今回は、中小受託取引適正化法、いわゆる取適法ということで、委託事業者の禁止事項のうち有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止について見てみたいと思います。
原材料等の有償支給は製造委託等においてよく行われますが、決済のタイミングを誤ると法令違反となる可能性があります。また、この分野でよく目にする”見合い相殺”って、何のことなのかよくわかりませんよね。
そこで今回の解説では、その法的な仕組みと実務上の注意点を整理します。
それではさっそく見ていきましょう!
Section 1 有償支給と早期決済の禁止とは
有償支給とは、委託事業者が、中小受託事業者に対して物品の製造や加工を委託する際に、必要な原材料等を「自己から購入させる」ことを指します。

早期決済の禁止とは、委託事業者は、この有償支給材の代金を、その支給材を使った製品について代金を支払うよりも早く回収してはならない、というルールです。つまり、中小受託事業者が加工して納品した製品の代金(加工賃など)が支払われる日よりも前に、その原材料費を支払わせたり、別の支払代金から天引き、つまり相殺したりしてはならないということです。
なお、ここでいう「自己から購入させた場合」とは、文字通り委託事業者自身から購入させた場合が適用場面となります。
たとえば、委託事業者の子会社から購入させた場合はこの条文の適用外となります。また、中小受託事業者が独自に使用する分など、受託取引と関係がない分については適用されません。
Section 2 なぜ禁止されるのか(規制の趣旨)
では、なぜこれが禁止されるのでしょうか。それは、有償支給取引において、原材料等の代金を早期に決済させることは、中小受託事業者にとって資金繰りの悪化という不利益をもたらすからです。
製品の代金が入ってくる前に、原材料費という現金を支払わなければならない、あるいは他の売掛金から減らされるという状態は、支払遅延の場合と同じように、中小受託事業者の資金繰りを圧迫します。
感覚的にわかりやすく言うと、中小受託事業者の立場からすれば「まだ手元にある(あるいは加工中の)原材料の代金だけ先に負担させられるのか!」と、先払いを強いられる状態になってしまうわけです。
このように、製品代金の支払と有償支給材の決済のタイミングを調整して、中小受託事業者の利益を保護することがこの規制の趣旨です。
Section 3 「控除」と「別途支払わせる場合」の禁止
次に、具体的に禁止される行為についてです。有償支給の場合に、その代金を製品代金との相殺によって決済すること自体は本来問題ありませんが、そのタイミングが早すぎると違反になります。
ここで禁止されている「控除」、つまり相殺というのは、その支給材を用いた完成品代金よりも「先に支払期日がくる別の製品代金」からの控除のことです。
たとえば、中小受託事業者に一度に3か月分の支給材を支給したときに、1か月分の支給材を用いた完成品の代金から、3か月分の支給材の代金全てを相殺するといったことも、禁止行為に該当します。
また、代金からの相殺や天引きではなく、中小受託事業者に別途現金で振り込ませる場合であっても、その期日が製品代金の支払期日より早ければ違反となります。これは早期相殺の抜け道を塞ぐためです。

Section 4 適法な控除方法:「見合い相殺」の原則
では、どうすれば違反にならずに控除できるのでしょうか。
有償支給取引の場合に違反を避けるためには、代金の支払の際に、支払の対象となる給付に用いられた分に見合うだけの原材料等の対価を相殺する仕組み、いわゆる「見合い相殺」の仕組みを構築することが重要です。

原則として、有償支給材を使用して製造された製品の代金支払期日と、その原材料等の対価の決済期日を合わせる、あるいは原材料費の決済を遅らせる必要があります。納入された製品に含まれる原材料費分のみを、その製品代金の支払時に控除する仕組みであれば問題ありません。
よくある違反事例として、加工期間を考慮せず、原材料を支給した月の末日に原材料費を請求、または相殺してしまうケースがあります(当月の相殺・請求)。
原材料を加工し、製品として納入し、その代金が支払われるまでにはタイムラグがあります。この期間を考慮せず、「製品代金の支払日」よりも「原材料費の決済日」が先に到来する仕組みは違反となりますので、十分に注意してください。
Section 5 早期決済が認められる例外
最後に、例外についてです。取適法の条文にあるとおり、「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」がある場合には、例外として早期決済が認められます。具体的には、以下の3つのケースが挙げられます。

1つ目は「原材料の毀損・紛失」です。中小受託事業者が支給材を壊したり無くしたりして、製品の製造が不可能になった場合です。
2つ目は「不良品の製造」です。支給材を使って不良品や注文外の物品を製造してしまった場合です。
3つ目は「転売」です。支給された原材料を勝手に他へ転売した場合です。
これらのケースでは、製品として納入される見込みがなくなった時点で、原材料費を直ちに請求しても違反にはなりません。
まとめ
では最後にまとめます。
有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止は、単なる経理処理の問題ではなく、中小受託事業者の資金繰りに直結する規制です。
実務上のポイントとしては、まず、原材料費を徴収するタイミングが、それを使った製品の代金支払日より早くなっていないかを確認しましょう。
そして、当月支給分を当月決済にしていないかなど、加工リードタイムを考慮した「見合い計算」になっているか、システムの設定を含めて見直すことが重要です。
また、原材料等を有償支給する場合は、その品名、数量、対価、引渡期日、決済期日および決済方法を書面等で明示する4条明示の義務もありますので、併せて遵守が必要です。

結び
では今回の話は以上です。今回は、取適法における有償支給材の早期決済の禁止について見てみました。ではまた。
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本記事と冒頭の動画は、以下の解説記事をもとに、内容を理解しやすいよう会話的に再構成したものです。
図解による全体像の把握を目的とした補助的な記事になりますので、網羅的な解説や条文ベースの正確な理解については、ブログ本編をご参照ください。
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