今回は、下請法を勉強しようということで、適用要件のうち取引の内容に関するものについて書いてみたいと思う。
下請法の適用対象となる取引の内容には、
① 製造委託
② 修理委託
③ 情報成果物作成委託 ←本記事
④ 役務提供委託 ←本記事
の4つがありますが、本記事では③と④を取り上げます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
情報成果物作成委託(法2条3項)
情報成果物作成委託とは、ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、情報成果物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託することです。
「情報成果物」というのが何なのかピンとこないですが、
- プログラム
- 影像や音声、音響などから構成されるもの
- 文字、図形、記号などから構成されるもの
をいい、物品の付属品・内蔵部品、物品の設計・デザインに係わる作成物全般を含んでいます。
情報成果物作成委託には、
- 類型1:提供目的情報成果物の作成委託
- 類型2:情報成果物の作成再委託
- 類型3:自社使用情報成果物の作成委託
のように、全部で3類型があります。
以下、順に見てみます。
類型1-提供目的情報成果物の作成委託
これは、事業者が、情報成果物を業として提供している場合に、その情報成果物の作成の全部又は一部を他の事業者に委託することです。
類型1:提供目的情報成果物の作成委託
【親事業者の顧客】
提供 ↑
【親事業者】
↓ 作成委託
【下請事業者】
「情報成果物」
もう少しくわしく見ると、「情報成果物」とは、次の①~③のことです。
- プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう)
ex. テレビゲームソフト、会計ソフト、家電製品の制御プログラム、顧客管理システム - 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの
ex. テレビ番組、テレビCM、ラジオ番組、映画、アニメーション - 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの
これが語感的にわかりにくいのが難点かなと思います。ざっくりいうと、①エンジニアがつくるプログラム、②③クリエイターがつくるコンテンツやデザイン(テキスト、音声、画像、動画、映像etc)、という感じです。設計図や脚本なども該当します。
条文も確認してみます。
▽下請法2条6項
6 この法律で「情報成果物」とは、次に掲げるものをいう。
一 プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)
二 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの
三 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの
四 前三号に掲げるもののほか、これらに類するもので政令で定めるもの
なお、4号で政令により追加されているものは現在のところありません。
「提供」
情報成果物作成委託における「提供」とは、事業者が、他者に対し情報成果物の販売、使用許諾を行うなどの方法により、当該情報成果物を他者の用に供することです。
この「提供」には、
〇情報成果物それ自体を単独で提供する場合
のほか、
〇物品等の附属品として提供される場合
例)家電製品の取扱説明書の内容、CDのライナーノーツ
〇制御プログラムとして物品に内蔵される場合
例)家電製品の制御プログラム
〇商品の形態、容器、包装等に使用するデザインや商品の設計等を商品に化体して提供する場合
例)ペットボトルの形のデザイン、半導体の設計図
も含まれます。
「委託」
情報成果物作成委託における「委託」とは、事業者が他の事業者に対し、給付に係る仕様、内容等を指定して情報成果物の作成を依頼することです。
つまり、事業者が他の事業者に対し、ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなどの仕様、テーマ、コンセプト等を指定して作成を依頼することです
類型2-情報成果物の作成再委託
これは、事業者が、情報成果物の作成を業として請け負っている場合に、その情報成果物の作成の全部又は一部を他の事業者に委託することです。
類型2:情報成果物の作成再委託
【発注者】
作成請負 ↓
【親事業者】(=元請)
↓ 作成再委託
【下請事業者】
類型1と類型2をまとめて見てみると、以下のとおりです。
▽公正取引委員会のXアカウント
【#下請取引適正化推進月間】#下請法 の基本⑤
— 公正取引委員会 (@jftc) November 13, 2023
下請法の対象となる取引内容のひとつである「情報成果物作成委託」とは、事業者が、他の事業者に対し、仕様、内容等を指定して情報成果物の作成を依頼することをいいます。https://t.co/flhdezp6rW#下請 pic.twitter.com/L1sHOppwwh
類型3-自家使用情報成果物の作成委託
これは、事業者が、「その使用する情報成果物の作成を業として行う場合」、つまり、他者への提供を目的にするのではなく、自家使用する情報成果物の作成を反復継続的に行っており、社会通念上、事業の遂行とみることができる場合に、その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することです。
自らの事業のために用いる広告宣伝物、社内で使用する会計用ソフトウェア、自社のホームページ等、の作成を社内に部門を設けて行っているような場合です。
ただし、社内にシステム部門があったり、システム開発に詳しい従業員がいたとしても、他の事業者に作成を委託しているソフトウェアと同種のソフトウェアを作成していない場合は、「その使用する情報成果物の作成を業として行う場合」に該当しません。
類型3:自家使用情報成果物の作成委託
【親事業者】
自社で業として作成している自家使用の情報成果物
↓ 作成委託
【下請事業者】
この点も踏まえて類型3の例を示すと、以下のとおりです(下線部に留意)。
条文を確認(まとめ)
内容を見たところで、条文も確認してみます(下請法2条3項)。
▽下請法2条3項
3 この法律で「情報成果物作成委託」とは、事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。
長いので、読みやすいように「及び」のところで分けると、
事業者が
〇業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部
を他の事業者に委託すること【類型1・類型2】
「及び」
事業者が
〇その使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部
を他の事業者に委託すること【類型3】
となっています。
役務提供委託
役務提供委託とは、運送やビルメンテナンスをはじめ、各種サービスの提供を行う事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者に委託することです。
ただし、建設業を営む事業者が請け負う建設工事は、ここでいう役務には含まれません。
役務提供委託の類型は、1つだけです。
類型-役務提供委託
これは、事業者が、他者に対し業として役務を提供する場合に、その役務の全部又は一部を他の事業者に委託することです。
例えば、他者から運送、ビルメンテナンス、情報処理等の各種サービスの提供を請け負った事業者が、それらのサービスの提供を他の事業者に委託するような場合です。
役務提供委託
【親事業者の顧客】
委託 ↓
【親事業者】(=元請)
↓ 再委託
【下請事業者】
つまり、下請事業者に委託する役務は、親事業者が他者に提供する役務です。要するに、再委託になります。
役務提供委託に該当する例として、以下のようなものがあります。
▽公正取引委員会のXアカウント
【#下請取引適正化推進月間】#下請法 の基本⑥
— 公正取引委員会 (@jftc) November 14, 2023
下請法の対象となる取引内容のひとつである「役務提供委託」とは、事業者が、他者のために提供する役務の全部又は一部を他の事業者に依頼することをいいます。https://t.co/flhdezp6rW#下請 pic.twitter.com/YM8bKDm2QL
他方、自ら用いる役務の委託にあたり、役務提供委託に該当しない例として、以下のようなものがあります。
▽公正取引委員会のXアカウント
【#下請取引適正化推進月間】#下請法 の基本⑨
— 公正取引委員会 (@jftc) November 21, 2023
役務提供委託は他者に提供する役務が下請取引に当たります。自ら用いる役務は対象外です。https://t.co/flhdezpEhu#下請 pic.twitter.com/pj6550GfEG
条文を確認
内容を見たところで、条文も確認してみます(下請法2条4項)。
▽下請法2条4項
4 この法律で「役務提供委託」とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること(建設業(建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二条第二項に規定する建設業をいう。以下この項において同じ。)を営む者が業として請け負う建設工事(同条第一項に規定する建設工事をいう。)の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)をいう。
括弧書きを別々にして読むと、
事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること
※建設業(建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二条第二項に規定する建設業をいう。以下この項において同じ。)を営む者が業として請け負う建設工事(同条第一項に規定する建設工事をいう。)の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く
となっています。
建設工事の下請について除外されているのはなぜかというと、建設業法という別の法律で下請法と同じような規制がされており(書面の作成義務など)、下請事業者の保護が図られているためです。
ただし、「建設」というのは建築と土木を含む用語ですが、設計は含まれないため、設計を他の事業者に委託することは情報成果物作成委託に該当し得る点などに留意が必要です。
▽(参考)用語の関係
✓ 建設
┗建築
┗土木
✓ 設計
くわしくは、下請法Q&A(「よくある質問コーナー(下請法)」)に記載があります。
1 下請法の適用範囲について
(1) 全般
(建設工事)
Q1 建設工事の請負には本法の適用がないとのことだが,建設業者には本法の適用がないと考えてよいか。
A. 建設工事に係る下請負(建設工事の再委託)には本法は適用されない。しかし,例えば,建設業者が建設資材を業として販売しており,当該建設資材の製造を他の事業者に委託する場合には,製造委託(類型1)に該当する。また,建設業者が請け負った建設工事に使用する建設資材の製造を他の事業者に委託する場合には,自家使用する物品として建設業者が当該建設資材を業として製造していれば,製造委託(類型4)に該当する。
このほかにも,建設業者が請け負った建築物の設計や内装設計,又は工事図面の作成を他の事業者に委託する場合には,情報成果物作成委託(類型2)に該当する。また,建売住宅を販売する建設業者が,建築物の設計図等の作成を他の事業者に委託する場合には,当該設計図等は建築物に化体して提供されるものなので,情報成果物作成委託(類型1)に該当する。
結び
今回は、下請法を勉強しようということで、下請法の適用対象である取引内容4つのうち、情報成果物作成委託と役務提供委託について見てみました。
▽次の記事
-
下請法を勉強しよう|親事業者の義務-3条書面の交付義務
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下請法に関する記事は、以下のページにまとめています。
▽下請法
-
下請法 - 法律ファンライフ
houritsushoku.com
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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