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芸能人の薬物事犯-過去の使用歴ってどうなるの?

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芸能人の薬物事犯に関するニュース、最近多いですよね。

過去の使用歴の有無についてもあわせて話題になることが多いですが、過去の使用歴って量刑上はどうなるのでしょうか?

温度感のギャップ

芸能人の薬物事犯は、ある種定期的に世間を騒がせるニュースになっている気がしますが、司法の側としては芸能人だからといって特別視しているわけではなく、他の一般の事例とアンバランスにならないよう淡々と裁いているだけです。

ワイドショーなどの温度感は、普段司法側で接している者(又は接していたことがある者)からすると、すごいギャップがあると思いますね。

薬物事犯には複数の法律がありますが、ざっくりいうと、通常の所持・使用のときに初犯で実刑になることはほぼ無く(※営利目的などがついている場合は別)、懲役1年又は1年半、執行猶予3年、が一般的です。

では、本人が過去の使用を認めているときに、こういった過去の使用歴が罰の重さに影響するのかどうか?という話ですが。

過去の使用歴があると重くなるの?

結論からいうと、過去の使用歴の分を、いま現在の罪のなかで罰することは認められていません。

ただ、たくさんある量刑の要素のなかの、常習性、というネガティブな要素として考慮することは可とされています。

「余罪と量刑」という論点の話で、最高裁判例もあります。

最判昭和41年7月13日刑集20巻6号609頁|裁判例検索(裁判所HP)

「刑事裁判において、起訴された犯罪事実のほかに、起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料に考慮し、これがため被告人を重く処罰することは許されないものと解すべきである。」
「しかし、他面刑事裁判における量刑は、被告人の性格、経歴および犯罪の動機、目的、方法等すべての事情を考慮して、裁判所が法定刑の範囲内において、適当に決定すべきものであるから、その量刑のための一情状として、いわゆる余罪をも考慮することは、必ずしも禁ぜられるところではない…。余罪を単に被告人の性格、経歴および犯罪の動機、目的、方法等の情状を推知するための資料として考慮することは、犯罪事実として認定し、これを処罰する趣旨で刑を重くするのとは異なるから、事実審裁判所としては、両者を混淆することのないよう慎重に留意すべきは当然である。」

過去の罪は起訴されていないからこれを含めて罰するようなことはしない、しかし、過去から常習性をもってされていることは、今の罪についてのネガティブな情状として考慮しますよ、ということです。

なお、常習性がネガティブな要素として考慮されるからといって、初犯で執行猶予つくはずなのにつかなくなるとか、猶予期間が普通は3年なのに5年になるとか、そんなクリティカルな影響を及ぼすことはまず無いです。

芸能人だからといって重くすることも(また軽くすることも)当然無いです。

復帰云々のハナシ

法的には、罪に見合った罰が下され、それを償えば終了するワケですから、猶予期間中は自省して何事もなく過ごせばそれでええやん(法はそう言っているのだから)、と思いますけどね。もちろんその先も、ですが。

社会的な制裁の話と、法的な罰の話は、当然別物なので何ともいえませんけど。法律って、社会の最低限の共通認識でもあるはずですし。まあ、民事の話とか業界の信用とか、いろいろあるんでしょうけど…。

なお、捜査中だろうが起訴されようが、判決が確定するまで無罪推定です(ここ念押し)。

結び

ワイドショーでの温度感と司法側にいる者(サンプルは管理人だけですが)の温度感の差について書いてみました。

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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