今回は、組織再編ということで、新設分割の手続のうち、株主総会決議と簡易分割(例外的に株主総会決議が不要となる場合)について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
新設分割計画承認の株主総会決議
新設分割計画を作成した後、通常、株主総会決議で承認する必要があります。
新設分割には、分割会社(分割する側)と設立会社(分割により設立される側)がありますが、株主総会決議は分割会社のみです。
当然ながら、設立会社はまだ成立していないためです
▽会社法804条1項(※【 】は管理人注)
(新設合併契約等の承認)
第八百四条 消滅株式会社等【=新設分割の場合は分割会社】は、株主総会の決議によって、新設合併契約等【=新設分割の場合は新設分割計画】の承認を受けなければならない。
これは原則としていわゆる特別決議になります(会社法309条2項12号)。特別決議とは、議決権の過半数を有する株主が出席し、そのうち3分の2以上の賛成を得る必要がある決議です。
▽会社法309条2項12号(※【 】は管理人注)
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
一~十一 (略)
十二 第五編【=第五編 組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付】の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会
簡易分割
簡易分割とは、財産の規模の観点から株主に及ぼす影響が軽微な会社分割について、株主総会決議を省略できるとしたものです。
吸収分割にも新設分割にもありますが、要するに分割の規模が小さい場合に手続を緩和したものです。
新設分割における簡易分割
新設分割の場合、新設分割による承継資産が分割会社の総資産額の5分の1(これを下回る割合を分割会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないときは、株主総会決議を省略することができます。
▽会社法805条(※【 】は管理人注)
(新設分割計画の承認を要しない場合)
第八百五条 前条第一項の規定【=新設分割計画承認の株主総会決議】は、新設分割により新設分割設立会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が新設分割株式会社の総資産額として法務省令で定める方法【=施行規則207条】により算定される額の五分の一(これを下回る割合を新設分割株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合には、適用しない。
要するに、承継させる資産として分割会社から出ていく財産が総資産額の20%以下の場合には、分割の規模が小さいので株主総会決議を省略してよいということです。
「総資産額」の意義
ちなみに、「総資産額」の内容は、施行規則に規定されており、
- 「総資産額」=(①+②+③+④+⑤+⑥+⑦+⑧)-⑨
- 資本金の額
- 資本準備金の額
- 利益準備金の額
- 剰余金(法446条)の額
- 評価・換算差額等の額
- 新株予約権の帳簿価額
- 負債の部の計上額
- 最終事業年度の末日後に吸収合併/吸収分割による事業承継(または事業譲渡による事業譲受け)をしたときは、その承継(または譲受け)した負債の額
- 自己株式と自己新株予約権の帳簿価額の合計額
となっています(規則207条)。なお、上記は簡略化のため、基準時の違いを省いて項目だけを書いています。
こう見ると何のことかわかりにくそうですが、ざっくりいえば、「総資産額」の言葉どおり、概ねB/Sの以下「資産」の部分の額になります。なぜかというと、①~⑥は「純資産」の項目、⑦⑧は「負債」の項目、⑨は資本の減少つまり「純資産」のマイナス項目だからです。
【分割会社の貸借対照表(B/S)】
資産 | 負債 |
純資産 |
簡易組織再編(新設型)のまとめ
本記事は新設分割に焦点を当てていますが、もう少し広めに、新設型の組織再編(新設合併、新設分割、株式移転)において簡易の手続がどこで認められているかを眺めてみると、以下のようになります。
新設型における簡易組織再編の有無
新設合併 | 新設分割 | 株式移転 | ||||
消滅側 | 設立側 | 分割側 | 設立側 | 子会社側 | 親会社側 | |
簡易組織再編 | × | - | 〇 | - | × | - |
「-」は、新設される会社がまだ成立していないので、そもそも株主総会決議がない部分です。
「〇」は、簡易組織再編が認められている部分で、本記事で見たように承継させる資産の規模が小さい場合(=総資産額の20%以下)となります。
新設合併での消滅側(会社が消えてしまう)、株式移転での子会社側(株主は自分の持っている子会社株式を全部移転させられてしまう)の場合には、簡易組織再編はありません(表の「×」部分参照)。
ということで、新設型で簡易組織再編があるのは、本記事で見た新設分割の分割側のみということになります。
ちなみに、吸収型の組織再編には、略式組織再編というのもあります(関連記事参照)。しかし、新設型の場合にはないため(新設される会社が成立していないので、特別支配関係ということが考えられない)、全体的に、株主総会決議を省略できるケースは限られているといえます。
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組織再編|吸収合併-株主総会決議と略式・簡易合併
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結び
簡易分割の要件を満たすかどうかの正確なところは、通常、経理マターになると思いますので、連携することになります(普通は向こうも大体知っていますが)。
今回は、組織再編ということで、新設分割の手続のうち、株主総会決議と簡易分割について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
参考文献
- 会社合併の理論・実務と書式(編集代表 今中利昭)
- 会社分割の理論・実務と書式(編集代表 今中利昭)
- 新・会社法実務問題シリーズ9 組織再編(編者 森・濱田松本法律事務所)
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