今回は、特定商取引法を勉強しようということで、通信販売における申込時の表示規制(法12条の6)について見てみたいと思います。
いわゆる最終確認画面の表示義務はこの規制の一部になります。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
申込時の表示規制とは(法12条の6)
事業者は、通信販売における申込時に、①所定の事項(商取引を行う上で通常必要な基本的事項)を表示する義務を負うとともに、②これら一定の事項について誤認させるような表示が禁止されています(法12条の6)。
令和3年改正法によって定められたルールになります。
また、本条については、申込段階表示ガイドライン(「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」)がリリースされており、具体例や考え方が詳細に示されています。
▽参考リンク
- 令和3年特定商取引法・預託法の改正について|消費者庁HP
┗事業者説明会 説明資料(消費者庁取引対策課)〔令和4年3月〕 - ガイドラインに関するパブコメ
- 意見募集時の参考資料|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 令和4年2月9日パブコメ(「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン(案)に関する意見募集の結果等について」)|e-Govパブコメ(≫掲載ページ)
適用対象-特定申込み(1項柱書)
適用対象は「特定申込み」と定義されており、これは、
事業者が定める様式等に基づいて申込みが行われるもの
を指します。
具体的には、
- 申込書面(申込用はがき、申込用紙等)
←従来型の通信販売(カタログ・チラシ等を利用した通信販売)の場合 - 最終確認画面に相当する画面(特定申込みに係る手続が表示される映像面)
←インターネットを利用した通信販売の場合
において、所定事項を表示するとともに、誤認表示をしない義務があります。
条文も確認してみます。下線を引いた部分が、”事業者が定める様式等に基づく”という意味の部分になります。
▽法12条の6第1項柱書
(特定申込みを受ける際の表示)
第十二条の六 販売業者又は役務提供事業者は、当該販売業者若しくは当該役務提供事業者若しくはそれらの委託を受けた者が定める様式の書面により顧客が行う通信販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み又は当該販売業者若しくは当該役務提供事業者若しくはそれらの委託を受けた者が電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により顧客の使用に係る電子計算機の映像面に表示する手続に従つて顧客が行う通信販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み(以下「特定申込み」と総称する。)を受ける場合には、…(略)…。
一・二 (略)
長いので、簡略化しつつ分節して読むと(「又は」で大きく区切る)、
販売業者/役務提供事業者が
a. 販売業者/当該役務提供事業者/受託事業者が定める様式の書面により顧客が行う通信販売に係る売買契約/役務提供契約の申込み
又は
b. 販売業者/役務提供事業者/受託事業者が電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により顧客の使用に係る電子計算機の映像面に表示する手続に従って顧客が行う通信販売に係る売買契約/役務提供契約の申込み
を受ける場合
のようになっています(※a+b=「特定申込み」と総称)。
該当しない例
「特定申込み」は事業者が定める様式等に基づいて申込みが行われるものなので、逆にいうと、例えば、テレビのCMを視聴した消費者が電話で行う申込みなど、事業者が定める様式に基づかない申込みは対象外となります。
▽逐条解説 第12条の6解説1-⑴-イ
なお、例えば、消費者がテレビ放映される広告を視聴し、通信販売の契約の申込みを電話で行う場合など、最終的な申込みの段階で販売業者等が定める様式の書面又は画面を利用しない通信販売の契約の申込みは、特定申込みには該当しない。
もっとも、このような場合でも、別途、申込用はがきやインターネット通販でも契約の申込みを受け付けている場合には、それらの申込みは適用対象となり得ます(申込段階表示ガイドラインⅠ-1-⑵)。
申込書面/最終確認画面における表示義務(1項)
表示事項(1号・2号)
申込書面/最終確認画面における表示事項は、
- 分量(1号)
- 販売価格・役務の対価(2号→法11条1号)
- 支払時期及び支払方法(2号→法11条2号)
- 引渡時期・移転時期・提供時期(2号→法11条3号)
- 申込みの期間がある場合、その旨とその内容(2号→法11条4号)
- 申込みの撤回又は解除に関する事項(2号→法11条5号)
の6つとなっています。
①でいう「分量」とは、物理的な数量のことだけでなく、商品や役務の態様に応じた、数量、回数、期間などを指します。
②は、購入する商品やサービスの価格(販売価格または役務の対価)のことです。消費税を含んだ価格を意味すると解されています。販売価格に送料が含まれない場合は、販売価格と商品の送料の両方を表示する必要があります。
③は、代金の支払時期と支払方法のことです。「支払の時期」は、商品等を購入する場合に代金を支払う時期のこと、「支払の方法」は、銀行振込、クレジット、代金引換、現地決済等の支払方法の別のことです。
④は、事業者側の履行時期、つまり買ったモノやサービスが提供される時期のことです。例えば、「商品の引渡時期」は、注文を受けた後、商品が手元に届く時期を指します。
⑤は、申込みに有効期限がある場合には、その期限を表示しなければならないというものです。
有効期限が書かれていないので申し込んだものの、有効期限を過ぎており購入できなかったといったトラブルを防ぐ趣旨です。また、期間経過後に購入できなくなると消費者に誤認させるような不当な表示等を防止する観点から、申込期間を設けている場合には正しく表示することが求められます。
⑥は、一見何かよくわからない感じもしますが、申込みの撤回等についての特約、つまり返品やキャンセルに関する特約の有無や内容のことです(特に売買契約の場合を指して「返品特約」という言い方をしますが、そういうイメージ)。
つまり、商品やサービスに特に問題がないケース(事業者に契約違反がない)において、返品やキャンセルが可能か否か、可能であればその内容を表示するということです。
条文も確認してみます。
▽法12条の6第1項(※「…」は管理人が適宜省略)
(特定申込みを受ける際の表示)
第十二条の六 販売業者又は役務提供事業者は、…特定申込み…を受ける場合には、当該特定申込みに係る書面又は手続が表示される映像面に、次に掲げる事項を表示しなければならない。
一 当該売買契約に基づいて販売する商品若しくは特定権利又は当該役務提供契約に基づいて提供する役務の分量
二 当該売買契約又は当該役務提供契約に係る第十一条第一号から第五号までに掲げる事項
2号の「11条1号から5号までに掲げる事項」とは、いわゆる特商法表記の表示事項のうち、法律で定められた事項のことです(※規則で定められた表示事項もある)。
具体的な内容は、最終確認画面における表示を取り上げて、以下の関連記事でくわしく書いています。ネット系企業では、申込書面よりこちらの方が関連が深いかと思います。
特商法表記との関係
このように表示事項は特商法表記と重なる部分が多いですが、特商法表記は広告段階の表示ルール、本条は申込段階の表示ルールであり、両者はあくまでも別物ですので、両方とも表示する必要があります。
つまり、特商法表記は、通信販売における広告ルール(契約の締結に向けて誘引するために広く一般の消費者を対象として行われる表示)であるのに対し、申込時表示は、消費者による個別の契約の申込みに係る内容が記載される申込書面/最終確認画面において、必要かつ適切な表示がなされているかどうかに着目するものになります。
そのため、広告において特商法表記を適正に行ったとしても、それにより本条の表示義務を果たしたことにはなりません(申込段階表示ガイドラインⅠ-1-⑶参照)。
特商法表記の表示事項については、以下の関連記事にくわしく書いています。
誤認表示の禁止(2項)
また、誤認表示の禁止として、申込書面の送付/最終確認画面による情報の送信が契約の申込みとなることや、申込時における6つの表示事項について、人を誤認させる表示をしてはならないとされています(2項)。
▽法12条の6第2項
2 販売業者又は役務提供事業者は、特定申込みに係る書面又は手続が表示される映像面において、次に掲げる表示をしてはならない。
一・二 (略)
書面送付/情報送信が契約の申込みとなることの誤認(1号)
一 当該書面の送付又は当該手続に従つた情報の送信が通信販売に係る売買契約又は役務提供契約の申込みとなることにつき、人を誤認させるような表示
これは、申込書面の送付又は最終確認画面における情報送信について、それが有償の契約の申込みとなることが消費者にとってわかりくい表示を禁止するものです。
例えば、
- 申込書面において「無料プレゼント」等の文言を強調
→そのはがきが有償の契約の申込みのためのものであることがわかりにくいような場合には、本号に該当するおそれがある - 最終確認画面において「送信する」「次へ」といったボタンが表示
→画面上の他の部分でも「申込み」であることを明らかにする表示がない場合など、そのボタンをクリックすれば何らかの情報の送信がなされ、次の画面に進むことは把握できたとしても、それが売買契約等の申込みとなるものと明確に認識できないような場合には、本号に該当するおそれがある
とされています(申込段階表示ガイドラインⅠ-3-⑴参照)。
申込時における表示事項についての誤認(2号)
二 前項各号に掲げる事項【=申込書面/最終確認画面における表示事項(※管理人注)】につき、人を誤認させるような表示
これは、申込書面/最終確認画面において、先ほど見たような6つの表示事項を表示しており、かつそれが不実の表示ではないとしても、その意味するところを誤認させるような表示もあり得るため、これを禁止するものです。
例えば、
- 定期購入契約において、最初に引き渡す商品等の分量やその販売価格を強調して表示
→その他の定期購入契約に関する条件を、それに比べて小さな文字で表示することや離れた位置に表示していることなどによって、引渡時期や分量等の表示が定期購入契約ではないと誤認させるような場合には、本号に該当するおそれがある(定期購入でないと誤認させるような表示) - 「お試し」や「トライアル」などと殊更に強調する表示
→一般的な契約と異なる試行的な契約である、又は容易に解約できるなどと消費者が認識する可能性が高いため、これに反して、実際には定期購入契約となっていたり、解約に条件があり容易に解約できなかったりする場合には、本号に該当するおそれが強い - 「いつでも解約可能」などと強調する表示
→消費者が、文字どおりいつでも任意に指定する時期に無条件で解約できると認識するため、実際には解約条件等が付いているにもかかわらず、「いつでも解約可能」などの表示をした場合には、本号に該当するおそれがある
とされています(申込段階表示ガイドラインⅠ-3-⑵参照)。
2号違反に該当するおそれのある表示の絵的な例として、申込段階表示ガイドラインでは、
・申込書面→書面例4
・最終確認画面→画面例6~10
がそれぞれ挙げられています
結び
今回は、特定商取引法を勉強しようということで、申込時の表示規制(法12条の6)について見てみました。
本条は、法14条1項2号(顧客の意に反して申込みをさせようとする行為)とともに、いわゆるダークパターンに対する規制の一部をなしており、以下の記事も参考になります。
▽参考リンク|国民生活センターHP(≫掲載ページ)
・ダークパターンとは
・海外及び国内におけるダークパターンに関する法制度と今後の課題
(「国民生活」2024年3月号【No.139】(2024年3月15日発行)<分割版>より)
また、BUSINESS LAWYERSにくわしい解説記事があり、こちらもおすすめです。
-
特商法の定期購入ガイドラインを弁護士が解説 特定申込みとは - BUSINESS LAWYERS
www.businesslawyers.jp
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
特定商取引法に関するその他の記事
主要法令等・参考文献
主要法令等
参考サイト・関連団体
- 特定商取引法ガイド(※消費者庁の特設サイト)
- 財団法人日本産業協会(※特商法の申出制度に関する指定法人)
参考文献
- 逐条解説(「特定商取引に関する法律の解説(逐条解説)」)(消費者庁)
- 詳解 特定商取引法の理論と実務〔第5版〕(圓山茂夫)
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