法律コラム

「ダーウィン事変」で考える”人”の権利

今回も、マンガで法律、という感じの法律小噺をしてみたいと思います(身近なトピックや漫画を入り口に、法律の世界を楽しく探検するコラムです)。

以前にジャンプ+の人気漫画「ラーメン赤猫」の法律コラムでも書いたことがありますが、今回はアフタヌーン(講談社)で連載中の人気漫画・2026年冬クールにアニメ化された「ダーウィン事変」を題材に、少しディープな法律の世界を覗いてみたいと思います。

「ダーウィン事変」の世界観と、現実世界との交錯

実は最近、ちょうどアニメ配信クール中に、まるで現実世界と漫画の境目がわからなくなるような出来事がありました。今年(2026年)の1月、京都大学ヒト行動進化研究センターで長年研究に参加してきた天才チンパンジーの「アイ」が、49歳でこの世を去ったというニュースです。

その際、京大側が人間の死に対して用いる「逝去(せいきょ)」という言葉を使って発表したことがネット上でも大きな話題になりました。研究者の方々にとって、彼女が単なる動物ではなく、どれほど「人」に近い存在として扱われていたかが伝わってきますよね。どこまでがフィクションで、どこからが現実か、本当に交錯しているような感覚を覚えます。

さて、そんな現実のニュースとも重なる「ダーウィン事変」ですが、主人公のチャーリーは、人間と天才チンパンジーの間に生まれたヒューマンジー、という設定です。彼は人と同じように言語を解し、意思や感情を持ち、高校に通って社会生活を営んでいます。

しかし、作中での法制度上、彼は「人」としての権利がなく、あくまでも保護されるべき客体(モノや動物)として扱われていることが明確に描かれています。

「ラーメン赤猫」との決定的な違い

これは、前のコラムで紹介した「ラーメン赤猫」の世界観と比べると、とても面白い対比になっていると思います。

ラーメン赤猫の世界では、なにか想いや強い気持ちを持ったネコは言葉を話すようになり、そのなかでもレアな「働くネコ」たちがラーメン屋を営んでいます。彼らは、申請をして許可を受けることによって、現実世界の法人格とよく似た「法的人格」を取得できるという設定になっています。

ラーメン赤猫のネコたちは、中身は人間と同じように自分で考えて意思を持ち、実際に働いたり会計をしたりしています。だからこそ、彼らが法的に人格を取得することに読者も違和感を覚えないわけです。

もしも天才のチャーリーが、ダーウィン事変のシビアな世界から「ラーメン赤猫」の世界線にお引っ越しできたら、頭脳明晰な彼なら法的人格の試験なんて一瞬でパスして、悠々自適な社会生活を送れそうですよね(笑)。

意思の存在と「私的自治の原則」

結局のところ、これら二つの作品に共通する大きなテーマは、「人と同じように明確な意思を持ち、社会生活を営んでいる場合、人間以外であっても権利の主体としての資格を認めないと、色々と不自然で理不尽な場面が増えるのではないか」ということだと感じます。

実はこの感覚、意外にも法学の超基本ルールに裏打ちされています。それは、私的自治の原則という極めて古典的な考え方です。 民事の世界では、「人は、自分の意思に基づいて権利義務を有する(自分の意思に基づいたときにのみ権利を有し、あるいは義務を負う)」という大前提があります。

今現在は、地球上でそういった高度な意思を持っている存在が人間しか確認されていないため、結果的に人のみが権利の主体になっています。しかし、日本の人気天才漫画家たちによるこれらある種の素晴らしい思考実験を読むと、

もしも意思を持つ動物が存在する架空世界なら、法的な人格を付与する・しないという仕組みが極めて重要な意味を持つ

ということが、シミュレーションとして鮮明に浮き彫りになっているように思います。

フィクションの先にある未来

そして、これも前のラーメン赤猫のコラムでも触れましたが、この種の議論は決して漫画の中だけの絵空事ではなくなってきている気がします。

将来的には、AIを搭載した「人と全く区別がつかないようなロボット」が登場し、人間と同じような感情や意思を持つ可能性がけっこう高くなっています。そうした現実世界においても、遠い将来、普段の素行やアルゴリズムを審査し、申請によって法的な人格を取得する仕組みがいずれ議論される日は、どこかで来るでしょう。

古くは、手塚治虫先生の名作「ブラック・ジャック」にも、振る舞いが完全に人間と同じであるAI医療ロボット(U-18)が病院の統括医を務めるエピソードがありました。最後のコマで、病院を去るブラック・ジャックが「あばよ、U-18。お前さんも立派な医者だったぜ」と声をかけるシーンは、ロボットであっても専門職として自立しうる可能性を示唆した感動的な名場面です。

社会制度というものは自然科学とは違い、あくまで人間が便宜上作ったルールにすぎません。漫画を通じて「当たり前だと思っているルールの別のあり方」を想像してみると、エンタメの楽しみ方も、法律の世界も、より一層深く面白く感じられるのではないでしょうか。

[注記]
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