今回は、契約の一般条項ということで、権利義務等の譲渡禁止条項について見てみたいと思います。
譲渡禁止条項も契約書の最後の方に書かれていることが多い典型的な一般条項ですが、本記事では、この条項の基本的な内容から、かなり大きな影響があった民法改正のポイント、その他実務上の工夫などを解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
譲渡禁止条項とは
譲渡禁止条項とは、契約で発生した権利や義務、あるいは契約の当事者としての地位を、相手方の事前の承諾なく第三者に譲渡したり担保に入れたりすることを禁止する条項です。
たとえば、A社に仕事を依頼して、代金を支払う契約を結んだとします。ある日突然、A社から「うちが持っている代金債権をB社に譲渡したから、B社に支払ってね」と言われたら困りますよね。B社が反社会的勢力だったり、請求が強引な会社だったりするかもしれませんし、何より、誰に支払えばいいのかの管理が面倒になります。
このように、「信用できない第三者が契約に介入してくるリスクを減らす」「支払い先を固定して事務の煩雑化や二重払いのミスを防ぐ」といった目的で、相手方の事前の承諾なく権利義務を譲渡することを禁止するのが、この条項の目的です。
以上が民法(債権関係)改正前の典型的な理解ですが、改正によりその法的意味合いは違ってきていますので、留意が必要です(※以下では単に「民法改正」といいます)
法律上の原則
定型的に入っている譲渡禁止条項の文言は大体同じようなものですが、通常、要素としては、①債権の譲渡、②債務の移転、③契約上の地位の移転の3つの禁止が入っています。
そこで、譲渡禁止条項の法的意味を把握する前提として、これら3つの法律上の原則を確認します。
債権の譲渡
まず、債権の譲渡についてです。実は、この譲渡禁止条項(※民法では「譲渡制限特約」と呼ばれます)に関しては、民法改正によりルールが大きく変わっています。
債権譲渡自体は有効に
以前は、譲渡禁止特約に反する債権譲渡は原則として無効(物権的効力説)と解されていましたが、改正法では、特約があっても債権譲渡自体は有効(債権的効力説)に変更されました。
- 【改正前】:契約で債権譲渡の禁止を定めておけば、それに違反して行われた債権譲渡は原則として無効(=債権の移転自体が生じない)
- 【改正後】:契約で債権譲渡を禁止していても、債権譲渡自体は有効(=契約違反の問題が生じるのみ)
- 預貯金債権などは除きます(民法466条の5)
なぜこのような改正が行われたのかというと、主に中小企業の資金調達を円滑にするためです。中小企業が銀行などからお金を借りる際、自社が持っている売掛金(将来代金をもらう権利)を担保にすることがあります(債権譲渡担保)。
しかし、昔のルールだと、取引先との契約に譲渡禁止条項があるからこの売掛金は担保として使えないとして、銀行に断られてしまうケースが多かったわけです。そこで、資金調達のハードルを下げるために、特約があっても債権譲渡自体は有効というルールに変更されました(民法466条2項)。
▽民法466条2項
2 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
悪意・重過失の譲受人に対する履行拒絶等
もっとも、弁済先を固定するという債務者の利益も一定程度保護されており、債務者は譲渡制限特約について悪意・重過失の譲受人に対しては債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済等の債権消滅事由をもって対抗することができるとされています(民法466条3項)。
▽同条3項
3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
債務の移転(債務引受)
次に、債務の移転(受ける側からすれば債務引受)についてです。
債務引受は、引受人が債務者と連帯して債務を負担する「併存的債務引受」と、債務者が契約関係から離脱し、引受人が単独で債務を負担する「免責的債務引受」の2つに分かれます。
民法改正により、判例上認められて実務でも行われていたこれらの債務引受について、基本的な要件と効果の規定が新設されました
通常、譲渡禁止条項で想定されているのは免責的債務引受の方ですが(”勝手に債務者が変わってしまってはたまらない”という点)、免責的債務引受は、債務者が変更されることで債権者に重大な影響を及ぼすため、債務者と引受人との合意のみならず、債権者の承諾が必要となります。
なお、債権者と引受人との契約によっても行うことができますが、その効力は債権者が債務者にその旨を通知することによって生じます。
▽民法472条2項・3項
2 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
3 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。
契約上の地位の移転
最後に、契約上の地位の移転についてです。
契約上の地位の移転とは、単に契約上発生する個別の債権・債務を第三者に譲渡することではなく、解除権や取消権などの付随的な権利義務も含めた包括的な地位の一体的な移転を意味します。契約上の地位が譲渡人から譲受人に移転する結果、譲渡人は契約関係から離脱することになります。
この契約上の地位の移転には免責的債務引受の側面も含まれるため、相手方当事者の承諾が必要とされます。民法改正においては、実務上の運用を踏まえ、契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を移転させる旨の合意をした場合には、契約の相手方がこれを承諾したときに契約上の地位が移転するという基本的な規律が明文化されました(民法539条の2)。
▽民法539条の2
第五百三十九条の二 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。
不動産賃貸借契約における賃貸人たる地位の移転など、判例で相手方の承諾が不要とされている例外を除き、契約上の地位の移転には相手方の同意が必要となります。
譲渡禁止条項を規定する意味
このように、債務の移転(免責的債務引受)については債権者の同意が必要ですし、契約上の地位の移転も三者合意でなければなりません。このように考えると、もともと勝手に移すことができないのですから、譲渡禁止条項は確認規定のような意味しかないようにも思えます。
また、債権譲渡についても、譲渡禁止の合意をしていても債権移転自体は止められないとすると、意味合いは薄いようにも思えます。
そうすると、「それなら、契約書に譲渡禁止条項を入れても意味がないのでは?」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。結論からいうと、譲渡禁止条項は従前どおり記載するべきです。
まず、債権譲渡については、先ほど見たように、譲渡が禁止されていることを知っていた(悪意)、または重大な過失で知らなかった譲受人に対しては、債務者は支払いを拒むことができます(悪意・重過失の譲受人に対する履行拒絶等)。そのため、現在でも譲渡禁止条項を設けておく実益は十分にあります。
また、契約上の地位の譲渡(および債務の移転)については、民法の原則でも相手方の承諾が必要ですが、口頭でも同意が成立してしまうため、後日のトラブルを防ぐためには、事前の書面による同意に限定しておくという重要な意味があります。
要するに、民法改正による影響と、それを踏まえた法律上の原則との差分(=条項のメリット)をいま一度整理しておきましょうという話で、条項自体が無意味になったというわけではありません
その他の実務上の工夫
譲渡禁止条項の定型的な書き方では、権利・義務・契約上の地位の譲渡と担保設定を禁じる内容だけを記載しておくのが一般的ですが、その他の工夫もいくつか考えられます。
除外事由
まず、状況によっては、あらかじめ例外ルール(除外事項)を定めておいた方がスムーズな場合が考えられます。
たとえば、グループ内での組織再編(M&A)の場合などです。将来的に会社を合併したり、事業を分割したりする予定がある場合、譲渡や移転に組織再編が含まれると解釈されると、相手の承諾を取らなければならず面倒です(※合併や分割は包括承継であり効力自体は生じるとしても、契約違反の問題は残ります)。そのため、合併や会社分割などの組織再編行為は除く旨を記載しておくことが考えられます。
もっとも、他にチェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)などがあって相手方の同意が必要な内容になっている場合には、結局承諾が必要になりますので、他の部分のチェックも併せて必要になるかと思います
解除や違約金
また、民法改正を踏まえた工夫として、契約解除や違約金の規定を組み合わせることも考えられます。
先ほど見たように、民法改正により、譲渡制限特約に違反するものであっても、債権譲渡自体は有効として扱われます。そこで、勝手に債権を譲渡されることを強めに抑止するため、譲渡禁止条項に違反した場合には即座に契約を解除できるという特約を設けたり、違約金を請求できる仕組みを組み込んだりすることも検討対象になり得ます(「業務委託契約書作成のポイント」〔第2版〕(近藤圭介 編著)155頁参照)。
ただし、債務者に実質的な不利益がないのに解除権を行使することは権利の濫用とみなされるおそれもあるため、慎重な制度設計が求められます。
補足:供託による対応
なお、譲渡禁止条項に違反して債権が譲渡された場合、債務側の対応としては供託することも可能です(もちろん金銭債権に限ります)。
譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたとき、債務者はその債権の全額に相当する金銭を、債務の履行地の供託所に供託することができます(民法466条の2第1項)。供託の手続と効果は以下のようになっています。
- 通知義務:供託をした債務者は、遅滞なく、譲渡人および譲受人の両者に対して供託の通知をしなければなりません(2項)
- 還付請求:供託された金銭の還付を請求できるのは、債権者である譲受人に限られます(3項)。譲渡制限特約に違反した譲渡であっても債権譲渡自体は有効であり、債権者は譲受人となるためです
このように供託することで、弁済の相手方に悩むことなく債務を免れる手段も用意されています。
▽民法466条の2
(譲渡制限の意思表示がされた債権に係る債務者の供託)
第四百六十六条の二 債務者は、譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合にあっては、譲渡人の現在の住所を含む。次条において同じ。)の供託所に供託することができる。
2 前項の規定により供託をした債務者は、遅滞なく、譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなければならない。
3 第一項の規定により供託をした金銭は、譲受人に限り、還付を請求することができる。
結び
今回は、契約の一般条項ということで、譲渡禁止条項について見てみました。
本記事のハイライトをまとめます。
譲渡禁止条項のポイント
- 譲渡禁止条項は、見知らぬ第三者が契約に介入してくるトラブルを防ぐための重要な約束
- 民法改正により、特約に反する「債権譲渡」自体は有効になった
- しかし、悪意・重過失の第三者からの請求を拒絶するため、また契約上の地位の譲渡を確実に防ぐために、引き続き契約書に規定する実益は大いにある
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
民法(債権関係)改正の資料
- 部会資料1~88-2(民法(債権関係)部会資料)(法務省HP)
- 中間試案補足説明(「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明」)(法務省HP)
- 中間試案パブコメ(部会資料71)(平成25年12月27日付意見募集の結果)(e-Govパブコメ)
- 要綱(「民法(債権関係)の改正に関する要綱」)(法務省HP)
- 民法の一部を改正する法律案(国会提出法案)(法務省HP)
- 民法の一部を改正する法律(債権法改正)について(法務省HP)
参考文献
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