法律ニュース

有名人の大麻取締法違反被疑事件-解釈論と立法論

有名俳優の方が大麻所持の被疑事実で逮捕されて、話題になっています。

SNSなどを見ていると、やり取りが混乱(混同?)してるのではと思うところがあったので、記事にしてみたいと思います。

この話って、Twitterでのやり取りを見ていると、ある意味イデオロギックというか、ドグマ的というか、感情的な議論の対立があるように感じるので(また、個人的にそういうのはあまり好きじゃないので)、ここでは技術的な話のみを見てみたいと思います。

違法か違法でないか

「違法か違法でないか」という問いに対しては、「違法」というしかないだろうと思います。被疑事実が事実であれば、ですけど。

同じ意味ですが、「犯罪か犯罪でないか」という問いに対しても、「犯罪」であり、議論の余地がありません。

例えば、以下のようなツイートが端的な意見だと思います。

▽テスタ(@tesuta001)さんのXアカウント

現行法下では犯罪で、見直されて(法改正されて)犯罪でなくなったら犯罪でない。仰るとおりで、これが現時点での結論としては全てだろうなと思います。

以下のツイートも端的な意見だなと思いました。

▽DAIBOUCHOU(@DAIBOUCHOU)さんのXアカウント

法律で禁止された事に議論の余地はない。文句があるなら国に言うしかない(管理人なりに言い換えれば、「国会を通して法を改正するしかない」)。そうだな、という感じでした。

大麻の”合法性”についての主張というのは何なのか?

では、「でも合法な国もある」とか、「大麻にもメリットがある」「国際的にはそういった国も増えているんじゃないか」といった国際情勢に関する意見や主張というのは一体何なのか?というと、これは解釈論ではなく、立法論です。

立法論というのは、法律の制定に関する議論や、法改正に関する議論のことです。

これに対して、解釈論というのは、現行法に関する解釈の議論のことです。

立法論と解釈論を混ぜない」というのは法律的な議論としては基本でして、以下のサイトがわかりやすく書いてくれていたので、引用します(太字は筆者による)。

立法論とは、一定の目的を実現するためには実定法の変更や新たな制定を行うことを主張する立場(大辞林)です。
解釈論とは、現在ある実定法に基づいてできる解釈の範囲内で主張を行う立場(同)です。

ゼミでは、現行法に基づけばどう解釈できるのか(解釈論)が話し合われた後、現行法をどう改めるべきなのか(立法論)が話し合われました。

解釈論の最中に立法論を唱えれば、厳しく咎められました。

▽引用サイト:労働法のゼミで学んだ立法論と解釈論の峻別 / KEEN WIT 国語塾

労働法のゼミで学んだ立法論と解釈論の峻別|KEEN WIT 国語塾 谷町五丁目教室jukutown.com

「合法な国もある」とか、「大麻にもメリットがある」「そういった国も増えている」といったことは、現行法の解釈論としては採用の余地がなく、あくまで立法論です。ここを混ぜているので、Twitterのやり取り(議論?)がモチャっとしてくるのでは、と思います。

別の言い方をすれば、立法論を解釈論に持ち込もうとしている(かのような人が散見される)ので、変な感じになるわけです。

そうするとどういう方法があるのか

そうすると、「合法な国もある」とか、「そういった国も増えている」といったことを主張する人が、大麻を合法化するには、2つの方法があると思います。

1つは、法改正をすることです。もう1つは、現行法に関し、違憲無効の主張をすることです。どちらも、立法事実が重要になります。

立法事実というのは、法律の正当性(最高法規である憲法に照らした場合の合憲性)を裏付け支える社会的事実のことです。

規制目的の正当性、規制の必要性および規制方法・手段の相当性を、それを裏付ける事実状況が存在するか否かと関連づけつつ、検討・評価するというのが、違憲審査であり(佐藤幸治「憲法(第3版)」372頁参照)、また、法制定時または改正時の合憲性(=法規制の正当性)の検証でもあります。

①法改正をすること

立法事実というのは、絶対不変の固定されたものではなく、その時代その時代の社会情勢の変化に照らして、変化しうるものです。

なので、「合法な国もある」とか、「そういった国も増えている」といった主張は、立法論としてはあり得ると思います。

そういった議論が高まって、国民の多数の共感を得られれば、国会を通して法改正をすればいいだけです。

逆に言うと、それができなければ、違法として扱うことを是とする人の方が多数を占めている社会であるということであり、それが法制化されているならば、自分の意見としての賛否にかかわらず、その社会に住む以上は、それを破れば違法になります。

②違憲無効の主張をすること

また、違憲の主張に関しては、社会情勢の変化を理由に、現在の規制を正当化する理由(立法事実)が憲法に照らして存在しないことを主張して、それが裁判所に認められれば、法律は違憲無効となります。大麻取締法も、当然、例外ではないです。

といっても、違憲無効の判決が出た事件はこれまで本当に限られた数しかなく、それらとの比較の問題でいっても、大麻所持の規制について違憲主張が認められる可能性は、ほぼゼロと言っていいだろうと思います。

結び

「合法化」するべきかどうか?というところ(立法論)については議論の余地があるとしても、「合法」かどうか?というところ(現行法の解釈論)については議論の余地がありません。

まあ要するに、よく見られる大麻のメリットや国際情勢を挙げる意見は、それは立法論だよね、というだけの話なんですが、それを法律コラムっぽく書いてみました。

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

-法律ニュース