組織再編

組織再編|新設分割-債権者保護手続(異議申述)

今回は、組織再編ということで、新設分割の手続のうち債権者保護手続について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

債権者保護手続とは

新設分割における債権者保護手続とは、要するに、分割会社の債権者が分割に異議を述べる手続です。

つまり、債権者からすれば、会社分割による包括承継によって、自らの承諾なく設立会社に債務が承継される(=債務者が変更されてしまう)ことになり、債務の引当てとなる責任財産に大きな変動が生じる可能性があります。

そこで、会社法では、債権者に異議を述べる機会を与えたうえで、分割会社に債務の満足や保障(弁済や担保提供等)の対応をとらせることにしています。

なお、新設分割の場合の異議申述は、分割・・会社(分割する側)のみです。当然ながら、設立・・会社(分割により設立される側)はまだ設立されていないので、異議申述の話はありません。

以下、内容を見てみます。

分割会社側の債権者保護手続

分割会社の債権者は、分割会社に対し、新設分割について異議を述べることができます(異議申述。法810条1項2号)。

ただし、会社分割に特有のポイントですが、分割会社の債権者すべてが異議申述の対象となるわけではありません。

具体的には、異議申述できる分割会社の債権者は、

  • 通常の場合
    新設分割後に分割会社に対し債務の履行を請求することができない債権者(2号)
  • 分割会社が分割対価である株式等を株主に分配する場合(=いわゆる人的分割を実施する場合):
    すべての債権者(2号括弧書き)

となっています。

つまり、分割後も分割会社に債務の履行を請求できる場合(承継の対象とならなかった債権の債権者や、分割会社が重畳的債務引受や連帯保証をしている場合)は、債務の引当てとなる責任財産の範囲に実質的な変動がないため、異議申述できる債権者から外されています(①のケース)。つまり、債権者保護手続をとらなくていいということです。

②のケース(2号括弧書き)はやや特殊なため、本記事では割愛しています

▽会社法810条1項2号(※【 】は管理人注)

(債権者の異議)
第八百十条
 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、消滅株式会社等【=新設合併の消滅会社、新設分割の分割会社又は株式移転の完全子会社】に対し、新設合併等【=新設合併、新設分割又は株式移転】について異議を述べることができる
 (略)
 新設分割をする場合 新設分割後新設分割株式会社に対して債務の履行(当該債務の保証人として新設分割設立会社と連帯して負担する保証債務の履行を含む。)を請求することができない新設分割株式会社の債権者(第七百六十三条第一項第十二号又は第七百六十五条第一項第八号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、新設分割株式会社の債権者)
 (略)

異議申述の手続

公告・催告(またはダブル公告)

異議申述の手続は、消滅会社が、所定事項につき、①官報公告及び②債権者に対する個別催告を行う、というものです(2項)。

ただし、定款で公告方法として新聞公告または電子公告を選択している場合は、官報公告に加えて・・・・・・・・その方法により公告を行うことで、個別の催告を省略することができるとされています(個別催告の省略。3項)。

個別催告を省略するケースは、”官報公告+新聞公告”、または、”官報公告+電子公告”、というふうに、両方を公告で済ますことになるので、通称的にはダブル公告と呼ばれたりもします。

つまり、こういうことです。

異議申述の手続

原則(2項)ダブル公告(3項)
①官報公告①官報公告
個別催告新聞公告または電子公告

定款に定めた公告方法が官報公告である場合に、ダブル公告の方法によりたいときは、債権者保護手続の前に定款変更が必要ということになります

条文も確認してみます。

▽会社法810条2項・3項(※【 】は管理人注)

 前項の規定により消滅株式会社等の債権者の全部又は一部が異議を述べることができる場合には、消滅株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者(同項の規定により異議を述べることができるものに限る。)には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、…(略)…。
 (略)
 前項の規定にかかわらず、消滅株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか・・・・・、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号【=新聞公告】又は第三号【=電子公告】に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告(新設分割をする場合における不法行為によって生じた新設分割株式会社の債務の債権者に対するものを除く。)は、することを要しない

会社公告の種類(官報公告/新聞公告/電子公告)については、以下の関連記事に書いています。

関連記事
法務の基礎を勉強しよう|会社公告の種類

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公告・催告の必要記載事項

これら公告・催告の必要記載事項は、

  • 新設分割をする旨
  • 他の分割会社(共同新設分割の場合)と設立会社の商号及び住所
  • 分割会社の計算書類に関する事項
  • 債権者が一定の期間(1か月以上)内に異議を述べることができる旨

となっています(2項各号)。

条文も確認してみます(※前述の条文で省略した部分)。

▽会社法810条2項各号

 新設合併等をする旨
 他の消滅会社等及び設立会社商号及び住所
 消滅株式会社等の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

上記③の「計算書類に関する事項」の内容は規則で定められており、最終貸借対照表につき決算公告をしているときは、その決算公告の掲載場所の開示でよい等とされています(規則208条1号・2号参照。上場会社など有価証券報告書提出会社については3号参照)。

▽会社法規則208条(※【 】は管理人注)

(計算書類に関する事項)
第二百八条
 法第八百十条第二項第三号に規定する法務省令で定めるものは、同項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日における次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるものとする。
 最終事業年度に係る貸借対照表又はその要旨につき公告対象会社(法第八百十条第二項第三号の株式会社をいう。以下この条において同じ。)が法第四百四十条第一項【=決算公告】又は第二項【=要旨による公告】の規定による公告をしている場合 次に掲げるもの
  官報で公告をしているときは、当該官報の日付及び当該公告が掲載されている頁
  時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙で公告をしているときは、当該日刊新聞紙の名称日付及び当該公告が掲載されている頁
  電子公告により公告をしているときは、法第九百十一条第三項第二十八号イに掲げる事項【=公告の掲載先として登記されたウェブサイトのアドレス
 最終事業年度に係る貸借対照表につき公告対象会社が法第四百四十条第三項【=電磁的方法による決算開示】に規定する措置をとっている場合 法第九百十一条第三項第二十六号に掲げる事項【=電磁的方法による開示の掲載先として登記されたウェブサイトのアドレス
 公告対象会社が法第四百四十条第四項【=有報提出会社に対する決算公告の適用除外】に規定する株式会社である場合において、当該株式会社が金融商品取引法第二十四条第一項の規定により最終事業年度に係る有価証券報告書を提出しているとき その旨
 公告対象会社が会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第二十八条の規定により法第四百四十条の規定が適用されないもの【=特例有限会社】である場合 その旨
 公告対象会社につき最終事業年度がない場合 その旨
 公告対象会社が清算株式会社である場合 その旨
 前各号に掲げる場合以外の場合 会社計算規則第六編第二章の規定による最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容

決算公告の種類については、以下の関連記事に書いています。

関連記事
開示制度|会社法に基づく開示-決算公告

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異議申述期間と時期

上記④の”異議を述べることができる一定の期間”というのが、いわゆる異議申述期間・・で、1か月以上が必要とされています(2項ただし書)。

他方、異議申述の時期・・としては、分割の効力発生日までに手続が完了していればよく、手続の開始始期について定めはありません。

これらをまとめていうと、異議申述の開始時期については明確な定めはない(効力発生日までに手続が完了していればよい)ものの、異議申述の期間については1か月以上という定めがあるので、遅くとも分割の効力発生日の1か月以上前に開始する必要がある、ということになります

一応条文も確認しておくと、以下の部分です(※前述の条文で省略した部分)。

▽会社法810条2項ただし書(※【 】は管理人注、「…」は管理人が適宜省略)

 …。ただし、第四号【=債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨】の期間は、一箇月を下ることができない

異議を述べた債権者への対応

異議を述べた債権者への対応は、

  • 弁済
  • 担保提供
  • 信託

のいずれか、となっています(原則。5項本文)。つまり、債務の満足や保障です。

ただし、新設分割をしてもその債権者を害するおそれがないときは、これらの対応は必要ありません(例外。5項ただし書)。「債権者を害するおそれがない」かどうかは、債権額や弁済期等を考慮して判断され、例えば、十分な担保が既に提供されている場合や、会社の財産状況からして弁済を受けられることが確実な場合等がこれにあたります。

異議を述べなかった債権者については、新設分割を承諾したものとみなすとされています(4項)。多数の債権者から個別の承諾を得なければならないとすると、分割手続を遅延なく進めるのが難しくなるためです。

▽会社法810条4項・5項(※【 】は管理人注)

 債権者が第二項第四号の期間内【=異議申述期間内】に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該新設合併等について承認をしたものとみなす
 債権者が第二項第四号の期間内【=異議申述期間内】に異議を述べたときは、消滅株式会社等は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該新設合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない

なお、異議申述の対象になる債権者であるにもかかわらず、個別催告によるケースで個別の催告を受けなかった場合は、引き続き分割会社に対して、(分割会社が分割の効力発生日に有した財産の価額を限度として)債務の履行を請求することができるとされています(法定の弁済責任。法764条2項)。

▽会社法764条2項

 前項の規定にかかわらず、第八百十条第一項第二号(第八百十三条第二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の規定により異議を述べることができる新設分割会社の債権者であって、第八百十条第二項(第三号を除き、第八百十三条第二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の各別の催告を受けなかったもの(第八百十条第三項(第八百十三条第二項において準用する場合を含む。)に規定する場合にあっては、不法行為によって生じた債務の債権者であるものに限る。次項において同じ。は、新設分割計画において新設分割後に新設分割会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても、新設分割会社に対して、新設分割会社が新設分割設立株式会社の成立の日に有していた財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる

なお、3項には2項の場合と逆パターンの定め(設立会社に対して債務の履行を請求することができないものとされているときであっても、設立会社に対して債務の履行を請求することができる)もありますが、本記事では割愛します

設立会社側:なし

冒頭で見たように、設立会社(分割により設立される側)はまだ設立されていないので、異議申述の話はありません。

結び

今回は、組織再編ということで、新設分割の手続のうち債権者保護手続(異議申述)について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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