今回は、フリーランス法ということで、発注事業者が守るべきルールのひとつである報復措置の禁止について見てみたいと思います。
フリーランスとして働いていると、発注者の法律違反に直面しても、「発注者が法律に違反しているみたいだけど、行政に相談したことがバレたら、次の仕事をもらえなくなるかも…」 という不安から泣き寝入りしてしまうこともあるかもしれません。フリーランス法では、こうした事態にあっても安心して行政機関に声を上げられるようにするためのルールが定められています。
他の禁止行為(買いたたきや減額など)が取引条件や経済的利益に関するものであるのに対し、報復措置の禁止はフリーランス法の実効性確保を目的とした、ガバナンス色の強い規定です。本記事では、発注者がしてはならない報復の定義とリスクについて解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
報復措置の禁止とは
フリーランス法では、発注者側が法律に違反する行為(明示義務違反や、7つの禁止行為、ハラスメント対策義務違反など)を行っている場合、フリーランスは所管の行政機関(公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)に対してその違反行為の申出(通報や相談)をすることができると定められています(法6条1項、法17条1項)。
そして、報復措置の禁止とは、フリーランスがこの申出をしたことを理由として、発注者がそのフリーランスに対して不利益な取扱いをしてはならないというルールのことです(法6条3項、法17条3項)。
▽フリーランス法6条 ※取引適正化に関する遵守事項関連
(申出等)
第六条 業務委託事業者から業務委託を受ける特定受託事業者は、この章の規定に違反する事実がある場合には、公正取引委員会又は中小企業庁長官に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
2 公正取引委員会又は中小企業庁長官は、前項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その申出の内容が事実であると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。
3 業務委託事業者は、特定受託事業者が第一項の規定による申出をしたことを理由として、当該特定受託事業者に対し、取引の数量の削減、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない。
▽フリーランス法17条 ※就業環境整備に関する遵守事項関連
(申出等)
第十七条 特定業務委託事業者から業務委託を受け、又は受けようとする特定受託事業者は、この章の規定に違反する事実がある場合には、厚生労働大臣に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
2 厚生労働大臣は、前項の規定による申出があったときは、必要な調査を行い、その申出の内容が事実であると認めるときは、この法律に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。
3 第六条第三項の規定は、第一項の場合について準用する。
フリーランス法では、取引適正化に関する遵守事項は公取委と中小企業庁が所管し、就業環境整備に関する遵守事項は厚労省が所管しているため、申出や報復措置の禁止もこれに対応して、法6条と法17条とに区別されています
すべての発注者が対象
受領拒否や買いたたきなどの7つの禁止行為は、従業員を使用している特定業務委託事業者だけが対象のルールでした。
しかし、この報復措置の禁止は、従業員を使用していない個人事業主(フリーランス)同士の発注であっても対象になる、業務委託事業者全員が守るべきルールです(法6条3項参照)。 つまり、発注者がどんな規模の企業であれ、個人であれ、申出をしたことへの腹いせは許されません。
禁止される「不利益な取扱い」
発注者が、行政機関への申出を理由にして以下のような嫌がらせ(不利益な取扱い)を行うことは法律違反となります。
- 取引の停止(契約の解除)
例: 違反行為を行政に申し出たことを理由に、もう二度と仕事を発注しないと一方的に取引を打ち切る - 取引数量の削減
例:申出をするような面倒な人には、今まで毎月10件お願いしていた仕事を来月から1件に減らすなどといって、意図的に発注を減らす - その他の不利益な取扱い
例:その他にも、合理的な理由なく単価を下げたり、理不尽な対応をとったりするなど、フリーランスに不利益を与えるあらゆる報復行為
トラブルが起きた場合の申出・相談窓口
実際にトラブルが起きてしまった場合や、フリーランス法違反が疑われる場合は、以下の窓口に申出をすることができます。
- 取引適正化に関するトラブル(報酬の支払いや禁止行為など)
→公正取引委員会、中小企業庁 - 就業環境に関するトラブル(ハラスメントや育児介護の配慮、中途解除など)
→厚生労働省(都道府県労働局)
これらの行政機関には「オンライン申出受付フォーム」が用意されており、ウェブから申出をすることができます。
結び
フリーランス法における報復措置の禁止は、フリーランスが不当な扱いに対して声を上げられるようにすることで、安心して働ける環境を守るためのルールです。
発注事業者は、行政に相談されたからという理由で、フリーランスを契約解除したり仕事を減らしたりすることはできません。フリーランス側としては、もし理不尽なトラブルに巻き込まれたら、このルールを盾にして、ひとりで抱え込まずに適切な窓口へ相談することができます。
次の記事は、就業環境整備に関する遵守事項のひとつめ、募集情報の的確表示についてです。
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
主要法令等
- フリーランス法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)(≫法律情報/英文)
- 施行令(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令」)
- 公取施行規則(「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
- 厚労施行規則(「厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
- 厚労指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(令和6年厚生労働省告示第212号))|厚労省HP(≫掲載ページ)
- 解釈ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」)|公取委HP(≫掲載ページ)
- 執行ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方」)|公取委HP(≫掲載ページ)
- フリーランス法Q&A(「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」)|公取委HP
- フリーランス環境ガイドライン(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」)|公取委HP(≫掲載ページ)
参考資料
参考文献
- フリーランス・事業者間取引適正化等法(公正取引委員会事務総局経済取引局取引部取引企画課フリーランス取引適正化室、厚生労働省雇用環境・均等局総務課雇用環境政策室)
- 実務逐条解説 フリーランス・事業者間取引適正化等法(那須勇太、益原大亮 編著)
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