取適法務

取適法務|ボリュームディスカウントはなぜ適法?取適法で「代金減額」にならないための厳格な4要件

企業間取引において、"一定期間にたくさん発注してくれたら、割戻金(リベート)を支払う"というボリュームディスカウントは、一般的な商慣習として広く行われています。

しかし、取適法(中小受託取引適正化法)において、発注後に代金を減らす行為は代金の減額の禁止に該当し、当事者間の合意があっても原則として違法となります。そこで本記事では、ボリュームディスカウントが適法として認められるための要件と、実務上の注意点を解説します。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

ボリュームディスカウントが適法となるための4要件

取適法の運用基準において、ボリュームディスカウント等の合理的な理由に基づく割戻金は、以下の4つの要件をすべて満たした場合に限り、代金の減額にはあたらない(非該当)とされています。

適法なボリュームティスカウントの要件

  • あらかじめ取引条件として合意されていること
  • その内容について書面または電磁的記録が作成されていること
  • 4条明示(発注時の明示)されている代金の額と割戻金を合わせて、実際の代金の額とすることが合意されていること
  • 4条明示と、割戻金の内容が記載された書面等(上記②)との関連付けがされていること

つまり、"後出し"での値引き要求は当然ながら認められず、発注の段階で「どの程度発注したら、いくら戻す」というルールが明確に書面化され、個別の発注書(4条明示)とリンクしている必要があります。

▽取適法運用基準 第4-3-⑴

 なお、ボリュームディスカウント等合理的理由に基づく割戻金(例えば、委託事業者が、一の中小受託事業者に対し、一定期間内に一定数量を超える発注を達成した場合に、当該中小受託事業者が委託事業者に支払うこととなる割戻金)であって、あらかじめ、当該割戻金の内容を取引条件とすることについて合意がされ、その内容について書面又は電磁的記録の作成がされており、当該書面又は電磁的記録における記載又は記録と明示されている代金の額とを合わせて実際の代金の額とすることが合意されており、かつ、当該明示と割戻金の内容が記載されている書面又は電磁的記録との関連付けがされている場合には、当該割戻金は代金の減額には当たらない。

重要なのは「合理的理由」(受託者の利益増加)

手続上の4要件を満たせば、どのような名目でも許されるわけではありません。現在、合理的な理由に基づく割戻金として認められているのは実質的にボリュームディスカウントのみであり、その設定には客観的な合理性が求められます。

ここでの「合理的理由」とは、発注数量の増加とそれによる単位コストの低減によって、割戻金を支払ったとしても、中小受託事業者の得られる利益が従来よりも増加することを意味します。

そのため、以下のようなケースは合理性がないと判断され、適法なボリュームディスカウントとは認められません。

  • 対象品目が特定されていない、単なる発注総額の増加のみを理由とする割戻金
  • 単に将来の発注予定数量を定め、実績がそれを上回ったというだけの割戻金

適法と認められるためには、例えば「特定の品目における今年度の発注予定数量が、前年度の実績を上回り、それに伴い、割戻金を支払ったとしても今年度の受託者の利益が前年度の利益を上回る」といった、明確な利益増加が必要となります。

▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕 1-⑸-ウ【Q95】

 代金の減額に当たらないとされるボリュームディスカウントとはどのようなものか。

 ①例えば、委託事業者が、中小受託事業者に対し、一定期間内に、一定数量を超えた発注を達成した場合に、中小受託事業者が委託事業者に対して支払う割戻金であって、あらかじめ、②当該割戻金の内容が取引条件として書面等で合意されており、③当該書面等における記載と4条明示されている代金の額とを合わせて実際の代金の額とすることが合意され、かつ、④4条明示と割戻金の内容が記載されている書面等との関連付けがなされている場合には代金の減額には当たらない。
 運用基準にいう「合理的理由」とは、ボリューム及び割戻金の設定に合理性があるものであって、具体的には発注数量の増加とそれによる単位コストの低減により、当該品目の取引において中小受託事業者の得られる利益が、割戻金を支払ってもなお従来よりも増加することを意味する。
 したがって、①対象品目が特定されていない発注総額の増加のみを理由に割戻金を求めることはボリュームディスカウントには該当しない。また、②単に、将来の一定期間における発注予定数量を定め、発注数量の実績がそれを上回るものは該当しない。特定の品目の一定期間A(例えば新年度の1年間)における発注予定数量が、基準となる過去の対応する一定期間B(例えば前年度の1年間)において実際に発注した実績を上回るとともに、それに伴い、中小受託事業者が、割戻金を支払ったとしても、期間Aにおいて得る利益が期間Bにおける利益を上回ることとなる必要がある。
 なお、現在のところ、合理的な理由に基づく割戻金と認められるものは、ボリュームディスカウントのみである。

実務上の注意点:割戻金の振込手数料はどうなる?

取適法では、通常の代金支払時に振込手数料を中小受託事業者に負担させることは、合意の有無にかかわらず代金の減額として禁止されています。

では、適法なボリュームディスカウントにおいて、中小受託事業者が委託事業者に割戻金を振り込む際の手数料はどうなるのでしょうか。

この点について、行政側のパブリックコメントに対する考え方によれば、あらかじめ当該割戻金の内容として振込手数料が含まれることが合意されている場合には、その振込手数料を中小受託事業者に負担させることは代金の減額にはあたらないと解されています。ただし、これも事前の明確な書面等での合意が前提となります。

▽令和7年10月1日パブコメ【No.277】

(中略)
・ボリュ―ムディスカウントの割戻金等、合理的理由に基づき中小受託事業者が委託事業者に金銭を振り込む際の振込手数料を中小受託事業者に負担させることは、「製造委託等代金の減額」に当たらないという理解で良いか。

 ボリュームディスカウント等合理的理由に基づく割戻金(例えば、委託事業者が、一の中小受託事業者に対し、一定期間内に一定数量を超える発注を達成した場合に、当該中小受託事業者が委託事業者に支払うこととなる割戻金)であって、あらかじめ、当該割戻金の内容を取引条件とすることについて合意がされ、その内容について書面又は電磁的記録の作成がされており、当該書面又は電磁的記録における記載又は記録と明示されている製造委託等代金の額とを合わせて実際の製造委託等代金の額とすることが合意されており、かつ、当該明示と割戻金の内容が記載されている書面又は電磁的記録との関連付けがされている場合には、当該割戻金は製造委託等代金の減額には当たらないと考えられます。
 当該割戻金の内容として、振込手数料が含まれていることが合意されている場合には、当該振込手数料を中小受託事業者に負担させることは、製造委託等代金の減額には当たらないと考えられます。

結び

「発注量を増やすから安くしてほしい」という交渉自体はビジネスにおいて一般的なものです。しかし、それが取適法における適法なボリュームディスカウントとして成立するためには、受託者側の利益増加という客観的な裏付けと、書面化・関連付けの手続が不可欠です。

自社のリベートや割戻金の運用が、単なる事後的な値引き(違法な減額)になっていないか、4つの要件に照らして契約や運用実態を点検してみてはいかがでしょうか。

👉代金の減額禁止の全体像を知りたい方はこちら

取適法務 - 法律ファンライフ
取適法務 - 法律ファンライフ

houritsushoku.com

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

取適法

取適法解説|適用の基本となる「製造委託」の定義と4つの類型

取適法

取適法解説|全11項目「委託事業者の禁止事項」を理解~「基本NG」と「不当ならNG」の境界線とは

取適法

取適法解説|資金繰りと直結するルール「代金の支払遅延の禁止」とは

取適法

取適法解説|仕様変更・やり直しのコスト負担ルール「不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止」とは

取適法

取適法(新・下請法)のガイドマップ~対象から義務・ペナルティまで総まとめ

主要法令等

  • 取適法(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)
  • 取適法施行令(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」)
  • 4条明示規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」)
  • 7条記録規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」)
  • 遅延利息利率規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」)
  • 取適法運用基準(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」)
  • 取適法Q&A(「よくある質問コーナー(取適法)」)|公取委HP
  • 取引適正化ガイドライン(「受託適正取引等推進のためのガイドライン」)|中小企業庁HP
  • 令和7年改正法 説明資料(「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の成立について)|公取委HP(≫掲載ページ
  • 令和7年10月1日パブコメ(同日付け「「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」等の整備について」)|e-Gov(≫掲載ページ

参考資料

  • 取適法ガイドブック(「中小受託取引適正化法ガイドブック 下請法は取適法へ」(公正取引委員会・中小企業庁))
  • 取適法テキスト(「中小受託取引適正化法テキスト」〔令和7年11月版〕(公正取引委員会・中小企業庁))

-取適法務