今回は、紛争対応に関して、個人依頼者が憤りを持っているのとは対照的に、企業内部の担当者はそうでもない(という場合が多い)、という話を書いてみたいと思います。
つまり、「紛争」というものに関して、企業内部の担当者(事業部門の担当者や、支店など現場の担当者)と、個人依頼者とでは、「憤り」の有無という点で対照的であるように思う、という話です(個人的見解です)。
個人依頼者の場合
インハウスローヤーをやっていて、以前、ものすごく訴訟に強い顧問弁護士の人と会話しているときに、その人が起案のときに大事にしているものを聞いたことがあります。それは「依頼者の憤りを込めて書いているかどうか」ということでした。
単に依頼者の言っていることを文章に起こすだけなら1年生や2年生でもできる。そうではなく、本当に力強い書面にするためには、依頼者の憤りも込めなければならないのだ、という価値観を持っておられました。
これ、通常は、逆の認識を持っているケースの方が多いのではないかと思います。つまり、あまり感情的なことを書いたり、要件判断に必要ないことを書いたら、裁判所にウザいと思われるところなので、弁護士としてはうまくバランスをとるのに腐心しているケースが多いと思います(少なくとも管理人はそうだった)。
つまり、依頼者の要望にそのまま応えると、心証(印象?)としてはむしろ逆効果になることが多いことと、しかし、依頼者としてはそのことを書いてほしいんだという想いがあること(ある意味でCS、依頼者満足的なこと)との狭間の悩み、といえます。
しかし、その弁護士の言葉は、一周回って、いや逆にそれ込めんでどうすんねん、ということを言っていたわけです(と思います)。
感情的な文章を書けという意味では勿論ありません。単に怒っていますとかの類の形容詞的な表現を使えとか、相手方のことをキツい表現で非難するとか、「~であることは明白である」などやたらと文末の語気を強めまくるとか、そういうことでも勿論ありません。
むしろ、そういう事は全くといっていいほど書いていません。内容と、端的な表現、次々に下へ下へと読ませていくリズムのある文章によって、内容と勢いと行間から、依頼者の憤りを滲ませるような起案になっていました。読み手に一気に読ませて、事実関係と、当事者としての憤りが同時に伝わる、という感じの理想的なドラフト。
(※)なお管理人個人の経験限りですが、相手方になった弁護士の書面や、イソ弁でいた事務所のボス弁の書面も含めて、(悲しいですが)もちろん自分の起案も含めて、この弁護士の書いているようなレベルの書面は見たことがありません
個人の依頼者は、コミットの程度としては、①"たくさん自分の言いたいことを入れてもらいたい"と積極的にコミットする人と、②"もう全部先生にお任せします"というふうにコミットに消極的な人の、大きく2パターンがおられますが、いずれにせよ「憤り」は持っています。
②の場合でも、「ただ、あくまで当事者はあなたなんです」というメッセージは伝えなければならないわけですが、ちゃんと話をすれば必要な対応についてはきちんと動いてくれることが多いです(ズボラな性格、といったいくつかのパターンを除けば)。
企業内部の担当者の場合
これに対して、企業内部の担当者(または支店の責任者といった立場の人)は、紛争案件に関して全く「憤り」を持っていないという場合が多いように思います(全部がそうというわけではないですが)。とにかくさっさと終わってくれればいい、という感じ。
企業内部の担当者が紛争対応に関して持っている感情は、率直にいって「めんどくさい」だけだ(というケースが多い)ように思います。
これはどうしてそういうふうになるかというと、紛争対応しても出世や昇進につながるわけでもなく(=つまり「手柄」にならない)、何のメリットもないし、やたらと時間や手間や精神的労力もかかるので、さっさと終わってくれればくれるほど良い、会社的にOKが出るなら稟議切ってさっさと終わらせたい、という案件だということです。
上記の個人依頼者との対比でいえば、「憤り」を持っていない、といえます
企業内部の担当者にしてみれば、
✓いいことない
✓そのわりにめんどくさい
⇒ゆえにやる気は起きない
というシンプルかつ強力な理由により、ほぼ一様に、やる気がないといっていいと思います(いくつかの会社で経験した管理人の観測範囲からは)。
逆に、事業部門や現場の人で「こんなことはおかしい!」という憤りを持って、毅然と対応してる人がいたとしたら、その人は相当ハイレベルなマインドの持ち主と言って良いだろうと思います。自分の知る限りでは、そういう人は本社サイドの技術部門などに多い感じがします。
憤りを持っていない事業部担当者が、可能な限り法務に丸投げしようとしてくるような姿勢が垣間見えるケースも多い、というのが実情ではないかな、と思います(ちょっとナナメから見すぎ?かもしれませんが)。
ちなみに、逆に「手柄」になりそうな、上層部の関心の強い紛争案件だと急にやる気を出すような人がいるケースもありますが、なんというか、手柄になりそうならやる気出す、という感じなので、どっちにしろ筋論としての憤りは持っていないわけです。
結び
だから何?というか、本記事でなにか結論めいたことがあるわけではないのですが、もし企業内部の担当者に対して同じような印象を持ったことのある方がおられたら、ああ自分のところだけではないんだな、と思ってもらえればな、と思います。
だいたい他も似たり寄ったりなのだな、と(たぶん)。
管理人個人も特効薬的な解決方法は持ち合わせていませんが、企業内部の担当者にとっては紛争案件というのはそういうものだということを意識しつつ、どうやったらちゃんと動いてくれるか、ということを具体的なケースに応じて考えて押していくしかないんだろうなと思います。
基本的には、「当事者はあなたです」という、個人依頼者のときと同じようなメッセージを発するしかないんだろうなとは思います(直接その言葉を発するという意味ではなく、メッセージとして発するという意味で。「責任」というニュアンスも含めて)。
そういう意味では、企業内部の「なるだけスルーしたい担当者」も、依頼者のタイプの一形態と捉えたほうがいいのかもしれません。
[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。