今回は、公益通報者保護法を勉強しようということで、規制の仕組み(全体像)について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
法の目的・内容
「公益通報者保護法」(平成16年法律第122号)は、これが正式名称となっています。
法律の分量としては実は22条までしかなく、もし全部を読んでもそれ程の分量はありません(ほかの法律に比べればという意味)。
法の目的は、以下のとおりとされています。
▽法1条
(目的)
第一条 この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効及び不利益な取扱いの禁止等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置等を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。
分節しながら読むと、
【手段】
〇公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効及び不利益な取扱いの禁止
並びに
〇公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置等
を定めることにより
【目的】
〇公益通報者の保護を図るとともに
〇国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り
もって
【究極目的】
〇国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする
のようになっています。
基本的な仕組みは、通報が公益通報の要件を満たす場合、その法的効果として公益通報者は保護されるというものです。
公益通報の要件は4つであり、保護の主な内容(法的効果)は3つであるといえます。
【公益通報の要件(4つ)】
- 通報者の要件:労働者、退職者、役員
- 通報の内容の要件:一定の法令違反行為
- 通報の目的の要件:不正の目的でないこと
- 通報先の要件:
- 事業者内部
- 権限のある行政機関
- その他の事業者外部のいずれか
【公益通報の法的効果(3つ)】
- 解雇の無効など:
解雇の無効(労働者)、労働者派遣契約の解除も無効(派遣労働者)、解任によって生じた損害賠償請求(役員) - 解雇以外の不利益な取扱いの禁止:
降格、減給、訓告、自宅待機命令、給与条上の差別、退職の強要、専ら雑事に従事させること、退職金の減額・没収etc - 通報に伴う損害賠償責任の免除
主な法令等
公益通報者保護法に関する主な法令等をざっと見ておくと、以下のようになります。どれも消費者庁HPで見ることができます(公益通報者保護法と制度の概要|消費者庁HP)。
【公益通報者保護法に関する主な法令等】
法律 | 政令 | 告示/ 解釈・運用 | 解説 |
---|---|---|---|
公益通報者保護法 | 通報の対象法律を定める政令(「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」) | ➢法定指針(「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)」) ➢指針解説(「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」) ➢Q&A集 | ➢公益通報ハンドブック ➢逐条解説 |
(※)国の行政機関向けガイドラインと地方公共団体向けガイドラインについては割愛しています
Q&A集は、以下のように多数の種類に分かれています(Q&A集|消費者庁HP)。
公益通報者保護法に関するQ&A集
- 公益通報者保護法に関するQ&A(基本的事項)
- 通報対象事実(通報の内容)に関するQ&A
- 公益通報者に関するQ&A
- 通報先に関するQ&A
- 保護要件に関するQ&A
- 解雇その他不利益な取扱いに関するQ&A
- 内部公益通報対応体制に関するQ&A
- 従事者に関するQ&A
- 事業者における通報対応に関するQ&A
- 行政機関向けQ&A(全般)
- 行政機関向けQ&A(内部の職員等からの通報)
- 行政機関向けQ&A(外部の労働者等からの通報)
- 罰則その他事項に関するQ&A
公益通報の要件(4要件)
公益通報の要件は、前述のように4つですが、もう少しだけ補足してみます。
公益通報の要件(4要件)
- 通報者の要件:
労働者、退職者、役員(法2条1項1号~4号) - 通報の内容の要件:
一定の法令違反行為(通報対象事実という)を通報すること
ただし、通報対象事実は、公益通報者保護法またはその政令で掲げる法律において犯罪とされている事実のみ(法2条3項) - 通報の目的の要件:
不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でないこと(法2条1項) - 通報先の要件:
通報先が、①事業者内部、②権限のある行政機関、③その他の事業者外部のどれかであること(法2条1項)
かつ
①~③の類型ごとに決まっている保護要件を満たすこと(法3条各号、法6条各号)
ポイントは、
通報の内容は、不正っぽいものなら何でもいいわけではなく、本法律または政令で指定された法律の犯罪事実に限られる
ということや、
通報先は3類型あって、どれに通報してもよいのだが、それぞれの類型ごとに保護されるための要件(保護要件)があってこれを満たさなくてはならない
といったことあたりかなと思います。
基本的な仕組みはシンプルなはずなのですが、詳細に見ていくと、要件はけっこう複雑になっています。
詳しい内容は、以下の関連記事で解説しています。
公益通報の効果(公益通報者の保護)
①解雇の無効など
公益通報の効果の1つ目は、公益通報したことを理由とした解雇の無効などです(法3条、4条、6条)。
公益通報者が派遣労働者の場合、公益通報をしたことを理由として派遣先が行った労働者派遣契約の解除も無効となっています(法4条)。
▽法3条
(解雇の無効)
第三条 労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。)が行った解雇は、無効とする。
一~三 (略)
1~3号が長い条文ですが、各号は保護要件に関する部分なので、本記事では省略しています(▷保護要件についての記事はこちら)
▽法4条
(労働者派遣契約の解除の無効)
第四条 第二条第一項第二号に定める事業者(当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受けるものに限る。以下この条及び次条第二項において同じ。)の指揮命令の下に労働する派遣労働者である公益通報者が前条各号に定める公益通報をしたことを理由として第二条第一項第二号に定める事業者が行った労働者派遣契約(労働者派遣法第二十六条第一項に規定する労働者派遣契約をいう。)の解除は、無効とする。
役員の場合(法6条)
ポイントは、公益通報者が役員の場合、公益通報したことを理由とした解任は禁止されておらず、損害賠償請求ができるにとどまることです(法6条)。
これは、たとえば会社法上の役員などは、もともと無理由で(株主総会決議により)解任できることになっていることによります。
▽法6条
(役員を解任された場合の損害賠償請求)
第六条 役員である公益通報者は、次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として第二条第一項第四号に定める事業者から解任された場合には、当該事業者に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
一~三 (略)
これも1~3号が長い条文ですが、各号は保護要件に関する部分なので、本記事では省略しています(▷保護要件についての記事はこちら)
②公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止
公益通報の効果の2つ目は、公益通報を理由とした、解雇以外の不利益取扱いも禁止することです(法5条)。
▽法5条
(不利益取扱いの禁止)
第五条 第三条に規定するもののほか、第二条第一項第一号に定める事業者は、その使用し、又は使用していた公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、降格、減給、退職金の不支給その他不利益な取扱いをしてはならない。
2 前条に規定するもののほか、第二条第一項第二号に定める事業者は、その指揮命令の下に労働する派遣労働者である公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、当該公益通報者に係る労働者派遣をする事業者に派遣労働者の交代を求めることその他不利益な取扱いをしてはならない。
3 第二条第一項第四号に定める事業者(同号イに掲げる事業者に限る。次条及び第八条第四項において同じ。)は、その職務を行わせ、又は行わせていた公益通報者が次条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、報酬の減額その他不利益な取扱い(解任を除く。)をしてはならない。
公益通報者が派遣労働者の場合、派遣先が派遣元に派遣労働者の交代を求めること等の不利益な取扱いが禁止されています(2項)。
また、公益通報者が役員の場合、報酬の減額等の不利益な取扱いが禁止されています(3項)。
③通報に伴う損害賠償責任の免除
通報した後、逆に事業者の側から、通報行為が名誉棄損にあたるということで提訴される事例がしばしばあるため、公益通報者の委縮を防ぐ趣旨で、公益通報者保護法の要件を満たす公益通報については損害賠償責任を負わない旨が定められています(法7条)。
▽法7条
(損害賠償の制限)
第七条 第二条第一項各号に定める事業者は、第三条各号及び前条各号に定める公益通報によって損害を受けたことを理由として、当該公益通報をした公益通報者に対して、賠償を請求することができない。
これは令和2年改正で設けられました。
公益通報の効果(公益通報者の保護)①~③については、以下の関連記事にくわしく書いています。
事業者の整備すべき内部通報体制
また、従業員数が300人を超える事業者については、内部通報体制の整備等が義務づけられています(法11条)。
▽法11条
(事業者がとるべき措置)
第十一条 事業者は、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条において「公益通報対応業務」という。)に従事する者(次条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない。
2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。
3 常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。
4 内閣総理大臣は、第一項及び第二項(これらの規定を前項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において単に「指針」という。)を定めるものとする。
5 内閣総理大臣は、指針を定めようとするときは、あらかじめ、消費者委員会の意見を聴かなければならない。
6 内閣総理大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。
7 前二項の規定は、指針の変更について準用する。
結び
今回は、公益通報者保護法を勉強しようということで、規制の仕組み(全体像)について見てみました。
消費者庁HPに、公益通報者保護法の概要をまとめた以下のペーパーがありますので、これを見ると全体像がよりわかりやすいかと思います。
また、全体像の解説ページとしては以下が一番わかりやすいかなと思います(管理人の私見)。
通報者の方へ|消費者庁HP
-
公益通報者保護法を勉強しよう|公益通報の要件-通報の主体、内容、目的
続きを見る
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
公益通報者保護法に関するその他の記事(≫Read More)
主要法令等・参考文献
主要法令等
- 公益通報者保護法
- 通報の対象法律を定める政令(「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」)
- 法定指針(「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号))|消費者庁HP
- 指針解説(「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」)|消費者庁HP
- Q&A集|消費者庁HP
参考文献
- 公益通報ハンドブック〔改正法(令和4年6月施行)準拠版〕(消費者庁)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 逐条解説(消費者庁)|消費者庁HP
- 民間事業者向け説明会 資料|消費者庁HP
- 裁判例の収集(概要/裁判例一覧/論点整理表)〔2022年度調査〕|消費者庁HP(≫掲載ページ)
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています