今回は、印紙税法ということで、印紙税法における契約書の意義(「契約書」該当性)について見てみたいと思います。
印紙税法における契約書は、私法上あるいは一般的なビジネス実務において契約書と呼ばれているもの(契約当事者双方が連名で署名・押印し、それぞれ1通ずつ対等に保有する書面)よりも広範な文書を含んでいるのが特徴です。
ある文書が印紙税法上の契約書に該当するかどうかは、表題(タイトル)が契約書であるか否かに関わらず、契約の成立等の事実を証明する目的で作成されたかという実質によって判定されます。本記事では、契約書該当性を判断するための法的な構造と具体的な判断基準を整理して解説していきます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
印紙税法における契約書の定義(通則5)
印紙税法別表第一の適用に関する通則5において、契約書は以下のように定義されています。
▽法別表第一 課税物件表の適用に関する通則5
5 この表の第一号、第二号、第七号及び第十二号から第十五号までにおいて「契約書」とは、契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約(その予約を含む。以下同じ。)の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとする。
この定義から、契約書該当性を判断する上で重要な4つの判断軸を導き出すことができます。
契約書該当性を決める4つの判断軸
01|契約の本質:対立する意思表示の合致
印紙税法上の契約とは、互いに対立する2個以上の意思表示の合致(申込みと承諾)によって成立する法律行為を指します(基通14条)。
- 単独行為の除外:
相手方の承諾を必要とせず、一方的な意思表示のみで成立する単独行為に関する文書は、契約の成立等を証明するものではないため契約書には該当しません。例えば、船主が保険会社に対して一方的に行う船舶委付証などがこれに該当します - 「予約」の同等性:
将来において本契約を成立させることを約束する予約契約書も、印紙税法上は本契約とまったく同一(同号の契約書)として取り扱われます(通則5、基本通達第15条)
▽基本通達14条
(契約の意義)
第14条 通則5に規定する「契約」とは、互いに対立する2個以上の意思表示の合致、すなわち一方の申込みと他方の承諾によって成立する法律行為をいう。
▽基本通達15条
(予約の意義等)
第15条 通則5に規定する「予約」とは、本契約を将来成立させることを約する契約をいい、当該契約を証するための文書は、その成立させようとする本契約の内容に従って、課税物件表における所属を決定する。
02|証明される事実の対象(成立・更改・変更・補充 vs 消滅)
契約書として課税対象となるのは、以下の契約の成立等の事実を直接証明する目的で作成された文書に限定されます(通則5、基本通達12条)。
- 成立:新たに契約関係を発生させること
- 更改:既存の債務を消滅させこれに代わる新たな債務を成立させること(基本通達16条)
- 変更:既に存在する契約(原契約)の同一性を失わせないまま、その内容を変更すること(基本通達17条)
- 補充:原契約の内容として欠けている事項を補充・追加すること(基本通達18条)
変更・補充契約書については、印紙税法上の重要な事項(単価、数量、支払方法、期間等)を変更・補充するものだけが課税され、重要事項に該当しない軽微な変更等は課税されません。
▽基本通達12条
(契約書の意義)
第12条 法に規定する「契約書」とは、契約当事者の間において、契約(その予約を含む。)の成立、更改又は内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証明する目的で作成される文書をいい、契約の消滅の事実を証明する目的で作成される文書は含まない。
なお、課税事項のうちの一の重要な事項を証明する目的で作成される文書であっても、当該契約書に該当するのであるから留意する。
おって、その重要な事項は別表第2に定める。 (昭59間消3-24改正)
(注)文書中に契約の成立等に関する事項が記載されていて、契約の成立等を証明することができるとしても、例えば社債券のようにその文書の作成目的が契約に基づく権利を表彰することにあるものは、契約書に該当しない。
03|作成の主目的が契約の直接的な証明であること(証明目的)
文書の中に契約の成立等に関する事項が記載されていても、その文書の真の作成目的が契約に基づく権利を証券上に表彰することにあるもの(例:社債券、株券など)は、契約書には該当しません(基通12条注)。
印紙税は、当事者間で契約の成立等を客観的に直接証明する目的で作成された文書を課税対象としています。
04|一方のみが作成・署名する文書(請書、念書、申込書等)の特例
双方が署名捺印していなくても、一方のみが作成して相手方に差し入れる請書や承諾書は、相手方の申込みに対する応諾(承諾)事実を証明するものであるため、原則として契約書に該当します(冒頭の通則5)。
他方、申込書・注文書・依頼書等は、本来、一方的な「申込みの事実」を証明するだけの文書であるため、原則として契約書には該当しません(基通21条1項)。
▽基本通達21条1項
(申込書等と表示された文書の取扱い)
第21条 契約は、申込みと当該申込みに対する承諾によって成立するのであるから、契約の申込みの事実を証明する目的で作成される単なる申込文書は契約書には該当しないが、申込書、注文書、依頼書等(次項において「申込書等」という。)と表示された文書であっても、相手方の申込みに対する承諾事実を証明する目的で作成されるものは、契約書に該当する。
ただし、申込書等の表題であっても、実質的にみて承諾事実(契約の成立)が文書上から明らかである以下の3つのケースは、契約書に該当します(基通21条2項)。
▽基本通達21条2項
2 申込書等と表示された文書のうち、次に掲げるものは、原則として契約書に該当するものとする。(昭59間消3-24改正)
⑴ 契約当事者の間の基本契約書、規約又は約款等に基づく申込みであることが記載されていて、一方の申込みにより自動的に契約が成立することとなっている場合における当該申込書等。ただし、契約の相手方当事者が別に請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているものを除く。
⑵ 見積書その他の契約の相手方当事者の作成した文書等に基づく申込みであることが記載されている当該申込書等。ただし、契約の相手方当事者が別に請書等契約の成立を証明する文書を作成することが記載されているものを除く。
⑶ 契約当事者双方の署名又は押印があるもの
判断に迷いやすいケース
「写し」「副本」「謄本」の契約書該当性(基本通達19条)
正本や原本だけでなく、「写し」「副本」「謄本」と表示された契約書であっても、以下のいずれかに該当し、契約の成立を証明する目的で作成されたことが明らかである場合は、すべて独立した契約書(課税文書)として扱われ、印紙の貼付が必要になります。
- 契約当事者の双方又は一方の署名又は押印があるもの(ただし、所持者自身のみが署名押印しているものを除く)
- 「原本と相違ない」こと、あるいは「写し、副本等である」ことについての当事者による割印や証明があるもの(所持者のみの証明を除く)
▽基本通達19条
(同一の内容の文書を2通以上作成した場合)
第19条 契約当事者間において、同一の内容の文書を2通以上作成した場合において、それぞれの文書が課税事項を証明する目的で作成されたものであるときは、それぞれの文書が課税文書に該当する。
2 写、副本、謄本等と表示された文書で次に掲げるものは、課税文書に該当するものとする。
⑴ 契約当事者の双方又は一方の署名又は押印があるもの(ただし、文書の所持者のみが署名又は押印しているものを除く。)
⑵ 正本等と相違ないこと、又は写し、副本、謄本等であることの契約当事者の証明(正本等との割印を含む。)のあるもの(ただし、文書の所持者のみが証明しているものを除く。)
なお、正本を単にコピー機で複写しただけのもの(新たな署名や当事者による原本証明がないもの)や、FAX送信・電子メールで送受信された電磁的記録のデータなどは、契約書の実物が交付されていないため、課税対象(作成)には該当しません。
「仮契約書」「仮文書」の取扱い(基本通達58条)
後日改めて正式な本契約書を交わすことが合意されている場合であっても、一時的にこれに代わるものとして作成される仮契約書や仮文書(仮請負契約書など)は、その時点で課税事項を証明する目的があれば、それ自体が独立した契約書(課税文書)となります。
後から作成される本契約書もまた、別途課税対象となります。
▽基本通達58条
(後日、正式文書を作成することとなる場合の仮文書)
第58条 後日、正式文書を作成することとなる場合において、一時的に作成する仮文書であっても、当該文書が課税事項を証明する目的で作成するものであるときは、課税文書に該当する。
「契約当事者以外の者」に提出する文書の例外(基本通達20条)
監督官庁や融資銀行など、契約に直接関与しない第三者に提出・交付することを目的として作成された文書で、提出先が明確に記載されているものは、当事者間での証明目的を欠くため、原則として契約書には該当しません(非課税)。
注意点として、契約の前提となる保証人や、不動産売買の仲介人などは、契約に参加する者であるため「契約当事者」に含まれます(以下の括弧書き参照)。したがって、保証人や仲介人が所持・保管する契約書は、この例外には該当せず課税対象になります。
▽基本通達20条
(契約当事者以外の者に提出する文書)
第20条 契約当事者以外の者(例えば、監督官庁、融資銀行等当該契約に直接関与しない者をいい、消費貸借契約における保証人、不動産売買契約における仲介人等当該契約に参加する者を含まない。)に提出又は交付する文書であって、当該文書に提出若しくは交付先が記載されているもの又は文書の記載文言からみて当該契約当事者以外の者に提出若しくは交付することが明らかなものについては、課税文書に該当しないものとする。
(注)消費貸借契約における保証人、不動産売買契約における仲介人等は、課税事項の契約当事者ではないから、当該契約の成立等を証すべき文書の作成者とはならない。
結び
印紙税法上の契約書に該当するかどうかについては、以下の3つのポイントに留意すべきです。
- 意思表示の合致(成立・更改・変更・補充)を客観的に証明する文書か(消滅を証明するだけのものは除外)
- 表題に左右されないこと。差し出された「請書」や特定の「申込書」の実質に、合意(承諾)の証明力があるか
- 署名押印や当事者の原本証明を伴う「副本や写し」として、契約の証明目的で行使・保存されているか
これらを総合的に評価することで、その文書に印紙を貼る義務があるかどうかのアタリをつけることができます。
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- 印紙税法(「印紙税法」)
- 施行令(「印紙税法施行令」)
- 施行規則(「印紙税法施行規則」)
- 基本通達(「印紙税法基本通達」)
- 質疑応答事例:印紙税目次一覧
参考資料
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