今回は、マンガで法律、っていう感じの法律小噺をしてみたいと思います。
動物が法人格を取得できるという設定
今、ジャンププラスで、「ラーメン赤猫」っていうマンガを連載してますよね。アニメ化も決まったみたいですけど。
これ、猫たちを含む動物が、申請をして許可を受けることによって、法人格を取得できるっていう設定になってるんですけど、これすごくおもしろくないですか?
強面だけどやさしい弁護士さんがいて、その人が法人格取得の申請の代理人をやってるみたいなんですけど。この世界観、結構おもしろいですよね。
▽[第1話]ラーメン赤猫|アンギャマン-少年ジャンプ+
https://shonenjumpplus.com/episode/316112896905504410
動物を当事者にしようとした実際の事例
実際、動物に法人格というか、厳密には訴訟法上の当事者能力があるって、大真面目に主張して実際に訴訟しようとした例というのが、本当にあるんです。
有名なところだと「アマミノクロウサギ訴訟」っていうんですけど。特別天然記念物のアマミノクロウサギを原告に記載して、ゴルフ場計画に関する林地開発許可の取り消しを求めた、という事例です。
▽アマミノクロウサギ訴訟
原告はウサギ?全国初の訴訟から25年、弁護士に聞く|朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASN3R66VYN3GTIPE00Z.html
鹿児島地判平成13年1月22日(平成7(行ウ)第1号)|裁判例検索(裁判所HP)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=15675
「シロクマ訴訟」っていうのもありますね。シロクマが原告に含まれていて、こちらは二酸化炭素排出を減らすよう求めた公害調停から始まって、っていう内容なんですけど。
▽シロクマ訴訟
なぜ「シロクマ」が法廷にあらわれたのか? 地球温暖化訴訟の弁護士に聞く|弁護士ドットコムニュース
https://www.bengo4.com/c_1018/n_3346/
まぁ、現実にはもちろん門前払いの却下にはなるんですけどね。
ラーメン赤猫と法人格
でも、ラーメン赤猫を見ている限りだと、動物が法人格を取得しても、そんなに違和感ないんですよね。勉強したりとか、働いているとか、あるいは素行とか、そういうのが判定基準になってるっぽい感じですけど。
これ、何で違和感がないのかっていうと、マンガの中の動物は、話したり、働いたり勉強したり、自分でモノ買ったり、店長の猫はラーメン茹でたり、経営者の猫が会計やったりしているんですよね。
要は中身は人間と同じように、自分でものを考えて意思を持ってるっていうことです。だから違和感ないっていう感じなんですよね。
実際現実に、動物が許可を受ければ法人格を取得できるってなったら、どうでしょうね。「ペットのこのコしか私の生きがいはいないんです」みたいな大金持ちとかが、結構、その制度の利用に殺到したりしそうですよね。実際やったらどうなるか、ちょっと興味ありますけど。
私的自治と法人格
まぁでも真面目に考えてみると、理屈では、民事では私的自治っていうのが根幹にあるので、やっぱりそれ自身で人間のような意思を持つわけではない動物っていうのは、権利義務の帰属点にはなれないんでしょうね。なれないというか、実益がないんだろうなとは思いますね。
人は、自分の意思に基づいて権利義務を有する、自分の意思に基づいたときにのみ権利を有し、あるいは義務を負う、っていうのがあるので、そういう意思を持っていないところだと中々難しいんでしょうね。
理念的にはそうですし、また、動物が法人格を持つと、相続とか大変そうですよね。猫の相続がいっぱい起こる、みたいな。
でも、相続の点に関しては、あらかじめ死亡時にどうするかっていうのも特別ルートで決めておくとかいうふうにしたら、特に問題なくなるかもしれませんね。また人間に戻ってくるとか。相続は起こさせず、相続財産管理人に一括するとか。まあ、何か決めといたら、解決できなくはないような気もしますね。
ほんとにやろうと思ったら、信託とか、あるいは財団法人とか、まぁその財産自体の管理みたいな形で、大事な家族であるペットにお金を残すっていうのはできるんでしょうね。
やっぱり、動物自体に法人格を取得させるっていう意味は、フィクションとしては面白いんですけど、おそらくあんまりないんでしょうね。
近未来SFと法人格
でもよく考えてみたらですね。例えば、ロボティクス、将来的にAIを搭載した、人と全く区別つかないようなロボットがいて、そこにはもう既に人間と同じような感情や意思があるとしたらどうかなと。
アルゴリズムとか、普段の実際の素行の証明とか、申請して許認可が降りたら人格を取得するとか、あってもおかしくなさそうですよね。これは、その者自身が意思を持ってるから、そのようにしても違和感がないですよね。
あるいは、バイオテクノロジーが発達して、倫理観も麻痺して、異世界転生モノのアニメで見るみたいな、猫耳のついた亜人とかみたいなものが生まれていたりするかもですよね。でも亜人は人ではないので、ちょっと差別を受けてるみたいな世界があったとして、でも考えや感情に関しては人と全く一緒、みたいなときにはどうでしょう。
亜人が許認可申請したら、法人格を取得できるとかいうのも、あってもおかしくなさそうですね。この場合も、その者自身に感情とか考えとか意思とかがあるからですよね。
それで、赤猫のラーメンの動物さん達も、自分の感情を持っていて、意思とか考えがあるんで、一定の場合には法人格を取得できるっていうのは違和感なくて、おもしろいなぁっていう感じですね。
結び
制度っていうのは自然科学と違って、あくまでも人間がつくったルールなので。普段当たり前と思っていることでも、別のあり方も考えられるっていうのは、おもしろい発想ですよね。
というわけで、動物と法人格っていう感じの、妄想的な雑談でした。
noteに推しの猫アニメ3選なんかも書いてます。
[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。
追記-「法的人格」は法人格とは別物
なお、本記事を書いた後、後日に見つけたのですが、一般にいう「法人格」と、ラーメン赤猫で出てくる「法的人格」は、別物という設定みたいです。
たしかに、「法的人格」という言葉の使い方になっていて、法人格とは違っていますね。
ちなみに、法律の用語としては、権利の主体となることのできる資格のことを「権利能力」(民法第一編第二章第一節など参照)あるいは「法人格」(会社法3条など参照)といいます
▽アンギャマン先生のXアカウント
法人格とは別物です#ラーメン赤猫 #ジャンププラス
— アンギャマン (@ANGYAMAN) March 27, 2023
52話 https://t.co/2FaYfYEBbi pic.twitter.com/MnNeBDgZxg
ただ、本記事は法人格のことだと思って書いておりますので、参考までに。
おそらく、法人格は「私権の享有は、出生に始まる。」(民法3条1項)というように、人であることから当然に生じるものであるのに対して、法的人格は申請によって取得するもののようなので、概念的に異なる、みたいな考え方になっているのかもしれません。
権利義務の帰属点になるという主要な点では法人格と共通していると思いますが、もしかしたら、内容も多少異なるのかも。
そういえば、接客プロ猫のハナちゃんに対して、来店した元飼い主が一緒に帰ろうとして口論になる場面(第25話)で、居合わせた御所川原弁護士が“ハナさんは法的人格を取得して自立された猫さんですので、場合によっては強要罪の適用もあり得ます”と指摘する場面があったりしますので、民事のほか刑事にも及ぶ概念になっていますね(刑事上も「器物」ではなく「人」として扱われる模様)。
(※管理人の勝手な想像です。作者の先生が考えておられることとは全然違う可能性が大いにありますのでご注意ください)