今回は、著作権法を勉強しようということで、実演家の権利のうち、報酬や二次使用料請求権など実演の利用に関する金銭的請求権について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
実演の利用に関する金銭的請求権
著作隣接権の例外とされている場合(つまり許諾なしに実演が利用される場合)、その代わりに、実演家は金銭的請求権を取得するケースがあります。
実演の利用に関する金銭的請求権には、以下の5つがあります(※特定実演家に関する記述は本記事では割愛)。
- リピート放送等に対する報酬請求権(93条の2第2項)
- 放送の同時有線再放送に対する報酬請求権(94条の2)
- 商業用レコードが放送・有線放送された場合の二次使用料請求権(95条1項)
- 貸与権消滅後の商業用レコードの貸与に対する報酬請求権(95条の3第3項)
- 私的録音録画補償金請求権(102条1項→30条3項)
以上は条文順ですが、本記事では、関連する著作隣接権の順に見てみます。
録音権・録画権関連
私的録音録画補償金請求権(102条1項→30条3項)
私的使用目的の録音・録画については、著作権の場合と同様、権利が制限されています。
つまり、著作権の場合の規定が準用されており、許諾なしで複製できます(102条1項→30条1項)。
その代わりに、実演家は、私的録音録画補償金請求権を取得することになっています(102条1項→30条3項)。
▽著作権法102条1項→30条3項
(著作隣接権の制限)
第百二条 …(略)…第三十条第三項及び第四十七条の七の規定は、著作隣接権の目的となつている実演又はレコードの利用について準用し、…(略)…
3 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
放送権・有線放送権関連
リピート放送等に対する報酬請求権(93条の2第2項)
放送事業者が再放送など同一番組の放送を行う場合の便宜を考慮して、リピート放送等の場合には権利が及ばないとされています(93条の2第1項)。
つまり、実演の放送の許諾があった場合、その許諾された放送自体のほか、以下の3つの放送は(別途の許諾なしに)行うことができます。
リピート放送等
同一番組の放送 | 内容 |
---|---|
リピート放送 | 同じ放送事業者が再度行う放送 |
テープ・ネット放送 | キー局が、同系列で同一番組を提供するために、地方の放送局に番組テープを物理的に提供して行う放送 |
マイクロ・ネット放送 | キー局が、同系列で同一番組を提供するために、地方の放送局にマイクロウェーブや有線で提供して行う放送 |
その代わりに、実演家は、相当額の報酬請求権を取得することになっています(93条の2第2項)。支払義務を負うのは、放送事業者です。
▽著作権法93条の2第2項(【 】は管理人注)
2 前項の場合【権利を有する者が実演の放送を許諾した場合】において、同項各号に掲げる放送【リピート放送、テープ・ネット放送、マイクロ・ネット放送】において実演が放送されたときは、当該各号に規定する放送事業者は、相当な額の報酬を当該実演に係る第九十二条第一項に規定する権利を有する者に支払わなければならない。
放送の同時有線再放送に対する報酬請求権(94条の2)
実演の放送と同時に有線放送が行われた場合(同時有線再放送)、その有線再放送については権利が及ばないとされています。つまり、許諾なしに有線放送を行うことができます。
その代わりに、実演家は、相当額の報酬請求権を取得することになっています。支払義務を負うのは、有線放送事業者です。
▽著作権法94条の2
(放送される実演の有線放送)
第九十四条の二 有線放送事業者は、放送される実演を有線放送した場合(営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、実演の提示につき受ける対価をいう。第九十五条第一項において同じ。)を受けない場合を除く。)には、当該実演(著作隣接権の存続期間内のものに限り、第九十二条第二項第二号に掲げるものを除く。)に係る実演家に相当な額の報酬を支払わなければならない。
括弧書きで、非営利かつ無償で行う場合は除かれています
商業用レコードの放送・有線放送に対する二次使用料請求権(95条1項)
許諾を得て録音・録画されている実演については、放送権・有線放送権の例外とされています(ワンチャンス主義)。つまり許諾なしに放送・有線放送を行うことができます。
ただし、そのうち、商業用レコードを用いて実演の放送・有線放送を行う場合には、実演家は二次使用料請求権を取得することになっています。支払義務を負うのは、放送事業者と有線放送事業者です。
▽著作権法95条1項
(商業用レコードの二次使用)
第九十五条 放送事業者及び有線放送事業者(以下この条及び第九十七条第一項において「放送事業者等」という。)は、第九十一条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得て実演が録音されている商業用レコードを用いた放送又は有線放送を行つた場合(営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けずに、当該放送を受信して同時に有線放送を行つた場合を除く。)には、当該実演(第七条第一号から第六号までに掲げる実演で著作隣接権の存続期間内のものに限る。次項から第四項までにおいて同じ。)に係る実演家に二次使用料を支払わなければならない。
「商業用レコード」とは何かというと、市販の目的で量産されたレコードのことです。定義は以下のようになっています。
▽著作権法2条1項7号(含む5号)
七 商業用レコード 市販の目的をもつて製作されるレコードの複製物をいう。
↓ レコードとは?
五 レコード 蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう。
なお、二次使用料請求権が発生するのは、著作隣接権の存続期間内に限るとされています(括弧書き)
趣旨
この二次使用料請求権の趣旨は、「機械的失業対策」と説明されています。
つまり、商業用レコードを用いた放送や有線放送がされるようになると、もう実際の演奏って無くても困らないよねということで、実演家の生演奏が放送や有線放送に取って代わられ、実演家の収入が減少することへの対策として導入されたという意味です。
しかし、実社会では、放送で認知度が上がりライブの需要がむしろ増えることも当然ありますので、実際のところは言葉通りのものになってはいない(実際のところは放送による利益を事業者と実演家で分配するシステムとなっている)、と説明されています。
「著作権法〔第3版〕」(中山信弘)678頁等参照
集中管理団体による行使
この二次使用料請求権を行使するのは集中管理団体のみとされています。
▽著作権法95条5項
5 第一項の二次使用料を受ける権利は、国内において実演を業とする者の相当数を構成員とする団体(その連合体を含む。)でその同意を得て文化庁長官が指定するものがあるときは、当該団体によつてのみ行使することができる。
具体的には、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)がこれにあたります。
貸与権関連
貸与権消滅後の商業用レコードの貸与に対する報酬請求権(95条の3第3項)
「貸与」は、身近な言葉でいえば「レンタル」のことです。
貸与権消滅後の商業用レコード、つまり発売日から起算して1年間を超えた商業用レコードがレンタルされた場合、貸与権はもうありませんが、実演家は相当額の報酬請求権を取得することになっています。
支払義務を負うのは、レンタル業者(「貸レコード業者」)です。
▽著作権法95条の3第3項
3 商業用レコードの公衆への貸与を営業として行う者(以下「貸レコード業者」という。)は、期間経過商業用レコードの貸与により実演を公衆に提供した場合には、当該実演(著作隣接権の存続期間内のものに限る。)に係る実演家に相当な額の報酬を支払わなければならない。
趣旨
貸与権(95条の3)は、商業用レコードの最初の販売日から1年という権利行使期間が定められています。
▽著作権法95条の3第2項+著作権法施行令57条の2
2 前項の規定は、最初に販売された日から起算して一月以上十二月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過した商業用レコード(複製されているレコードのすべてが当該商業用レコードと同一であるものを含む。以下「期間経過商業用レコード」という。)の貸与による場合には、適用しない。
(貸与権の適用に係る期間)
第五十七条の二 法第九十五条の三第二項の政令で定める期間は、十二月とする。
この権利行使期間の経過後は、貸与権という排他的独占権ではなく、上記の報酬請求権のみになるということです。
新曲は発売直後が最もよく売れるので(売れ方が一定ということは普通ない)、一定期間はレンタルについてのコントロール(貸与権という排他的独占権)を認めるが、一定期間を過ぎれば独占権までは必要ないでしょう、その後は報酬請求権(お金の問題)にしましょうということです
集中管理団体による行使
これも集中管理団体のみによる行使とされており、具体的には前述の芸団協がこれにあたります。
5 第一項に規定する権利を有する者の許諾に係る使用料を受ける権利は、前項において準用する第九十五条第五項の団体によつて行使することができる。
まとめ
若干性質が違うものも一緒くたになってしまいますが、本記事で見たところの金銭的請求権と、著作隣接権の制限ないし例外との対応関係を表にしてみると、以下のようになります。(★はワンチャンス主義)
著作隣接権 | 著作隣接権の制限ないし例外 | 実演の利用に関する金銭的請求権 | |
録音権・録画権 | 私的録音録画(102条1項→30条1項) | 私的録音録画補償金請求権(102条1項→30条3項) | |
放送権・有線放送権 | 放送の同時有線再放送(92条2項1号) | 放送の同時有線再放送に対する報酬請求権(94条の2) | |
許諾を得て録音・録画されている実演(同項2号イ)★ | 商業用レコードの放送・有線放送に対する二次使用料請求権(95条1項) | ||
映画の実演(同項2号ロ)★ | なし | ||
放送のための固定物等による放送(93条の2第1項) | リピート放送(1号) | リピート放送等に対する報酬請求権(93条の2第2項) |
|
テープ・ネット放送(2号) | |||
マイクロ・ネット放送(3号) | |||
貸与権 | 権利行使期間(95条の3第2項) | 貸与権消滅後の商業用レコードの貸与に対する報酬請求権(95条の3第3項) |
対応関係といっても、ぴったり一致しているわけではないです
(著作隣接権の例外とされている場合すべてについて、報酬及び二次使用料請求権が発生するというわけではない)
例えば、「許諾を得て録音・録画されている実演」の場合、二次使用料請求権が発生するのは「商業用レコード」の場合だけですし、「映画の実演」の場合、金銭的請求権は発生しません
結び
今回は、著作権法を勉強しようということで、実演家の権利のうち、報酬や二次使用料請求権など実演の利用に関する金銭的請求権について見てみました。
▽次の記事
-
著作権法を勉強しよう|実演家の権利-実演家人格権
続きを見る
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
著作権法に関するその他の記事(≫Read More)
主要法令等・参考文献
参考文献
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています