弁護士法 法律コラム

ビジネスと弁護士法|離婚協議書の自動作成サービス

今回は、ビジネスと弁護士法ということで、離婚協議書の自動作成サービスについて見てみたいと思います。いわゆるグレーゾーン解消制度において照会と回答がなされた例になります。

弁護士法といっても主に非弁行為の禁止の部分のことですが、業務独占はあたかも業法の参入規制のように機能しますので(要するに入口の問題という点で共通)、ビジネスの遵法性検討の際には案外よく出てきます。その一例として、という話です。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

離婚協議書の自動作成サービス

照会対象サービスの内容は、オンラインでチャット形式により入力された内容等に応じて離婚協議書を自動作成し、それ自体は無償で行うというものです(以下本件サービス)。

▽令和3年1月21日付け回答3-⑴-①

① 離婚協議書案の自動作成サービス
ⅰ 利用者は、オンライン環境下で、チャット形式で、必要事項及び質問に対する事項を入力する。
ⅱ 離婚協議書のひな形が表示され、利用者がプリントアウトするなどして利用する。
ⅲ 利用者に課金は行わない。

ほかに、「養育費の収納代行サービス」と「弁護士広告サービス」があり、それぞれ独立して利用可能でありつつ、相互に関連性があるという設計となっています(くわしくはリンク先の回答を参照)。

参考リンク

結論としては、本件サービスは弁護士法第72条に違反すると評価される可能性がないとはいえない、とされていますが、以下、遵法性検討のプロセスを順に見てみます。

非弁行為(法律事務の取扱行為)に該当するかどうかの検討

非弁行為の要件は以下のとおりですが、本件サービスについて問題となるのは、

  • 弁護士又は弁護士法人でない者【主体】
  • 報酬を得る目的【目的】←この部分
  • 法律事件に関する法律事務の取扱い【行為①】←この部分
    or
    法律事件に関する法律事務の取扱いの周旋【行為②】
  • 業としてなされること【態様】

の部分になります。

法律事件に関する法律事務の取扱行為にあたるか

この点については、本件サービスにおいて必要な質問や法情報の説明を行う際の具体的な事情によっては、法律事務の取扱行為にあたる可能性がないとはいえない、とされています。

▽令和3年1月21日付け回答5-⑴-(ア)

(ア) 照会書によれば、前記①のサービスにおいては、離婚協議書案を作成する上で必要な質問や法情報の説明を行うことが予定されているところ、ここで行われる質問や法情報の説明の具体的な内容及びそれらに伴う利用者とのやり取りの状況等、具体的な事情によっては、これらが弁護士法第72条本文に規定するその他一般の法律事件に関して法律事務を取り扱うことに当たる可能性がないとはいえない。

この点については、適法性を主張する立場からすると、ひな形を表示する内容であることから、一般的な知見を提供しているにすぎないのではないか、という点が検討ポイントになるだろうと思われます(非弁にあたらないロジックのうち、一般的な知見を提供しているにすぎないというロジック)。

しかし、利用者への質問や利用者への法情報の説明の具体的な内容、それらに伴う利用者とのやり取りの状況などによっては、法律事務の取扱行為にあたる可能性がないとはいえない、ということです。

結局、個別具体的な処理をしているのか一般的な知見を提供しているにすぎないのかというのも、グラデーションの問題であり、具体的な内容に対応するよう緻密化されていくにしたがって、プレタポルテ(既製服)からオーダーメイド(仕立服)に近づいていく、ということなのだろうと思います。

また、このサービスでは、離婚という場面を扱っているので、事件性必要説に立ったうえで事件性がない内容を扱うというロジック(非弁にあたらないロジックのうち、事件性必要説をとるというロジック)では、適法性を主張することは難しいだろうと思います。

仮に(社会的な意味も含めて)円満離婚であっても、事件性が潜在するおそれは高い場面であろうと思います

非弁にあたらないというロジックの種類については、以下の関連記事にくわしく書いています。

報酬を得る目的があるか

この点については、同じウェブサイト上で提供され誘導表示される「養育費の収納代行サービス」と「弁護士広告サービス」では費用を徴収するため、本件サービスもこれらの費用と間接的な対価関係が認められる場合があり得る、とされています。

▽令和3年1月21日付け回答5-⑴-(イ)

(イ) また、前記①のサービスのみの利用については利用者に費用を請求しないものの、同じウェブサイト上で提供され誘導表示される他のサービス(前記②及び③のサービス)においては手数料又は広告料名目で費用を徴収することとされていることから、具体的な事情により前記①から③までの各サービスが一体のサービスと評価され、それらの費用と間に間接的な対価関係が認められる場合には、報酬を得る目的があると評価される可能性がないとはいえない。

この点については、適法性を主張する立場からすると、本件サービスは利用者に課金を行わないことから、「報酬を得る目的」を欠くのではないか、という点が検討ポイントになるだろうと思われます(非弁にあたらないロジックのうち、無償であるというロジック)。

ただ、報酬の対価性については、直接的な対価を受け取る場合だけではなく、間接的な対価関係がある場合も肯定されると考えられていますので(日本弁護士連合会調査室編著「条解弁護士法」等参照)、法務省の回答はこれに沿ったものになっているように思います。

結論

以上の結論として、本件サービスは弁護士法72条に違反すると評価される可能性がないとはいえないとされています。

▽令和3年1月21日付け回答5-⑴-(ウ)

(ウ) 以上によれば、前記①のサービスは、弁護士法第72条に違反すると評価される可能性がないとはいえない。

結び

今回は、ビジネスと弁護士法ということで、離婚協議書の自動作成サービス(グレーゾーン解消制度において照会と回答がなされた事例での内容)について見てみました。

この事例については、以下の記事にくわしい検討がなされています。

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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