ここ最近(2024年)、インサイダー取引に関するニュースが続いてますね。
何というか血の通ってないコメントで申し訳ないですが、インサイダー取引規制をみるときのお手本になりそうな事案だったので、これを題材にさらっと見てみたいと思います。
※「告発」と「公判」の部分は順次追記しています
相次いだインサイダー取引ニュース3選
最近相次いだインサイダー取引ニュースですが、主なものは以下の3つかと思います。
以下、順にざっと内容をまとめてみます。
金融庁出向中の裁判官の件
報道
TOB情報を利用した株取引を行ったことが疑われており、調査の結果、数十万円の利益を得た可能性が示唆されています。
2024年10月、金融庁に出向中の裁判官が、インサイダー取引の疑いで証券取引等監視委員会(SESC)の調査を受けていることが報道されました。この裁判官は、金融庁で上場企業のTOB(株式公開買付)関連の業務に携わっており、未公開情報に基づいて特定銘柄の株式を取引したとの疑いが報道されています。
その後の報道では、総額では数百万円規模の利益を得た可能性も指摘されています。
この場合、裁判官は金融庁に出向中とのことなので、「公開買付者等関係者」(金商法167条1項3号の準内部者)として、インサイダー取引の禁止(法167条1項)が問題となると考えられます。
※公開買付者等関係者の禁止行為は、以下の関連記事に書いています
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インサイダー取引規制|公開買付者等関係者の禁止行為
続きを見る
告発
その後、証券取引等監視委員会(以下「証取委」)から告発がされています。
▽証取委のXアカウント(2024/12/23)
【報道発表】犯則調査の結果に基づいて、嫌疑者1名を東京地方検察庁に告発しました。
— 証券取引等監視委員会 (@SESC_JAPAN) December 23, 2024
詳しくは以下をご覧ください。https://t.co/yk25WT4nrU#証券取引等監視委員会 #SESC
公判
判決は、懲役2年(執行猶予4年)等となっています。
▽東京地判令和7年3月26日(令和6年特(わ)3846号)|裁判所HP(≫裁判例検索)
(量刑の理由)
本件は、裁判官として金融庁に出向し金融商品取引法の規定による公開買付届出書その他の書類の審査及び処分などの職務に従事していた被告人が常習的に行った犯行であり、金融商品市場の公平性と健全性、金融商品市場に対する一般投資家の信頼を大きく損なうばかりか、金融庁による公開買付案件に対する監督制度の信頼を大きく失墜させるものである。…(以下略)…
東京証券取引所の社員の件
報道
企業のTOB(株式公開買い付け)の未公開情報を親族に提供し、その親族が利益を得たと伝えられています。
東京証券取引所の「適時開示」担当部署の若手社員が業務で知り得た企業のTOB(株式公開買い付け)の未公開情報を親族に伝えたとして、証券取引等監視委員会の調査を受けました。この親族は提供された情報を基に株の売買を行い、数十万円以上の利益を得たとみられていました。発覚後、社員は機密情報を扱う部署から外されたとのこと。
その後の報道では、親族は600万円超の利益を得た可能性も指摘されています。
社員本人
このケースでは、社員本人は、「適時開示」担当部署とのことなので、「公開買付者等関係者」(金商法167条1項3号の準内部者)として、情報伝達行為の禁止(法167条の2第2項)が問題となると考えられます。
情報伝達行為の禁止に触れるには、主観的要件(「売買等をさせることにより当該他人に利益を得させ、又は当該他人の損失の発生を回避させる目的」)が必要ですが(通常の業務などに支障を生じないようにするため主観的要件を課している)、ニュースにあるような経緯からすると、世間話であったとか、業務上必要な伝達行為であったとかの可能性は低いように思われます。
※情報伝達行為の禁止は、以下の関連記事に書いています
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インサイダー取引規制|情報伝達行為・取引推奨行為の禁止
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親族
これに対して、親族は情報受領者にあたり、情報受領者の取引禁止(法167条3項。公開買付者等関係者からの情報受領者の禁止行為)が問題となると考えられます。
※情報受領者の取引禁止は、以下の関連記事に書いています
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インサイダー取引規制|情報受領者の禁止行為
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告発
その後、証取委から告発がされています。
▽証取委のXアカウント(2024/12/23)
【報道発表】犯則調査の結果に基づいて、嫌疑者2名を東京地方検察庁に告発しました。
— 証券取引等監視委員会 (@SESC_JAPAN) December 23, 2024
詳しくは以下をご覧ください。https://t.co/wgDkwD4q3G#証券取引等監視委員会 #SESC
公判
その後、公判が開かれ有罪判決が出ています。
▽日経電子版のXアカウント(2025/04/24, 05/09)
東証インサイダー事件、元社員ら起訴内容認める 初公判https://t.co/PAY82ExAxv
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) April 24, 2025
東証元社員に有罪判決、インサイダー取引事件で東京地裁https://t.co/94CsQ4OSQT
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) May 9, 2025
三井住友信託銀行の元社員の件
報道
顧客情報を基にしたインサイダー取引の疑いで、複数回の取引を行い、不正な利益を得たとされています。
2024年11月1日、三井住友信託銀行は元管理職社員がインサイダー取引を行っていた疑いで解雇されたと発表しました。この社員は業務を通じて知り得た未公開情報を基に、他社の株式を複数回取引していたとされています。本人が自己申告し、社内調査で発覚したとのこと。
具体的な事情は明らかでないところがありますが、元社員は業務を通じて知り得た未公開情報を利用していたとのことなので、情報受領者として、情報受領者の取引禁止(法166条3項or167条3項)が問題となると考えられます。
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インサイダー取引規制|情報受領者の禁止行為
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その後、以下のように概要が報道されています。
▽日経電子版のXアカウント(2024/12/23)
金融人の犯罪頻発、中枢部門で崩れたモラルhttps://t.co/Md3V7g8YhS
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) December 22, 2024
三井住友信託銀行に金融庁、東京証券取引所でのインサイダー取引疑惑。いずれも業務中に未公開情報を得て取引を重ねたとされます。相次ぐ不正の背景とは。 pic.twitter.com/NCUZOcCKHQ
告発
その後、証取委から告発がされています。
▽証取委のXアカウント(2025/03/24)
【報道発表】犯則調査の結果に基づいて、嫌疑者1名を東京地方検察庁に告発しました。
— 証券取引等監視委員会 (@SESC_JAPAN) March 24, 2025
詳しくは以下をご覧ください。https://t.co/JgX4CMtXBN#証券取引等監視委員会 #SESC
▽ニュースリリース|三井住友信託銀行HP(2025/03/24)
公判
その後、在宅起訴されています。
結び
ちょっとややこしいところもありましたが、最近のインサイダー取引ニュースを題材に、インサイダー取引規制についてざっと見てみました。
主体が会社関係者や公開買付等関係者といった内部者なのか情報受領者なのか、対象となった情報が重要事実(決定事実、発生事実、決算情報)なのか公開買付け等事実なのか、などにより、適用法条が異なってきます。
ネット上には以下のような解説もあります。
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情報伝達・取引推奨による内部者取引-東証職員によるインサイダー取引疑惑 |ニッセイ基礎研究所
www.nli-research.co.jp
[注記]
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