巷にはインハウスローヤーのメリットとかデメリットを書いたネット記事がいくつかあるみたいなので、今回は、それについて書いてみたいと思います。
とはいえ、メリット・デメリットというより、管理人としては、インハウスと外部弁護士は、対比的(対照的)というか、対になっているみたいな側面を感じることがあるんですよね。
なので、一概にどちらがいいというものではないかなと思っているので、基本的には好みの問題という感じになります。
規模感が違う
企業も規模によりますし、法律事務所(以下「事務所」)も規模によるわけなので一概にはいえないのですが、規模感はやはり企業の方が大きいと思います。
大きい企業だと、4・ 5億ぐらいの損金稟議なんかも結構ポンポン通っていたりしますし。
事務所だと、ボス弁の昔の武勇伝とかでも2億ぐらいの訴訟の話があったりして、それをたった数人で扱う個人の力としては凄く大きいとは思いますが、取扱い案件そのものの規模感としてはやはりダンチに違うと思います。
「鶏口牛後」という言葉がありますが、「頭になったところで鶏じゃねえ…」と思うか、「牛になったところで尻尾じゃねえ…」と思うか、という価値観の違いだろうと思います。どちらが正しいというものでもない、というか(好みの問題)。
最近は、フリーランスチームとかでもグーグルという巨人の肩に乗れば巨大なものを生み出せる、みたいなのも見聞きしますけど、そのグーグルが大企業ですしね。
テスラやらアマゾンやらを数人の自営業でつくれたのかどうかを考えてみれば、規模感の大きいことをしようとすれば多くの人が集まってやらざるを得ないというのは自明だと思うのですが。まあ流行りなんでしょうね。
平常時メインか紛争時メインかが違う
管理人自身は一般民事系の出身なので、「事務所≒紛争系が多い」という前提の話になるんですけど、事務所は企業依頼者の仕事でも紛争系の仕事が多かったりして、平常時メインの仕事は多くはないのではないかと思います。
もちろん、事務所の業務分野も多様なので、事務所だからといって全てが紛争時メインというわけではないですけど。
大きい事務所でもブティック規模の事務所でも、法務系の業務をメインとするところであれば(契約書、スキーム検討、SRSとかのリーガルチェック、調査報告書、意見書やメモランダムetc)、この点に関する違いはあまりないのかなと思います。
そのあたりは肌感がないのでよくわからないのですけれど。
成果物が違う
事務所にいた場合、基本的な書面は、準備書面、契約書、意見書の類、が多いのではないかと思います(←一般民事系を前提)。
法務のほうは、書面も、契約書とか社内規程とか社内向けマニュアルとか、リリースする書類とか会社法上の備置書類とかときにはチラシの類まで(広告規制)、書面の種類の奥行きというか、広がりがあります。
また、書面のほかにも、システム構築とかも入ってくるので(そこの設計検討で法務が一員として入る)、成果物は、ほぼ全くといっていいほど、かなり違うと思います(全くは言い過ぎかな??)。
だから、昔の記事でも書いたことがありますが、紛争系の仕事をやっていたら法務系の仕事も出来るんじゃないかみたいな話(予防法務なんだから、という理解に基づく)はちょっと間違ってるように思います。
メタ思考というか、究極的な本質論のレベルまで遡れば、結局やってることは一緒、みたいな話もなくはないと思いますが、具体的な手作業のレベルでは相当別モノといってよいと思います。読み手も違いますしね。
マネジメントか徒弟制度かが違う
法務の方は、一定年齢に達すると組織のマネジメントが必要になってきたりします。
育成もありますが、稟議決済や幹部会議などをしないといけなくなったりして、組織の回り方はやっぱ会社的だなと思います(当たり前(汗))。
事務所の方は、まあまだまだ徒弟的仕組みのところが多いのではないかと思います(全国展開系の事務所でどういった育成システムがとられているかは知らないですが)。
パートナー会議とかは幹部会議みたいな感じなのですかね。わからないですけど。
まあ、これも世界観の違いの一つだということはいえると思います。
ちなみに、個人的には、事務所の側でも、あえて徒弟的な育成を続けるのが効率的なのかは疑問もあって、会社のように組織的にノウハウをためて共有して、ある程度は定型化した育成を考えた方が効率的だと思います。
もちろん、職人的な領域については人から教えられるものではないと思うので(弁護士という職業がある意味特殊である以上、そこが無くなりはしない)、そこは定型教育の先に残せばいいのだろうと思います。
年収とワークライフバランスが違う
ジェンダーとか言われると申し訳ないんですけど、やはり女性はインハウスの方が働きやすいというケースは、実際問題としてはあるのではと思います。
管理人が昔いたところでも、主にそういう理由でインハウス転向してきた人もいたんですけど、出来る人で、周りにもすぐ馴染んでいたし、見ていてなんか理想的な転職パターンだなと思ったりしたことがあります。
たしかお子さんができたことがきっかけだった気がする(もともと事務所で自分に割り振られる分野の偏りとかライフバランスとかが微妙だった)。まあこれは男性でも同じことがいえると思います。
一方、事務所の方は、自営業なのでコントロールは難しいと思います。泳ぐのをやめたら死ぬ魚みたいなもので、なかなか選り好みはできないのではと(もちろん、経営力による)。そうすると、セルフにせよ外圧にせよ、ブラック寄りになりがちかなとは思います。
ただ、普通に信頼を得て、規模の拡大は目指さず時間は早めに切り上げて平日のゴルフも欠かしませんみたいな弁もいますので(※有閑世代というわけではない)、結局は個人のやり様によると思います。自営業ですしね。
ひとつ確かなことを言えるとしたら、少なくとも青天井を目指したいのなら、企業の方は可能性が低いと思います。いうてもサラリーマンなので、上限は決まっています。よくても執行役員とかなので(執行役員もだいたいサラリーマンだけど)。
ストックオプションとかRSとかもらって爆上がりすれば別かもしれないですけど、そこを狙っていくぐらいなら、事務所で大手事務所に入って出世競争に勝つとか、独立弁として一旗上げるとかの方が、まだ確率は高いのではと思います。わかんないですけど笑。
少なくとも企業の方は青天井の世界ではないと思います。経営層にならない限り(なって、株をとらない限り)。
周りの人のキャラが違う
弁護士が人として好きかどうかという話なのですが。なかなか弁護士はゴワついた人も多いというか、クセが強い人が多いと思うのですよね。個人的には。そこが面白いところでもあるといえばあるんですけど。
その一方で、俯瞰的にみたときには似た属性の人たちの集まりというか。
昔ボス弁も言っていたことで、自分もそうだなと思うんですが、裁判官はいろいろいると言っても司法研修所の研修やら何やらで均質化されているので(※司法修習のことではなく実務裁判官になった後の話)、“そのうち裁判官には慣れるが、依頼者にはいつまでたっても慣れることがない”という話もあるんですよね。
要するに何がいいたいかというと、法曹はある程度は等質化されているのに対して、世の中の人には色んな人がいるということかなと(こう書いてしまうと何だか当たり前ですけど)。
なので、企業の方は、当然いろんな人がいるわけで、たとえば、営業はオラオラ系、総務はネチネチ系、技術はサッパリ系、みたいな感じですかね。また、業界によっても会社によっても保守・新興かどうかによっても規模感によっても、ノリが相当に違うので、そういうのも面白いと思うなら、インハウスもよいのではと思います。
結び
いろいろ書きましたけど、興味があれば一度行ってみればいいんじゃないかと思うんですよね(無責任な言い方ですが)。
個人的には、インかアウトかの垣根は今後も低くなり続けていくと見ているので、アカンと思ったらまた戻ればいいと思います。
ただ、その間、外部弁護士としてはブランク的な側面もありますね。でも、それはインハウス出向するのを自分でやっているのだと考えてもいいのでは、と思います。
たとえば、大手の法律事務所なら、2〜3年の企業出向というのは歴としたキャリアの一部としてあるみたいですし(内部的にそれがどう評価されているのかは知らないですけど)。それを自前でやっていると思えばいいんじゃないかと。
まあ、身も蓋もない話をすれば、どちらを選んだところで結果的にうまくいくかどうかなんて誰にもわかりはしないので、人には何ともいえないんですけどね。
最近はブログやSNSなどを見てると、60期代でインハウスになった人たちが、徐々に管理職になり始めているようなので、これから少しずつ質的変化が起こり始めるかもしれないなと思ったり。
そうしたら、単に安売りだったからではなくて、こういう風にしたら会社とか社会がもうちょっと良くなりますねと言う方向性(社会的意義)を指し示してくれる人が出てきたらいいなと。
何かの参考になれば幸いです。
[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。