今回は、M&A法務ということで、株主間契約(SHA)のうち先買権と優先交渉権について見てみたいと思います。
※株主間契約のSHAというのは、Shareholders Agreementの略です
株主間契約では特に「対象会社の運営・ガバナンスに関する事項」と「株式の処分に関する事項」が規定されることが多いですが、本記事は後者に関する内容になります。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
株式の処分に関する規定-先買権と優先交渉権
株式引受契約(SHA)では、株式の譲渡による投下資本の回収や出口戦略(エグジッド)を考慮しつつも、会社の支配権や株主構成の安定を図るために、株式の譲渡・処分に関する制限が定められることが一般的です。
そのような条項のひとつとして、先買権(Right of First Refusal)と優先交渉権(Right of First Offer)があります。
これらは、望ましくない第三者が株主として参入してくるのを防ぎたいという要請から、他の株主(譲渡を希望する株主以外の株主)に株式の買取りの機会を与えるものです。
先買権(Right of First Refusal)
先買権とは、ある株主が買主候補者に株式を譲渡しようとする場合に、他の株主がその譲渡と同等の条件で、買主候補者に優先して株式を買い取ることができる権利のことです。
具体的には、概ね、
- 株式の譲渡を希望する株主が、買主候補者との間の譲渡条件(価格・株数など)を他の株主に通知する
- 通知を受けた他の株主は、先買権(=譲渡対象株式を譲渡条件と同等の条件で買い受ける権利)を行使するかを検討する
- 先買権が行使されれば、当該株式は買主候補者にではなく、その株主に譲渡される(⇔行使されなければ、買主候補者に譲渡できる)
のような流れになります。
このように、買取りの権利が与えられている点が、次の「優先交渉権」との大きな違いです。
優先交渉権(Right of First Offer)
一方、優先交渉権は、株式を買主候補者に譲渡したいと考える株主が、他の株主と優先的に交渉を行う義務を負うという仕組みです。
この条項がある場合、譲渡希望株主は、優先交渉期間中は、他の株主と協議する必要があります。
このように、優先交渉権は「交渉の機会を得る権利」であって、交渉の結果、合意に至らないことも当然あり得ます(買取りの権利までは与えられていない)。
両者の違いと使い分け
ここまでをまとめると、以下のようになります。
項目 | 先買権 | 優先交渉権 |
---|---|---|
他の株主に与えられる権利 | 同条件で優先的に購入する権利 | 優先的に交渉を行う権利 |
意思表明の仕方 | 先買権の行使意思を表明する | 優先提案を行う |
合意の有無 | 買取りの意思が示されれば譲渡成立 | 合意に至らなければ第三者へ可 |
企業の成長フェーズや株主の構成、投資家との関係性等に応じて、これらの採否を検討することになります。
先買権の行使手続(一般的なプロセス)
株式引受契約における先買権の条項には、次のような手続の流れが定められるのが一般的です。
①譲渡希望通知の発出
譲渡希望株主は、株式を買主候補者に売却しようとする場合、譲渡条件(株数、価格、譲渡先の情報など)を記載した書面を、他の株主に通知します。
②先買権の行使通知
通知を受けた他の株主は、定められた期間内(ex. 通知受領日の翌日から〇日以内など)に、当該株式を同一条件で取得する意思がある場合には、それを通知します。
③買受けの実行
先買権を行使する他の株主が現れた場合、その株式は当該株主に譲渡され、買主候補者への譲渡は行われません。
④行使されなかった場合の第三者への譲渡
先買権が行使されなかった場合や、すべての株式が取得されなかった場合には、通知した譲渡条件に基づき、当該株式を買主候補者に譲渡することが可能になります。
優先交渉権の行使手続(一般的なプロセス)
優先交渉権は、交渉の機会を優先的に与えることを義務付ける条項であり、以下のような流れで定められることが多いです。
①譲渡希望通知と交渉開始の申入れ(優先提案)
買主候補者への譲渡を希望する株主は、他の株主に対して株式譲渡の意思を通知します(譲渡希望通知)。
通知を受けた他の株主は、買取りの意向がある場合は、定められた期間内に(ex. 通知受領日の翌日から〇日間など)、当該株式の買取りに関する提案(優先提案)を行います。
②優先交渉期間
優先提案を受けた譲渡希望株主は、一定期間(ex. 優先提案受領日の翌日から〇日間など)の間、その株主と誠実に協議を行います(優先交渉期間)。
SHAではこの交渉期間が明確に定められるのが通常です。
③交渉の終了と第三者への売却
交渉期間中に合意に至った場合には、合意内容に基づき株式譲渡が行われます。一方、合意に至らなかった場合には、譲渡希望株主はその後、買主候補者への譲渡に進むことができます。
なお、このときも、買主候補者への譲渡条件が、譲渡希望通知で通知した譲渡条件を上回らないように条件づけされることが多いかと思います。
結び
通知の形式や方法(書面、メール等)、通知期間の長さ、第三者譲渡の制限期間など、細かい運用ルールはSHAごとに異なりますが、できるだけ明確な手続を規定することが重要といえます。
株主間契約あるいはそれに類する内容はベンチャー投資やJV(合弁会社)でよく定められますが、先買権や優先交渉権の設定は、支配権のコントロールや外部者の参入防止に直結するため、特に慎重に検討されるポイントのひとつかと思います。
今回は、M&A法務ということで、株主間契約(SHA)のうち先買権と優先交渉権について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
M&A法務に関するその他の記事(≫Read More)
参考文献
参考文献
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています