反社排除

反社排除|今さら聞けない「政府指針」って何?法的性格や企業に果たす意義を解説

今回は、反社排除ということで、政府指針とは何かということと、その意義について見てみたいと思います。

政府指針(「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」)は、企業のコンプライアンス研修などで耳にすることがあるかもしれません。本記事では、今さら聞きづらい政府指針とは何かについて、そもそもなぜ政府がわざわざこのような指針を出したのか、企業にとってこの指針にはどんな意義があるのかを解説したいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

政府指針とは

政府指針は、反社会的勢力との関係遮断の取組みを推進していくため、平成19年(2007年)に政府の犯罪対策閣僚会議幹事会が取りまとめたガイドラインです。

正式名称は、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(通称:政府指針)といい、内容としては、企業が反社会的勢力による被害を防止するための基本的な理念や、具体的な対応がまとめられています。

なぜこの指針が作られたのか

近年、暴力団は組織の実態を隠したり、企業活動や政治活動を装ったりして、その活動をどんどん不透明化・巧妙化させています。そのため、暴力団を排除しようという意識が高い企業であっても、気づかないうちに反社やフロント企業と取引してしまっていたというリスクが高まっています。

そのような中、政府指針は、反社会的勢力を社会から排除していくことは、①企業にとっての社会的な責任(コンプライアンス)であると同時に、②企業そのものや従業員、株主を守るための必要不可欠な企業防衛であるとの認識を示しています。

【ポイント】政府指針の認識

①反社排除はコンプライアンスそのものであるという宣言

 政府指針は、反社会的勢力を排除して資金源に打撃を与えることは、治安対策上重要な課題であると同時に、反社会的勢力に屈することなく法律に則して対応し、資金提供を行わないことは、企業にとってもコンプライアンスそのものであると宣言しています。
 反社対策は、”できればやったほうがいいこと”ではなく、現代の企業が適正に事業を営むための大前提(コンプライアンス)であるという認識を社会に定着させた点に意義があります。

企業防衛の観点からも必要不可欠

 また、反社会的勢力は、企業そのものを乗っ取ろうとしたり、従業員を標的に不当要求を行ったりして、最終的には企業や株主、従業員に多大な被害を生じさせます。だからこそ、反社との関係遮断は、社会のためだけでなく、企業防衛の観点からも必要不可欠な要請であると位置づけられています。

政府指針の法的性格

政府指針は、あくまでも犯罪対策閣僚会議幹事会の「申合せ」という位置付けであり、法的拘束力はありません(指針解説「⑴本指針の対象や法的性格」参照)。

ただ、今日に至るまで反社排除対応の事実上の標準として参照され、各社のコンプライアンス体制や契約実務のベースになっています。

【ポイント】法的拘束力はないが裁判の基準にはなる

 このように政府指針には法的拘束力はなく、完全に実施しなかったからといって直ちに罰則等の不利益が与えられるものではありませんが、だからといって、当然、無視していいわけではありません。

 指針解説では、万が一反社との取引で会社に損害が生じた場合、株主などから取締役が責任を果たしたか(善管注意義務違反)を問われる民事訴訟などの場で、この政府指針が判断基準として参考にされることはあり得るとされています。つまり政府指針は、企業経営陣が果たすべき注意義務のスタンダード(基準)として機能するという法的意義を持っているといえます。

政府指針の意義

政府指針の意義(それまでとは異なる政府指針の新規性)は、端的にいうと、

  • 反社会的勢力との一切の関係遮断
  • 内部統制システムへの位置付け

の2点にあります。

反社会的勢力との一切の関係遮断

ひとつめは、政府指針は、反社会的勢力との一切の関係遮断を求めている点です。

現在だと比較的当然のように感じられるかもしれませんが、当時、新規だった点は、不当・・要求の拒絶だけでなく、不当要求等の違法な手段を用いない平穏・・な取引つまり通常取引からも排除することを求め、反社会的勢力が取引社会に参入すること自体を否定した点です。

つまり、それまでは不当要求への対応(暴対法中心)がメインテーマだったのが、一切の取引遮断(政府指針)にシフトしたということです。

不当要求の拒絶から一切の取引遮断へ

相手関係
Before暴力団からの不当要求の拒絶
After反社会的勢力との一切の取引遮断

内部統制システムへの位置付け

ふたつめは、一切の関係遮断を、取締役等の内部統制システム構築義務(あるいは善管注意義務)として位置付けたという点です。

以前は、反社への対応を企業倫理規程などに盛り込み、従業員の倫理観に任せている企業も多くありました。しかし、指針解説は、これを単なる従業員の倫理の問題として捉えるのは危険だと警鐘を鳴らしています(指針解説「⑵反社会的勢力との関係遮断を社内規則等に明文化する意義」参照)。

なぜなら、もし従業員が不祥事を理由に反社から脅された場合、恐怖心から適切に処理できなかったり、社内に、安易に裏取引で解決しようとする人がいて、担当者が板挟みになったりして、判断を誤るおそれがあるからです。事案を関係者限りで隠蔽しようとする力が社内で働きかねないわけです。

そこで政府指針は、反社との関係遮断を単なる倫理の問題ではなく法令遵守に関わる問題として捉え直し、会社組織全体の内部統制システム(法令等遵守・リスク管理事項)に位置づけることを求めました(指針解説「⑿反社会的勢力との関係遮断を内部統制システムに位置づける必要性」参照)。担当者一人に抱え込ませず、経営トップから現場まで、警察などの外部専門機関と連携しながら組織全体で対応する仕組み(システム)を作ることが、政府指針が企業に求めたパラダイムシフト(当時)であり、意義だといえます。

簡単にいうと、個人の倫理ではなく内部統制システムへと昇華させたということです

結び

政府指針の意義にまつわるポイントをまとめると、以下のようになります。

政府指針のポイント

  • 反社排除はコンプライアンスそのものであると位置づけたこと
  • 巧妙化する反社から会社と従業員を守る企業防衛の要請でもあること
  • 法的拘束力はなくても、裁判などで取締役の善管注意義務の基準になること
  • 暴力団からの不当要求の拒絶から、反社会的勢力との一切の関係遮断へとシフトしたこと
  • 個人の倫理や担当者任せにせず、会社全体の内部統制システムに組み込むべきリスク管理事項であると明確にしたこと

政府指針は、単なるスローガンではなく、今日に至るまで反社排除対応の事実上の標準として参照され、実務のベースとなっています。改めてその意義を理解し、日々の業務や社内体制の構築に活かしていくことが大切といえます。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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関連団体

  • 暴追都民センター(「公益財団法人 暴力団追放運動推進都民センター」)
  • 特防連(「公益社団法人 警視庁管内特殊暴力防止対策連合会」)

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