法律ニュース

”声の権利”の法的保護について(パブリシティ権・不正競争防止法・その他)

最近、「声の権利」という言葉を聞くことが増えてきたような気がします。先日もニュースがありました。

本記事では、管理人が見かけた限りですが、諸々のニュースや検討資料をまとめつつ、声の権利の法的根拠について解説しています(※随時更新・追加しています)。

「声の権利」に関するニュース

少し前になりますが(2024/11/13)、生成AIによる声の無断利用について、業界3団体(①日本俳優連合、②日本芸能マネージメント事業者協会、③日本声優事業社協議会)が声明を発表したとのニュースがありました。

参考ニュース

それより前の5月ころには、こういうニュースもありました。バランスを模索しながら、共生の途を探っているような感じがします。

「声の権利」の法的保護の可能性

"声の権利"の法的保護の方法としては、

  • パブリシティ権(明文なし。判例上の権利)
  • 不正競争防止法の混同惹起行為・著名表示冒用行為(不競法2条1項1号)
  • その他の刑事責任・民事責任

といったものが検討されているようです。

なお、前提ですが、日本法に声の権利を直接取り上げた法律はありません。

01|パブリシティ権

①のパブリシティ権は、明文はないものの、氏名・肖像等の分野で判例上認められています(最判平成24年2月2日|ピンクレディー事件最高裁判決)。実演家の権利として重要なものです。

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パブリシティ権は、肖像権と同様、人格権の一種ですが、「肖像権」が肖像のプライバシー的な側面に着目した概念であるのに対して、「パブリシティ権」は人の氏名・肖像等が持つ経済的な価値に着目した概念となっています。

肖像(容貌、姿態)と同じように声(声紋、波長)も人格権的な性質を持つといって違和感はないので、その経済的側面についてはパブリシティ権として保護する、というのは一番可能性が高い議論だと思います。

冒頭のニュースの声明の中でも言及されていますが、内閣府(AI時代の知的財産権検討会)の「中間とりまとめ」(2024年5月)でも、パブリシティ権としての保護が可能との見解がとられています(55頁参照)。

実演家との出演契約書等では、(主に氏名・肖像を念頭に置きつつ)パブリシティ権の処理がなされているのが通常かと思いますが、その中で一緒に処理されることになるのでしょうね。文言を調整した方が良い場合も、特に変える必要のない場合もあるかもしれません。

以下のポストなどでは「人声権」というちょっと見慣れない呼称になっていますが、このシンポジウムでは、パブリシティ権の文脈での検討がテーマになっていたようです。

▽ビジネス・コート(知的財産高等裁判所・東京地方裁判所中目黒庁舎)のXアカウント

02|不正競争防止法の混同惹起行為・著名表示冒用行為

②は、不正競争防止法による保護の可能性です。

不正競争防止法上の混同惹起行為(法2条1項1号)は、他人のマークとして需要者の間に広く認識されている(=周知性がある)ものと同一・類似のマークを使用して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為を禁止するものです。

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周知性があるといえるような有名な声と混同を生じさせるような行為と捉えて規制する、というイメージですが、混同惹起行為はマークの保護を念頭に置いたものなので(典型的には、登録していない商標を何とか保護できないか?という文脈で出てくる)、「声」が他人のマークたる「商品等表示」に該当するかどうかには、ひとつハードルがあるように思います。

そこがクリアされるという前提ですが、さらに、全国的に有名というようなレベルであれば、著名表示冒用行為(法2条1項2号)とする可能性も考えられるかと思います。

これら不正競争防止法による保護に関しては、以下のようなニュースがありました。

参考ニュース

他のニュースサイトからも同様のものがたくさん出ていますが、これら一連のニュースでは、「不正競争防止法の考え方から想定し得る適用事例」が示されています。

管理人が調べた限りでは、この「適用事例」の原典は、以下の経産省の知的財産分科会での配布資料のようです。

参考資料

▽第28回 産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会(2025/03/25)|経済産業省HP
資料4 前回までにいただいた御指摘事項等に係る対応について
(→ cf. p12「現行不競法の考え方から想定し得る適用事例(声の事例)」参照)

上記スライド資料の中で、事例①~④までが挙げられており、③④が声の事例になっています。

考え方を文章で読みたい場合は、議事録のp12~13に該当部分があります。

▽第28回 産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会 議事録12頁

「まず、不正競争防止法に関しては様々な不正競争を2条1項に規定しているところですが、俳優、声優さんの声や肖像と生成AIの関係に関しては、個別事案によりますけれども、1号の周知表示混同惹起行為、2号の著名表示冒用行為、20号の誤認惹起行為、21号の信用毀損行為の4つの不正競争行為が、該当し得るのではないかと考えているところでございます。
 ただ、繰り返しになりますけれども、肖像や声という観点から申しますと、実態として肖像や声の周知の程度であったり、肖像や声がどのように使われているのか等により、個別に判断していく必要があると考えています。
 …(以下略)… 」

なお、上記3/25分科会と5/10ニュースの間には、山田議員の以下のポストがあるようです(2025/04/02)。

▽山田太郎議員のXアカウント

03|その他の民事責任・刑事責任

あとは、③その他の民事責任・刑事責任として、

  • 詐欺罪偽計業務妨害罪といった刑事責任
  • 名誉毀損、名誉感情の侵害による不法行為といった民事責任

などの可能性が指摘されているようです。

結び

まあ、本命は、パブリシティ権という感じがします。もし事例が出てくれば、最判で示された要件(認められるケース)などを検討したうえで、満たしていれば、普通に裁判所も保護を認めるのではないでしょうか。

ちなみに、パブリシティ権は、もちろん損害賠償請求ができますが、人格権を根拠にしているので、妨害に対する排除すなわち差止請求も認められます。なので、認められさえすれば、なかなか強力な権利です。

なお、ネット上で解説を検索すると、法律事務所系では例えば以下のような記事が出てきます。

何かの参考になれば幸いです。

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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