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同じ「役務提供委託」でも中身が違う?取適法とフリーランス法を横断比較

フリーランス法は2024年11月に施行され、取適法(旧下請法)は2026年1月に施行されました。近年、取引適正化の分野で、新しい法律や大きな法改正が続いています。

この2つの法律の対象となる取引類型には、どちらも役務提供委託という全く同じ用語が登場します。しかし、「同じ言葉だから同じ意味だろう」と油断していると、思わぬ落とし穴にはまってしまうかもしれません。

なぜなら、取適法とフリーランス法では、役務提供委託がカバーする範囲が異なるからです。

本記事は、この”同じ用語なのに中身が違う”という、若干ややこしいポイントを解説します。

違いは自社で消費するか、他者に提供するか

結論からいうと、両者の最大の違いは、自社で利用・消費するサービス(自家利用役務)の委託が含まれるかどうかです。

なお、取引主体に関する要件(資本金基準や従業員基準/特定受託事業者など)についても、両法律で適用対象となる事業者の定義が異なりますが、これは取引類型そのものの要件ではなく、法の適用対象となる当事者の要件となります。

取適法の役務提供委託=他者に提供するサービスの委託(再委託)のみ

取適法における役務提供委託は、事業者が他者に提供するサービスを、さらに別の事業者に委託する行為を指します。

つまり、自社が顧客から請け負ったサービスを、下請企業に再委託するようなケースが対象です。

取適法では、事業者が自ら用いる役務自家利用役務)を外部に委託することは、役務提供委託には該当しません

具体例

  • 取適法の対象になる例
    • ビルメンテナンス業者が、顧客から請け負ったビルの清掃を、別の清掃業者に委託する
    • 運送会社が、顧客から請け負った貨物運送の一部を、別の運送会社に委託する
  • 取適法の対象にならない例(自家利用)
    • 自社工場の清掃を、清掃業者に委託する(自社で消費するサービスだから対象外)
    • 自社の社員向け研修の講師を、外部に委託する(自社で消費するサービスだから対象外)
      • なお、取適法の役務提供委託では、建設業者が請け負う「建設工事の再委託」は建設業法でカバーされるため除外されています

フリーランス法の役務提供委託=自家利用も含む

これに対して、フリーランス法の役務提供委託は、守備範囲が広くなっています。

フリーランス法では、役務提供委託は事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託することと定義されており、括弧書きで「(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)」とわざわざ明記されています。

つまり、フリーランス法における役務提供委託は、他者に提供するサービスの委託(再委託)だけでなく、自社で利用・消費するサービスも対象に含まれるのです。

▽フリーランス法2条3項2号

 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。
二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。

具体例

  • フリーランス法の対象になる例(※相手がフリーランスである前提)
    • 自社オフィスの清掃を、個人事業主の清掃員に委託する(自社利用でも対象)
    • 自社システムの保守運用を、フリーランスのエンジニアに委託する(自社利用でも対象)
    • もちろん、顧客から請け負った業務の再委託も対象

フリーランス法は、個人として働くフリーランスという一般的に弱い立場の人を広く保護するために作られました。フリーランスの仕事は、企業の社内業務の切り出し(自社利用のサービス)であることも多いため、これを対象外にしてしまうと法律の意味が半減してしまいます。そのため、自社利用も対象に含めているわけです

実務担当者が気をつけるべきこと

したがって、外部の事業者にサービス(役務)を委託する際には、

この委託は、自社で使うもの(自家利用)か、それとも顧客に提供するもの(再委託)か

を念頭に置く必要があります。

その上で、顧客に提供するもの(再委託)の場合は、 資本金・従業員要件を満たせば、取適法の対象になります(中小受託事業者には個人も含まれます)。相手がフリーランス(従業員を使用しない個人など)なら、フリーランス法も対象になります。

これに対して、自社で使うもの(自家利用)の場合は、取適法の役務提供委託からは外れます(※)。しかし、相手がフリーランスであれば、フリーランス法は適用されます。

(※)注意:ただし、情報成果物作成委託など他の取引類型であれば自家使用も含まれますので、例えば自社利用の社内システム開発であっても取適法の対象になる場合があります。今回はあくまで役務提供委託の比較です

なお、建設工事を含む・含まないという違いもありますので、最後にまとめると、以下のようになります。

項目取適法
「役務提供委託」
フリーランス法
「役務の提供委託」
共通:再委託規制対象規制対象
違い①:自家利用役務規制対象に含まれない(事業者が自ら用いる役務を他の事業者に委託することは、法にいう「役務提供委託」に該当しない)規制対象に含まれる(他の事業者に「自らに役務の提供をさせることを含む」と定められている)
違い②:建設工事の除外建設工事の再委託(建設業を営む者が請け負う建設工事の全部または一部を他の建設業を営む者に請け負わせること)は除く建設工事も除外されない(フリーランス法は業種・業界の限定がない)

結び

法律用語は、”一見同じに見えても定義が異なる”というトラップが潜んでいることがあります。フリーランスに社内業務を外注する際、「取適法では自社利用の役務は対象外だから、フリーランス法も大丈夫だろう」と思い込んでしまうと、思わぬ法令違反につながる可能性もあります。

フリーランス法における役務提供委託は、自社で利用(自家利用)するためのサービスも含むというポイントを社内で共有し、適切な発注管理を行っていきましょう。

取適法 - 法律ファンライフ
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役務提供委託以外も含めた取適法とフリーランス法の全体比較については、以下の記事でくわしく解説しています。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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主要法令等

  • 取適法(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)
  • 取適法施行令(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」)
  • 4条明示規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」)
  • 7条記録規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」)
  • 遅延利息利率規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」)
  • 取適法運用基準(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」)
  • 取適法Q&A(「よくある質問コーナー(取適法)」)|公取委HP
  • 取引適正化ガイドライン(「受託適正取引等推進のためのガイドライン」)|中小企業庁HP
  • 令和7年改正法 説明資料(「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の成立について)|公取委HP(≫掲載ページ
  • 令和7年10月1日パブコメ(同日付け「「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」等の整備について」)|e-Gov(≫掲載ページ

参考資料

  • 取適法ガイドブック(「中小受託取引適正化法ガイドブック 下請法は取適法へ」(公正取引委員会・中小企業庁))
  • 取適法テキスト(「中小受託取引適正化法テキスト」〔令和7年11月版〕(公正取引委員会・中小企業庁))

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