは物流の現場で立場の強い荷主から押し付けられがちな理不尽な要求をリストアップしたものといえます。

特定荷主の禁止行為(物流特殊指定第1項・第2項)

  • お金に関する禁止行為
    1. 代金の支払遅延:あらかじめ定めた支払期日を過ぎても、運賃や保管料を支払わないこと(第1項第1号)
    2. 代金の減額:運送や保管に問題がないのに、後から「管理手数料」などの名目で代金を減らすこと(第1項第2号)
    3. 買いたたき:相場と比べて著しく低い代金を、十分な協議なく不当に定めること(第1項第3号)
    4. 割引困難な手形の交付:支払期日までに一般の金融機関で現金化(割引)することが難しい、支払期間の長い手形で代金を支払うこと(第1項第5号)
  • 業務や取引条件に関する禁止行為
    1. 物の購入強制・役務の利用強制:正当な理由がないのに、「うちの会社の製品を買って」「指定のリース会社を使って」と強制すること(第1項第4号)
    2. 不当な経済上の利益の提供要請:本来の業務とは関係ない無償の荷役作業(積み下ろしや倉庫内作業)や、イベントの協賛金などを要求すること(第1項第6号)
    3. 不当な給付内容の変更及びやり直し:物流事業者に責任がないのに、急に配送先を変更させたり、追加の運送を無償でやり直させたりすること(第1項第7号)
  • 報復措置の禁止
    1. 要求拒否に対する報復措置:上記の「減額」や「無償作業」などの不当な要求を物流事業者が断ったことを理由に、取引を減らしたり停止したりすること(第1項第8号)
    2. 情報提供に対する報復措置:荷主の違反行為を公正取引委員会に通報した(またはしようとした)ことを理由に、取引を減らしたり停止したりすること(第2項)

取適法における禁止事項との比較ポイント

物流の下請け(再委託)や特定運送委託に適用される取適法にも、上記と似たような禁止事項が定められています。

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しかし、両者には微妙な違いもあります。

両者の違い

① 支払遅延となる「基準日」の違い(60日ルール vs 支払期日ルール)

どちらにも代金の支払遅延の禁止がありますが、両者は、何を基準にして遅延(アウト)と判定するかの着眼点が異なります。

取適法と異なり、物流特殊指定では「給付の受領日(提供日)から60日以内」という支払期日の設定義務(60日ルール。取適法3条)がないため、単に”あらかじめ定めた支払期日を過ぎたか”のみが遅延の基準となっています。

  • 取適法:期間重視
    • 基準は給付の受領日(提供日)から60日という絶対的な期間です。
    • たとえ当事者間で「受領後70日払い」と合意していても、受領日から60日を超えて支払わないことはアウト(支払遅延)になります。「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに」といった例外文言もありません。
  • 物流特殊指定:約束重視
    • 基準は「あらかじめ定めた支払期日」です。
    • 取適法のように「一律60日」という期間制限は規定されていません。あくまで”約束した期日を過ぎたかどうか”が支払遅延の判定基準となります。

② 「手形払い」に対する規制の厳しさ

取適法では、手形による支払いが原則禁止となり、「代金の支払遅延の禁止」の中に組み込まれました(現金などの支払手段で期日までに満額支払うことが求められます)。

これに対して、物流特殊指定では、手形払いが完全に禁止されたわけではなく、「割引困難な手形の交付」を禁止する独立規定として残っています(※ただし、国全体で手形廃止に向けた動きが進んでいるため、手形払いの利用には注意が必要です)。

③ 「報復措置」がカバーする範囲

取適法では、明文で禁止されているのは、行政機関への情報提供に対する報復措置のみです。

これに対して、物流特殊指定では、情報提供に対する報復だけでなく、不当な要求を拒否したことに対する報復措置(前述リストの8番)も独立した禁止行為として規定されています。

④ 「協議に応じない一方的な代金決定」の有無

取適法では、コスト上昇時等に受注者から価格協議の求めがあったのに協議に応じない行為が、協議に応じない一方的な代金決定の禁止(取適法5条2項11号)として新設されました。

これに対して、物流特殊指定では、この独立した明文規定はありません

補足:取適法特有のルール(受領拒否・返品など)

取適法には「受領拒否の禁止」「返品の禁止」「有償支給原材料等の早期決済の禁止」という禁止事項がありますが、これらは物品の製造等に特有のルールです。

そのため、サービスの提供である「役務提供委託」や「特定運送委託」、そして運送・保管に特化した「物流特殊指定」には、そもそもこれらの概念は存在しません。

まとめ

ここまでの取適法の禁止事項との比較をまとめると、以下のようになります。

取適法と物流特殊指定の禁止事項の比較

禁止事項取適法物特指定備考
受領拒否×物流特殊指定にはありません(物品の製造等に特有の禁止事項であるため、運送・保管というサービス分野にはない)
代金の支払遅延両制度で共通して禁止されています。ただ、取適法と異なり、物流特殊指定では「給付の受領日(提供日)から60日以内」という支払期日の設定義務(60日ルール)がないため、単に”あらかじめ定めた支払期日を過ぎたか”のみが遅延の基準となっています
代金の減額両制度で共通して禁止されています
返品×物流特殊指定にはありません(物品の製造等に特有の禁止事項であるため、運送・保管というサービス分野にはない)
買いたたき両制度で共通して禁止されています
購入・利用強制両制度で共通して禁止されています
報復措置情報提供(違反事実を行政機関に知らせたこと)への報復は両制度で禁止されています。不当な要求拒否への報復は、物流特殊指定にのみ、独立した禁止規定(第1項第8号)が存在します
割引困難な手形の交付×物流特殊指定では独立した禁止行為です。取適法では令和7年改正によりさらに厳しくなり、手形を交付すること自体が原則禁止(「支払遅延」の中に含まれる)となりました
有償支給材の対価の早期決済×物流特殊指定にはありません(物品の製造等に特有の禁止事項であるため、運送・保管というサービス分野にはない)
不当な経済上の利益の提供要請両制度で共通して禁止されています(協賛金や無償の労務提供など)
不当な給付内容の変更・やり直し両制度で共通して禁止されています
協議に応じない一方的な代金決定×取適法にのみ、令和7年改正で新設された規定です

結び

物流特殊指定が適用される効果は、荷主に対して物流事業者の立場の弱さに付け込んだ理不尽な要求(9つの禁止行為)をしないことを義務付けることです。

特に、契約外の無償の荷待ち・荷役作業などは、「不当な給付内容の変更及びやり直し」「不当な経済上の利益の提供要請」の禁止に問われる可能性があります。自社の物流事業者に対する発注条件や日々の業務指示が、これら9つの禁止行為に該当していないか、コンプライアンス体制を今一度チェックしておきましょう。

前の記事では、物流特殊指定の適用要件についてくわしく解説しています。

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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主要法令等

  • 独占禁止法(「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」)
  • 物流特殊指定(「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」)〔令和8年1月1日施行版〕
  • 物流特殊指定〔令和9年4月1日施行版〕
  • 令和8年6月17日パブコメ(改正物流特殊指定・製造委託等特殊指定・改正優越ガイドライン等の意見公募手続における意見の概要及びそれに対する考え方)|e-Govパブリックコメント(≫掲載ページ

参考資料

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