組織再編

組織再編|新設分割-事前備置書類

今回は、組織再編ということで、新設分割手続における事前備置書類について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

事前備置書類とは

新設分割を行う場合、分割会社(分割する側)は、株主や債権者などの利害関係者に対し判断の資料を提供するため、一定の書類を分割計画承認の株主総会の前などに本店に備え置く義務があります。

この書類を、事前備置びち書類と呼びます。要するに、事前の情報開示です。

他の手続として「事後備置書類」というのもありますが、何の「事前」「事後」かというと、分割の効力発生よりも前と後、です

効力発生の前といっても直前ということではなく、効力発生までには株主総会や株主保護手続(買取請求)、債権者保護手続(異議申述)などのイベントがありますので、そこにおける権利行使に必要な判断資料を提供する、という意味合いです。

なお、上記では分割の効力発生よりも前と後、と書いていますが、新設分割の場合、具体的には、新設される設立会社の成立の前と後、ということになります。

どういうことかというと、新設分割の効力は、設立会社の成立(=設立の登記)によって生じます。

▽法764条1項

(株式会社を設立する新設分割の効力の発生等)
第七百六十四条
 新設分割設立株式会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する。

つまり、分割の効力発生=設立会社の成立(設立の登記)と思っておけばよく、新設分割の「事前」「事後」も、具体的には設立会社の成立よりも前と後ということになります。

【補足】設立会社の設立の登記

 ちなみに、では設立の登記はいつやるのか?というと、新設分割を行った場合、

  1. 分割承認決議の日
  2. 株式買取請求に関する通知・公告の日から20日を経過した日
  3. 新株予約権買取請求に関する通知・公告の日から20日を経過した日
  4. 債権者異議手続が終了した日
  5. 分割会社が定めた日(共同新設分割の場合は分割当事会社が合意により定めた日)

のうちいずれか遅い日から2週間以内に、設立会社の本店所在地において、設立会社の設立の登記をしなければならないとされています(法924条)。

新設分割には、分割会社(分割する側)と設立会社(分割により設立される側)がありますが、事前備置書類は分割会社のみです。

当然ながら、設立会社はまだ成立していないためです

以下、内容を見てみます。

分割会社側

分割会社には事前備置書類を備え置く義務があり(法803条1項)、株主と債権者は閲覧等を請求することができます(同条3項)。

▽会社法803条1項・3項

(新設合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等)
第八百三条
 次の各号に掲げる株式会社(以下この目において「消滅株式会社等」という。)は、新設合併契約等備置開始日から新設合併設立会社、新設分割設立会社又は株式移転設立完全親会社(以下この目において「設立会社」という。)の成立の日後六箇月を経過する日(新設合併消滅株式会社にあっては、新設合併設立会社の成立の日)までの間、当該各号に定めるもの(以下この節において「新設合併契約等」という。)の内容その他法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない
 (略)
 新設分割株式会社 新設分割計画
 (略)
 消滅株式会社等の株主及び債権者(株式移転完全子会社にあっては、株主及び新株予約権者)は、消滅株式会社等に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該消滅株式会社等の定めた費用を支払わなければならない。
 第一項の書面の閲覧の請求
 第一項の書面の謄本又は抄本の交付の請求
 第一項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求
 第一項の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって消滅株式会社等の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求

備置期間

事前備置書類の備置期間は、

  • 始期:新設分割計画の備置開始日
  • 終期:設立会社の成立日の後6か月を経過する日

とされています(上記条文の1項の下線部参照)。

始期の「備置開始日」というのは、

  • 分割承認株主総会の2週間前の日
  • 株式買取請求に関する通知・公告の日
  • 新株予約権買取請求に関する通知・公告の日
  • 債権者の異議に関する催告・公告の日
  • いずれにも当たらない場合は新設分割計画作成の日から2週間を経過した日

のいずれか早い日、とされています。各手続(株主総会、株主/新株予約権者保護手続、債権者保護手続)のうち早く開始するものに対応して決まるということです。

5号は、各手続のどれもがない場合のための規定です(簡易分割→1号・2号なし、新株予約権を発行していない→3号なし、負債を承継させない→4号なし)

ちなみに、「作成の日」というのが何を指すのか明らかではありませんが、他の組織再編では組織再編契約の締結の日とされていることの均衡からすると、相当程度に計画の内容が確定的になった時点、つまり機関決定(ex. 取締役会設置会社では取締役会決議)の日と考えるのが合理的であるとの見解があります

また、備置期間を効力発生の後6か月としているのは、事前備置書類も無効の訴えを提起すべきかについての判断資料になり得るので、提訴期間(効力発生から6か月以内)と平仄を合わせたものだとされています。

条文も確認してみます。

▽会社法803条2項

 前項に規定する「新設合併契約等備置開始日」とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう。
 新設合併契約等について株主総会(種類株主総会を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の二週間前の日(第三百十九条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)
 第八百六条第三項の規定による通知を受けるべき株主があるときは、同項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日のいずれか早い日
 第八百八条第三項の規定による通知を受けるべき新株予約権者があるときは、同項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日のいずれか早い日
 第八百十条の規定による手続【=債権者保護手続】をしなければならないときは、同条第二項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日
 前各号に規定する場合以外の場合には、新設分割計画の作成の日から二週間を経過した日

必要記載事項

事前備置書類の必要記載事項は、

  • 新設分割計画の内容(法803条1項)
  • 分割条件の相当性(規則205条1号~3号)
    1. 分割会社への対価に関する事項の相当性(1号)
    2. 人的分割を行う場合の必要決議の内容(2号)
    3. 分割会社の新株予約権者への対価に関する事項の相当性(3号)
  • 計算書類等に関する事項(4号・5号)
  • 分割会社の重要な後発事象(6号)
  • 債務の履行の見込みに関する事項(7号)
  • 事前備置開始後の変更事項(8号)

となっています。つまり、これらが開示事項になっているというイメージです。

以下、それぞれの事項を順に見てみます。

①新設分割計画の内容(法803条1項)

これは文字どおり新設分割計画の内容です。

別紙として新設分割計画書の写しをつけて、引用する形にしている場合が多いかと思います。

①については先ほど見た法803条1項の中に書かれていますが、それ以降の②~⑥については規則に書かれています。

▽会社法施行規則205条

(新設分割株式会社の事前開示事項)
第二百五条
 法第八百三条第一項に規定する法務省令で定める事項は、同項に規定する消滅株式会社等が新設分割株式会社である場合には、次に掲げる事項とする。
 (略)

②分割条件の相当性に関する事項(規則205条1号~3号)

これは、新設分割の場合、分割会社には分割対価(株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債)が交付されますが、対価に関する事項の相当性が必要記載事項となっているということです。

対価に関する事項は、もともと分割計画書の記載事項であり、

  • 分割対価の種類と数・額(または算定方法
  • (共同新設分割の場合は)割当比率
  • 設立会社の資本金・準備金の額に関する事項

となっています(法763条1項6号~9号。③は6号後段)。

つまり、これらの相当性が事前備置書類の必要記載事項となっていて、

  • 分割対価の数・額(または算定方法の相当性
  • 分割対価としてその種類の財産を選択したことについての相当性
  • (共同新設分割の場合は)割当比率の相当性
  • 設立会社の資本金・準備金の額に関する事項の相当性

を開示せよ、ということです。

また、分割会社が新株予約権を発行している場合に、設立会社がそれに代わり設立会社の新株予約権を交付することがあります(交付する場合は、実質的に設立会社が分割会社の新株予約権を承継するようなイメージ)。この場合も、対価に関する事項の相当性が必要記載事項となっています。

新株予約権者への対価に関する事項は、もともと分割計画書の記載事項であり、

  • 分割会社の新株予約権の内容
  • 交付する新株予約権の内容と数(または算定方法
  • (共同新設分割の場合は)割当比率

となっています(会社法763条1項10号・11号)。

つまり、これらの相当性が事前備置書類の必要記載事項となっていて、具体的には、

  • 新株予約権者に対して新株予約権を交付する、または交付しないと定めたことについての相当性
  • 新株予約権者に対して交付する新株予約権の内容と数(または算定方法の相当性
  • (共同新設分割の場合は)割当比率の相当性

を開示せよ、ということです。

また、いわゆる人的分割を実施する場合がありますが、この場合は、分割対価として設立会社から交付された株式を、「全部取得条項付種類株式の取得の対価」または「剰余金の配当」という形で、分割会社の株主に交付・配当することになります。

これらの場合の必要決議の内容が、必要記載事項になっています(2号)。

つまり、取得対価の交付・配当のどちらの場合でも、株式の種類・種類ごとの数(または算定方法)などを定める必要があるので、その内容が必要記載事項になっているということです

以上について、条文も確認してみます。

▽会社法施行規則205条1号~3号(※【 】は管理人注)

1号:分割会社への対価の相当性
 次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、当該イ又はロに定める定めの相当性に関する事項
  新設分割設立会社が株式会社である場合 法第七百六十三条第一項第六号から第九号までに掲げる事項【=分割会社への対価に関する事項】についての定め
  (略)
2号:人的分割を行う場合の必要決議の内容
 法第七百六十三条第一項第十二号【=分割会社における剰余金の配当等】又は第七百六十五条第一項第八号に掲げる事項を定めたときは、次に掲げる事項
  法第七百六十三条第一項第十二号イ又は第七百六十五条第一項第八号イに掲げる行為をする場合において、法第百七十一条第一項の決議【=全部取得条項付種類株式の取得の株主総会決議】が行われているときは、同項各号に掲げる事項
  法第七百六十三条第一項第十二号ロ又は第七百六十五条第一項第八号ロに掲げる行為をする場合において、法第四百五十四条第一項の決議【=剰余金の配当の株主総会決議】が行われているときは、同項第一号及び第二号に掲げる事項
3号:新株予約権者への対価の相当性
 新設分割株式会社の全部又は一部が法第八百八条第三項第二号に定める新株予約権を発行している場合において、新設分割設立会社が株式会社であるときは、法第七百六十三条第一項第十号及び第十一号に掲げる事項【=分割会社の新株予約権者への対価に関する事項】についての定めの相当性に関する事項(当該新株予約権に係る事項に限る。)

条文が読みにくいですが、1号~3号は新設分割計画の法定記載事項(法763条1項)に対応していて、対応関係は、以下のようになっています。

規則205条
(事前備置の必要記載事項)
法763条1項
(分割計画の法定記載事項)
内容
1号(相当性)6号~9号分割会社への対価に関する事項
2号(必要決議の内容)12号分割会社における剰余金の配当等
※いわゆる人的分割を実施する場合に必要な手続
3号(相当性)10号・11号分割会社の新株予約権者への対価に関する事項

なお、分割計画書の法定記載事項や人的分割については、以下の関連記事にくわしく書いています。

関連記事
組織再編|新設分割-新設分割計画

続きを見る

③計算書類等に関する事項(4号・5号)

これは、共同新設分割をする場合の話で、自社以外の分割会社(=他の分割会社)の財務諸表(F/S)のことです。

具体的には、

  • 他の分割会社の最終事業年度に係る計算書類等
  • 他の分割会社に最終事業年度の末日後の日を臨時決算日とする臨時計算書類等があるときは、その内容
  • 他の分割会社に最終事業年度の末日後の日に重要な後発事象が生じたときは、その内容
  • 他の分割会社が清算会社であるときは、清算人が作成した貸借対照表

となっています(以下条文の1号参照)。

なお、他の分割会社が設立後間もないため最終事業年度が存在しないような場合は、成立の日の貸借対照表が開示事項となっています(4号イの括弧書き参照)。

▽会社法施行規則205条4号・5号(※【 】は管理人注)

4号・5号:相手会社の計算書類等
 他の新設分割会社(清算株式会社及び清算持分会社を除く。以下この号において同じ。)についての次に掲げる事項
  最終事業年度に係る計算書類等最終事業年度がない場合にあっては、他の新設分割会社の成立の日における貸借対照表)の内容
  最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、他の新設分割会社の成立の日)後の日を臨時決算日(二以上の臨時決算日がある場合にあっては、最も遅いもの)とする臨時計算書類等があるときは、当該臨時計算書類等の内容
  他の新設分割会社において最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、他の新設分割会社の成立の日)後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容(新設合併契約等備置開始日後新設分割の効力が生ずる日までの間に新たな最終事業年度が存することとなる場合にあっては、当該新たな最終事業年度の末日後に生じた事象の内容に限る。)
 他の新設分割会社(清算株式会社又は清算持分会社に限る。)が法第四百九十二条第一項又は第六百五十八条第一項若しくは第六百六十九条第一項若しくは第二項の規定により作成した貸借対照表

④分割会社の重要な後発事象等(6号)

これは、分割会社の重要な後発事象です(6号イ参照)。

▽会社法施行規則205条6号(※【 】は管理人注)

6号:分割会社の重要な後発事象等
 当該新設分割株式会社(清算株式会社を除く。以下この号において同じ。)についての次に掲げる事項
  当該新設分割株式会社において最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、当該新設分割株式会社の成立の日)後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容(新設合併契約等備置開始日後新設分割の効力が生ずる日までの間に新たな最終事業年度が存することとなる場合にあっては、当該新たな最終事業年度の末日後に生じた事象の内容に限る。)
  当該新設分割株式会社において最終事業年度がないときは、当該新設分割株式会社の成立の日における貸借対照表

なお、6号は分割会社つまり自社について書かれていますが、なぜ「最終事業年度に係る計算書類等」が規定されていないのかというと、自社の財務諸表(F/S)は組織再編手続以外で開示がなされているからです。

なので、上記ロのように、分割会社が設立後間もないため最終事業年度が存在しないような場合は、(通常のサイクルでの開示がまだないので)事前備置において成立の日の貸借対照表が開示事項となっています。

⑤債務の履行の見込みに関する事項(7号)

これは、債権者保護を目的としたものです(株主は関係ない)。つまり、分割会社と、設立会社(分割により承継する部分)の支払能力のことです。

▽会社法施行規則205条7号(※【 】は管理人注)

7号:債務の履行の見込みに関する事項
 新設分割が効力を生ずる日以後における当該新設分割株式会社の債務及び新設分割設立会社の債務(当該新設分割株式会社が新設分割により新設分割設立会社に承継させるものに限る。)の履行の見込みに関する事項

⑥事前備置開始後の変更事項(8号)

ここまで見た②~⑤について、備置開始後に変更が生じたときは、変更後のその事項です。

▽会社法施行規則205条8号(※【 】は管理人注)

8号:事前備置開始後の変更事項
 新設合併契約等備置開始日後新設分割が効力を生ずる日までの間に、前各号に掲げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項

設立会社側:なし

新設分割の場合、設立会社は成立日前は存在しませんので、事前備置書類はありません。

結び

新設分割はいわゆる”新設型”の組織再編ということで、会社法では新設合併や株式移転と同じグループで規定されています。

事前備置書類は、インターネットで検索や画像検索をすればいくつか例を見ることもできますので(鵜呑みにはできませんが)、上記のような理屈を押さえつつそれらを参照しながら作ったりチェックしたりするのも一つの方法かと思います。あるいは、会社に以前の事例があればそれらを見ながらやるとか、最初の方や悩ましい場合は外部の法律事務所に相談する、といったことも考えられます。

純粋なグループ内再編(=交渉を伴わないもの)の場合は、ある程度ルーティンワーク的になってきますので、なるだけ定型化していくのが賢いやり方かなと思います。

今回は、組織再編ということで、新設分割手続における事前備置書類について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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主要法令等

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参考文献

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  • 会社合併の理論・実務と書式(編集代表 今中利昭)
  • 会社分割の理論・実務と書式(編集代表 今中利昭)
  • 新・会社法実務問題シリーズ9 組織再編(編者 森・濱田松本法律事務所)

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