今回は、反社排除ということで、政府指針(「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」)で示されている基本原則とこれに基づく対応について見てみたいと思います。
前の記事では、政府指針が企業に果たす意義や反社会的勢力の定義について解説しました。本記事では、その指針の核心部分である5つの基本原則と、それに基づいて企業が実際にどう動くべきかを示した平素からの対応・有事の対応にスポットを当てて解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
5つの基本原則
政府指針では、企業が反社会的勢力(反社)による被害を防止するためのベースとして、次の5つの基本原則を掲げています。
▽政府指針 1
1 反社会的勢力による被害を防止するための基本原則
〇 組織としての対応
〇 外部専門機関との連携
〇 取引を含めた一切の関係遮断
〇 有事における民事と刑事の法的対応
〇 裏取引や資金提供の禁止
① 組織としての対応
反社からの不当な要求は、恐怖や不安を伴います。担当者や担当部署だけに任せて孤立させると、要求に応じざるを得ない状況に追い込まれかねません。
また、単なる従業員の倫理の問題として捉えると、社内に安易に解決しようとする者がいた場合に担当者が板挟みになり、判断を誤るおそれがあります(指針解説「⑵反社会的勢力との関係遮断を社内規則等に明文化する意義」参照)。
そのため、反社への対応は法令遵守に関わる問題ととらえ(内部統制システムへの位置付け)、社内規則などに根拠を設け、代表取締役などの経営トップ以下、組織全体として対応することが求められます。また、対応する従業員の安全を確保することも重要です。
▽政府指針 2-⑴
〇 反社会的勢力による不当要求は、人の心に不安感や恐怖感を与えるものであり、何らかの行動基準等を設けないままに担当者や担当部署だけで対応した場合、要求に応じざるを得ない状況に陥ることもあり得るため、企業の倫理規程、行動規範、社内規則等に明文の根拠を設け、担当者や担当部署だけに任せずに、代表取締役等の経営トップ以下、組織全体として対応する。
〇 反社会的勢力による不当要求に対応する従業員の安全を確保する。
② 外部専門機関との連携
いざという時に備えて、平素から警察、暴力追放運動推進センター(暴追センター)、弁護士などの外部の専門機関と緊密な連携関係を構築しておくことが重要です。
▽政府指針 2-⑴
〇 反社会的勢力による不当要求に備えて、平素から、警察、暴力追放運動推進センター、弁護士等の外部の専門機関(以下「外部専門機関」という。)と緊密な連携関係を構築する。
③ 取引を含めた一切の関係遮断
反社とは、取引関係を含めて一切の関係を持たず、不当要求は断固として拒絶します。
一切の関係遮断というのは、不当要求の拒絶だけでなく、不当要求等の違法な手段を用いない平穏な取引つまり通常取引からも排除するという意味です(反社会的勢力が取引社会に参入すること自体を否定する)。もちろん不当要求は拒絶します。
▽政府指針 2-⑴
〇 反社会的勢力とは、取引関係を含めて、一切の関係をもたない。また、反社会的勢力による不当要求は拒絶する。
④ 有事における民事と刑事の法的対応
不当な要求に対しては、民事・刑事の両面から法的な対応を行います。被害が生じた場合は泣き寝入りせず、積極的に被害届を提出するなど、刑事事件化をためらわない姿勢が重要です。
▽政府指針 2-⑴
〇 反社会的勢力による不当要求に対しては、民事と刑事の両面から法的対応を行う。
⑤ 裏取引や資金提供の禁止
もし反社からの不当要求が、自社の事業上の不祥事や従業員のスキャンダルを理由とするものであったとしても、事案を隠蔽するための裏取引は絶対に行ってはいけません。これを行うことは、企業の存立そのものを危うくするリスクであると認識する必要があります。
また、反社への資金提供は、彼らの活動を助長するだけでなく、さらなる要求を招くため、絶対に行ってはいけません。
▽政府指針 2-⑴
〇 反社会的勢力による不当要求が、事業活動上の不祥事や従業員の不祥事を理由とする場合であっても、事案を隠ぺいするための裏取引を絶対に行わない。
〇 反社会的勢力への資金提供は、絶対に行わない。
政府指針では、これら5つの基本原則を踏まえて、普段からやっておくべきこと(平素からの対応)と、いざトラブルが起きたときのこと(有事の対応)も具体的に示しています。
平素からの対応(普段の備え)
5つの基本原則を踏まえて、企業が普段からやっておくべき平素からの対応は、以下のとおりです。
トップの宣言と対応部署の整備
経営トップが反社排除を基本方針として社内外に宣言し、情報を一元管理する反社会的勢力対応部署を整備します。
▽政府指針 2-⑵
〇 代表取締役等の経営トップは、⑴の内容を基本方針として社内外に宣言し、その宣言を実現するための社内体制の整備、従業員の安全確保、外部専門機関との連携等の一連の取組みを行い、その結果を取締役会等に報告する。
〇 反社会的勢力による不当要求が発生した場合の対応を統括する部署(以下「反社会的勢力対応部署」という。)を整備する。反社会的勢力対応部署は、反社会的勢力に関する情報を一元的に管理・蓄積し、反社会的勢力との関係を遮断するための取組みを支援するとともに、社内体制の整備、研修活動の実施、対応マニュアルの整備、外部専門機関との連携等を行う。
▽指針解説 ⑿反社会的勢力との関係遮断を内部統制システムに位置づける必要性
反社会的勢力による不当要求は、
〇 取締役等の企業トップを対象とするものとは限らず、従業員、派遣社員等の個人や関係会社等を対象とするものがあること
〇 事業活動上の不祥事や従業員の不祥事を対象とする場合には、事案を関係者限りで隠ぺいしようとする力が社内で働きかねないこと
を踏まえると、反社会的勢力による被害の防止は、業務の適正を確保するために必要な法令等遵守・リスク管理事項として、内部統制システムに明確に位置づけることが必要である。このことは、ある程度以上の規模のあらゆる株式会社にあてはまる。
…(略)…
すなわち、
〇 取締役会が明文化された社内規則を制定するとともに、反社会的勢力対応部署と担当役員や従業員を指名すること
〇 制定した社内規則に基づいて、反社会的勢力対応部署はもとより、社内のあらゆる部署、会社で働くすべての個人を対象としてシステムを整備すること
が重要である。
一切の関係遮断と暴排条項の導入
反社会的勢力とは、一切の関係を遮断します。また、知らずに反社と取引してしまうのを防ぎ、また相手が反社だとわかったらすぐに契約を解除できるよう、契約書や取引約款に暴力団排除条項(暴排条項)を導入します。
▽政府指針 2-⑵
〇 反社会的勢力とは、一切の関係をもたない。そのため、相手方が反社会的勢力であるかどうかについて、常に、通常必要と思われる注意を払うとともに、反社会的勢力とは知らずに何らかの関係を有してしまった場合には、相手方が反社会的勢力であると判明した時点や反社会的勢力であるとの疑いが生じた時点で、速やかに関係を解消する。
〇 反社会的勢力が取引先や株主となって、不当要求を行う場合の被害を防止するため、契約書や取引約款に暴力団排除条項を導入するとともに、可能な範囲内で自社株の取引状況を確認する。
一切の関係遮断について
指針解説によれば、反社であると完全に判明した段階だけでなく、反社であるとの疑いを生じた段階でも、関係遮断に向けた措置を図ることが大切だとされています。
▽指針解説 ⑷反社会的勢力との一切の関係遮断
反社会的勢力による被害を防止するためには、反社会的勢力であると完全に判明した段階のみならず、反社会的勢力であるとの疑いを生じた段階においても、関係遮断を図ることが大切である。
勿論、実際の実務においては、反社会的勢力の疑いには濃淡があり、企業の対処方針としては、
① 直ちに契約等を解消する
② 契約等の解消に向けた措置を講じる
③ 関心を持って継続的に相手を監視する(=将来における契約等の解消に備える)
などの対応が必要となると思われる。
ただ、いずれにせよ、最終的に相手方が反社会的勢力であると合理的に判断される場合には、関係を解消することが大切である。
…(以下略)…
暴排条項について
また、暴排条項の活用にあたっては、反社会的勢力の属性要件のみならず行為要件の双方を組み合わせることが適切とされています。
▽指針解説 ⑸契約書及び取引約款における暴力団排除条項の意義
暴力団を始めとする反社会的勢力が、その正体を隠して経済的取引の形で企業に接近し、取引関係に入った後で、不当要求やクレームの形で金品等を要求する手口がみられる。また、相手方が不当要求等を行わないとしても、暴力団の構成員又は暴力団と何らかのつながりのある者と契約関係を持つことは、暴力団との密接な交際や暴力団への利益供与の危険を伴うものである。
こうした事態を回避するためには、企業が社内の標準として使用する契約書や取引約款に暴力団排除条項を盛り込むことが望ましい。
本来、契約を結ぶまでの時点では、<契約自由の原則>に基づき、反社会的勢力との契約を、企業の総合的判断に基づいて拒絶することは自由である。また、契約関係に入ってからの時点においても、相手方が違法・不当な行為を行った場合や、事実に反することを告げた場合には、<信頼関係破壊の法理>の考え方を踏まえ、契約関係を解除することが適切である。
したがって、暴力団排除条項の活用に当たっては、反社会的勢力であるかどうかという属性要件のみならず、反社会的勢力であることを隠して契約を締結することや、契約締結後違法・不当な行為を行うことという行為要件の双方を組み合わせることが適切であると考えられる。
属性要件と行為要件というのは、反社の該当性判断の際の着眼点のことです(2つの視点に着目する)。以下の関連記事でくわしく解説しています。
-
-
反社排除|意外と知らない「反社会的勢力」の定義を解説~属性要件と行為要件・周辺者など
続きを見る
情報のデータベース化
取引先の審査をしっかり行うため、暴追センターや他企業の情報を活用して、自社に反社情報のデータベースを構築します。
▽政府指針 2-⑵
〇 取引先の審査や株主の属性判断等を行うことにより、反社会的勢力による被害を防止するため、反社会的勢力の情報を集約したデータベースを構築する。同データベースは、暴力追放運動推進センターや他企業等の情報を活用して逐次更新する。
暴追センターのほか、特殊暴力防止対策連合会(通称:特暴連)も、連携先として一般的かと思います。
▽指針解説 ⑻反社会的勢力の情報を集約したデータベースの構築
② 不当要求情報管理機関について
暴力団対策法は、不当要求情報に関する情報の収集及び事業者に対する当該情報の提供を業とする者として、「不当要求情報管理機関」という任意団体の仕組みを規定しており、現在、①財団法人競艇保安協会、②財団法人競馬保安協会、③社団法人警視庁管内特殊暴力防止対策連合会の3つが登録されている。
また、企業からの照会に対する警察からの暴力団情報の提供については、「暴力団排除等のための部外への情報提供について」(通達)において、判断基準と手続が定められています(指針解説「⑽警察からの暴力団情報の提供」参照)。
外部専門機関との連携関係の構築
外部専門機関との関係構築は、平素から行っておくことが重要です。有事の際に躊躇することなく連絡や相談ができるよう、平素から担当者同士で人間関係を築いておきましょう。
▽政府指針 2-⑵
〇 外部専門機関の連絡先や担当者を確認し、平素から担当者同士で意思疎通を行い、緊密な連携関係を構築する。暴力追放運動推進センター、企業防衛協議会、各種の暴力団排除協議会等が行う地域や職域の暴力団排除活動に参加する。
▽指針解説 ⑼警察署や暴力追放運動推進センターとの緊密な関係
警察署の暴力担当課の担当者や、暴力追放運動推進センターの担当者と、暴排協議会等を通じて、平素から意思疎通を行い、反社会的勢力による不当要求が行われた有事の際に、躊躇することなく、連絡や相談ができるような人間関係を構築することが重要である。
また、暴力追放運動推進センターが行っている不当要求防止責任者に対する講習等を通じて、不当要求に対する対応要領等を把握することも重要である。
有事の対応(トラブル発生時)
では、もし反社からアプローチを受けてしまったら、どう動くべきでしょうか。
速やかな報告と組織的対応
不当要求があったら、担当者で抱え込まず、速やかに対応部署へ報告・相談し、担当取締役等の経営トップへ報告を上げます。そして、積極的に外部専門機関に相談し、不当要求防止責任者を関与させて組織全体で対応します。その際には民事・刑事の両面から法的な対応を行います。
▽政府指針 2-⑶
〇 反社会的勢力による不当要求がなされた場合には、当該情報を、速やかに反社会的勢力対応部署へ報告・相談し、さらに、速やかに当該部署から担当取締役等に報告する。
〇 反社会的勢力から不当要求がなされた場合には、積極的に、外部専門機関に相談するとともに、その対応に当たっては、暴力追放運動推進センター等が示している不当要求対応要領等に従って対応する。要求が正当なものであるときは、法律に照らして相当な範囲で責任を負う。
〇 反社会的勢力による不当要求がなされた場合には、担当者や担当部署だけに任せずに、不当要求防止責任者を関与させ、代表取締役等の経営トップ以下、組織全体として対応する。その際には、あらゆる民事上の法的対抗手段を講ずるとともに、刑事事件化を躊躇しない。特に、刑事事件化については、被害が生じた場合に、泣き寝入りすることなく、不当要求に屈しない姿勢を反社会的勢力に対して鮮明にし、更なる不当要求による被害を防止する意味からも、積極的に被害届を提出する。
事実関係の調査
不祥事などを理由に攻撃された場合、事実関係を調査し、その指摘が嘘であれば、虚偽であるとして要求を拒絶します。もし指摘が事実だったとしても、不当要求自体は拒絶し、不祥事については別途、適切な情報開示や再発防止策で対応します。
▽政府指針 2-⑶
〇 反社会的勢力による不当要求が、事業活動上の不祥事や従業員の不祥事を理由とする場合には、反社会的勢力対応部署の要請を受けて、不祥事案を担当する部署が速やかに事実関係を調査する。調査の結果、反社会的勢力の指摘が虚偽であると判明した場合には、その旨を理由として不当要求を拒絶する。また、真実であると判明した場合でも、不当要求自体は拒絶し、不祥事案の問題については、別途、当該事実関係の適切な開示や再発防止策の徹底等により対応する。
〇 反社会的勢力への資金提供は、反社会的勢力に資金を提供したという弱みにつけこまれた不当要求につながり、被害の更なる拡大を招くとともに、暴力団の犯罪行為等を助長し、暴力団の存続や勢力拡大を下支えするものであるため、絶対に行わない。
アプローチ別の正しい断り方:接近型と攻撃型
指針解説では、反社の不当要求を接近型と攻撃型の2つに分け、それぞれの正しい対処法を指南しています。
▽指針解説 ⑶不当要求の二つの類型(接近型と攻撃型)
反社会的勢力による不当要求の手口として、「接近型」と「攻撃型」の2種類があり、それぞれにおける対策は、次のとおりである。
① 接近型(反社会的勢力が、機関誌の購読要求、物品の購入要求、寄付金や賛助金の要求、下請け契約の要求を行うなど、「一方的なお願い」あるいは「勧誘」という形で近づいてくるもの)
→ 契約自由の原則に基づき、「当社としてはお断り申し上げます」「申し訳ありませんが、お断り申し上げます」等と理由を付けずに断ることが重要である。理由をつけることは、相手側に攻撃の口実を与えるのみであり、妥当ではない。
② 攻撃型(反社会的勢力が、企業のミスや役員のスキャンダルを攻撃材料として公開質問状を出したり、街宣車による街宣活動をしたりして金銭を要求する場合や、商品の欠陥や従業員の対応の悪さを材料としてクレームをつけ、金銭を要求する場合)
→ 反社会的勢力対応部署の要請を受けて、不祥事案を担当する部署が速やかに事実関係を調査する。仮に、反社会的勢力の指摘が虚偽であると判明した場合には、その旨を理由として不当要求を拒絶する。また、仮に真実であると判明した場合でも、不当要求自体は拒絶し、不祥事案の問題については、別途、当該事実関係の適切な開示や再発防止策の徹底等により対応する。
結び
政府指針の5つの基本原則とこれに基づく対応は、企業を反社会的勢力から守るための実践的なマニュアルとなっています。
個人の倫理や担当者に頼るのではなく、内部統制システムとして会社全体のリスク管理に組み込み、平素から暴排条項やデータベースを整備しておくこと、そして、有事の際は外部専門家と連携し、裏取引をせず毅然と法的対応をとることが大切です。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
反社排除に関するその他の記事(≫Read More)
主要法令等・参考文献
主要法令等
- 暴対法(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)※法律情報はこちら
- 暴対法施行令(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行令」)
- 暴対法規則(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則」)
- 政府指針(「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」)|犯罪対策閣僚会議HP(≫掲載ページ)
- 指針解説(「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針に関する解説」)|犯罪対策閣僚会議HP(≫掲載ページ)
- 組織犯罪対策要綱|警察庁HP(≫掲載ページ)
- 東京都暴排条例|東京都例規集データベース
- 東京都暴排条例Q&A(「東京都暴力団排除条例 Q&A」)|警視庁HP
参考文献
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています
参考文献image