労働法 法改正

同一労働同一賃金|行政ADR等の整備

今回は、同一労働同一賃金の解説ということで、「公正な待遇の確保」の3本柱のうち3つ目、行政による履行確保措置と行政ADRの整備について書いてみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線は管理人によるものです。

メモ

 本カテゴリ「法務道場」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。

改正前後の法令比較

「行政による履行確保措置と行政ADRの整備」に関して、改正前後の法令を整理して表にすると、以下のとおり。

これは、いわゆる働き方改革関連法(「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」平成30年法律第71号)の「公正な待遇の確保」の3本柱のうち、3つ目である。

【働き方改革関連法】
Ⅰ 働き方改革の総合的かつ継続的な推進
Ⅱ 長時間労働の是正対応で柔軟な働き方の実現
Ⅲ 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
 ① 不合理な待遇差を解消するための規定の整備 
 ② 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
 ③ 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備 ←コレ

改正事項 非正規雇用
の類型

改正前

改正後

行政による履行確保措置

パート労働者

➢報告徴収・助言・指導・勧告(パート労働法18条1項)
➢公表(同条2項)
(※均衡待遇規定については対象外)

➢報告徴収・助言・指導・勧告(パート・有期労働法18条1項)
➢公表(同条2項)
(※均衡待遇規定について対象外のまま)

有期労働者

なし

派遣労働者

➢報告徴収(労働者派遣法50条)
➢指導・助言等(同法48条)
➢業務改善命令・業務停止命令(同法49条)
➢勧告・公表(同法49条の2)

同左

行政ADR

パート労働者

パート労働法の第4章
(※均衡待遇規定については対象外)

パート・有期労働法の第4章
(※均衡待遇規定についても対象となった

有期労働者

なし

派遣労働者

なし

労働者派遣法の第4章で新設

(※)有期雇用労働者を法の対象に含めることに伴い、法律の名称も変更された
パート労働法(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)
 ↓
パート・有期労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)

ポイントの1つ目は、有期労働者については、行政による履行確保措置も行政ADRもなかったところを、パート・有期労働法の対象に含めて一本化し、パート労働者と同様の規律にしたことである。

ポイントの2つ目は、派遣労働者について行政ADRがなかったところを、改正後・労働者派遣法の第4章で新設したことである。

行政による履行確保措置

パート・有期労働者の場合

有期労働者を対象に含めたこと以外は、改正前後で大きな変更はない。

報告徴収、助言、指導、勧告について、パート・有期労働法18条1項で定められている。

勧告に従わなかったときの公表について、同条2項で定められている。

ただし、公表については8条(均衡待遇)違反は対象から除かれていることに留意(改正前から除かれたまま)。

(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告等)
第十八条 厚生労働大臣は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るため必要があると認めるときは、短時間・有期雇用労働者を雇用する事業主に対して、報告を求め、又は助言指導若しくは勧告をすることができる。
 厚生労働大臣は、第六条第一項、第九条、第十一条第一項、第十二条から第十四条まで及び第十六条の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。

派遣労働者の場合

これも改正前後で大きな変更はない。

以下の条文のとおり。

(報告)
第五十条 厚生労働大臣は、この法律を施行するために必要な限度において、厚生労働省令で定めるところにより、労働者派遣事業を行う事業主及び当該事業主から労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、必要な事項を報告させることができる。

(指導及び助言等)
第四十八条 厚生労働大臣は、この法律(第三章第四節の規定を除く。第四十九条の三第一項、第五十条及び第五十一条第一項において同じ。)の施行に関し必要があると認めるときは、労働者派遣をする事業主及び労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、労働者派遣事業の適正な運営又は適正な派遣就業を確保するために必要な指導及び助言をすることができる。

(公表等)
第四十九条の二 厚生労働大臣は、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、第四条第三項、第二十四条の二、第二十六条第七項若しくは第十項、第四十条第二項若しくは第三項、第四十条の二第一項、第四項若しくは第五項、第四十条の三若しくは第四十条の九第一項の規定に違反しているとき、又はこれらの規定に違反して第四十八条第一項の規定による指導若しくは助言を受けたにもかかわらずなおこれらの規定に違反するおそれがあると認めるときは、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、第四条第三項、第二十四条の二、第二十六条第七項若しくは第十項、第四十条第二項若しくは第三項、第四十条の二第一項、第四項若しくは第五項、第四十条の三若しくは第四十条の九第一項の規定に違反する派遣就業を是正するために必要な措置又は当該派遣就業が行われることを防止するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
 厚生労働大臣は、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

(改善命令等)
第四十九条 厚生労働大臣は、派遣元事業主が当該労働者派遣事業に関しこの法律(第二十三条第三項、第二十三条の二及び第三十条第二項の規定により読み替えて適用する同条第一項の規定を除く。)その他労働に関する法律の規定(これらの規定に基づく命令の規定を含む。)に違反した場合において、適正な派遣就業を確保するため必要があると認めるときは、当該派遣元事業主に対し、派遣労働者に係る雇用管理の方法の改善その他当該労働者派遣事業の運営を改善するために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。
 厚生労働大臣は、派遣先が第四条第三項の規定に違反している場合において、同項の規定に違反している派遣就業を継続させることが著しく不適当であると認めるときは、当該派遣先に労働者派遣をする派遣元事業主に対し、当該派遣就業に係る労働者派遣契約による労働者派遣の停止を命ずることができる。

行政ADR

パート・有期労働者の場合

紛争の解決のための援助等

パート労働者・有期労働者から苦情があったときの、自主的解決や行政による援助(助言、指導、勧告)である。

改正によるポイントは、22条の文言に8条が入ったことによって、均衡待遇の違反についても、自主的解決、行政による紛争解決援助、調停の全ての対象に入った点である(⇔改正前は22条の文言に入ってなかった)。

それ以外に大きな変更はない。

自主的解決

8条(均衡待遇)が入ったのがポイントである。

(苦情の自主的解決)
第二十二条 事業主は、第六条第一項、第八条、第九条、第十一条第一項及び第十二条から第十四条までに定める事項に関し、短時間・有期雇用労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする当該事業所の労働者の苦情を処理するための機関をいう。)に対し当該苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るように努めるものとする。

行政による援助(助言、指導、勧告)

自主的解決が困難な場合には、行政による援助の制度がある。

(紛争の解決の援助)
第二十四条 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言指導又は勧告をすることができる。
 事業主は、短時間・有期雇用労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない

調停

自主的解決が困難な場合には、紛争調整委員会による調停もある。

(調停の委任)
第二十五条 都道府県労働局長は、第二十三条に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会調停を行わせるものとする。
 前条第二項の規定は、短時間・有期雇用労働者が前項の申請をした場合について準用する。

派遣労働者の場合

改正後の労働者派遣法の第四章で新設されたもの。

第四章まるごと新設で、第47条の5~第47条の10まである

紛争の解決のための援助等

自主的解決

派遣労働者からの苦情があったとき、事業主の自主的解決が求められるのは以下の事項である(努力義務)。

【派遣元】

○ 法第30条の3(派遣先均等・均衡方式)
○ 法第30条の4(労使協定方式)
○ 法第31条の2第2項(雇入れ時の説明)
○ 法第31条の2第3項(派遣時の説明)
○ 法第31条の2第4項(派遣労働者から求めがあった場合の説明)
○ 法第31条の2第5項(不利益な取扱いの禁止)

【派遣先】

○ 法第40条第2項(業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練の実施)
○ 法第40条第3項(給食施設、休憩室及び更衣室の利用の機会の付与)

(苦情の自主的解決)
第四十七条の五 派遣元事業主は、第三十条の三、第三十条の四及び第三十一条の二第二項から第五項までに定める事項に関し、派遣労働者から苦情の申出を受けたとき、又は派遣労働者が派遣先に対して申し出た苦情の内容が当該派遣先から通知されたときは、その自主的な解決を図るように努めなければならない。
 派遣先は、第四十条第二項及び第三項に定める事項に関し、派遣労働者から苦情の申出を受けたときは、その自主的な解決を図るように努めなければならない。

行政による援助(助言、指導、勧告)

自主的解決が困難な場合には、行政による援助の制度がある。

(紛争の解決の援助)
第四十七条の七 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言指導又は勧告をすることができる。
 派遣元事業主及び派遣先は、派遣労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該派遣労働者に対して不利益な取扱いをしてはならない

調停

自主的解決が困難な場合には、紛争調整委員会による調停もある。

(調停の委任)
第四十七条の八 都道府県労働局長は、第四十七条の六に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会調停を行わせるものとする。
 前条第二項の規定は、派遣労働者が前項の申請をした場合について準用する。

結び

「公正な待遇の確保」の3本柱のうち3つ目、行政による履行確保措置と行政ADRの整備については以上になります。

同一労働同一賃金の解説については、本記事で終わりになります。

▽最初の記事

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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