法律コラム

法律の略称のパターンは英語の動詞の活用形に似ている件-取適法を例に

年明けからの取適法(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)の施行が近づいている、今日この頃ですが。

取適法って、個人的には、略称としてはなんかイマイチしっくりこないなと、最初に見たときは思ったんですが、当局はどうもこれを意識して使い続けているので、これで定着しそうですね。

本記事では、取適法を例に、法律の略称のパターンのことをゆるっと考えてみたいと思います。

なぜイマイチしっくりこなかったか

管理人はこういうこと(=呼び方を何にするか)に特にこだわりはないので、通じさえすれば何でもいいと思う派です。

一応それを前提としてなんですが、なぜ最初に見たときにイマイチしっくりこなかったのかを考えてみると、こういうことなのかなと。

正式名称を見ると、「取」も「適」も入ってないんですよね。むしろ、こういう略称の仕方(つまり意味で略するというやり方)があるんだ、ふーん、と思ったくらいです。

話の次元が違いますが、条文の文言の定義づけや略称を作るときも、意味で略するタイプもあるようなので、それ自体は別におかしなことでもないのだろうと思います(▷参考記事:法令作成の基本|定義づけの方法と略称の仕方)。ただ、あんまり見ない気はします。

また、「下請法」だと、「下請」という言葉自体が存在するので、意味が想像しやすいのに対して、「取適」はそういう言葉自体は存在しないので、何の予備知識もなく見たときには、”なに?シュテキ?トリテキ?どういう意味?”みたいになりそうなので、それも違和感の原因の一つだったのかもしれません。

ただ、「取引適正(化)」であることは言われればすぐわかるので、当局が使い続けているうちに定着するのだろうなと。

まあ、慣れれば何でも使えるようになってきますしね。

法律の略称のパターンって何かに似ている

法律の略称のパターンって、いろいろありますが、最終的に誰が決めているんですかね。

内閣法制局も、いちいち法律の略称の整理・統一化まではやってなさそうな気もしますし、所管省庁の決めたものがそのまま通るのかな。よくわからないです(わざわざ調べる気が起きるほどでもない)。

法律の略称のパターンって、何か不思議ですよね。

個人情報保護法は、正式名称のように見えますが、実は略称で、正式名称は「個人情報の保護に関する法律」です。「個人情報保護法」とか「個情法」が略称。

じゃあ公益通報者保護法は、正式名称は「公益に関する通報をした者の保護に関する云々…の法律」とかなのかな?と思いますが、これは「公益通報者保護法」が正式名称なんですよね。何でやねん。

そして、略称は「公通法」です。これも口語では「交通法」に聞こえるので、何だか使いにくい感じもしますよね。

では、犯罪収益移転防止法は?これは、正式名称は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」、略称は「犯罪収益移転防止法」や「犯収法」です。これは個人情報保護法と同じようなパターン。

ちなみに、日本法令索引のページで法律を検索すると、法律の正式名称のほかに、上記のような名称が「略称」や「通称」として併せて記載されていますので、オフィシャルな縮め方を知りたいときは参考になります。

ただ、普段、「略称」と「通称」を使い分けていたりするという感覚は個人的にはなく、中ぐらいの長さの呼び方も、短い呼び方も、普通は”略称”と認識しているように思います。

一般法務でよく目にする法律だけでも、略称の仕方のパターンはよくわかりません。ざっくりまとめてみます。

法律の正式名称と略称(日本法令索引より抜粋)※取適法は公取委HPより

正式名称略称/通称
下請代金支払遅延等防止法下請法
製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律中小受託取引適正化法、取適法
個人情報の保護に関する法律個人情報保護法、個情報
公益通報者保護法公通法
犯罪による収益の移転防止に関する法律犯罪収益移転防止法、犯収法
不当景品類及び不当表示防止法景品表示法、景表法
特定商取引に関する法律特定商取引法、特商法

こうしてみると、やはり「取適法」は不規則さが目立つというか、なんとなくしっくりこなかったのは、その辺に原因がありそうな気もします。

中小受託法」という呼び方も併行してされていますが、正式名称に「中小」「受託」とかのワードが入っているので、こちらの方が自然な感じはするんですよね。「取」も「適」も、正式名称にはないですからね。

でも、「チュウショウジュタクホウ」って明らかに長いですし、「トリテキホウ」の方が語呂がいいので、言語経済というか発音経済の点からしても、「取適法」の方が生き残りそうですね。また当局が「取適法」と言い続けているので、「中小受託法」はそのうち使われなくなりそうな気がします。

結び

これって、何かに似ている気がする…。そうだ、英語の動詞の活用形だ!と思いまして。

A-A-A型とか、A-B-B型とか、動詞の活用形でそういうのありましたよね。

think-thought-tought、go-went-gone、tell-told-toldとかなんとか、be動詞以外の一般動詞の規則変化とか不規則変化とか、そういうやつです。

上記の例でいうと、個人情報保護法とか犯罪収益移転防止法は規則変化って感じで、取適法は最もランダムな不規則変化、って感じがしませんかね。自分だけかな。

取適法の略称に始まって、何だか動詞の活用形みたいだなあ…。誰かまとめてくんないかなあ…。という思いつきのコラムでした。

[注記]
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