ネットニュースのタイトルって「誤導質問」が多いからちょびっと気を付けた方がいいと思う、という話をしてみたいと思います。
ニュースに限らずブログでもYouTubeでも何でもいいんですけど、「なぜ〇〇は××なのか」とか「〇〇が××である理由」といったタイトルのものって、よく見る気がします。
これって、法律的にいうと「誤導質問」になっていることが多いです。なので、タイトルを見た時点でちょっと疑ってかかった方がいいと思う、という話です。
(全部が全部怪しいという意味ではないんですけど)
「誤導質問」って何?
誤導質問というのは何かというと、”本来は争いのある点について一定の答えを前提として、その次の質問をすること”、という感じです。
たとえば、信号を見たかどうか自体にも争いがあるのに、「あなたが見た信号の色は赤色でしたか?青色でしたか?」と聞くような質問とかですかね。
誘導質問の一種と言われていますけど、弊害が強い(=証言を誤らせる)ため、証人尋問のルールとしては、民事でも刑事でもほぼ全面的にダメとされています。
で、誘導質問というのは何かというと、基本的に「イエス」or「ノー」で答えられる質問のことです。
それの何が誘導なの?という感じがしますけど、この形式の質問って、質問のなかに答えが含まれているor暗示されているんですよね(なので、”誘導”質問)。
(例)
「今朝はパン食べた?」→「はい」、は誘導質問
「今朝は何か食べた?」→「パンを食べました」、は誘導ではない
それで、民事でも刑事でも、証人尋問の基本的なルールとして、主尋問は誘導尋問ダメ、反対尋問は誘導尋問OK、というのがあります。
でも、誘導尋問OKである反対尋問においてすら、誤導尋問はNGとされてます。
誤導尋問って、質問のなかに答えが暗示されているどころか、証人がしゃべる前にもう答えを出しちゃってるわけです。証人の「はい」すら必要としないわけで。
あたかも当然の前提のようにしてしれっと次の質問に続いていくため、バイアスが強くかかりすぎる、要は過剰な誘導質問、という感じです。
いくらでも例が考えられますが、ちょこっと解説書の例を見てみます(太字は筆者による)。
15)誘導尋問の制限 誘導尋問すること自体がその具体的な場合に相当でないとき、および誘導尋問はしてよいが、その具体的な方法が相当でないときのいずれも、規199条の3第5項に基づいて制限されることになる。実際上、具体的な方法として相当でないものは、誤導尋問(例えば、目撃証人の尋問の際、証人がAなる者を目撃したとはまだ供述していないのに、「その際 A の手に持っていたものは何でしたか」と尋ねるのは、誤導尋問である)…
(松本時夫ほか編著「条解刑事訴訟法(第4版)」657頁)
これは「A」を目撃した、とは言っていないのに、そういうことになってしまっているわけです。
で、話をタイトルづけに戻すと、「なぜ〇〇は若者に人気なのか?」とか「〇〇がいま人気沸騰中である理由」みたいなものは、〇〇は若者に人気、〇〇はいま人気沸騰中、ということは当然の前提にして、次の質問に行っちゃっています。
こういうときは、イヤそんなに若者に人気あるんか?とか、そんなに人気沸騰中って聞かないけどなあ…、っていう風に前提に違和感をもつのが、冷静なツッコミになることが多いと思います。
そこに疑いがない場合は別ですけど、そうでもない場合は、意図する方向に読み手を「引っ張ろう」としているわけなので。
さらにわかりやすく極端な例を考えてみると、たとえば、「なぜ○○総理は国民に愛されたのか」とかのタイトルをつけたブログとかニュースとかあったとしたら、ああそっちに引っ張りたい記事なのね、というのがタイトルの時点で見える、という感じですかね。さすがにそこまで露骨な記事はないと思いますけど(笑)。
(愛している国民もいたし、そうでない国民もいたと思いますよ、というのが冷静なツッコミ)
証人尋問のルールをちょっと見
ちなみに、証人尋問のルールの具体的なところは、法律ではなくて最高裁判所規則に定められてます。
ちょびっとだけ条文を見てみたいと思います。以下引用の太字のところを見ると、だいたい雰囲気的にはそうなってるなー、という感じになるかなと思います。
なお、条文に出てきますけど、主尋問っていうのは、その証人を呼んできた側がする質問のこと(つまり味方側からの質問)で、反対尋問っていうのは、その相手方がする質問のこと(つまり敵側からの質問)です。普通は、主尋問→反対尋問という順序で手続が進みます。
※ちなみに最高裁判所規則は、裁判所HPのこちらから見れます
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/kisokusyu/index.html
▽民事訴訟規則(太字は管理人による)
第百十五条 質問は、できる限り、個別的かつ具体的にしなければならない。
2 当事者は、次に掲げる質問をしてはならない。ただし、第二号から第六号までに掲げる質問については、正当な理由がある場合は、この限りでない。
一 証人を侮辱し、又は困惑させる質問
二 誘導質問
三 既にした質問と重複する質問
四 争点に関係のない質問
五 意見の陳述を求める質問
六 証人が直接経験しなかった事実についての陳述を求める質問
3 裁判長は、質問が前項の規定に違反するものであると認めるときは、申立てにより又は職権で、これを制限することができる。
▽刑事訴訟規則(太字は筆者による)
(主尋問・法第三百四条等)
第百九十九条の三 主尋問は、立証すべき事項及びこれに関連する事項について行う。
2 主尋問においては、証人の供述の証明力を争うために必要な事項についても尋問することができる。
3 主尋問においては、誘導尋問をしてはならない。ただし、次の場合には、誘導尋問をすることができる。
一 証人の身分、経歴、交友関係等で、実質的な尋問に入るに先だつて明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき。
二 訴訟関係人に争のないことが明らかな事項に関するとき。
三 証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるとき。
四 証人が主尋問者に対して敵意又は反感を示すとき。
五 証人が証言を避けようとする事項に関するとき。
六 証人が前の供述と相反するか又は実質的に異なる供述をした場合において、その供述した事項に関するとき。
七 その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき。
4 誘導尋問をするについては、書面の朗読その他証人の供述に不当な影響を及ぼすおそれのある方法を避けるように注意しなければならない。
5 裁判長は、誘導尋問を相当でないと認めるときは、これを制限することができる。
(反対尋問・法第三百四条等)
第百九十九条の四 反対尋問は、主尋問に現われた事項及びこれに関連する事項並びに証人の供述の証明力を争うために必要な事項について行う。
2 反対尋問は、特段の事情のない限り、主尋問終了後直ちに行わなければならない。
3 反対尋問においては、必要があるときは、誘導尋問をすることができる。
4 裁判長は、誘導尋問を相当でないと認めるときは、これを制限することができる。
「裁判長は、誘導尋問を相当でないと認めるときは、これを制限することができる。」と、刑事の方に書かれています。この、”誘導尋問のなかでも相当でないもの”の典型例が、誤導尋問、ということです。文言は違いますけど、民事の方も実際上の扱いは同じです(「正当な理由」があるとは認めてもらえない)。
つまり、異議を出せばほぼ確実に認められ、「質問の仕方を変えてください」って裁判官が言ってくれるし、また、もし相手方が言ってきたならば、異議を(ほぼ)絶対に出さないといけない場面でもある、ということです。
結び
誤導質問的なタイトルは、それだけでも”煽り”あるいは特定の意図が濃いことが透けて見えるものなので、前提になっている部分に冷静にツッコミましょう、という話でした。
なんとなく違和感を感じることはあっても、言葉にするのって難しいと思うんですよね。法律の世界ではちゃんと整理されていて、言葉にされている、と思うわけです。
こういうのも豆知識でふーんってなってると、またそういう違った目でも見れて、なんかの役に立つこともあるかなー、と思います。
もし参考になれば幸いです。
[注記]
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