今回は、グループガバナンスということで、利益相反取引の管理について見てみたいと思います。
特に一定規模以上のメガベンチャーなどでは、事業ごとに子会社をつくって限られた古参メンバーで役員を兼任させている場合がしばしばありますが、利益相反に関して、企業グループとしてはどのようなことに気を付ければよいのでしょうか。本記事では、会社法・グループガバナンスにおける利益相反管理について詳しく解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
会社法上の取締役にかかる利益相反取引
会社法における利益相反取引とは、取締役がその地位を利用して、会社の利益を犠牲にしつつ自己または第三者の利益を図ることを防ぐための規制です(会社法356条1項等)。
取締役がこのような取引を行う場合には、あらかじめ重要な事実を開示し、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の承認を受けなければなりません。また、取引が行われた後は、遅滞なくその取引に関する重要な事実を取締役会に報告する義務があります。
▽会社法356条1項(※【 】は管理人注)
(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき【=競業取引】。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき【=利益相反取引のうち直接取引】。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき【=利益相反取引のうち間接取引】。
▽会社法365条
(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
第三百六十五条 取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
2 取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
会社法上、利益相反取引は大きく、直接取引と間接取引の2つに分類されています。
直接取引(会社法356条1項2号)
直接取引とは、取締役が自ら取引の当事者となり、または他人の代理人・代表者として、会社との間で契約や単独行為を行うシチュエーションを指します。
具体的な取引例
- 取締役が所有する不動産を会社に売却する、または会社の財産を取締役が譲り受ける取引
- 取締役個人と会社との間での金銭の貸借
- 会社による取締役に対する債務の免除(単独行為による利益付与)
兼任役員が第三者の代表者として行うケース
上記の具体例のほか、親会社の取締役Bが、代表取締役を務める子会社C社を代表して親会社A社と取引を行うような場合も、BはC社(第三者)のためにA社と取引を行うことになるため、原則として直接取引に該当し、親会社において承認が必要となります。
ただし、C社をB以外の代表取締役が代表して取引を行う場合には、原則として親会社における利益相反取引の承認は不要とされています(両社の結託リスクが低いため)
ここで、親会社の代表取締役が子会社の取締役を兼任する場合、および、親会社の取締役が子会社の代表取締役を兼任する場合につき、両社間で取引するときにどちらの会社で取締役会の承認が必要になるのか、意外と混乱しがちなので整理しておきましょう(※子会社は100%完全子会社ではないものとします)。
| ケース | 親会社で承認 | 子会社で承認 | 理由 |
|---|---|---|---|
| ① 親会社の代表取締役が子会社の平取締役を兼任し、親子会社間で取引する | 不要 | 必要 | 当該兼任者は子会社の取締役だが、第三者(親会社)のために子会社と取引することになるため |
| ② 親会社の平取締役が子会社の代表取締役を兼任し、親子会社間で取引する | 必要 | 不要 | 当該兼任者は親会社の取締役だが、第三者(子会社)のために親会社と取引することになるため |
要するに、兼任する取締役が代表権を持っている会社を相手方とするもう一方の会社において、取締役会の承認が必要となります。
利益相反取引の承認プロセスにおいては、兼務している取締役が、どちらの会社を代表して契約書に判(ハン)を押すか(=どちらの第三者のために取引を行うか)に着目すると、ミスなく承認が必要な会社を特定することができます
なお、双方で代表取締役を兼任している場合(親会社代表取締役と子会社代表取締役を兼任)は、双方の会社で利益相反取引となるため、親会社・子会社双方の取締役会承認が必要となります。
例外的に承認が不要となるケース
上記のように、利益相反取引規制の趣旨は、会社の取締役が会社の利益(つまりは株主の利益)を犠牲にして、自己または第三者の利益を図ることを防止する点にあります。
そのため、以下のような取引は例外的に承認不要と解されています。
- 抽象的に見て会社に損害が生じ得ない取引(会社が取締役から無利息・無担保で金銭の貸付けを受ける場合や、会社が取締役に単純に債務を履行する行為、あるいは普通取引約款に基づく一律の取引など)
- 全株主の同意がある場合
- その取締役が100%の株式を保有する一人会社との間の取引(前述のとおり)
間接取引(会社法356条1項3号)
間接取引とは、会社が取締役以外の第三者との間で取引を行うものの、その取引の結果、外形的・客観的に会社の犠牲のもとで取締役に利益が生じる(利害が相反する)シチュエーションを指します。
具体的な取引例
- 代表的なケースは債務保証です。取締役個人が銀行等から個人的に融資(債務)を受ける際に、会社がその取締役の連帯保証人となる行為がこれに当たります
- 取締役個人の債務のために、会社が所有する不動産等に担保を設定する行為(物上保証)
- 会社による取締役の債務引受け
グループ会社間でのケース
- 取締役が代表取締役を務めている他社(他法人)の債務を、会社が保証するような場合も、間接取引として取締役会の承認が必要となります
取締役会での決議と特別利害関係人
利益相反取引の承認を取締役会で決議する際、当該取引に関与する取締役(直接取引の相手方、間接取引の被保証人、相手方会社の代表取締役など)は、特別利害関係人に該当します。
利益相反取引について取締役会の承認決議を得る際、当該取引において特別利害関係人に該当する取締役の取扱いについては、以下の点に注意する必要があります。
議決への参加制限と定足数からの除外
会社法上、取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役は、決議の公正を期すため、その議決に加わることができません。
さらに、当該取締役は議決に参加できないだけでなく、決議の定足数を算定する際の取締役の数にも算入されない点に注意が必要です。
例えば、取締役が3名しかいない会社で1名が特別利害関係人となる場合、残りの2名で定足数を満たし、過半数(2名以上の賛成)で決議を行うことになります。
意見陳述権や議長権限の喪失、退席義務
特別利害関係を有する取締役には、該当する議案について取締役会における意見陳述権もありません。そのため、退席を要求されればその指示に従う必要があります。
また、その取締役が普段は取締役会の議長を務めている場合であっても、公正を期すために当該議案の審議においては当然に議長の権限を失うことになります。
特別利害関係人の範囲に関する留意点
利益相反取引の承認において誰が特別利害関係人に該当するかは、実務上しばしば問題となります。
- 相手方会社の代表取締役:
取引の直接の相手方となる取締役個人だけでなく、取引の相手方である会社の代表取締役を務めている者も、特別利害関係人に該当すると解されています(通説) - グループ会社間の兼務役員:
親会社の現役の役職員が子会社の取締役を兼務している場合、子会社において親会社との取引について取締役会で審議する際には、利益相反の程度等にもよりますが、当該兼務取締役は特別利害関係人として審議及び議決から外れる(参加すべきではない)ことが望ましいとされています
特別利害関係人が決議に参加してしまった場合の効力
本来は議決に加わることができない特別利害関係人が、誤って決議に参加してしまった場合であっても、その取締役の賛成票を除外した上でなお決議に必要な多数(過半数など)が存する場合には、その決議の効力自体は否定されないと解されています。
承認を得ないで行った利益相反取引の法的効力(相対的無効説)
万が一、取締役会の必要な承認決議を経ずに利益相反取引を行ってしまった場合の効力については、判例上、相対的無効として整理されています。
- 直接の当事者間:
会社は、取締役または取締役が代表した直接取引の相手方(つまり承認がないことを知っている当事者)に対しては、常に取引の無効を主張できます - 第三者との関係(取引の安全の保護):
間接取引における取引の相手方(例:保証を受けた銀行)などの第三者に対しては、当該第三者が利益相反取引に該当することおよび取締役会の承認を得ていないことの双方について悪意(知っていたこと)であったことを会社側が主張・立証しない限り、会社は無効を主張できません - 無効を主張できる主体:
無効を主張できるのは会社側に限定されており、義務を免れるために取締役側から無効を主張することは許されません
取締役の損害賠償責任と無過失責任
利益相反取引によって会社に損害が発生した場合、関与した取締役は損害賠償責任(任務懈怠責任)の対象となります。取締役会で承認を得ていた場合であっても、損害が生じた場合の責任は免除されません。
- 取引の相手方となった取締役(直接取引)
直接取引の相手方である取締役(自己のために取引を行った者)は、無過失責任を負います(過失がなかったことを証明しても免責されず、責任の一部免除決議も認められません) - その他の関与取締役(決定者・賛成者)
取引を代表して決定した取締役や、取締役会の承認決議に賛成した取締役は、任務を怠ったこと(過失)が法律上推定されます。自己に過失がなかったことを挙証(証明)できなければ、連帯して損害賠償責任を負うことになります
グループガバナンス上の構造的利益相反
以上のような会社法上の利益相反以外にも、上場子会社など、親会社(支配株主)以外に一般株主や少数株主が存在する子会社において、親会社と子会社の一般株主との間に生じる構造的な利益相反リスクがあります。
例えばメガベンチャーの場合、外部のVC等から資金調達を受けている子会社や、ストックオプションを付与された役職員など、100%完全子会社ではない(少数株主が存在する)子会社が形成されることがよくあります。100%子会社であれば親会社と子会社の利害は一致しますが、子会社に少数株主がいる場合には、親会社と少数株主の利益が相反する関係に立ちます。
特に、親子の経営トップが兼務している状況下では、親会社との直接取引(資金の無償供与や取引条件の設定など)、一部事業部門の譲渡や関連事業間の調整、あるいは将来的な完全子会社化などの局面において、利益相反取引が発生する蓋然性や、子会社の一般株主・少数株主の利益が害されるリスクがより高まります。
構造的利益相反の類型
構造的利益相反は、具体的には以下の3つの類型に分類されます。
類型①:親子間の直接取引
不動産等の取引や、子会社から親会社への現金の預入れ等のシチュエーションです。
この場合、親会社の思惑は、できる限り低金利で子会社のキャッシュ(現金)を活用したいという点に、子会社(一般株主)の思惑は、資本コストに見合う利子が支払われない限り、現金は自社の投資に活用したいという点にあります。
この類型は親子間だけでなく、完全子会社と上場子会社の間(兄弟会社間)の取引においても、実質的に同様の利益相反リスクが生じると考えられています。
類型②:事業譲渡・事業調整
親会社との間で、一部事業部門の事業譲渡や生産委託などを行うシチュエーションです。
この場合、親会社の思惑は、グループの全体最適のため、親会社と子会社間で競合・重複している事業をできる限り安価で整理したいという点に、子会社(一般株主)の思惑は、将来の収益性や事業継続性も勘案し、公正な対価が支払われない限り、事業の譲渡や調整(縮小・廃業)はしたくないという点にあります。
類型③:支配株主による完全子会社化
親会社がTOB(株式公開買付)等によって株式を取得し、子会社を完全子会社化しようとするシチュエーションです。
この場合、親会社の思惑は、できる限り安価で子会社株主から株式を取得し、完全子会社化したいという点に、子会社(一般株主)の思惑は、将来のキャッシュフローなども勘案した上で、公正な価格が提示されない限り、買収には応じたくないという点にあります。
これは会社間の取引ではなく、親会社と一般株主の間の取引(株式譲渡)ですが、親会社と一般株主の間に利益相反リスクが生じる点に着目して同列の類型として扱われます。
これらのシチュエーションにおいて、特に親子間あるいは兄弟会社間で事業分野の重複や市場での競合関係がある場合、あるいは親子の経営トップが兼務している場合には、利益相反取引が発生する蓋然性や、子会社の一般株主の利益が害されるリスクがより一層高まることに注意が必要です。
構造的利益相反に関する規制の種別について
このグループガバナンス上の構造的利益相反(親会社と子会社の一般株主・少数株主との間の利益相反)は、法規制(ハードロー)の問題と、レピュテーション・社会的責任(ソフトロー・社会的要請)の問題の双方が結びついた、現代のグループ経営における課題となっています。
それぞれの側面について、分類して整理してみます。
法規制(ハードロー)としての問題
この問題が、法律上あるいは行政上のルール違反としてどのような法的リスクとなるかは、主に以下の3点に集約されます。
- 取締役の善管注意義務・忠実義務違反(会社法第330条、355条、423条)
- 子会社取締役の責任:
少数株主(一般株主)が存在する子会社の取締役が、親会社の意向(グループ全体最適)を優先し、子会社に不利益な条件(不当に安い価格での製品納入、低金利での資金預入れ等)で取引を行った場合、子会社に対する善管注意義務・忠実義務に違反したとして、任務懈怠責任(会社法423条1項)に基づく損害賠償義務を負います - 親会社取締役の責任:
親会社の取締役も、子会社(親会社の重要な資産)の管理・監督を怠って価値を毀損させたり、不当な取引を子会社に指図して子会社の一般株主に損害を与えた場合、親会社株主からの代表訴訟や、子会社・一般株主からの不法行為責任(民法709条、会社法350条)を追及される法的リスクがあります
- 子会社取締役の責任:
- 会社法上の開示・手続き規律(会社法施行規則等)
- 平成26年会社法改正以降、親会社等との利益相反取引(関連当事者取引)に関して、取引が子会社の利益を害さないかどうかの取締役(会)の判断及びその理由や取引条件の決定方針などを子会社の事業報告に開示することが法律上義務化され、監査役がその適切性を監査し、監査報告で意見を述べることが義務づけられています
- 金融商品取引法・適時開示等
- 支配株主との重要な取引等に関しては、金商法や東京証券取引所の上場規程などによって、不実記載に対する課徴金や、適時開示を通じた少数株主保護方策の開示が義務づけられています
社会的要請(ソフトロー)としての問題
市場や社会からの自律的な要請に応えるソフトローやコンプライアンス(社会的責任)の観点からも、構造的利益相反の問題は重要性を持ちます。
東京証券取引所の定めるコーポレートガバナンス・コードや、経済産業省のグループガイドラインは、法令のような強制力はありませんが、上場企業が従うべき強固なソフトローです。これらに違反する、あるいは説明責任を果たさないことは、市場(投資家)からの社会的信頼を失い、株価下落(コングロマリット・ディスカウント)やレピュテーションダメージ(企業価値の毀損)に結びつきます。
01|経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」
各種のソフトローの中で、構造的利益相反というテーマに最も直接的に踏み込んで解説・提言を行っているのが、このグループガイドラインです。独立した章として「6 上場子会社に関するガバナンスの在り方」を設け、プロパーな現状分析とベストプラクティスを示しています。
- 構造的利益相反の明文化と定義
- 「上場子会社においては、支配株主である親会社と上場子会社の一般株主の間に構造的な利益相反リスクが存在する」と明示しています
- このリスクが顕在化しやすい局面として、前述のような、類型①:直接取引(親子間の不動産取引や現金の預入れ等)、類型②:事業譲渡・事業調整(グループ全体最適のための競合重複事業の整理)、類型③:支配株主による完全子会社化(TOB等による安価な株式取得)の3つを利益相反取引の場面として類型化し、利害対立の構造を整理しています
- リスクをさらに高める要因の指摘
- 親子間あるいは兄弟間で事業分野の重複あるいは市場における競合関係がある場合や、親子の経営トップが兼務している場合には、利益相反取引が発生する蓋然性や、一般株主の利益が害されるリスクがより高まるとし、警鐘を鳴らしています
- 実務上の具体的な解決・担保措置(処方箋)
- 特別委員会の設置と尊重
取締役会における独立社外取締役の比率を3分の1以上や過半数等に高めることを基本としつつ、それが直ちに困難な場合でも、重要な利益相反取引が発生する具体的な局面においては、独立社外取締役(又は独立社外監査役)のみから構成される、又は過半数を占める委員会(特別委員会等)で審議・検討を行い、取締役会はその審議結果を尊重する仕組みを導入すべきであると提言しています - 厳しい独立性基準の採用
上場子会社の独立社外取締役については、一般株主の利益保護という役割の重さに鑑み、東証基準よりも厳格に少なくとも10年以内に親会社で業務執行を行っていた者は選任しないこととすべきと定めています。 - 親会社側の説明責任
親会社に対しては、上場子会社を維持することの合理的理由や、一般株主に配慮した適切な選解任権限の行使に係る考え方について、取締役会で審議し、投資家へ情報開示して説明責任を果たすことを求めています
- 特別委員会の設置と尊重
02|東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(CGコード)」
CGコードは、主として単体企業を念頭に作成されたものであるため、グループガイドラインに比べるとグループ内の構造に特化した直接的な記述は少なめですが、支配株主を有する上場企業一般を規律する少数株主保護の観点から、プロパーな規律を持っています。
- 支配株主等との取引における少数株主保護(上場規則・コードの基礎):
支配株主を有する上場会社に対し、一般株主と利益相反が生じるおそれのない独立役員(社外取締役又は社外監査役)の確保を義務づけています - 任意の独立した委員会の設置(補充原則4-10①):
支配株主を有する上場企業において、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、指名・報酬などの重要事項や利益相反取引の検討にあたり、独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会などの独立した諮問委員会を設置し、適切な関与・助言を得るべきであると規定しています - 資本コストを意識したポートフォリオ説明(原則5-2):
「自社の資本コストを的確に把握した上で、…事業ポートフォリオの見直しや、経営資源の配分等に関し…株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである」としています。これは、親会社が「上場子会社という経営資源を本当に維持し続けることがコングロマリット・プレミアムに資するのか」を定期的に再点検・説明すべきとするグループガイドラインの要請と連動しています
03|日本取引所自主規制法人「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」
不祥事対応のプリンシプルは有事の危機管理に特化したソフトローですが、内部統制の有効性や、利害関係のある現経営陣・支配株主の信頼性に重大な疑義(利益相反)が生じた局面において、どう自浄作用を発揮するかを示しています。
- 第三者委員会の独立性の担保(原則②)
- 経営陣の信頼性に疑義が生じている場合や、社会的影響が重大な不祥事が発生した場合、調査の客観性・中立性を確保するために第三者委員会の設置が有力な選択肢になるとしています
- この際、経営陣が自己に都合の良い委員を選定したというお手盛り(利益相反)の疑念を招かないよう、独立役員を主体とする合議体によって委員選定を行うなどの具体的な配慮(利益相反排除プロセス)を求めています
04|金融庁「日本版スチュワードシップ・コード」
スチュワードシップ・コードは、投資される企業側ではなく、投資する側の機関投資家に対して、投資先企業(グループ企業含む)との間で生じる構造的利益相反をどう管理すべきか、という原則を定めています。
- 利益相反の管理方針(原則2)
- 「機関投資家は、投資先企業との利益相反を管理するための明確な方針を策定し、公表すべきである」とし、顧客・受益者の中長期的な投資リターンを最大化するために、利益相反による弊害を管理することを要請しています
兄弟会社間での利益相反取引について
また、兄弟会社間(例:完全子会社と外部株主がいる子会社の間など)の取引においても、実質的には親子間取引と同様の構造的な利益相反リスクを抱えています。
親会社(支配株主)が両方の会社を支配しているため、グループ全体の利益を優先して一方の会社を有利に扱い、もう一方の会社の一般株主や少数株主の利益を害してしまう可能性があるためです。
兄弟会社間における利益相反取引の実態と留意点について、以下の4つのポイントで解説します。
1. 利益相反が生じうる具体的な取引類型
親子間と同様に、主に以下の2つのシチュエーションで兄弟会社間の利益相反リスクが問題になります。
- 直接取引:
兄弟会社間での不動産の売買や、資金の融通(貸付や現金の預入れなど)を行うケースです。例えば、親会社の意向により、資金力のある子会社から資金繰りの厳しい兄弟会社へ、市場金利よりも低い条件で資金を貸し付けるような場合が考えられます - 事業譲渡・事業調整:
兄弟会社間で一部事業部門の事業譲渡を行ったり、生産・業務委託を行ったりするケースです。グループ全体の最適化を図るため、一方の子会社が持つ事業を別の兄弟会社へ不当に安価で譲渡させるような場合に、株主の利益が害されるおそれがあります
2. 事業重複・競合によるリスクの高まりと純粋持株会社のケース
兄弟会社間で事業分野が重複していたり、市場において競合関係にある場合は、利益相反リスクがより一層高まります。
逆に、事業部門を持たない純粋持株会社の傘下にある子会社の場合、そもそも親子間での事業競合は想定されません。そのため、兄弟会社間においても事業の重複等が全くなければ、グループ内での利益相反リスクは比較的小さいと考えられています。
3. ガバナンス上の独立性の制約
兄弟会社同士は、親会社を通じて強い支配関係で結ばれており、経営者と経済的利害を共通にしています。そのため、ガバナンス上は親会社と同等に扱われ、以下のような制約を受けます。
- 独立社外取締役への就任制限:
兄弟会社の業務執行者(取締役や執行役など)は、親会社の業務執行者と同様に独立性が認められず、上場子会社等の独立社外取締役になることはできません - 監督者としての適格性の欠如:
兄弟法人の業務執行者は、利益相反の観点から、他方の子会社の経営を客観的に監督する資格に欠けるとみなされます
4. 親会社役員への責任波及リスク(子会社管理責任)
兄弟会社間で不当な利益相反取引が行われ、一方の子会社に損害が発生した場合、両社を統括する親会社の取締役は、企業集団全体の内部統制やリスク管理を適切に行わなかったとして、親会社に対する善管注意義務違反や子会社管理責任を問われる可能性があります。
5. 小括
メガベンチャーにおいて、複数の子会社を設立し、限られた古参メンバーが兄弟会社の役員を兼任している場合、「グループ全体のため」という名目のもと、兄弟会社間での事業移管や資金移動が行われやすい環境にあります。
しかし、いずれかの子会社に外部株主(VCや従業員持株等)が存在する場合、兄弟会社間の取引であっても、親子間取引と同等の利益相反管理と公正な取引条件(アームズ・レングス・ルール)の確保が求められます。
補論:利益相反管理の全体像
最後に、もう少し俯瞰した視点から、利益相反管理の全体像を見ておきたいと思います。
利益相反管理の全体像は、大きく分けて、会社法・グループガバナンスにおける管理と、金融機関等で特に厳格に法制化されている業務上の利益相反管理体制(金融商品取引法等)の2つの観点から整理することができます。ここまでの記述は、主に前者に関するものです。
企業がビジネスを行う上で直面する利益相反リスクをどう統制していくのか、その全体像を4つのポイントで整理してみます(※①は既述と重複します)。
① 会社法・グループガバナンスにおける利益相反管理
一定規模以上のメガベンチャーなどでは、事業ごとに子会社をつくり、限られた古参メンバーで親会社や複数子会社の役員を兼任させるケースがしばしば見られます。
このような体制は意思決定の迅速化やグループの一体感醸成に寄与する反面、法律上・ガバナンス上の利益相反リスクを抱えることになります。
ⅰ 会社法上の取締役にかかる利益相反取引
取締役が自己または第三者のために会社と取引を行う場合(直接取引・間接取引)は、株主総会または取締役会の承認が必要です。
例えば、親会社と子会社の役員を兼任している場合、親子間取引はこの規制の対象となるため、適法な決議プロセスを踏む必要があります。
ⅱ グループガバナンス上の構造的利益相反(少数株主保護)
上場子会社や、VCなどの外部株主(少数株主)が存在する子会社においては、親会社と一般株主との間に構造的な利益相反リスクが存在します。親会社との直接取引、一部事業の譲渡、将来的な完全子会社化などの局面では、一般株主の利益が不当に害されるリスクがあります。
これらのリスクに対応するため、子会社において親会社から独立した独立社外取締役の比率を高めたり、重要な利益相反取引については独立社外取締役(または独立社外監査役)を中心とした委員会で審議・検討を行い、一般株主の利益保護を図る仕組みを構築することが求められます。
② 金融規制等に基づく利益相反管理体制
金融コングロマリット化や事業の多角化に伴い、自社内やグループ会社間で競合・対立する複数の利益が存在しやすくなっています。
金商法等では、顧客の利益が不当に害されることのないよう、以下の4つのプロセスによる厳格な管理体制の構築が義務付けられており、これは一般事業会社にとっても利益相反管理のベストプラクティスとなります。
- 対象取引の特定と類型化:
自社や親会社・子会社が行う取引のうち、顧客の利益を不当に害するおそれのある取引をあらかじめ洗い出し、類型化(リストアップ)しておきます - 利益相反の管理方法の実施:
特定された取引に対し、以下のいずれか(または組み合わせ)の方法で顧客等を保護します- 部門間の情報隔離(チャイニーズ・ウォール):対象取引を行う部門と、顧客と取引を行う部門を物理的・システム的に分離し、情報の漏洩を遮断する
- 取引の条件・方法の変更:利益相反が生じないように取引条件等を見直す
- 取引の中止:利益相反を解消できない場合は、取引そのものを中止する
- 事実の開示:利益相反のおそれがあることを事前に相手方(顧客)に適切に開示し、理解を得る
- 利益相反管理方針の策定と公表:
対象取引の類型や特定のプロセス、管理方法、管理体制などを定めた利益相反管理方針を策定し、その概要を店舗やウェブサイト等でわかりやすく公表します - 記録の作成と保存:
特定した取引や、実施した管理措置に関する記録を作成し、5年間保存します
③ レピュテーション・リスクへの配慮
法令で禁止されている利益相反行為を防ぐこと(ルール・ベース)だけでなく、顧客の直接的な不利益にはならなくとも、自社やグループの社会的信用が傷つくリスク(レピュテーション・リスク)が顕在化するおそれにも留意した経営管理が望ましいとされています。
法的に問題がなくても、市場や社会からどう見られるかを管理の対象に含めることが重要です。
④ 一元管理体制と独立性の確保
利益相反管理を実効的に行うためには、営業部門から独立した立場で情報を一元的に集約・管理する利益相反管理統括部署(コンプライアンス部門など)を設置することが有効です。
現場に対する牽制機能を持たせ、利益相反の特定や管理手法の妥当性を客観的に検証する体制を敷きます。
小括
メガベンチャー等において、限られた古参メンバーで多数の子会社役員を兼任させ、事業を多角化していくことはスピード経営の観点からは有効ですが、同時に、会社法上の承認手続の漏れ、少数株主との利害対立、グループ内での情報共有によるコンフリクト(利益相反)が発生しやすい状態を意味します。
役員の兼任体制を維持しつつも、どの情報が、どの立場として共有されているのかを明確にする情報遮断(チャイニーズ・ウォール)のルール整備や、コンプライアンス統括部署による一元的な監視プロセスを導入することが、全体像としての利益相反管理となります。
結び
今回は、グループガバナンスということで、企業グループにおける利益相反取引管理について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等
参考資料
- グループガイドライン(「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」)(≫掲載ページ)
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